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ありふれた俺の日常は奴隷によって変わる.6

 

「カミュ、どうした?」


 駆けつければ事は既に起こっていた。目の前の様子に、『気を付けようと思っていた事』が起きたのだと理解する。

 そこには箱馬車のすぐそばで、奴隷達に遠巻きに眺められるカミュと後ろ腕に組伏せられた冒険者崩れの戦闘用奴隷がいた。


「やれやれ君ね。こっちの方が騒がしいな、とか思わないわけ?」

「あ……悪い」


 開口一番にそんな事を言われて、咄嗟に謝る事しか出来なかった。ワイバン見惚れてた、なんて言えねー! ……なんて。

 俺が一人で冷や汗流していたら、押さえつけられた姿がこの隙にどうにかカミュを振り払おうと、バタバタとその身体の下でのたうち回って暴れたした。


「くそっ! 奴隷商人ごときに使われてたまるかよ!」


 その様子は……。その、これから生け作りにされようとしている魚のように見えた。……とは、表立って言えない。

 心底悔しそうな男の言葉に呆れて、カミュは溜め息をついていた。


「君ねぇ、そういうのは自分の行い振り返ってから言いなよ。そんなんだから、賭け事負けてしまうんだよ?」

「……っ、ちいっ! てめえらが卑怯な手を使わなけりゃ今ごろ……!」


 ああ、博打打ちだったのか。解った途端に、出荷されるまできちんと面倒見てやらないと、という気持ちが萎えていくから不思議だ。この状況を事務的にさっさと片付けてしまいたい、とすら思えてくる。

 それはカミュとて同じなのだろう。


「今ごろ、何? そんなことよりもー、ねえ? 君が吠えると周りの子達が驚いてしまうから、ちょっと自粛してくれないかなあ?」

「っ……ちっくしょう! こんな野郎にやられるなんて!」

「あのねぇ? 君程度の冒険者を()()()御せないとでも思っているんだ?」


 事もなさげに笑ってくれるが、俺には出来ないぞ、なんて余計な茶々は心にしまっておく。


「あっはは! うんうん、相手が悪かったね~?」

「ぃあっ!!」


 ぎちっと、おっさんの骨が鳴ったのだろう。腕、肩の関節の稼働域外に向かって名一杯捻られて、おっさんは動きを止めた。


「ついでに~、大人しく寝てて?」


 かと思うと容赦ない手刀を落とされて、おっさんの意識は呆気なく沈められていた。

 いや、相手は仮にも()()と闘ってきた元冒険者よ? なんで太刀打ち出来るんだよ、この文武両道の完璧星人め……。羨ましさや嫉妬すらも湧いてこない。俺なら同じことやっても、俺が手を痛める上に最初の時点で逃げられるわ。

 けれどもあれでは屈強な元冒険者も形無しだろう。後が面倒くさいことには変わりないが、躾のなってない犬だって立場を知れば大人しくなる。こいつはカミュに任せるのが良さそうだ。


 ……で。俺は今更どう参戦しろっていうのか。『ちょっとした運動』を終えて、服の裾についた砂を払い落として立ち上がる姿に眉をひそめた。


「大丈夫か?」

「俺は、ね?」


 適当に尋ねればひょいと、顎をしゃくられる。知らせてくれたのは、車輪の影にうずくまって震えている姿だった。

 多分、突き落とされた拍子に驚いたのだろう。ヒューマンよりも小柄な犬の獣人の子供。その愛玩候補の彼は、すっかり怯えているようで震えていた。どうやら落ちた拍子に顔をぶつけて、あちらこちら擦りむいてしまったらしい。……なるほど、と。理解するのに容易かった。俺のやることはこっちだったか、と。まあ、それもそうだけど。


 恐らく、愛玩用になることは事前に知らされていたのだろう。それまでいた奴隷商でもそこそこ好待遇だったことだと思われるが、奴隷として過ごしている時間が長いが故に、怪我はするなとキツく言われていた筈だ。

 その指示に従わないという選択は、奴隷には出来ない。そもそもそんな権利がない。

 奴隷は持ち主の消耗品。あくまで売り買いされて当然の『物』だ。個人の意思なんて関係ない。それがこの世界では当たり前の認識。だからこそ『主人』の決め事や命令は絶対であるし、逆らう事なんてもっての外なのだ。


 ……うん。自分で言っていて、すべてブーメランのように返ってきている自覚はある。俺のやってることは、本来誰にも理解されなくてもおかしくない事なんだって。そういう意味では、親父殿はかなり理解を示してくれていると思う。

 でも、だからこそ、今回の事でこの指示なのだろう。けど――――。



 否定的な考えばかりが浮かんできて、それを振り切るように俺は彼の元へ向かった。


「そんな所にいないでさ、出てきてくれないかな」


 車輪に近づき屈めば、彼が目に一杯涙を浮かべてその身をすくませていた。

 搬入の便を考えての石畳。定期的に掃き掃除を行っているとはいえ、どうしたって砂塵は多い。そんな所に怪我を押し付けるようにして痛みを耐えていたら、怪我が悪化するばかりだろうに。


「その怪我、酷くなるよりも先に、手当させて欲しいだけなんだ」


 ね? なんて手を差し伸べれば、さらにその身を固くしてしまう。

 ……多分、前居たところで随分と痛めつけられているのだろう。そうでなければ、ここまで怯えない筈だ。

 後で身体検査をした方がいいかもしれない。場合によっては、親父殿に報告しておかないといけないのだから。


 ただ、このままではらちが明かない。


「俺がお願いしているうちに、出来れば出てきて欲しいかな。怪我を見せて欲しいだけなんだ」


 少々脅しめいていると我ながら思う。ただ早く手当をしてやりたいだけなのだけれども、俺の思いは伝わらない。……現に怯えた表情が、今にも涙をこぼしてしまいそうだった。

 強引ながらも引っ張り出せば、流石のこの子も逆らうような事はしなかった。しゃんと立たせてやって怪我を見せてもらえば、顔の打ち身以外はちょっとした擦り傷程度らしい。すぐに冷やして傷口をきれいにしてやれば、数日のうちに直りそうな程度だ。


「大丈夫、これくらいの怪我で責めたりしないから。ね、泣くなって」


 あんまりにもその目に涙を浮かべるから、つい苦笑がこぼれてしまった。くしゃり、その頭を撫でてやれば、案の定驚きに目を見開かれる。

 自分で歩けるな? なんて。そのまま歩くように促せば、大人しく付いてきてくれた。このままさっさと手当してやるのがいいだろう。



 宥めながら歩きだせば、ワイバンの隣を歩くようなラズの姿が目に留まった。その様子は、なんだか誰かと話しているようにも見えた。心持ち表情も明るく見えたことが嬉しくて、気がつけば足を止めて眺めていた。

 俺がそこに行くよりも、事態は好転している、そんな気がしてしまう。このまま上手く、そして何事もなく終わってほしいと心から願う。

 でも――――――。



「ホント、君のお節介は何処に役に立つものか解ったもんじゃないねぇ」


 褒めているのか、馬鹿にしているのか。遅れておっさんを肩に担いで隣に立ったカミュは、笑いを含んだ声で言うのだった。そのひょろっこい身体のどこにそんな力があるんだよ。いつもながら問い正したい。

 俺が物申そうとするよりも先に、くるりと踵を返してくれる。


「じゃ、俺はこれを個室に放り込んでくるから、後は、()()()()ね~」

「あ? 言われなくとも」


 そこに何か含んだものを感じてつい眉をひそめて見返すが、何時もの糸目が微かに顔を向けて笑うだけだった。深く、考えすぎなのだろうか?



 呆然と見送ってしまったのは、不可抗力だった。だから。


「あの……?」

「ああごめん、行こうか」


 自分がどこに行けばいいのか解らず、戸惑ったような彼の声にハッと引き戻された。ついつい苦笑してしまう。これでは、どっちが相手に構っているのか解ったもんじゃない。



 今度こそ建物に。そう思った時の事だった。

 ぐるおぉおおん! なんて、初めて聞いた、さるぐつわに遮られた飛竜の咆哮。そのあまり声量に驚いて、俺は――――俺だけでなく、そこにいた誰もが驚き、動くことが出来なかった。


 振り返れば後ろの二足で立ち上がるワイバンの巨大なシルエットが、広場いっぱいに影を落としていた。

 先ほどまであんなにも大人しかったワイバンが、一体何に触発されたのか。その大きな身体で陽の光を遮って威圧する。

 何がいけなかったと言うのか。低く唸りぶんぶんと身体をよじって、懸命に御そうとする姿達を振り払おうとしていた。


 いやいやいや! ぼんやりと見ている場合じゃない!


 怪我した彼を別館の方へと背中を押し、俺は慌てて現場に戻る。


「っ……みんな鎖を短く引け! 手空きは開いている所に加勢と増援を! 非力なものは別館に退避!」


 俺では指示をしてやる事しかできないけれど、指示を受けた奴隷の皆はばたばたと忙しなく、この非常事態に協力しようと掛け合ってくれた。

 こういう時にこそ役に立つはずの別館に向かった糸目の姿を探せども――――あのバカ、こういう時に限って手空きじゃないのが腹が立つ。


 だっしん! と。その鎖を振りほどこうとしないばかりにワイバンは大地を踏んで、その反動に皆が表情をしかめている。ワイバンによって起こされた強風が、ぶわりと吹き抜けていった。

 手綱を取っていられるのもあまり長い事()ちそうにない。持久戦的に暴れられると、基礎体力の差のせいもあって、御する彼らが引きずられるようになるのも時間の問題になって来るだろう。

 ならば。


「みんな、すぐ戻って来る! それまで辛抱できるか?!」

「はい!」

「大丈夫……です!」


 懸命にその姿を落ち着かせようと、鎖を引く奴隷たちにも焦りの表情と汗が浮かぶ。返答を返してくれたのだって、十分に命取りになる行為だっだことだろう。

 どうにか興奮して立ち上がっていた姿を宥めることが出来ているこの隙に、俺はあのクソバカを呼んでくる。


 そう思って踵を返した。こんなにも焦って走っているのは久しぶりの事だと思う。

 どうにか彼らが持ちこたえられるまでに、呼んで戻ってこられるか。あるいは事態の逼迫(ひっぱく)さに、誰かがもう呼びに行ってくれているかもしれないが、……()()()()掛け合ってくれる望みは薄い。あいつ奴隷商人の(かがみ)だからな。悪い意味で。


 だから俺が行くしかない、と。建物に駆けこもうとした刹那の事だった。


「ひあっ!」

「うわ!!」


 ぶちんっと、とてつもなく太いものがちぎれたようなありえない音の後に、ジャラジャラジャラと長い鎖が落ちるままにぶつかりあう金属音が響いてきた。石畳に落ちる音が、耳に触る。



 あまりの音に驚いて走っていたことも忘れて振り返れば、俺は我が目を疑った。俺が握れる程度とはいえ、獣の力ではまず引きちぎれない筈の鎖が、次から次へと捻じれて弾けるようにして、細切れに千切れていっていたのだ。

 咄嗟の身動きが、取れるはずがなかった。誰もが今度こそ呆然と、その姿を見上げていた。


「ウソ……だろ?!」


 ワイバンはぶんぶんとゆすって、その身体に残っていた鎖を全て振り払う。石畳の上で、鉄が派手な音を立ててとぐろを巻いていく。

 まるでそのタイミングを待っていたかのように、そいつはぐっと四肢を踏ん張っていた。次に行おうとしているモーションが見えた気がして、ハッとする。


「全員すぐに離れろ!!」


 張り上げた声が、引き金となった。わらわらと逃げ惑うのは、解き放たれた飛竜という存在に悲鳴を上げる。いくつもの叫び声に負けないように必死に誘導を試みるが、この恐慌状態、正直誘導することも難しい。

 そして、嫌な予感は的中する。逃げ惑う彼らの姿の中に、ワイバンのそばでへたり込んでいる姿を見つけて、無意識のうちに舌打ちしていた。よりにもよって鎖の束に足を取られてしまっているのが見えた。

 俺の力で果たしてあれらが持ち上がるのか。……いや、持ち上がらなくても、あの場に居させてはどんな怪我をするか解らない。助けられない、という選択肢は、ない。


 救援を呼ぶのは、後回しだ。騒ぎを聞きつければあいつの事だ、すぐに来てくれるだろう。



「大丈夫か〈シーナ〉!」


 ワイバンがその身体をゆするから、千切れた鎖が振り落とされ、そして飛び交う。

 どうにか頭を低くして駆けつければ、涙目のヒューマンが首だけ向いた。そりゃ、誰だってこんな目の前で飛竜が暴れていれば怖い。懸命に自分の足から鎖をどけようとしている姿に駆け寄り、一刻も早く助けてやらなければと、気持ちを新たに強く持つ。


「っあ……! ディオさんっごめんなさ……!」

「そんな事はいいから! 足以外の怪我は平気か? すぐにどかしてやるからな」


 開口一番、心配するのは自分の身ではない。奴隷としてはその心構えあっぱれだけれども、俺としては、自分自身を大事にしてほしいところだ。

 叱るような口調になってしまう事に仕方なさを感じつつ、その足を捕えて離さない鉄の蛇を一筋掴む。……一気に退かしてやれないのがもどかしい。


 こいつが〈シーナ〉に絡みついているせいで、手綱の短くなったワイバンが余計に近くで暴れてくれる。加えてすっかり興奮してしまっているように見えるワイバンは、あちこちで絡まって、団子状になっている千切れた鎖を振りほどこうと、躍起になっているようにすら見える。


「待ってくださいディオさん!」


 俺が鎖にもたついていれば、その手を〈シーナ〉の震える手が掴んで差し止めた。


「わた……っ、私よりもあっちを! 〈ヤナ〉が!」


 指示された先を振り返れば、切れる前の鎖に引きずられて打ち上げられたらしいラズの姿が、ワイバンの首根っこにしがみついている状態だった。暴れているせいで、下手に降りれば暴れる巨体の下敷きになりかね無くて、降りられないのだろう。

 ……それに恐らく、〈()()〉は他の誰かではいう事を聞かないだろうと、そういう判断の元だと思う。ここまで考えてくれるのはうれしいと素直に思うのだけれども、だからと言ってこちらも放置はできやしない。



「私は大丈夫、ですから……! ほ、ほら……!」


 〈シーナ〉は自力で出られるからと、言いたいのだろう。その手で掴むのは自身の足で。少しずつ、少しづつ、周りの騒ぎを見ないように引き抜けば、確かに脱出は可能のようだった。

 それに、俺の様子に気が付いてくれた奴隷の何人かが、こちらに戻ってきてくれているのが見て取れる。


「……解った。みんなは〈シーナ〉を頼む! 助けたらすぐに距離を取って……誰か、カミュを呼んでくれ!」

「は、はい!」


 こちらに来ていた内のひとりが、元来た方へ急ぐ様子を視界の端に収めて、暴れる姿を回り込んだ。

 目指したのは一番可動域が狭くてラズとの距離が近いところ。ここなら咆哮よりも声が届くと思ったからだ。



 回り込んでみて、驚いた。ワイバンが暴れたせいで切れたのか、切れたせいで暴れたのか解らないが、恐らくワイバンが本格的に暴れ出した原因は後者だと思う。千切れて絡まった鎖がワイバンを結果として鱗を逆立てるようにして食い込み、暴れるせいで自ら締め上げていた。

 鱗を剥ぐようなその状態。これでは穏やかだったこいつも暴れてしまうのも無理はなさそうだった。


 そしてまた驚く。唯一残っていた鎖に一本をしかと掴み、まるでロデオのように乗りこなしながらも鎖を丁寧に解こうとしていた、ラズの姿があったのだから。



「ラズっ! 受け止めるから、その手を放すんだ! 一度離れて、動きが止まってから解いてやれば大丈夫だから!」


 やりたいことは解った。だけれども、わざわざ落ちるかもしれないリスクを背負ってまでやる事じゃない。そう思ったからこそ、唸り声に負けないように俺も声を張り上げれば、ぱっとこちらに顔を上げてくれた視線と目が合った。


 ――――ほっとしたのも、束の間だった。


「……ごめんね、お兄ちゃん」


 緩く首を振られたかと思うと、ふいっと視線をそらされた。同時に、絡まっていた中枢が解かれたようで、締め上げていた鎖からすり抜けるように、ワイバンが一歩、二歩と歩みを進む。

 ばさり、翼膜を振う飛竜の姿を拘束しているものもなく、残っていた鎖はジャラジャラずとん、かしゃんと、落ちていく。


「え……?」


 どういうことなのか、解る筈がなかった。


 背後の方で、皆が口々に危険を訴えているのが聞こえる。危ないからって、ここから離れてくれって、みんなの声が訴えてくる。

 でも、まるで首から下の神経が断ち切られたかのように、足だけが石化でもしてしまったかのように。


 その場から、動くことが出来なかった。

 だから一際周りから悲鳴があがっても、気がつかなかった。


「ディオさん!!」


 誰かが俺を呼んだ気がした。――――その、直後だった。


「ぐ……あっ!」


 飛び立つために身体をひねって方向転換したワイバンの尾が、ぶんっという音と共に横から飛んできた。

 いや、ワイバンにその意識はなかっただろう。けれども俺は、あっさりそれに弾き飛ばされ、身体が宙を舞ったのが解った。


「ぃっ……!!」


 受け身なんて高等技術、俺が持っている訳がない。


 故に。

 どうっと。地面から飛ばされたのは一瞬で、弾かれた反動で、地を転がる。頭を打たなかったのが不幸中の幸いだ。代わりに口に砂利が入ったようだ。砂の味が不味(マッズ)い。


「あ……いっ、つ――――……」


 血の味が口の中に広がってきた。打ち付けた背中が痛くって、のたうち回ることも出来ずに動けなくなってしまったのは仕方がない。かすむ視界の向こうに、砂塵を巻き上げ、緑の姿が遠のいていくのが見えて愕然としてしまう。



「あらら、大変だ~」


 そんな声にどうにか顔を上げて首を動かせば、にっこり笑って空を見上げるカミュがいた。足元で転がる俺に対する嫌がらせだろうか。


「ボロボロ、痛そ~。何を大騒ぎしているのかと思えば、大丈夫?」


 屈みこんでこちらを伺っている様子からは『いたわり』なんてものは皆無で。そいつの向こうで遠巻きにしている〈シーナ〉たちの方が、よっぽど心配してくれているように見える。


 ……よかった。〈シーナ〉の様子を見るに、大したことはなさそうだ。


「ふざけんな……大変なんて騒ぎじゃねえよ」


 俺としては、こいつの世迷い事に付き合ってやる元気すらも湧きそうになかった。もう、目の前の現実にどう向き合ったものか。

 目の前が真っ暗になるような感覚って、こういう事か。


 先の疲労も相まって、俺は視界を閉ざしたのだった。

 少しの時間でいいから、何も考えたくない。……そんな、僅かばかりの現実逃避。

 

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