3月26日のTS
初めての方は初めまして
短編を読んだりしている方はお久しぶりです
基本的に本作品はTSした主人公ではなくそれを見てにやにやする主人公のお話です
あまり無いタイプな気もしますが、よろしくお願いします
あなたはTSと聞いて、何を思い浮かべるだろうか?
恐らく、一般的な、いわゆるオタクとかそういったものではない人がまず連想するのは、自転車を購入するときに着いてくるTSマークではないだろうか。
例えそうでなかったとしても、TSと聞いてすぐさまトランス・セクシャル。つまりは性転換と考える人はごく少数だと思う。
だがしかし、その歴史は意外と古く、遡れば北欧神話のような神話にすら登場している。少しばかりマイナーなジャンルではあるが古事記などと同じかそれよりさらに長い間語り継がれてきているのである。
そう考えてみると、高尚なものに聞こえて…………くるわけではないが、ともかく、TSというものはいつの世のどんなところでも一定の需要はあるわけだ。
そしてこの僕もTS好きの一人というわけだ。
と、申し遅れたが、僕は大江 夏生。今春八幡岬高校に入学することになっている中学生以上高校生未満の者だ。
さて、何故冒頭からこんなよく分からなくてしょーもないことを淡々と語っているのかというと、話は数十分前まで遡る。
* * * * * * * * *
旧暦だと弥生のつごもり。今の暦だと3月の末。長かった受験をようやく乗り越えた僕は春休みを満喫していた。といっても高校から出される課題はあるのだけども、さっさと終わらせてしまっている僕には何の問題もなかった。
そんな理由で僕はただひたすらぐうたらに過ごしていた。家どころか部屋からでることすらしないでずっと籠りっきりで本や漫画を読み、ゲームをしていた。どれもこれもTS要素が多かれ少なかれ入っているものばかりだ。
そうやって受験生をやっていた一年で溜まりにたまった諸々を着々と消化していたある日。僕は保育園以来の親友、山本 亮の家へと向かっていた。
春休みの間引きこもりのプロと化していた僕だが、天気が曇りの日の朝はほとんど毎日亮の家へ行っている。遊びに、ではなく布教活動に、というあたりどことなく残念な香りがするけど。
これは春休みに限らず、僕が中学一年生の時にTSにハマってからずっと続いていることだ。最近はもう無理じゃないかな、なんて思ってきたが、まだ諦めてはいない。一念岩をも通ずの精神で頑張っている。
僅か数十メートルしか離れてない亮の家へ着き、インターホンを鳴らす 。
「…………………」
もう一度インターホンを鳴らす。今度は気づいたのかガサゴソと物音が聞こえる。
「……………………………」
しばらく待っても亮は出てこない。イラッときた僕は仏の顔も三度まで、なんて思いながらインターホンを鳴らす。
「……………………………………………………」
二度目よりもさらに長い間待っても出てこない。
今度は連続ピンポンしてやろうか、なんて思い指を伸ばした時、人の気配がドアを挟んだ反対側あたりまでやってきて、そこで止まった。ようやく開ける気になったのかと思って待つこと暫し。
開かなかった。
「………よろしい、ならば戦争だ」
戻しかけていた指をインターホンに当て、ダダダダッと押しまくる。家の中にピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン‼ と鳴り響く音が壁を越えて聞こえる。
亮の両親が海外旅行でいないからこそ出来る荒業だ。仮にいたりしたら絶対に出来ない。亮の母さんはいい。怖くないし。むしろゆるいし。父さんの方はやばい。良い人だけど見た目がやばい。ヤ⚪ザにしか見えない。だが今はいない。だからやる。
鳴らした数が10どころか20すら越えた辺りでようやく、ガチャリと鍵の空く音が聞こえた。
「お邪魔してましたー。んでさらにお邪魔しまーす」
我ながらよく分からない挨拶をしながら入って靴を脱ごうとして、固まった。
「おま、何やってんの? 変なものでも食べた? てか絶対食べたでしょ」
玄関には、冬用と思わしきモコモコの掛け布団を頭から被り体がまったく見えない亮、らしき何かがいた。
膝立ちにでもなっているのか中学生にして180以上もある亮の頭あたりが165に微妙に届かないくらいの僕の顎より下くらいにきている。暗闇で見かけたらまず間違いなく幽霊の類いだと思うだろうような格好のままフルフルとしていた。
日頃の冷静沈着質実剛健な姿からはまったく考えれないようなことをしている亮。
僕が何を言っても返事はフルフルするだけ。うんともすんとも言わない。布団を取るよう言ってもフルフルするだけ。頷いているのか首を横に振っているのかすら分からない。女子ならともかく中身が男子だと分かっている状況でやられてもイライラがたまるだけだった。
「あーもう! いい加減にしなよ! 体調が悪かったりするならそうすればいいけど、せめて布団取れ!」
そう言って手を伸ばす。僕が剥ぎ取ってやろうと引っ張れば、亮は取られまいと力を入れて抵抗する。
「はぁ、分かったよ諦めるよ。………なんて言うとでも思ったか!」
一旦手を離し諦めたかのように見せかけて再度挑戦。
すると、ほんとに僕が諦めたとでも思っていたのかあんなに引っ張っても剥ぎ取れなかった布団は実に簡単に剥ぎ取れた。
ただ、そこにいたのは亮ではなく、綺麗に切り揃えられたショートカットの茶髪に、まだ春休みなのに何故か小麦色になっている肌をした活発そうな女子がいた。
「………あいつ、やたら硬派を気取ってたのはこれが原因か。ちっ、女子を家に連れ込むとか大人の階段かけ上がってるのかよ。で、君、誰」
「………………………………亮。お前の保育園以来の友人の山本 亮だよ文句あるかこの野郎!」
「あーはいはい亮ね亮。つまらない冗談いらないんだけど」
「朝! 起きたら! 女子に! なってた!」
「……いや、え、まじ!?」
そう言ったきり、これ以上話すことなどないとでも言いたげに押し黙り不安げに僕を見上げる亮が話したことを、僕はかなり動揺しながらもすんなりと受け入れていた。
普通ならまず相手の頭を疑うべき発言だが、僕はそれに対して一言だけ言いたい。
「グッジョブ神さまありがとうございます!」
「何でだよ‼」
……………僕自身全くもって意味不明だけれども、そんなことがあって、話は冒頭に繋がった。
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