《番外編》 クレイジーパーティー
元、拍手お礼小話
それは神聖なるサムハインを祝う、前々日に思い付いたことだった。
「ああ、そうだ。サムハインに向けて、明日は仮装大会にしよう!」
一念発起、そんな事を宣言したら、ラズに不思議そうな顔をされた。
「サム、ハイン……? 兄ちゃん、それ、何?」
聞いてくれたはいいが、ぴたりと黙ってしまったのは仕方がない。だって、俺もよく知らない。
おいおい、お前そんなことも知らねーのかよ、って? ああ、知らねえとも!
まあそもそもハロウィーンのイベントそのものが、本来のものから変質しすぎていて、わかんねえよ。最早、知っているのはお祭り要素だけだ。
「確か……元々は、死の主を宥める為のもの、だったかな? あとは……収穫祭、だったような気が?」
じゃあ、知ったかぶって言うなよって話だが。
これだけ毎日仮装みたいな奴等に囲まれていたら、日本人の、とち狂ったハイクオリティー仮装がどれくらいウケるのか、試してみたくなるのが人情ってもんだろう。
まあ、そりゃ、例えば俺が、鎧甲冑装備したとすると、滲み出る風格は、仮装だけじゃどうにもならないけどよ? そういう『イベント大好き日本人』をこの世界で演出したって、いいと思わないか?
あれ? よくよく考えてみれば、改めて『仮装大会』なんて、する必要はないのか?
あれれ? 仮装、じゃないもんな。日常生活で普通に着る服、だもんな。
定番とも言える魔女のかっこも、鎧も、何もかも。
あ、ゾンビやドラキュラはどうだ?
……いや、ダメだな、うん。
ゾンビもドラキュラも、モンスターとしてふつーにいる。
ゾンビなんて特に、アンデットの特性である死人から生まれる。つまりそのせいもあって『俺がアンデット化した』と、本気で討伐されかねない。
くわばら。
そう考えると………………ちっ、つまらん。
つまらんぞ、異世界いいいぃぃ! 俺にお祭りさせてくれええええ!
……しゃーない。
ならば、『TRICK or TREAT』くらい、してみるか?
厳つい筋肉達磨の冒険者のおっさん共に、可愛くこれ、言わせる。ラズにお手本叩き込んだ上で、ラズを真似させる。
で、お茶と、菓子配る。
……あ、いい事思い付いちゃったよ、これ! ヤバい、想像するだけで楽しくなってきた!
ついでにこれ、シャラさんは勿論ジジイにもやって欲しい。で、俺は癒され、大爆笑する!
「えーと、ディオ兄ちゃん? さっきからにやにや笑ってて、怖いよ」
恐る恐る、顔を覗きこんで告げられたラズの言葉が、俺の豆腐メンタルにどすっと刺さった気がする。
だが、今の俺は無敵である。
「余計なお世話だ! それよりもラズ、茶菓子大量に焼くぞ! 大将! 厨房貸してくれえええ!」
「え? え? 急にまたどうしたって言うのさー?!」
俺からのイタズラ、みんな受け取ってくれるよな?
ああ、明日が楽しみだ。
* * *
―――ラズの場合―――
窓から入る日射しが、顔にかかって眩しい。朝か。
なんて、気だるく思っていたら。
「兄ちゃん、起きて起きて!!」
「げふっ?!」
ごすっと。腹の上に何かが落ちてきて、叩き起こされた。
……ってか、見事に鳩尾! クリティカルヒットォォオオオ!!
痛い。ばたばたと、もんどりを打ったのは仕方ない。
ちょ、なんっつー凶悪な起こし方してくれるんだよ! この、愚弟が!!
文句の一つでも言ってやろうとしたら。
「トリックオア、トリート!」
にこにこと、嬉しそうに宣言するラズがいた。
目、覚めて初っぱなにそれかよ。
「ラズ……」
呆れて、物も言えない。しかも、既に悪質なイタズラされてのだが。
腹パン目覚まし。身体に悪い……。
『あと五分』を、行ってから目を覚ます俺としては、涙目になってしまっても、仕方ねぇだろ?
それを、それを……無情なり。
ばたん。……死。
* * *
――――シャラさんの場合―――
優雅な朝食時。俺らは、厨房の大将が作った食事に舌鼓を打ちながらもくもくと食べていた。
今朝のメニュー?
バター香るクロワッサンに似たサクサク食感のパンに、猪もどきのローストリブに、コンソメ風味のソースを添えて。そして、大将自慢の逸品である、リリの実のコンポート、ヨーグルトソースかけ、だ。
朝御飯には、重いラインアップの気もするが、意外や意外。これらがあっさりと、食べれてしまうのだ。
この安宿にこの料理の腕前! 俺だったら、文句なしに星付きホテル認定しちゃうぜ!
そんなとき、珍しき人が宿屋《黄色の蝮》にやってきた。
「おはようございます、ディオさん、ラズさん。お食事時に、申し訳ありません」
俺が昨日配ったチラシを片手に、美しき銀髪をたなびかせている姿に、一瞬女神が現れたのかと思った。
「シャラさん……こんな朝早くにどうしたんですか」
ぽかんと見上げている俺は、何とも間抜けな顔をしていたと思う。そんな俺に、シャラさんはくすりと笑っていた。
「あら、ディオさんがおいしいお菓子を配って下さるイベント企画されるから、一足先に来たまでですよ」
「ほんと? 嬉しいな」
楽しみにしていたと言われて、嬉しくない訳がない。
それじゃあ早速合言葉を、なんて思っていたら。
「トリックアンドトリート」
にっこりと、麗美な笑顔を浮かべていらっしゃるというのに、なんか、俺は酷い聞き間違えをしたようだ。
あ、なんだ、聞き間違えか。
なら、普通にお菓子を渡せばいいよな。
「はい、どうぞ」
片脇に用意していたのは、配るために個別にラッピングした焼き菓子。ありがとうございます、と、シャラさんはそれを受け取った。
その一方で、シャラさんは俺のコンポートに手を伸ばすと、さくっと煮られたリリの実を切り分けていた。
「え?」
「それではディオさん、いただきますね?」
ぱくりと一切れ、シャラさんはそれを食べると、残りをフォークで刺した、かと思うと、はい、と、こちらに渡して来た。
こここここれは……!
ままままさか! いわゆる『はい、あーん』 ……て、奴じゃないのか?!
まさか、やっぱりあーげない、って奴まで含むのか?!
いや、いやいやいやいや、俺のコンポート! ……じゃなくて、なんで、急に、そんな!!
え、え?
何?! これ、何が起こっているんだ?!
「はい、ディオさん。あーん」
「えええええええ、しゃ、シャラさん! それはちょっと恥ずかし……!」
「では、私が頂きますね?」
ぱくり、と。その艶やかな口にコンポートは消える。
唇に付いた、ソースをぺろりと舐める姿も美しい。
「ごちそう様でした」
「え……? あ!」
なんて、見惚れている間に、シャラさんはすっかり俺のデザートを食したようで。
呆けている俺にくすくすと笑っていた。
「それではディオさん、今度改めてお礼をさせて頂きますね? 焼き菓子も、ごちそう様です」
「え? あ、はい……。まいど……」
呆けて、何も言えない。
アンドって、そういう事かよ。なんて、納得するも、時すでに遅し。
なんだよー! コンポート、結構楽しみにしていたのに!
いやいや、それよりも、『あーん』を! シャラさんに『あーん』をして貰うなんて、なんて美味しい展開だったのにそれを、俺は……!!
あああああああ!
なんっっって! 馬鹿な反応をしてしまったんだよ!!
わああああああああぁぁぁ!
ぱたん……。燃え尽きたなり。
レバンデュラン不在(笑)




