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飛竜と義弟の放浪記 -Kicked out of the House-  作者: ひつじ雲/草伽
三章 ドラゴンタクシーの日常
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ご職業は何されているんですか?.3

 

 熱気を帯びた風が頬を撫で、抜けていく。眼下に広がる石木林(せきぼくりん)のモノトーンな色彩の間で蠢いているのは、燃えたぎる溶岩の身体をもつラスボス級のバケモノ、タイタンだ。


 自分で提案しておきながら、これからやろうとしている事を思うと緊張を感じずにはいられない。すっかり乾いた唇を、無意識に舐めてしまう。



「兄ちゃんは絶対僕が守るから。大丈夫だよ」

「ああ……わりいな、ラズ」


 ぽんぽんと、義弟には宥めるように背中を叩かれて情けない。

 タイタンとの再戦。まさかそれに、俺自身がこんなにも乗り気で協力することになるとは、全く思っても見なかった。



 《虹空ダンジョン幼稚園(命名 俺)》に、戦力なんて見込めない。だからこそ、ラズやエンマを中心に計画してもいいけど……。多分、彼は請け合わない気がした。それならば、自分一人でやるからって言い出しそうだ。短い付き合いながらも、何故かそう確信していた。

 だからこそ、ここまで来たら乗りかかった船。出来るだけ協力って形で手伝ってやりたい。


 『本体がどこにあるのか、解ればいいって、言っていたよね?』

 『それが簡単に出来ないから、困っているんだって……』


 俺の問いに、ダンジョンマスターの彼はそう答えた。

 ならば――――。



 提案した通りに事が進むかどうかも解らない。でも、事が『始まる』と思うと、緊張と高揚に何故か口許が緩む。


()()()、始めるよ」

『了解。頼むぜぇ~、ディオ!』


 耳に当てた魔道具の通信機を通して返ってきた言葉を受けて、俺はエンマを旋回させた。うん、やはり。目下に頭を有する者はなく、ただ溶岩が蠢いているだけなのに()()()()()()のがはっきりと解る。

 唯一解らないのが、それがどこから見られているのか定かではないって事なのだ。


「エンマ!」


 適当な場所を示してのエンマへの指示。意を汲んだエンマが、高火力のドラゴンブレスをそこに照射した。どう、と。粘度の高いものに衝撃が加わったような、鈍い音がした。ブレスに焼かれた石木が弾けた。


 熱源に対して火力で対抗しても、意味がないのは百も承知。それでもひたすらに攻撃し続けて、ずっと様子見てくる奴を逃げ回らせていればいいのだ。

 それが、狙い。ただ俺らは、タイタンの意識をこちらにだけに向けさせていればそれでいい。

 意味もなく攻撃し、その真意を悟らせない。陽動作戦の基本だろう?


 そうしている内に、それまで一つの生き物のように動いていた溶岩が、少しずつ、その動きを止めていく。削れていく。割られていく。

 上空から見えるその光景は、…………実に地味だ。



 何をしているのか、簡単に言っておこう。


 タイタンは溶岩を纏っているだけ、だ。最大の攻撃にして、最大の防御方法。並大抵のやつでは、近づくことすら儘ならない。

 その巨大な要塞とも言える溶岩の中を、逃げ回っている奴がいる。そいつを追い詰めたいならば、簡単な話、逃げ場を奪ってしまえばいい。


 痛覚がないなら、バレないように気を引いた上で、ひっそりこっそり溶岩をちょんぎっちゃえばいいじゃない。と、ただ、それだけのことだ。

 それを着々とこなしているのは他でもない、グロウとリューン()()だ。

 グロウは魔術でウォーターカッターを再現し、リューンさんは炎たぎる溶岩をそのまま一刀両断、切り裂いていた。


 いや、マジで凄かったのなんのって。俺はただ、ウォーターカッターを想像しながら、溶岩を冷やしながら切るなりして、タイタンから切り離しちゃえばその体積を減らせるんじゃないか、って、言ってやっただけだ。

 そうすれば、冷え固まった溶岩を再利用される心配もなくなるし、タイタンの攻撃・防御手段も奪ってやれる。最悪、冷やしてやれば動きを鈍らせられるんじゃないか、なんて思ったんだ。……まあ、至って普通の発想だわな。


 それから少し、考えたように首を傾げて、ならこれはどうだ、って、あっという間に捻り出して見せた。

 ダンマスの能力の高さマジで怖い。俺、冒険者じゃなくて良かった、なんてつくづく思う。こんなのと敵対して、勝てる訳がねぇよ……。


 時おり水柱が上がっていて、タイタンに気がつかれるんじゃないかって、はらはらさせられている。まあ、湯気煙が上がっている時点では、何とも言えないが。

 現にそれまでこちらばかりに攻撃が集中していたのに、自身の身体の異常を確かめているような動きを見せ始めた。けど、今さら気がついても、もう遅い。



 リューンさんも幼女形態の時とは比べ物にならないくらい、そのスペックの高さを発揮していた。だって、居合いで溶岩斬っちゃうんだぜ? 純粋な得物の性能だけで成せる業じゃないだろ。



 でもさ。どんなに凄い業を持っていたって、直接この目で見られないなら、意味が全くない訳で。

 あーあー! 生で見たかったなあ、つまんね!



 代わりにせめて、俺らの方の攻防を特とご覧あれ。



 エンマにブレスでまた攻撃させて、すぐに旋回、その場を回避。突き出された槍のような溶岩に、一瞬ひやりとさせられた。

 その()を辿るようにして溶岩本体に急接近させてみるも、伸ばしたままだった()の形をどろりと崩してこちらを囲わんばかりの勢いで迫る。


 ただ、そんな大雑把な攻撃じゃあ当たらねぇ、なんて余裕かましていたら。しゅうしゅうと、表面がぼこりと泡立つ度に、火山ガスが漏れ出ている事に気がついた。慌てて下方に回避するよう指示すれば、頭上でガスが爆発していた。


「おわっ……!」


 突風に煽られかかって、ひやりとする。こんな、溶岩の海に飛び込むようなマネだけはしたくない。

 当然のように、火の粉は全てラズが防いでくれている。どうせなら、風圧も防いで欲しかったなあ~、なんて。


 本当ならば恐らく、ラズ一人でこいつを制圧出来ただろう。けど、それでは依頼主の要望とそれでは異なってしまうし、ラズ自身はやりたがらないだろう。


 え、なんで? って、聞かれてもな……。

 俺を守る、とは言ってくれたが、協力する、とは一度たりとも言っていないからな。


 ……ひょっとして、テイムされたモンスターと自分の境遇を重ね合わせて見ているんじゃないか。なーんて邪推にうちひしがれて、バカを見る。

 俺のために動いてくれている。その事実だけで十分だろうが、俺のバカ!



 そして。ものの十分程度の攻防で、山一杯見渡す程に広がっていたタイタンの身体も、小さな街程度にまで切り刻まれた。まあ、それでも十分大きいとは思うけど。

 まだ、あちらこちらでは熱を持っているらしい。切り離された溶岩が、そこらで煙を上げている。気温も心ばかし、上がっている気がしてならない。あっちい。


 でも、ここまで小さく刻んでしまえば、楽勝だろう。

 溶岩の中を動いている姿。それが、解りやすく動いているのが目に見える。随分と戸惑ってるみたいだが、タイタン本体は液状じゃないのな、なんて。



「グロウ」

「ああ! ありがとうな!」


 その名を呼べば、嬉しそうに笑ってグロウはそいつに向かっていく。これで逃がすはずがない。


 ただ。


 うん、たださ。

 その時はまさか、とんでもないこと口にしながらテイムするとは、俺も予想外だった。



「いっけええええぇえ! モ〇〇ター、ボォォォォル……!!」


 はいいいい~?! 何それ、何それ?! マジかよ!!


 なんて俺が驚愕している横で、グロウはまさかの『ボールのような何か』をタイタンに向かってぶん投げていた。

 それがこつんと――――いや、実際そんな音はしなかったけれども、兎に角それが当たると同時に、タイタンの足元に魔術式が展開される。

 いやだって、刻まれたって言っても、まだどろどろの溶岩を纏っているからな。効果音つけるなら、どぼんじゅっ! って感じだろうよ。


 それはさておき。


 魔術式が展開されたそれにはちょっと、ホッとした。赤い光に包まれて、『ボールのような何か』に吸い込まれたらどうしようかと本気で思った。


 ってか、うん。

 やっぱり、()()()()()()()()って思っていたんだ。



 え? 何がって? …………グロウが、日本人じゃないか、って可能性だよ。

 ウォーターカッターを、話聞いただけでぱっと出来る筈がないんだよ。おまけに、ダンマスだって言うわりに、自分のダンジョンの事を把握していなさすぎだし。この世界の常識も無さそうだし。


「……えーと、グロウ。今のは……?」


 なんて、つい聞いてしまった俺は悪くない。なんでよりにもよって、テイムの方法がゲットだぜ? いや、まあ、俺の友達に、なんて言われても、困るけどな!


「ああ、テイムするための術式と……儀式だよ」


 こいつ適当にそれっぽく誤魔化しやがった。俺の表情、引きつってない、よな?


「へえ……、ハジメテミタヨ」

「ああやってやるとさ、普通にテイムするよりも成功率が三、四割上がるんだ」


 随分上がるな、成功率! それって気持ちの問題じゃねぇの?!

 なんて突っ込む事もままならず、術式が安定したタイタンに変化があった。



 きょとんとして、こちらを伺っているのは、兎の獣人に似た姿。幼い顔立ちは戸惑いに満ちている。垂れ下がった耳と、濡れた黒曜石のように潤んだ瞳が、見るものに庇護欲をそそる。


 先程のように攻撃されるのではないか、と。もしそんな誤解をしているのであれば、あまりにも気の毒だ。そう思って声をかけようとしたら、それまで使っていた魔術式一通りを解除したグロウが、武士の如く納刀したリューンさんを侍らせて、そちらへ向かった。


 かと思うと。


「はあああああっ……! やっぱり、囲うなら子供の姿に限る……! この世の天使、クソ可愛いい!!」

「ひゃうっ!!」


 なんて言いながら、ちびっこタイタンに抱きつくグロウ。


「グロウ様、突然それでは彼女が戸惑ってしまいます」

「しょうがないだろ、子供の可愛いさは正義だからね!」


 あ、こいつ変態だわ。おまけに、リューンさんとまともに会話する気がないようだ。

 ……なんて理解するのに、一秒もいらなかった。



 どうしても戦力的にもあいつ(タイタン)が必要なんだ、なんて宣っていたあのシリアスさは、一体何処に行ったというのか。

 幼稚園状態で戦力足りてないの、自業自得じゃねぇか! っていうか、どいつもこいつもちっさくなるなら、あのでっかい門必要ないじゃないか!


 何だよ、こいつ! 俺の苦労を返してくれ!

 バカだろ? バカ過ぎるだろ?!!


 ……やれやれ。

 ひとまず、一件落着。良しとしようか。

 

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