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ありふれた俺の日常は奴隷によって変わる.5

 

 ごすっ、かぱん、と。木が叩かれた小気味良い音が響く。少々力任せに叩きつけているような鈍い音がするのは、気のせいではない。


 朝飯前の時間から始まり、既に午前も半ばほど。彼は実に黙々と薪を割ってくれているようだ。もちろんそれは十分すぎるくらいに知っている。厨房にずっと陣取って朝食や早すぎる昼食の支度をしていたから当然だ。

 俺が厨房にこもっていたせいでいつもよりずっと早い時間から、焼いたパンやビスケットの香ばしい匂いが厨房一帯に広がっているだろう。何度か腹をすかせた奴隷たちが厨房を伺っていた。


 幸いというべきか、他の従業員が絡んでくることがなければ、奴隷たちの誰かが心境の変化を得た〈()()〉に話しかけようという事もなかった。ある程度予測していた結果とはいえ、ひとりやふたり絡んでくれた方が注目度は上がったのになあ、なんて。俺としては少々残念に思えてしまう。



「ラズ、少し休憩にしないか?」


 額に汗を光らせながら何だか楽しそうに斧をふるっている姿に厨房の窓から声をかけてやれば、にこっと笑われて首を振られた。


「大丈夫だよ、僕はへーき」

「いや、無理して続けなくていいんだよ? もう十分すぎるくらいに薪割ってもらっちゃったし……」


 もう一声休んでいいんだよって言ってやるも、やはり首を振られて薪割りに戻ってしまう。そんなに薪割りが気に入ったのかなんて疑問にすら思えてくるけれど、当人に断られては止めようがない。



「間抜けな音がしているかと思ったら、まあだ懲りずにやっていたんだねえ」



 不意に俺の隣に誰かがやって来たかと思うと、呆れたような声がかかった。確かめるまでもない。窓に寄りかかっているとはいえ、俺の隣に長い影を落とす高身長。その影をたどって見上げれば、やはりカミュが相も変わらず斜に構えて立っていた。

 ……答えるよりも思ったことはただ一つ、何しに来たんだこいつって事だけだ。


「全く、あんなにも使い道がなかった八十七がここまで動くようになるとはねえ……。一体どんな手を使ったのか、是非聞かせて欲しいなあ」


 嫌味というよりも、こいつにしては珍しく本当に驚いているようだった。その事に俺の方が驚いてしまったのは言うまでもない。


 常に物事から一歩引いて、客観的。なおかつ――――俺に対してはあまりないが――――感情を交えずに、機械的に、冷淡なくらいに遂行していく姿は、普段の剽軽な姿からは想像し難い。だが、それがこいつの本来だ。

 ()()()()()があるからこそ、こいつは後ろ盾もなく親父殿の信頼を勝ち得るところまで上り詰めたのだろう。その実力は俺だって認めている。故に……褒められると多少なりとも嬉しくなるんだろうな、なんて。


 けれども今回の事は俺の手柄でも何でもない。それだけはきちんと主張しなければいけない気がして、気が付いた時には否と首を振っていた。


「俺は特別なことはしてないさ。ただ、彼自身が自分の現状を知って動いた、それだけの話だ」

「……ほんとに君は、甘言吐いてヒトを()()()()()()だけは得意なんだね~?」

「は?」


 ちょっと、こいつ人の話を聞いていたのだろうか? 俺がそれらしく彼の功績にしようとしたのに、どうしてそんな人聞きの悪い解釈返されないといけないのか。全く持って理解不能だ。


「たぶらかすなんて人聞き悪いな。一体俺のどこが、たぶらかしているって言うんだよ」

「……うんまあ、自覚ないならいいんじゃない? どうでも。そんな事よりもねえ、だったらさ? 俺からの手伝いお願いしてもいいかな~? 力、有り余っているみたいだし?」


 納得がいかないのは俺だけだろうか。どうでもいいみたいな言われ方して、すごく釈然としない。


「……いいけど」


 だから許可を出すのが悔しかったが、彼の事を思えば俺の意地なんぞ二の次だ。こいつがとんでもないことを頼もうとするならば止めるし、更生のアピールする場をくれるって言うならもらわない手はない。


「そんなに嫌そうな顔しないでくれる~? 難しい事、頼むつもりはないからさ」

「嫌な顔なんてしていない、これは元々だ」

「ふうん? まあ、いいんだけどね?」


 普段はめんどくさいくらいに絡んでくるくせに、こういう時はさらっと流してきやがる。多分、それなりに店に関係出てくる話なのだろう。先を促すまでもなく、朝言った事覚えてるかと尋ねられる。


「搬入か?」

「そう。もうそろそろ約束している時間でね? 今回は高級種族が二点、戦闘用奴隷が五点、愛玩用候補が数点に一般種族が十何点……かな」

「多いな」


 次々にあげられたラインナップについぽろりと出た感想。ウチに一度に入る数としては、いつもの二倍はあるのではないだろうか?

 ラングスタの()()は、基本的に入ってきてすぐに出荷という事は少ない。最低でも二週間から三週間は店に囲って、『ウチの商品』として恥ずかしくない立ち振る舞いを叩きこむ。だからそれだけの時間がどうしてもかかる。


 ヒト一人の意識改革や行儀作法を矯正するんだ、楽な仕事ではない。だからこそ一度に入れられる奴隷の数は決まって来るから、二十以上もの奴隷を入れるって事はなかなかある事ではない。

 ……これは、近々大量に()()を出す予定でもあるのかな。


「まあねえ? でもそれ以上に手がかかりそうなのが、運送用のワイバンだよ」

「ワイバン?」

「そ~。今回大量に仕入れるからって、おまけで()()()()()買い叩いたんだよねぇ」


 親父殿に同行した時の事を思い出したのだろう。くすくすと楽しそうに笑うと、君にもあの光景見せてあげたかったねぇ、なんて言い出す。

 ……相手の奴隷商が急に気の毒になったのは言うまでもない。何があったのか、大体想像がつく。比較的安く、なんて言っているが、多分買い叩いたのだろう。


 それにしても、どうやら今日は珍しい事づくめらしい。ワイバンが入ってくるなんて、驚きだ。

 ワイバン。ワイバーンて、呼ばれることの方が多いっけ。

 飛竜の一種で、比較的入手がしやすいいわゆるドラゴン。だから卵から返して躾をし、人を乗せ、荷物を乗せる荷車変わりによく使われる。

 比較的入手がしやすいつってもそこは腐っても竜。親元から盗ってくるだけでも骨は折れる。だからほいほい手にはいるものじゃないし、ウチでも扱ったことあるのは――――俺が知っている限りでは数度だ。それも卵だったり子供だったりと、比較的扱いやすい大きさだった。


 けど。


「もしかして、成獣か?」


 人手が必要という部分と買い叩けた事から憶測すれば、あっさりと頷かれた。

 成獣は大概いう事を聞く主人を定めている事が多いから、扱いにくいって言われている。……まあ、扱いにくかろうがそうでなかろうが、俺らには関係のない話だが。


「そうそう。運送目的に躾済みだから、多分そんなに暴れないとおもうんだけどねぇ」

「なるほど。そのための人手か」

「そういう事~。だから手空きで協力してくれる人を探していたんだ」

「まあ……そういう事なら――――ラズ! ちょっといいか?」


 振り返って再び声をかけたのは、こちらに気が付きながらも黙々と斧をふるっていたその姿。俺に呼ばれたことにぱっと反応をしつつも、隣に立っているこいつのせいで警戒して黙ってしまう。仕方がないか。ついつい苦笑してしまう。


「ふうん? ラズ、ねえ」

「……うん? なにか言ったか?」


 空耳に返すも、いいやと首を振られるだけだった。


「そうか?」


 ――――だから俺は、気が付かなかったのかもしれない。隣が隠そうともせずに、その糸目をさらに細めていたことに。



 斧を置いてとことこと、大人しく呼ばれるままに来てくれる姿が嬉しく思う。窓から飛んで外に出ると、やって来た姿に合わせてしゃがんだ。……こうしていると、隣が余計にデカく感じてしまうのは気のせいだ。ああ、気のせいだ。


「手、止めさせて悪いな。どうしても人手が欲しくってさ、手伝いお願いしてもいいかな」


 俺がお願いをしても、ちらり、見上げていたのは隣の姿。まあ散々自分を痛め付けてきている奴が言うことだ、警戒するのは当然だろう。


「俺も立ち会うから。構わないよな、カミュ」

「勿論。君も手伝ってくれるなんて、楽が出来そうで嬉しいなぁ」

「お前な…………」


 一体俺共々何させようって言うんだ、こいつ。呆れ果てて反論も(つい)えてくる。


「それじゃあ裏門の所に行ってて貰える? 俺はもう少しヒト集めてから行くからさあ」

「ああ、解った」


 言うだけ言って、次へとさっさと向かう姿を見送る。裏門からの搬入と言うことは、かなり大きなキャラバンで来ると言うことなのだろう。



「よし、じゃあ行くか」


 立ち上がりながらくしゃりと目の前に頭を撫でてやると、ぽかんとしてこちらを見上げていた。そしてその空いた口に、隠し持っていた焼きたてナッツの香ばしいビスケットを放り込んでやる。


「薪割り頑張ったからな、ご褒美」

「もふぁ……はりふぁと」


 型抜きのビスケットなんて手の込んだものじゃない。ただ単にスティック状に丸めて焼いただけに過ぎないビスケット。だけれども、もごもごと頬張る姿は小リスのようで、おいしそうに食べてくれるから作り手として嬉しい。ついもう一本、また一本なんて、餌付け感覚であげたくなる。


 あ、いやいや、こんな事をしている場合じゃないぞ。



 連れ立って向かうのは、別館の裏手にある大きな門。二重になっているその門は、一つは奴隷を出さないために。そしてもう一つは外部からの侵入を断つために存在する。

 事実、高い塀に囲まれたウチの数少ない出入り口であるが、扉の開閉なしに誰かを通した事はない。そして門と建物の間には、行商人のキャラバンがそのまま入っても狭さを感じない広場がある。


 広場には既に、幾人ばかりの奴隷達が集められて待たされていた。俺の姿にキャラバンの到着を感じ取ったのか、彼らのお喋りが減り、そして引き連れてきた姿にまたざわつく。

 うん、俺の方もいい加減慣れて来た。私語禁止にしてもいいけれど、それすると彼らにストレス溜まるからなぁ……。まあ、いい。



「やあ、お待たせしたみたいでごめんね~?」


 程無くして、比較的世話好きの奴隷と力仕事を得意とする奴隷数人を引き連れてきたカミュも合流した。総勢十人ばかりが整列して、俺らの指示を待っている。

 丁度良く門の外で馬の(いなな)きと、荷馬車の車輪が砂を踏みながら止まった音が聞こえてきた。商品の搬入に来た、キャラバンの到着だ。



 カミュの指示でキャラバンを敷地内に招き入れ、それまで奴隷たちは広場の片隅に待機させていた。俺らが見守っている中、ぞろぞろと言えば良いのか、大きな箱馬車が入ってくる。


「……ほんと、でかいな」

「奴隷の為の『籠』一台に、大型搬送の箱馬車一台。間違いないようだねぇ」


 それを引くのは四頭立ての馬のような姿の動物である。最も馬と比べれば背丈が圧倒的に高く、三メートルは堅い。後ろ足で立たれればもう、見上げるほど高い姿が影を落としてくる事は想像するに容易い。

 蹴られたら一撃死出来そうな――――俺の腰の太さくらいありそうなその逞しい足で、二つ三つ向こうの街からやって来たのだとか。青毛のせいで余計に重厚感が増していて、引いている箱馬車二台が馬に引かれる戦車のように錯覚した。


「それじゃあディオは荷下ろし始めてね~。俺は下ろした方を数えながら御者に確認とるから」

「……ああ」


 一瞬それに圧倒されていると、のんびりを装った声に引き戻された。ハッとしてすぐに、荷下ろしにかかる。


 一台目の箱馬車に乗り込んで見回せば、そこには本日ラングスタに来たばかりの奴隷達がいる。

 奴隷落ちしたばかりの奴が数人――――戦闘用に二人と愛玩候補に一人、それから一般種族に三人――――ほど混ざっているから注意が必要そうだ。……なんで解るかって、俺を見たときのリアクションがあからさまだからな。

 冒険者でもやっていたかと思われる戦闘用奴隷の二人ははっきりと敵意を向けてきやがるし、その他は怯えて檻の隅で震えていた。一度や二度奴隷商入ったことのある奴は、大概疲れた顔をして諦めているからリアクションが基本的にない。

 ただ、殺気ぶつけてくるのは勘弁して欲しい。手を出される事も暴力に訴えられる事もないと解っていても、普通に怖いから。


 ああでも。この後を思うと、なんだか可笑しさが込み上げてくる。


「よし、始めようか。〈イッシ〉、これ檻の鍵ね。端から鍵開け頼むよ。〈エイミー〉は彼らの誘導をしてあげて。〈サム〉と〈ニーナ〉はその付き添い、いいね?」


 矢継ぎ早に指示を出せば、指名の入った四人が「はい!」 なんて元気良く返事をする。その様子に檻の中の連中が驚いてくれて、先に予感していた可笑しさも合間ってくすりと笑ってしまった。

 だって、驚くのは無理はない。本当ならばこの折に入れられて疲れ切っている奴隷たちの姿が『よくある商品の姿』だというのに、ここのみんなは対照的にとても生き生きとしているのだから。


 余韻に浸る時間がないのが、なんだか惜しく思えてしまう。


「さ、残りは俺と次へ行くよ」


 てきぱきと踵を返して残りの面々を手招いて呼ぶ。生憎今日の本命はこちらだ。奴隷の事は奴隷達に。俺の方は、本日の大物に。

 この広場の外れにある(うまや)に果たして、件のワイバンが収まるのか。そこだけが心配だ。



 扉を開けて中を確認。広さはおおよそ十畳程。箱馬車にしてはでかい部類と言えるだろう。

 その空間いっぱいいっぱいにうずくまるシルエットのせいで、箱馬車最大を誇る広さも何だか窮屈に感じる。成獣とはいえ、思っていたよりかは小さくてホッとした。


 俺がテリトリーともいえる馬車に踏み込んでいったせいだろう。じゃらりとその四肢を拘束している鎖を鳴らして、ワイバンは億劫そうに首をもたげていた。さるぐつわをはめられているせいで、凶悪なのであろう事が伺える牙を拝むことは出来ないが、それでも十分迫力はある。

 艶やかな深緑色の鱗が、入り口から差し込んだ光を受けてみずみずしく輝いている。砂金を集めたかのような金の双眸が、じっとこちらを伺い視線が合った。

 ……ああ、なんというか。流石親父殿の眼鏡にかなうだけあって、大して知識のない俺でもきれいな飛竜だと感じた。商品である以上傷つけないでここから連れ出さないといけないのだが、しなやかかつ逞しい、その鱗に覆われた手足を見ていたら、それが容易でないことを悟ってしまう。

 

「〈サイ〉と〈ロクト〉はサイドの扉を開けてやって。出入り口、後ろだけでは狭そうだからね。それ以外は先に入って、固定している鎖を一本ずつ引いていてくれる?」


 皆が――――ラズを含む皆が、俺の指示に従ってわらわらと動く。

 ……ラズがさりげなく俺から一番近いところに真っ先に来たのは、多分、他の奴らを避けたかったから……ではないだろう。つと、ワイバンを見上げていた表情が真剣そうで、少なからずこのワイバンに同情しているのかもしれない。竜人は、ヒトによっては竜と心を通わせられるって聞くからな。


 皆が持ち場についてくれた事を確認した後に未だにこちらを見据える視線に向き直ると、途端になんだか申し訳ない気持ちになった。ぐるる、なんて、喉の奥から絞り出したような声色が切なそうに聞こえてしまい、俺もいよいよ末期かもしれない。


「ごめんね」


 ……一体何に対しての謝罪なのか解らないが、気が付くとそんな言葉を口にしながら、首輪に直結している鎖を手に取った。

 出来れば怪我なんて負わせずに厩に通してやりたいが、果たしてうまく誘導できるだろうか? 不安が一瞬過るも、自信をかき集めて強く鎖を引いた。誘導する立場の俺が躊躇って中途半端な事をすれば、このワイバンだって不安になる。そういうもんだ。


 一歩、開けられたサイドから、俺は慎重に降りた。よく躾けられているのだろう。俺が下りていくのに合わせて、その飛竜も身をかがめたままに前足を下し、するりと抜けて地にしっかりと降りた。

 後ろの方で鎖の音がジャラジャラと慌てふためいている。ワイバンの身体を固定していた鎖をストッパー代わりに反対方向に引っ張ってくれているみんながかえってたじろぐほどに、その動きに無駄はなかった。思わず感心してしまう。



 広場に降り立ったその姿は、陽の光の下ではより一層輝いて見えた。目を奪われる、というのはこういう事なのだろう。窮屈な箱馬車から出てのびのびと身体や翼膜を伸ばしている姿は優に十メートルは超えていて、よくもまあ、あの中に納まっていたものだと逆に呆れてしまう。さあ、この貴賓を一時の城――――と、言うには申し訳なくなるくらい貧相な、しかもあくまで厩――――に案内しなくてはならない。


 そんな使命に駆られながら歩き出そうとした時だった。


「ディオ~? 悪いんだけど、ちょっとこっち手伝ってくれない?」

「ええ?!」


 まさかの呼びかけに、冗談だろ? と、箱馬車の向こうで見えないにも関わらず、その声の主を伺ってしまう。

 視線をそちらにくれてやった瞬間、ちらり、本館の窓が一瞬目に留まってハッとした。そこにあったこちらを見下ろしている姿。視界の端に映った程度ではあるが、あれは間違いなく親父殿のシルエットだった。

 このチャンス、掴まない手はない。


「解った、すぐ行く。少し待ってくれ」


 そうと解ればここを任せる相手は決まっている。少し後ろにいた姿を振り返ると手招いた。


「ラズ、ここを頼めるかな。厩まで。入るまでには戻って来るからさ」


 俺の意図が伝わったかどうかはかなり怪しい。しかもラズと話すときは特に気を付けて下げていた目線は、ここにきて完全に上からになってしまった。これでせっかく開いてくれようとした心を閉ざしてしまったらどうしよう、なんて考えている俺はびくびくし過ぎなのだろうか? 小心者の性が悲しい。

 けれども鎖を差し出せば、こくりと頷かれ受け取ってくれた。


「……任せて、兄ちゃん」


 小さく呟いてくれた言葉がうれしくて頼もしい。じゃあしっかり連れて行ってやって、なんて言葉にする頃には、俺の口元が緩み切ってしまったのは不可抗力だ。

 大丈夫、大丈夫。きっと、必ずうまくいく。

 そんな確かな手ごたえを一つ一つに感じながら、俺は後を任せてカミュの元へ走った。

 

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