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飛竜と義弟の放浪記 -Kicked out of the House-  作者: ひつじ雲/草伽
三章 ドラゴンタクシーの日常
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海外旅行先で日本人に合うと、何故か仲良くしたくなっちゃう系あるある。でも正直、そんな所で知り合った奴って結構怖くない? in異世界 .3 *

 

「っ?! なん……!」


 深月君は慌てて止まる。勢いを殺しきれなかったようで前につんのめりながら、突然現れた背中に困惑と驚愕の表情を向けた。

 同時に、乱入者は高らかにその()()を宣言した。


「やっと見つけたぞ、ラミア! 今度こそ大人しく掴まってもらうからな! いっけええええぇえ! モ〇〇ター、ボォォォォル……!!」


 その背中が誰なのかと理解すると同時に、()は盛大に振りかぶっていた。

 投擲されるのはボールのような何か。あ、うん。相変わらずそれでテイムしてるんですね、解ります。光がすっぽりとラミアを覆い、見惚れて目が離せなかった姿を隠してしまう。


 「やったぞリューン!」 ってはしゃぐのはいいけれど、あの妖艶なラミアでさえどんな風にがっかり幼女使用になってしまうのかと、残念で仕方がない。

 戦闘時間が僅か数秒って言うのも、前振りの量に対してこのあっさり感は、なんだか悲しくなってくる。


 魔法陣の輝きが収まった時には、一人の村人風な少年と上半身裸で鱗のようなマントを身に着けた少女がきょとんとして立っていた。うん、その原理どうなってるのって、正直詳しく聞きたい。



「な……?!」


 そして隣でわなわなと震えている深月君も、流石に気が付いてしまったらしい。

 そうだよなあ。流石に『○ンスター○ール』はマズいよなあ。


「な、な、な……!」


 言葉にし難いのだろうけど、同郷の者がこんなところに居たのかって感動も一押しだろう。

 ――――けど。


「なにしてくれてんだよぉおお! お前! それは俺の獲物なのに!!」


 憤慨して叫んだ深月君にとって、大事なのはそこではなかったようだった。

 ……え? そっち? そっちなの?


「ん? なんだ? ああ、冒険者か?」



 彼の声にはじめてこちらの存在に気が付いた、と言わんばかりに振り返ったのは、つい先日知り合ったばかりのダンジョンマスターに相違なかった。


「ちょ、深月君!」

「ふざけんな! どこにやったんだよラミアぁぁ!! 俺の冒険譚の一ページを彩る筈だったのに!!」


 せめて便宜は図ってやるべきかと思って呼びかけてみたけれども……あーあ、駄目だこりゃ。聞こえてない。俺の静止なんて、全く意味がなかった。



 地団太を一つ踏んだかと思うと、駆けだした深月君は敵認識した姿に躊躇うことなく、抜刀していた剣を降り上げた。


「覚悟しとけ、この手柄泥棒っ!」


 そんな間抜けとしか言いようのない難癖に、取り合うグロウでもなかった。


「グロウ様!」

「いい、下がれ!」


 前に立ちはだかろうとしたリューンさんを一喝して、彼は即座に宙で手を握った。

 刹那、飛び上がった深月君の剣は脳天に振り下ろされようとしたのに、ギンッと甲高い音が鳴る。彼お得意の水魔法で作り上げられた、氷の剣によって防がれた。


 全体重を乗せた重みは、グロウであっても受け止めきるには重かったらしい。振り払うように押し返して、一足飛びに後退して間合いを取った。

 押し返された深月君も、きれいに地に足を付けて、打ち返されたしびれを振り払うように、剣を握っていた右手を振った。


「なんだ、お前。こいつはそもそも――――」

「問答無用! この比嘉深月、邪魔建てした貴様の首を取らせてもらう!」

「え……ひ、が……?」

「はぁっ!」


 一瞬のにらみ合い。それはすぐに、短い気合と共に吐き出された深月君の怒号によってかき消された。


 強く地を蹴り、振り下ろした剣を返して逆袈裟切り、だが、それはグロウが後ろに重心を倒した事で難なく避けられてしまう。

 リューンさんは戦闘の邪魔になると判断したのか、子供たちを小脇に抱えてこちらまでやってきた。


「ねえ、ちょ、待てって――――」

「煩い!」


 慌てて手を振って弁明しようとした声を、深月君は突っぱねる。難なく躱された事は想定内だと、横一文字に剣を薙いだ。また、それをグロウが寸でで剣先を避ける。

 よくやるなあ……。



 やってきたリューンさんに軽く手を上げて挨拶したら、会釈を返された。戦闘に参加する素振りがないところから、特別手を貸さないといけない状況ではないと理解しているらしい。さすがだ。



「ちょっと、話を聞け!」


 とんとんと、さらに飛び下がったグロウは、敵意がないと示したいのか手元の氷の剣を投げ出した。両手をカラにして訴えてみるが、肉薄する深月君は、ラミアとの激戦を得られなかった事が酷く不満であるらしい。


 「聞くか馬鹿野郎!」 と一辺倒にすると、また斬りかかった。――――筈だった。


「ああ~もう! だからっ!」


 グロウの頭が少なからずかち割られる、そう思って思わず俺が目を反らしていたら、グロウの方が上手だった。

 すなわち、左腕で剣の胴に当身をして上手く躱し、剣を振り回して暴れる深月君の腕を捉えていた。


 そして、心当たりのあるものならば間違いなくその動きを止める()()()()()を叫んでいた。


「お前、日本人だろ! って、聞きたいんだけど!?」

「……え?」


 唐突に言われて、理解し難かったのだと思う。

 深月君がきょとんとして、動きを止めたのも束の間だった。


「ええー?!」


 直後、面白いくらいに飛び上がって驚いていた。


「じゃ、じゃあ、あんたも?!」

「まあ……元、って言った方がいいと思うけどな」

「に、日本人……。オレの他にもいたなんて…………!」


 ……バカじゃねえのこいつら。

 なーんて冷めた気持ちで眺めていたら、だ。


「バカだろ、お前」

「な、バカとは何だバカって!」


 おんなじことをグロウに言われたから、思わず口にしてしまっていただろうかと、流石に焦った。

 その場で足を投げ出して座ったグロウにとって、もはや深月君と闘う気は微塵もないのだろう。



「もーいいよ。日本人同士で潰し合いとかやめようぜ。不毛だよ、不毛」


 テレビの前で寝ころぶ日曜日のお父さんよろしく、立てた腕に頭を乗せて、だらしなく横になった。ひらひらと振られた手に、深月君だけが頬を膨らませて地団太を踏む。


「何だよ! 例えあんたに戦う気がなくたって、ギルドの営業妨害はやめてもらわないと俺らが困るっつーの!」

「はーいはい、解った。解ったから。今度からモンスターの情報は、俺の方に勝手に回ってくるように捻じ曲げとくから、お前ら冒険者は安心して冒険に勤しんでくれって。な!」

「ちっがーう! それじゃあ意味ない!! 俺は依頼でここに来ているんだぞ?!」

「だから、そのクエストの原因はこっちが取り除いたんだ。それで何がダメなんだ?」

「だ~か~らぁ!」


 ……どうやら一件は解決しそうだけれども、深月君がグロウを説得してギルドの利益を守れるようになるには、もう少し説明に時間がかかりそうだった。



 仕方がない。止めに入るのとはまた違うけど、あまりにも不毛なやり取りに、つい横から口を出さずにはいられなくなってしまった。


「元気そうじゃない、グロウ。相変わらずモンスターにちょっかい出しているのか?」


 ひょっこり顔を出して尋ねれば、俺の登場に驚いたグロウはポカンとしてこちらを見上げていた。


「なんだよディオ、知り合いなんだったらもっと早く止めてくれよ!」

「……え。なに、知り合いなのか? ディオ」


 俺が声をかけた事によって、深月君も引き際を察したのだろう。寝転がるグロウに詰め寄るのを止めて、気持ちを落ち着けるように得物を収めてくれた。



 今すぐ詳しく紹介してやれないことを深月君に申し訳ないと思いつつ、「まあね」 とお茶を濁しておく。


 グロウはどこまで俺らに出自を明かしていいかって考えているのかは解らないけれど、少なくとも俺は日本人トークなんてする気はない。下手な事話すよりも、グロウに近況聞いた方がいい気がして、それにしても、と切り出した。


「この前ぶりだね。お前の行動範囲広すぎないか? 何しにこっちまで来たんだよ」



 深月君を相手にして細かく説明するよりも、俺との会話で怪しいものじゃないって事を知らせる事の方がいいと判断してくれたらしい。


「ああ。最近はさ、群れからはぐれたってやつを探し出しては保護してモンスターのバリエーション増やしているんだ」

「子ども攫い、じゃなくて?」


 俺の話題に乗っかって近況を教えてくれたのはいいけれども、ついつい軽口めいて吹き出してしまった。


「おいおい、人聞き悪いなあ! 人をヒト攫いみたいに言わないでくれ! モンスターを保護しているだけだっつーの!」

「保護だなんて、またよく言うよ」


 彼の言葉に思わず苦笑してしまった。

 あれは保護というより、どこからどう見ても『ゲットだぜ』 だろうに。捕獲だろ、捕獲。



 俺の言葉が心外だと言わんばかりに不貞腐れる姿は、そこまで言って何かを思い出したらしい。


「ああ、そうだ。誰が何と言おうが、この子とラミアはもらってくからな? 気が付いているんだろう? ここに居ても、この子の為にはならなさそうだからな」


 切り出された提案は、彼にしてはまっとうな言葉に聞こえた。同時にありがたい申し出だった。


 そう、ずっとこの町に来た時に感じていた違和感。助けて欲しいと言う割に、子供の心配をそれほどしていないように感じたことについて、だった。


 不快にすら思えた懐かしさは、かつて俺も経験したもの。グロウがラミアを捕獲したことで、ラミアから分離(?)されたあの少年は、恐らくヤギさんないし、村の誰かがエサとして意図的にラミアにささげられたってところだろう。


 エサを得たラミアは少なからず大人しくなり、それこそ消化のために眠りにつき始めれば、町の人たちは子供一人の犠牲だけで駆除できる――――予定だったのだろう。

 正直言って、胸糞悪い。



「うん。ラミアはもちろん、この子にとってもその方がいいと思う。面倒をちゃんと見られるなら、俺からも頼むよグロウ」

「モチロン。任せとけって! 子供はこの世の天使! 愛でない方が罪だぜ?」


 …………うん。

 発言に若干の不安はあるものの、彼に任せた方がここに居続けるよりも絶対にいいはずだ。



「兄ちゃん、そんなにあの子の事が気になるの?」

「ん? 気になるって言うか……」


 不意に言われた言葉が解らなくって、ずっと俺にひっついていた姿を見下ろした。構ってもらえていなかったことが不満なのか、つまめそうなくらいに唇を尖らせている。

 ……やれやれ。



 構ってちゃん仕方ないなあって思いながら宥めようとして、説明するまでもないつまらない過去に、ついつい苦笑してしまった。


「俺にもああいう時があったなって、思っただけだよ」


 あの小さな背中に、かつての自分の境遇を見た気がした。

 やれやれ、ひとまず一件落着ってとこかね。









「で、さ?」

「ん? どうしたの、深月君」

「オレこのままじゃクエスト未達成になって、この村に報告入れる事もギルドに帰る事も出来なくなるわけだけどさ? ふたりとも、手と知恵を貸してくれるんだよな?」

「あ」

「あ」


 彼の都合について、すっかり失念してしまっていた。多分、エクラクティスの事だから、ありのまま報告し解けば『面白いねー!』 っつって、不問にしてくれるだろうけど……。

 ヤギさんに、ラミアは逃げ出したなんて適当な事報告しても納得してはくれないだろう。


「考えなきゃ、ダメ?」

「ダメ」


 気まずい沈黙に、俺らは自然と空笑いしていた。


 ま、ごまかしなんていくらでも出来る。クエストの終了を知らせる前に、俺らは意味もない芝居を打つために、画策し合うのだった。


 さーて、疲れたからさっさと片づけて帰るとしよう。

 

ディオ「異世界転移している主人公格二人の前で、俺の出番なんて無いさ。解ってるって(震え声)」


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