表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛竜と義弟の放浪記 -Kicked out of the House-  作者: ひつじ雲/草伽
三章 ドラゴンタクシーの日常
67/147

嫌な予感ほどよく当たる .6

 

 天上をめぐる月はいつしか沈み、目を射すような光が水平線から昇った。そんな頃になって、漸くその大陸の一端を俺らは捉えることが出来た。


 それまで一面海だったところから、見渡す限りが起伏に富んだ大地に変わる。見える限り、原生的な緑の大地が広がっている。正直言うと「え、ここに本当に街あるの? 国があるの?」 なんて、疑問に思ってしまうほど、目につく人工物はない。


 その様子は……眠い、の、一言に尽きる。

 ……じゃなくて、圧巻の一言に尽きて眠い。


 いやさ、途中、ラズと交代して仮眠はとったよ? けどさ、圧倒的に足りないわけよ、睡眠時間。しかも眠れないからってんで、ミラさんにまで代わろうかと申し出てもらう始末だった。

 ただ、なんで俺はその時に限って意固地になってしまったのか。まるで深夜のテンションで、『俺なら大丈夫だぜ☆』 とハイテンションな返答をしてしまった。呆れられたのは、言うまでもない。



「このまま太陽を右斜めに背負いつつ、内陸を目指してください。お手数ですが途中、国や街が見えるようなら出来るだけ迂回してください。下手に通り過ぎると騒ぎになってしまいますから」

「了解」


 目を覚ましたソアラさんは俺らの隣に来て、遠くに目を向けながら教えてくれた。その指示に従いながら、エンマには飛んでもらう。

 ……ああ、海を渡った頃からエンマはノンストップだけれども、未だに疲労を訴えられていない。昨日が比較的晴れて穏やかな夜だったから、楽に飛べたんだとか何とか。

 底力の違いを見せつけられた気がする。



 眼下に広がるのは、相も変わらずゆったりと流れていく山々だ。飛行機の窓から見下ろす景色ってこんな感じだったよなあ、なんて不意に懐かしく思う。

 人工物がないせいで、余計に広く感じてしまうのだろう。


 それから暫く似たような景色を飛び続けたら、不意に大陸が途切れた。同時に、雲の浮かぶ青い空を映す一面の海に、景色がまた変わった。


「見えてきました、あそこです! あそこがセントシェールです!」


 いや、違う。これこそが、この大陸の最大を誇る湖なのだ。その証拠に、ソアラさんが指し示した先に、青い城塞が堂々とその姿を現していた。


 水面が穏やかなのだろう。くっきりと空を映す様は、まるで天も地も、全てが青空へと空間ごと転じたかと錯覚してしまう程だ。水面下で深まる青が、余計に空の広がりのように見える。

 ……例えるならばあれだ、雨季のウユニ塩湖。行ったことないけど、写真でよく見る、日本人が大好きな鏡面のやつだ。



 ケーキの台をいくつも重ねたような姿の青い街には、そこらかしこに巨大な水車が見受けられた。恐らく、街が青いのはここら辺の岩の性質なのだろう。よくある石造りの街並みなのだが、ありふれた岩に青色の鉱物が混ざっているお陰で、ありふれた街には見えない。


 岩の青さと空の青さ。そこでゆるゆると回る水車の様子は、一瞬棚田の田園風景に似ていると感じた。なつかしさを感じた景色に心も和む。

 緑の棚田ではないと言うのに、そう思った自分が不思議だ。


 教会とはいえ、一つの街としての防衛機能なのだろう。ぐるりと一面を取り囲む城壁でさえ、美しく見える。

 開けられている間口は、一番近くにある陸に向けてかけられている一本の石橋だけだ。一番近くと言ったって、その橋の長さは優に一キロはあるのではないだろうか? 多分、水辺に住む種族の者にとっても、それくらい陸から離れていた方が都合がよかったのだろう。


 絶海の孤島。海の要塞。そんな言葉がふさわしい。

 石橋と島をつなぐ、大きな大きな釣り跳ね橋を上げてしまえば、本当に閉ざされた島になることだろう。



 早朝の石橋は人通りがそこそこあるようで、俺らはいつもながらすっかり注目を集めてしまっていた。往来の少ないところでエンマに降りてもらえば、番兵らしき人達が二人ほどすっとんできた。


 ものすごく気になってしまった事がある。……二人とも、何となく魚顔なのだが。魚人……いや、マーマンと言えばいいのかもしれない。身に付けている鎧は、鎖かたびらのように重々しく見えるのに、音がとても軽かった。恐らく海に住むモンスターか何かの鱗でつくられているものではないだろう。丈夫そうだ。


 帯刀している剣に鞘なんてものはない。ソードブレーカーのような荒々しい歯は、魚などの背骨か何かを加工したものだと予測した。あれで斬られたら肉が乱雑に削げ落ちそうでちょっと怖い。めちゃくちゃ痛そう。

 ……個人的な好みだけど、どうせ伐られるなら日本刀のような鋭利なもので、すぱっと痛みを感じずに斬られたいなあ、なんて。



 俺が慌てて事情を話そうとすれば、ソアラさんに手で制される。


「突然、このような訪問申し訳ありません。命と源流の巫女様に、お目通し願えますか」


 先に告げた丁寧な言葉。ただ、やはりここではその巫女様は力をもっているらしい。少しばかり、相手に険しさが増した気がする。


「確認を取らさせて頂きます。失礼ながら、お名前を伺ってもよろしいですか」

「光と豊穣の巫女、リジヘット=ソアラと申します」


 ソアラさんが名乗れば、驚いたのは一瞬だった。それだけ巫女の肩書って影響力があるって事を今更知る。

 直ちに確認と手続きさせて頂きますと、またまたそのヒトたちはすっとんで返っていった。程なくして戻って来た番兵さんに連れられて、俺らは跳ね橋を渡った。橋が大き過ぎるせいか、俺がミジンコにでもなったみたいだ。



 門をくぐると、目の前には石造りの青い街が迫って来るかのようだった。見上げてみるも、立体都市をここから把握するのは難しそうだ。入ってすぐにある小さな広場は、完全に外と内とを仕切る為にあるようだ。故に、エンマから降りて、広場左手にある馬屋に預けてくれと言われてしまった。


 うーん……エンマにはホント申し訳ないな。いつも置いてきぼり。

 まあでも、そこの店主がいい人そうだったから安心だ。……そもそも、巫女様絡みの客を粗野に扱うこともしないだろうよ。


 引き継ぐように乗せられたのは、椅子が二列並んでいる二頭立て馬車だった。エンマは通れずともそれくらいの交通整備はなされているらしい。ちょっと、ホッとした。

 なかなかに広そうなこの街を歩こうと思ったら、そこらに見受けられる急峻な階段を登らないといけないのか。少しばかりげんなりしていた所だったから、凄く有り難い。



 余談になるが、箱馬車の五人乗りは些か窮屈過ぎたからか、ミラさんが御者のおじさんと共に御者台に行ってしまった。……俺が行くからって申し出たのに、見事にあしらわれてしまったのはここだけの話だ。ぐすん。


 緩やかに走り出した馬車は、早速坂道に入った。ジェットコースターの登りを想像してしまった。


 石畳の路肩に水路が多いのは、ここの巫女様が『命と源流』だなんて、如何にも水が関わっているからだろうか? それとも、水辺に住む種族の者の往来の為?

 辺りは常にさわさわと水の流れる音がして、時折、水車のぎぎっという重たげに軋む音が混ざる。きらきらと輝く水面が眩しい。



 振動が丁度良いせいだろうか。先の睡魔も手伝って、俺はうとうととしてしまったらしい。気が付いた時には、心地よいまどろみの中にいた。


「……兄ちゃん、ついたよ」

「っ……?!」


 目的地に着いた途端にラズに脇腹をつつかれて、瞬間俺の睡魔は吹き飛んだ。

 やっべぇ、今本当に意識飛んでた! 後ろの席で良かった。……街中観察を為損なったのは、ちょっと悔しい。



 馬車が緩やかに停止したのは、周りと造りは変わらない建物だった。ぐるりと辺りを見回すとヒトの往来が通りの向こうにみてとれた。至って普通の一画に来たのだと知る。


 俺らが落ち着く間もなく、その家の扉は開けられた。


「やあ、遠路遥々よく来てくれたな、ソアラ」

「メイさん! お会いしたかったです!」


 そこに居たのは、というか飛び出してきたのは、()()()()だった。

 は? 何言ってんのか解かんねぇって? 俺もびっくりしたんだよ!


 よくよく見れば、アザラシの毛皮をすっぽりかぶって――――いや、着ている? これまた人魚に勝る、彫りの深い美女でした。何というか、大陸系民族の美女っていうのかね。それが、死んだアザラシの頭の下にあるとか、なんてシュールな光景だ。これが……巫女?


 うん、まあ、それは百歩譲って巫女だとしよう。……ただ、なんでアザラシの毛皮をまるまる着ているのか、ものすっごく謎なのだ。獣臭くないのかな?


 あ!

 …………あー、なるほど。解った。このヒト、セルキーだ。

 セルキーは、海の中ではアザラシさんで、陸に上がって毛皮脱ぐと恐ろしいほどの美男美女の妖精だとか、なんとか。


 アザラシヘッドのフードをとれば、ダークブラウンのショートヘアがさらりと流れた。アザラシ毛皮の胴体にスリットが入っていなければ、俺は確実に「歩きにくくないですか」 なんて、失礼な事を第一声で聞いていたところだ。

 ぶっとばされそう。


 うん。このヒト気が強そうだな、なんて直感的に思った。

 だって、それをうっかり口にした日には、毛皮の素晴らしさをこんこんと語られて、さあ、お前も着てみろ! っていうところまで想像が出来てしまったから。……ははっ。


「うん? そいつらは?」

「ああ、ご紹介遅れて申し訳ありません。こちら、私達の運送をお願いしたディオさんと、弟さんのラズさんです」

「お目にかかれて光栄です。ディオと申します」

「――――ああ、止せ止せ。堅っ苦しいのは苦手なんだ。メ=フューリラ・メイだ。ディオ、それにラズ。ソアラ達をここまで届けてくれてありがとうな」

「……いいえ、勿体ないお言葉です」


 ちょっと、メイさんのぶっこみ具合には驚いたが、にっこり笑ってやれば、不満そうな顔をされた。


「まあ、いいさ。緊張は誰にでもあるからな。こんな所で立ち話もなんだ! 遠慮せずともウチでくつろいで行けばいい。召し使いも当てがえるから不自由しないと思うぞ。ああ! なんなら、急ぎでないならば泊まっていけ、ディオ。余所に行くよりも余程、楽だと思うぞ?」


 うわ、すっげーマシンガントーク。既に押されてる気しかしない。俺の表情、きっと今ひきつってる。


「あ、はは……ありがとうございます。その、今は街を見てみたいので、散策から戻ったときにでも、有り難く」

「散策か、ならば案内しようか! この街はいいところだぞ! あ……っと、ソアラ。そんな困った顔をするなよ。私の案内がそんなに不服か?」


 いやさ、俺今すっごく失礼な事言っている自覚はあるぜ? けどさ。このヒトの招きに応じて家に入れば最後、このマシンガントークに長時間捕まる気がしてならなかったんだ。

 いや、実際もうすでに始まってるけど。マシンガントーク。


「不服というか……それはディオさん達が可哀想なのでやめてあげてください」

「なんだと! どういう意味だよソアラぁ!」

「だからそれですってば……」


 しかもあれだろ、客含むお偉いさんは、いっさいがっさい女中小姓に手取り足取り身を任せる……とか! ぜっっっっったいに、嫌だ! 落ち着いていられねぇだろ! それなら俺は、大衆宿屋で十分だ! 絶対に、散策をついでにして宿屋探すもんね!



「それに、ほら。せっかくのソアラさんの来訪に、水を注す訳にはいきませんから。私たちはこれで、失礼させて頂きますね」


 なんて一礼キメた俺の表情、強張っていないよな? そうなっていないと期待しておこう。ソアラさんが申し訳なさそうな顔している。いや、いいんですよ、ホント。


「そうか……。残念だが、せっかくのお気遣いだ。有り難く受け取らせてもらおう」


 俺の内心がバレたら、このヒトにしばかれるんじゃないだろうか? 怖くて絶対に言えない。


 それよりも気になるのが……『ところで、そのアザラシの毛皮の下って、何か着ているんですか? かなりきわどいんですけど。』――――なんて。はは……! そんなん口にした日には、どうなることやら。

 嫌だなあ。巫女様ってどうしてこう、それぞれがそれぞれなりに面倒くさいのか。大人しくしていれば美人なのに……。


 はあ、と、心底残念に思い溜め息をついてしまう。

 ああ、残念だ。残念過ぎるよ。



 彼女たちが建物に入るまで俺らは見送るだけ見送って、そそくさとそこを離れていく。そういえばなんでわざわざここまで連てれこられたのか解らない。今更ながら、最初っから下で別れていれば良かったよ。なんてつくづく思う。

 馬車のおっちゃんに急き立てられて、つい、乗っちゃったんだよなあ。それを思い出してまた、溜め息をついてしまう。どうして俺は、こんなにも流されやすいのか。



 ラズと二人になった途端、それまで張っていた気も抜けたのか、何度目かの深い溜め息をついていた。


「……ねえ、兄ちゃん」


 そんな俺の腕をラズに引かれて、つと、視線を落とした。「どうした」 と尋ねれば、赤灰色の目に真っ直ぐに見返される。


「ディオ兄ちゃん、この前から変だよ」

「え? 何がだ?」


 言わんとしている事がよく解らなくって聞き返せば、どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。膨れっ面がこちらを捉えたままにぎゅっと腕にしがみついてきて、目線の高さを合わせるようねだってくる。

 何の事かさっぱりな俺は、下手に抗うよりもそうしてやった。ラズの子供体温の(ぬく)い両手が、俺の頬に添えられた。


「兄ちゃん、ずっと無理して笑ってるでしょ」

「へ?」


 何を言われるのかと思えば、予想外の一言に尽きるものだった。

 驚き見返し、二、三とまばたきしてしまったが、可笑しさが追い付いてきて、くすりと笑ってしまう。


「そんなことねぇよ。無理して笑える程、器用じゃねぇし」

「ほら、それだって。……僕に、作り笑いしなくていいんだよ?」

「作り笑い? 俺が?」


 本当に全く思ってもみなかった事を言われて、疑問符ばかりが頭上を飛ぶ。俺自身には、無理して笑った覚えがなくて、首を傾げてしまう。


「気がついてないの? 迷ってるでしょ、ずっと」

「迷ってるって……何に?」

「全部」

「ええ~……」


 全部ってまた曖昧だな。体調はどこも悪くないし、エクラクティスに対する不満くらいしか、心も病んでない、はず。あと不調になりうる所って……何処だろうか?

 ……あれか? この前のように、僕を頼って! ってやつか? でも、そっちは過保護にし過ぎないように気を付けている筈なんだけどなぁ……?



 心当たりがなくて俺は大丈夫だよと笑うと、何故か、ラズには泣く一歩手前みたいに顔を歪められた。え、なんで。


「――――ねぇ、兄ちゃんはなんで嫌なお仕事も、無理してやるの?」

「え? そりゃ、生活するには働かないと……」

「違うでしょ?」


 ……何か、深みに()まっている気がする。


 何故、嫌な仕事も無理してやるのか。

 そう言われて過ったのは、今回のようになし崩し的に巻き込まれた依頼の数々の事だ。すぐに頭を振って、後ろ向きな思考を外に追い出してやる。


 それが、ラズには気にくわなかったらしい。


()っ――――」


 頬に添えられたままだった手に、ぐきっと無理矢理ラズの方を向かされた。ちょっ…………今、首からしてはいけない音がしたんですけど。


「ねえ、兄ちゃん。逃げないでよ。なんで離れたくないくせに、あの街を無理に出ようとしたの? なんで兄ちゃんは、そうまでして僕らと居ようとしているの?」

「それは……」


 街を出た理由? 単純、親父殿が怖かったから。

 ラズ達と一緒にいようとした、理由? これも単純、最恐の義弟(ラズ)が怖かったから。


 ……うん、いつだって根底にあるのは恐怖心だな。



 こんな、何処に何があるのかすらろくに解らない世界、世界地図なんてものもない。

 知らない場所、知らない知識、圧倒的な力。全部、全部、怖くて怖くて堪らない。何処に俺の命を脅かす、野蛮な荒くれものがいるとも知れない。だって、道いく人々の大半は、武器を所持しているのだから。


 先程すれ違った奴が、いきなり背中に剣を突き立ててきて、身ぐるみ剥いでくるのかもしれない。

 敵いっこないモンスターと出会って、一方的に嬲られて生きたまま食われるかもしれない。


 でもそれは、前世でも同じことじゃないだろうか。


 一メートル先に、マンホールのふたが外された下水の穴があるかもしれないし、お昼寝しようと思って寝転がった平野が昔の戦場で、しかも不発弾が先に眠っているのかもしれない。

 キッチンではガスなんて、使い方間違えれば辺り一面どかん! なんてものもあるし、壁の中は人を焼ききることの出来る電流だってあるんだ。

 でも、普段それらは人々に意識されない。


 そう考えると、恐怖がいつも心の何処かに巣食う状態と、隠されて意識されない状態。一体どちらが『いい』事なのか。どっちがいいんだろうな?


 ……話がそれた。肝心なのはそこじゃあなかった。



 どうして無理してでも働くのか? ――――染み付いた社蓄精神故……?

 どうして無理してでもラズ達といるのか? ――――そうしなければ、俺の明日もしれないから故?

 なんで『今』にしがみつくのか? ――――そうしなければ、動き続けなければ、足元から崩れて動けなくなりそう、だから、故?


 違う。


「…………やらなきゃいけないんだ」


 気がつけば、そんな事を呟いていた。

 俺がラズ達と共にいて、この仕事を無理矢理だろうがやり続ける、理由。


「違うんだ。俺が――――他でもない、俺自身が、()()をやりたいんだ。続けたいんだ。どんなに心が、身体がしんどかろうと、きっと何処かに俺の『客』が、待ってくれている人がいるから。だから、ラズと、エンマと一緒に」


 生きる目的は、夢に見た『平穏』の為。

 生きる活力は、一重に夢のため。


 我ながら、どこまで行っても自分の為にしか動けないんだな。情けなくなってくる。苦笑いせざるを得ない。

 でも、いいんだ。


「そりゃ、確かに最初は完全に成り行き、仕方なしなところもあったさ。けどな? 今は他でもなく、ラズ達と一緒に居たい。だからこそ俺はお金を稼いで、心残りを清算したいんだよ。何がなんでも、続けたいんだ」

「…………兄ちゃんがそれでいいなら、手伝うよ。僕は他でもない兄ちゃんの側に居たいもん」


 それまでが本当に、鉛でも仕込んで強張っていたんじゃないかと思ってしまうぐらいに、気がつけばふっと肩が軽くなったような気がした。悩んでいたっていうよりも、気がつかない内に迷い事を抱えていた、そんな感じか。


「ラズ」

「うん?」

「心配してくれて、ありがとうな」

「……当然だよ! 僕は兄ちゃんの弟だからね!」

「ははっ、そうだな」


 得意気な表情につられて、俺も自然と笑ってしまった。確かに思い返せば、最近はろくな事がないって、随分と憂鬱な思いに悩まされていたと思う。



「よし! 散策行くか」

「うんっ」


 せっかくの新天地、せっかくの街! 楽しまないでどうする!


 ……なんて、歩き出した途端の事だった。

 建物の影から飛び出してきた小さな影に気がつかなくて、俺はその子とぶつかってしまった。


 勢いに負けたのは相手の方で、弾かれた姿に尻餅をつかせてしまう。表情を隠していた、ぼさぼさの長い前髪から驚きに目を見開いていた姿かあった。

 せっかくの金糸の髪も、ここまでやつれていると勿体ないなぁ……なんて。年は見た目だけならラズよりも少し上くらいか。うん、勿体ない。


 …………いや、何考えてるのよ、俺。ただの変態じゃねえか。()そう。



「大丈夫? ごめんね」


 声をかけて手を差し出したら、びくりと目に見えて身体を震わせ、反射で頭をかばっていた。


「ご……なさっ――――ぁ、ごめんなさい! ごめんなさい!! 何でもしますからっ、ぶたないで!」


 まさかそんなことを叫ばれると思わなくて、俺は固まってしまった。


 えーと……。……なんか、とんでもない子とぶつかっちゃいました。

 どうしよ? これ。……多分、このまま放置はしない方がいいんだろうなぁ。


「ええと。そんなに怖がらないで。ぶつかったことが気になるならさ、ちょっと道案内、頼まれてくれないかな。宿屋、どこかいいところ知らないかな。風呂のある宿屋だと、更に嬉しいんだけど」

「ぅ……あ…………あ、あたしの事、買ってくれるんですか……?」


 恐る恐るこちらを伺っているようなその姿に、俺がきょとんとしてしまったのは言うまでもない。


「え? あー……」


 ちょーおい。ここは教会じゃなかったのかよ。本当にとんでもない子とぶつかったぞ。誰が買うか。



 ……けど、うん。俺、つくづく子供には弱いらしい。

 テキトーに風呂ぶちこんで、金握らせて、お引き取り願うしかない、かなあ。なんて打算立ててる自分がいる。ま、当人だって、出すもん出しとけば文句ないだろ。


「うん、いいよ。いくらかな?」

「あ、ありがとう、ございます!」


 …………隣がそれをどう思うかは別として。


 うん。絶賛、白い目を向けられているが、気にしちゃいけない。

 うん、気温下がったかな。気のせいだな、きっと。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ