4月3日の入学式前日
サブタイでわかる通り時間が飛びます
会話が多いです
展開が早いです
………………はっ、いつのまにか入学式の前日に‼
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あの後散々悩んだあげく、僕は亮に親へ電話をかけさせることにした。結局のところいくら廃スペックな僕とはいえ、所詮は高校生未満なわけで、そうなると大したことは出来なかった。
対して彼らはややおかしいとこはあれども一応成人しているわけで、その辺りの折衝も僕たちよりは遥かに簡単にできる。そう考えてのことだった。渋りに渋った亮を何とか説得して電話を掛けさせた。
プルルー、プルルー、プル
「やあやあやあやあやあ我らが愛の結晶息子君! 君から電話をしてくれるなんてどうしたんだい! まさか子供でもこしらえたのか! いやいやそんな訳はないか! 何たって君はぼっち「死ね」────」
「気持ちは分からないでもないけど、耐えてよ。何れにせよ話通さないと先には進めないんだし」
「分かってても、嫌なものは嫌なんだよ………。あんなのが母親だと思うと、本当に。…はぁ」
通話開始一秒経たずに終わった。……あれが二人。しかも二倍じゃなくて2乗になってだ。よくまともな性格に育ったものだと思う。僕なら絶対ぐれてる。
「まず言っとくが今から話すのはかなり突拍子のないことだけど実際に起きたっていうか現在進行形で起きてることで本気で困ってることだから真面目に話してくれっ‼」
気づいたら電話をかけ直していた。そのまま相手に何も言わせないように捲し立てる。いつもとは違う余裕がまるでない雰囲気に携帯越しとはいえ呑まれたのか亮が話し終えてからも黙ったままだ。
「分かった。真面目に聞くよ。それで、何が、起きたの?」
「………朝起きたら、女の子に、なってた」
「そっかぁ……。ごめんね、亮。私もパパも亮がそんなに悩んでたなんて知らなかった。言ってくれれば、力になれたかもしれないのに…」
「おいこら誰が性転換手術をしたって言った」
「え、違うの?てっきり夏生君に影響されたのかと思ったのだけど…」
「違うわ! 夏生じゃあるまいし、誰が好き好んで性転換なんてするか‼」
「え、なんか風評被害がすごい!」
いきなり飛び火してきたから文句を言ったら一蹴された。納得がいかなくはないけどなんかやだ。そんな風に僕が不平不満をもらしていても、話は続く。
「全部事実だろうが、バカ。…で、話を戻すと、いきなり性別が変わったんだよ。これはいい?」
「つまりあさおんね、分かったわ。パパは今仕事でいないから後で伝えとくわ」
「あ、ありがと。それで、戸籍とか学校とかの相談がしたくて」
「そーゆうことなら任せなさい! 適当に処理しといてあげる! 確か入学式は来月の4日だったわよね? ふふ、昂ってきたわぁ‼」
……………どうやら大体片付く目処ができたらしい。あの二人が動くというのならもう解決したも同然と言っていい。
というか理解した途端に僕や亮がドン引きするくらいに乗り気になってたけど、暴走疾走大爆走で僕たちの予想の斜め上を行きそうな気がする。
いきなり会話をぶったぎられ、挙げ句何かしらやらかしそうなことを仄めかされ放心している亮の頬をぺちぺちと叩きつつ、そんなことを思うのだった。
* * * * * * *
そんなことがあったのが約一週間前のこと。
今日までの間、何が起きるかと戦々恐々とし大したことをやれないで過ごした。だが予想に反し特に起きなかった。言ってみただけだったか? などと思い次の日にまで迫った入学式に頭を抱えていた時、宅急便が届いた。
届けられた荷物は今の亮はもちろん僕でも持ち運びするのに苦労しそうなサイズの段ボールだった。
「それ、何?」
「さあ、分かんない。俺、最近通販とか使ってないし、多分親関係………」
「亮、僕は開けないよ。君が開けるんだ」
「時間差攻撃だったかぁ。開くのが嫌すぎる」
「諦めろ」
諦念を滲ませながらダンボールを開ける亮。出てきたのは、八幡岬高校の女子の制服、体操服、教材、私服、よくわからない袋、そして一枚の便箋だった。
嫌な予感しかしないその便箋を開き、二人で読む。
『どう、どう!? 入学式まずいよどうしようとか思ってた!? ざんねーん、パパとママが用意してたんでーす‼ ふはははっ、引っ掛かって』
無言で閉じた。いやまあそんな気は薄々していたけども。していたけども! いきなりTSした一人っ子にすることか! 大人げないとか通りこしてもはやただのクズじゃん! 亮とかショックで半泣きになってるよ。そして俺もキャラ崩壊だよ………。
混沌に叩き落とされた僕と亮が回復するまでに数十分くらいかかった。
どんなふざけた内容でも大丈夫なように覚悟を決めて再び読み出す。ただし、どうみても喧嘩売ってそうなとこは飛ばして。
『さて、おふざけはこのくらいにして、本題に入ろうか。
まず、戸籍の方だけど、解決したよ。ちゃちゃっと架空の人間を作って養子にしといたからね。名前は山本 葉。生年月日は同じにしといたよ。代わりに亮は無期限の放浪の旅に出たから。そこに空いた穴に亮改め葉をねじ込みました‼ パパとママすごいでしょ!
それで、送ったのは女の子として過ごすための最低限の日用品と学校用品ね。お金は振り込んどくから早急に買いに行くこと。
ちなみに夏生君の両親に話は通ってないから頑張れ、夏生君‼
とまあ私たちができた支援はこれくらいです。後は夏生君や友達に手伝ってもらいながら高校生活を満喫してください。さようなら』
意外なことに、前半部分はともかく後半部分はまともだった。いくらか突っ込みどころはあれど終始ふざけず真面目な内容で、本当に驚いた。さすがに大切な一人っ子の一大事とあっておふざけ抜きで取り組んだみたいだった。
亮、いや、葉なんて、生まれて初めてといっていいくらいに稀な両親のまともな姿を紙面ではといえ見れたことが嬉しかったのか、滂沱のごとく涙を流していた。
葉が手放したことで床に落ちていた手紙を拾い上げて、もう一度読む。
最後に、PS,という文字が見えた。
続けて
『避妊はちゃんとするんだよbyパパとママ』
と。
無言で葉に渡せば、みるみるうちに喜色満面だった顔が凪いだ海のような無表情になった。そしてビリビリに破ると、ひと言。
「やっぱりあれはどうしようもないな」
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