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飛竜と義弟の放浪記 -Kicked out of the House-  作者: ひつじ雲/草伽
三章 ドラゴンタクシーの日常
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ご職業は何されているんですか?.1

 

 よく晴れた日の、穏やかな時。

 いつものように俺らは、ギルドの受付にてぷらぷらと暇をもて余していた。その穏やかなひとときの終わりを告げるように、その奇妙な連絡が入ってきた。


「はい、こちら目的地までどこまでも! 貴方をお運びいたします、ワイバン運送でございます」


 ガラクタ市場で魔道具を購入したことによって、近距離連絡が楽に取れるようになった今日この頃。それが使えている事に嬉しさを感じながら、俺は何度も練習した口上をさらさらっと言い切った。

 よっし!! カンペキ!

 なんて俺のガッツポーズとは裏腹に、何処か焦った声が返ってきた。


『ああ、悪いんだけど、急ぎ火山の森まで来てくれないか? 近くまで来てくれればいいから、兎に角至急! 怪我人出てるから、早く!』

「え、あ、はい。至急……」


 ちょっとびっくりしたけれども、ウチだからこそ『至急』ってものが出来るんだと思うと、鼻が高い。相手が切羽詰まってるところ悪いけれどな?


 ただ。


『あーもう! クソったれが! 大人しくイキやが――――――ブツッ!』


 俺が思っている以上に、相手は急死に瀕しているらしい。切れちゃったよ。



「お客さん、ですね?」



 声をかけてくれたのは、本日も癒し効果が付与されている麗美な笑顔を向けてくれるシャラさん。それに俺は、首肯した。


「恐らく、そうだと思うんだ、けど……」


 ってか、どうしよ。ウチ、よくよく考えたらレスキュー隊じゃないんだけど。

 まあ、いいや。とりあえず助けを求めているのはわかった。

 火山の森、ね。すぐ行ってやんよ。


 ん? ……火山の森?


 え? それって、エルド火山麓の森、じゃあなかったか?

 断崖の森の、限りなく山に近いところの、森。


 そんな所からのSOS? 相手の人、随分高性能な通信機を持っている、って、事だよな?

 いいなー、羨ましい。


 じゃ、なくて! さっさと行ってやらないと!



「ラズ! 直ぐに出るぞ! 先にエンマに伝えてくれ」

「はーい、解った!」


 同じく隣で暇をしていたラズにそんな一声かけてやりつつ、俺は、慌てて救急箱の中身を思い返しながら改めた。……うん、多少の怪我なら手当てしてやれると思うんだ。


「それじゃあシャラさん、行ってくる!」

「はい、気を付けてくださいね」


 兎に角今は、送迎タクシー出発進行! いっちょ、人命救助と行こうじゃないか。



 ――――――――なんて俺の考えが、ハチミツに砂糖と水飴とチョコレートを混ぜてザラメをトッピングしたヌガー並にあまあまに甘かったと思い知る羽目になるとは、この時は思いもしなかった。

 ……うげっ。しまった。味を想像したら胸焼けが……。




* * *




 慌ただしくエンマの背中に乗り込むと、最速で火山の森までお願いした。

 最速なんて、今まで頼んだことなかったから、それはそれは、我らの姉御は張り切ってくれた。お陰で危うく空中に放り出されるかと思ったけれど、かつてない程エンマがかっ飛ばしてくれたお陰で、驚異の二時間とかからなかった。

 まあ、普段はお客様乗せていて、休憩も多く取っている訳だし? ノンストップで最速キメれば、簡単にこう、早くつくのかもな。


「兄ちゃん、ほんとにこんな所にヒトいるの?」

「その筈なんだけど……」


 隣から、疑うような目を向けられても、俺は呼び出されただけなんだってば。



 眼下に広がるのは鬱蒼とした深い石木森(せきぼくりん)。断崖の森のように、緑が生い茂る森とは違い、エルド火山からの火山灰にまみれた『木のようなもの』が生えている。

 ……いや、正しく言えば、木だったものが石化しているのだ。


 火山帯に入った境目から、緑の樹木と灰色の石木が入り交じり、やがてエルド火山の麓を石木が占めている。うん、なんというか、灰色の森なんて不気味の一言に尽きるのな。


 恐らく、すべてはエルド火山のせいなのだろう。天気もお世辞にもいいとは言えない、黒っぽい雲が頭上を占めている。

 雨ならまだしも、雷だったら嫌だなあ、なんて。ごろごろいってるし。


 誰かが戦っている痕跡もなく、至って静かな森。

 もしかして、レスキュー間に合わなかった? それとも、ただのイタズラ?


 せめて、後者であって欲しいものだ。その方がまだ、間に合わなかった事に対する罪悪感に責められずに済むから。



 と、そんな時だった。

 ずん、と、何かとてつもなく重たいものが地面に落ちたような音が、何処からともなく聞こえてきた。直後に、前方の石木森がどおん! という轟音を立てて灰塵を立てた。


「うわっ?!」


 もうもうと、立ち込めるのは灰やら煙やら。ずん……、ずん……と、どこからともなく地面が沈みこんでいるような音がする度に、煙が上がる。


 え、え? あれマジで何? 段々とこちらに来ているような、そんな気がしてならなくて、不安が過る。

 あの音に近づかない方がいいかもしれない。エンマでさえも、何処か怯えているようだった。


「兄ちゃん、ちょっと離れた方がいいかも」


 ラズにもそんな事を言われて、俺らの総意は決まった。ならば、さっさと離れるが吉、だ。


「あ、ああ。エン――――」

「兄ちゃん!!」


 そう思って、引き返させようとした時。何かに気がついたらしいラズが、俺を背に庇っていた。

 同時に、何処から沸いてきたのか、金髪の――――女性? を背負う男がエンマの背中に現れた。


「ええ、あの……」


 どう、声をかけたものかと迷っていたら、焦っているらしい表情と視線が会う。


「運送屋だな?!」

「え、あ、は――――」

「直ぐにここから離れてくれ!」

「え? いや、どちらに?」

「何処でもいいから! 早く出せ! 殺されるぞ!」



 どういうことか? なんて、考えている余裕なんてなかった。

 既にエンマは、元来た方へと引き返していた。もちろん、矢のごとく飛んできた時とは違い、多少は速度を落としてくれている。


 けど、こんなに宛もなく出てよかったのか? ――――なんて、俺の迷いを打ち消すかのように、ぽたりとその頬を伝って何かが落ちた。真っ赤なそれは、多分、彼の物ではないのだろう。


 いや、血だけじゃない。肉が焼けているような匂い。その肩から力なく下がっている腕は、焼け(ただ)れて酷い有り様だ。あんなに広範囲、そして骨まで達していそうな爛れ。皮膚移植なんかではとても間にあわないような重度の火傷だった。


 うわ……、応急道具なんて役に立つ訳がねぇわ。だなんて、場違いにも考えてしまう。

 気休めにしかならなさそうだが、ハチミツくらいなら確か蓄えがあるけど……果たして、意味があるかどうか……。


 そして、もうひとつ。


「兄ちゃん! あれ……!」


 この二人が、何に追われていたのか、ようやく理解させられた。


「ウソだろ……!」


 石木の合間に(うごめ)くのは、地表を流れる灼熱の熔岩を思わせるような、赤黒い身体。()()()に身体の中枢なんてものがあるのかどうかは知らねぇが、どろどろの物体に、しっかりと『見られている』事だけは解った。


 タイタン。巨人ティタン。


 ギリシャ神話でお馴染みのこいつだが、ここのタイタンは少し勝手が違う。話では、その内のたった一部がタイタンの本体。あとは、冷めることのない熔岩を身に纏っているとかなんとか。

 巨人であることに違いはないが、その身体は煮えたぎるマグマだ。故に、マグマが有る限り、その身体は巨大に膨らむ。


 今の姿が正にそうだ。スピードで逃げようとしている俺らに、あいつは自分の身体を一息に膨らませて追いつこうとしていた。

 ……想像つきにくかったら、もののけなお姫様の映画に出てくるデイダラボッチ(デイダラ、もしくはダイダラ。日本に昔から伝わる巨人伝説の主人公だな。)を思い浮かべてくれればいい。正に、首を求めてさまよっているようにも見える。


 兎に角、バケモノの中のバケモノで有ることには違いない。普段は火山にいるっつーのに、よりにもよってこんな所で遭遇するとは!

 …………まさかと思うが、このヒト達が喧嘩吹っ掛けた、訳じゃない、よな?

 いやいや、うん。考えないようにしよう。



 ズルズルと、その燃えたぎる身体を触手のように伸ばしてくる姿に、耳の奥で解りやすく血の気が引いたのが聞こえた。気がつけば、肌をちりちりと焼くほど熱いのに、震えるほど寒い。


「エンマ! 右旋回、上昇しろ! 急げ!」



 背後を取ろうとしていた熔岩の触手をまんまとかわし、早々に上昇、離脱する。離れた事で温度も下がり、心底ほっと息をついた。


 そんな、俺らの後ろで。


「クソっ! テイム為損なった上にリューンに大怪我させてしまうなんて!!」


 だん、と、エンマの背中に下ろしたお姉さんの隣で膝をつき、悔しさを表すように足元を叩く茶髪のお兄さん。……えーと、一応そこ、地面じゃなくてエンマだから、やめたげて。ぶたないで。

 ……なんて、雰囲気ぶち壊してまで言えないけどさ。



「グロウ……様、申し訳ありませ……」

「喋るな! 直ぐに帰ろう、そしたら治してやれるから! それまで耐えられるな?」


 こくり、頷く姿は弱々しい。うん、かなりヤバそうだな。


「あの、お客さま……」

「ん、ああ。巻き込んでしまってすまない。グロウと、連れのリューンだ」

「ディオです。こっちは弟のラズです」

「よろしく。早速で済まない。この山の丁度反対側までお願い出来るだろうか。その後右手に行った先に、廃村があるから。その辺りまで一先ず頼む」

「あ、はい」


 お姉さんを椅子に横たえさせてやり、落ちないようにベルトを身体に回して固定する。今出来るのは、少しでも早く要望の場所に連れていってやることだ。火傷にハチミツ……なんて、バカなことやってる余裕もない。



 重傷者を固定した隣に、グロウさんにもベルトをしてもらう。俺もラズと共に定位置に座ると同時に移動速度を上げてもらった。とても、『お客様』を乗せて飛ぶ速度ではないが、今はそんな事も言っていられなくて兎に角急いだ。

 痛そうに(うめ)かれた時は、流石に腰が引けたってのは内緒だ。


 体力回復の魔術、なんてものが使えれば良かったのだが、生憎専門外なんだよなぁ。じゃあお前何が出来るんだよ、なんて辛辣な言葉はいらない。


 幸い、グロウさんにはその辺の心得があるみたいで。ずっと、リューンさんに手当てを施している。ぼんやりと青く光る手元は、恐らく水属性の魔術を使っているのだろう。



 山脈を越えて、右に反れていく。この前王都に向かった時は気にも止めていなかった側だ。


 右手に逸れて行った方に廃村があるなんて、グロウさんは言っていたけど……。俺の知る限り、この辺りに廃村なんてあっただろうか?

 さっきから見えてくるのは、足元に広がる荒野と前方のエルド火山、そして密林ばかりだ。やはりこちらの森も、火山により近いところで石木(せきぼく)化しているようで、緑と灰色のモザイク柄を作り出している。



 うしろでまた、苦しそうな声が呻く。…………何があったのか、本当に聞きたい。

 けど、言うなれば俺は外野だからなあ。聞いたところでおいそれと答えちゃくれないだろうなあ、なんて。


「兄ちゃん、あれじゃない?」


 本日も俺の隣に座るラズは、俺が風に飛ばされないようにしがみついてくれながら、前方を指示した。

 うんまあ、いいんだけどな? いつかちゃんと、指定している場所でお仕事全うしてくれるって、俺、信じているからな?



 指し示したのは灰色に染まっていない密林の程近くだった。荒野に真ん中にぽつりと現れた瓦礫の山に、あれがそうなのか? なんて首を傾げる。


 多分、家の基礎だったのだろう。縦穴式住居のように、地面を軽く堀込んでかつては建物が建っていたようだ。残された瓦礫から察するに、石と荒れ地の乾燥したイネ科らしき植物、それらを混ぜ合わせて作った日干しレンガの家だったように見える。

 ……何と言うか、随分原始的な村だと思った。泥土の家屋だなんて、この辺りに雨は少ないのだろうか? ああ、でも、あのイネ科の植物使って茅葺(かやぶ)き屋根に出きれば何も問題はなさそうだ。


 この際だからはっきり言っておこう。とてもじゃないが、ヒトが生活できる環境じゃなさそうなのだが……。


「グロウさん、こんな所に住んでいるんですか?」


 だから、つい。そんな余計な事を聞いてしまった。けど、それには「まさか」 なんて笑ってもらえてほっとする。


「それじゃあ、この村は?」

「知らない。俺が来た時にはもう、すっかりこんな有り様だったよ」


 でも、この近辺に住んでる事に違いはないんだよな? ここに住むメリットが、皆目検討もつかないのだが。


 ただ、俺の悩んでいる姿が可笑しかったのだろう。


「ふはっ、くく……」


 堪えきれなかった苦笑を漏らして、肩を震わせていた。なんか、つい最近似たような感じに笑われた覚えが、ある、ような?


「ああ、いや、悪い悪い! 俺、実はさ、ダンマスなんだわ」

「はい? ダン……マ、ス?」


 ダンマス、ダンマス……。

 ……ああ、あれか。楽団とか楽隊とかの指揮者――――――――って、それはバンマス!


 ………………………………。



 …………こほん、さておき。



 あまり理解が追い付いていない俺の譫言(うわごと)に、グロウさんはあっさりと頷いた。


「そ、ダンジョンマスター」


 あっけらかんと物申されて、俺は言葉を失った。いや、信じられる訳がないだろ?


 グロウさんの言葉を疑って、つい、上から下まで舐めるように見る。外見は……普通にヒューマンのように見える、気がする。背丈は俺と同じくらい。年も……同じか少し、下か。

 だから余計に、信じられなかった。


「…………マジで?」

「マジマジ」


 悪戯っ子のように、くすくすと笑っているグロウさん。

 いや、俺が間抜け面しているせいで笑っているって事くらい、よおーく理解はしているぞ? けど、さ。

 どっからどう見ても、そこらの冒険者よりもちょっとばかしひょろそうなナリしている奴が、まさか魔王に次ぐ世界の脅威って言われても可笑しくない存在だなんて思わねぇだろ、普通。


 いや、まあ既にそのレベルの脅威はいるけどさ、隣に。……隣に。

 大事な事だから二回言った。

 いや、うん。けど取り敢えずこっちの脅威は、今はそんな風になることはないし? そこは気にしなくても大丈夫だろう。


 ああ、もちろん。俺が他人にひょろいなんて言うなとか、偉そうに口()いてんじゃねえとかって言葉は聞こえないぞ? んなもん、いつもの如く、棚の高い(たかぁぁぁい)所に大事にしまっているのだから。



 いや、そんなことはどうでもよくって、だ。ぺこり、頭を下げられたことに、俺は大いに慌てふためいた。


「騙すような事をして申し訳ない。けど、本当に他に頼る術がなかったんだ」

「あ、いや……。こちらに実害さえ出なければ、お引き取り願う理由がないから。ダンマスだからって、断るつもりは微塵もないんだ」


 だから、気にしないで頭を上げて欲しい。そう言えば、へにゃりと笑っていた。それだけ見れば、子供と何ら変わりないように見える。


「ありがとう。そう言ってもらえると助かる。ここに来てからさ、ダンジョンマスターって名乗って、前向きに捉えてくれたヒトはいなかったから……」


 自嘲気味に笑う姿に、痛々しさすら感じてしまう。多少なりとも力になってやりたい。そう思うには十分だった。


「ディオ。すまないが、リューンを俺のダンジョンまでお願いしてもいいかな」

「それはもちろん」


 堂々と、了承してやれば心底嬉しそうに笑っていた。

 いや、うん。だって、怪我人放っておけるほど、俺は無情な人間でもないし? 偽善者ですけど? それがなにか?


 ……けど、ダンジョンマスターかあ。それって結局何する奴なんだろうか? だなんて、間抜けにも首を傾げたのは、彼には内緒だ。


 いや、知ってるよ! 俺前世はゲーム結構やってたから超知ってる!

 あれだろ! ダンジョンマスターが自分の()作って冒険者と侵略・攻防ゲームする奴だろ! いいなー、砦! 俺も持ってたんだけどなあ……。


 え? 違う?

 いやいやいやいや。細かいことは気にすんな!

 

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