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飛竜と義弟の放浪記 -Kicked out of the House-  作者: ひつじ雲/草伽
三章 ドラゴンタクシーの日常
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ディオ子とラズ美.7

 

 鼻唄混じりに連れられた先。


「お嬢さん、ちょっとドアノブ捻ってくれる?」


 言われて、素直に応じるしかない自分が情けない。

 内開きのそれはドアノブさえ開けてしまえば、あとはエルフ野郎が足で押し開けていた。おいこら、行儀悪いぞ。

 そして足で閉める。躾がなってない。いや、まあ、その原因が俺にあるのは理解しているが。横抱きされてるし。



 その部屋は、一見すると書斎や執務室のような部屋だった。

 正面にはでんっと、親父殿の書斎の机よりも大げさなくらい大きくて立派な机が置かれている。そしてその前には、恐らく来客用なのだろうが、正面の机と比べてしまうとどこか小ぢんまりと見えるソファとローテーブルが置かれていた。

 ……部屋の主は自分の事が大好きなタイプだと見た。偏見だけどな。


 両端を本棚に囲われ、右の手前に隣室へと続く扉がある。そこから、何か話し声が聞こえてきた。

 話し声……というよりも、言い合い? みたいに聞こえなくもない。ただ、くぐもっているせいで中身は聞き取れない。


 大きく開けられた窓からは光が入り、それほど暗さは感じられない。恐らく、重要な資料なんてものは置いていないのだろう。そうでなければ、こんなに部屋を明るくする筈がない。本が痛む。


 天井までぎちっと中身の詰まった本棚に、圧迫感を感じずには要られない。こんな中で執務を行うなんて、少々息が詰まりそうだ。……いや、執務はしてないだろうな。多分、見栄の為の部屋だ。



 隣の部屋に行くのかと思いきや、エルフ野郎は机の裏へと回り込んだ。なんでわざわざ? なんて疑問に思っていたら、本棚の影に隠すようにして、扉があった。


 すーげー。隠し通路とか忍者屋敷みたい。ちょっと、不謹慎ながらもテンションが上がる。

 いやいや、今俺人質だからな? (わきま)えろ?


 なんでこんなのがあるんだって疑問に感じたが、よくよく考えたら街の外まで続く通路もあるんだ。案外、城塞都市としての機能が多くあるのかもしれない。



 間抜けにもワクワクしていたら、エルフ野郎は俺を抱きかかえたまま内開きのその中にあっさりと入っていった。

 薄暗い。そして、もし自分の足で立っていたら、先に続く緩やかな階段に転げ落ちていそうだ。こんな時ばかり、抱えられていて良かったなんて、虫がいいにも程があるか?


「静かにしていてよね、お嬢さん。でないと、階段から突き落とすよ」


 顔は見えないが、耳元で言われてこくこくと頷くことしか出来なかった。どこまで下があるのかは解らないが、流石に痛そうだから勘弁して欲しい。死ぬならさっくり、痛みを感じる前に死にたい。……じゃなくて!


 素直に黙ることを受け入れたら、驚いたことに、先程聞き取れなかった隣の会話が何処からともなく聞こえてきた。



「布施という名目で富を吸い上げ、貴族に媚びる! 貴殿方には、本当に困っているヒトの声というのは、届いていないようですね!」



 おっ、と? この声……。

 まさかと思って俺を抱える奴の顔をちらりと伺えば、なんともイタズラが成功した子供のように得意気に笑う姿があった。


「いいでしょう? 特等席。でもこちらの声も向こうに聞こえるから、喋るなら静かにしてよね」


 全てを知っている風なこいつの得体が知れなくて、つい、一歩身を引いてしまう。だからと言って、抱えられている分以上には離れられない訳だか。


「……あんたは一体、何なんだ?」

「何って? 僕はセレネ。一介の暗殺者に過ぎないよ」


 嘘つけ。とは、言えなかった。言えば、くすくすと笑うその姿が、ますます正体を隠しそうな気がしたから。



 不意に、どごん! と、爆発音に似た音が、壁を打って響いて来た。その振動で、パラパラと砂ぼこりが降り注ぐ。そちらの方に気を傾ければ、ソアラさんの苛立った声と、対抗するような男の声が聞こえてきた。

 どおん……ずしん、と、何をしたらそんな音が立つのか、物凄く気になる。


 そんなサウンドも、俺は聞いていられないようだ。エルフ野郎が支えていた扉を閉めるのと同時に、先の扉が開かれた音があった。多分、シャラさんたちが来たのだろう。戸惑った声が聞こえてくる。

 ここにいるよ! ……とは、現状とてもじゃないが言えない。


「さ、行こっか」


 勿論こいつも俺が観念しているのは解っているのだろう。降りるよ、と促してくるが、扉が閉められたせいで真っ暗闇になったそこで戸惑う。

 こんな暗闇の中で、俺を抱えたまま階段を下りるとか、こいつ正気か? 俺なら一度は絶対に()ける自信があるぞ。

 って、言うか、俺は何処に連れていかれるって言うんだ?


 頭上では、

「ソアラさん、ご無事だったのですね!」

「ええ、お陰様で」

「それは何より。それよりもこちらに、ディーナさんは来ませんでした?」

「いいえ、私たちとこいつ以外、誰も」

「そんな筈は……!」

 なーんて会話が繰り広げられている。



 えーと、俺、巫女様側についた元暗殺者(ミラさん)ギルド受付嬢(シャラさん)をここにおびき寄せる為のエサ、だったよな?

 それで、既に大本命であるソアラさんとパズクさんは裏道通って、今回の黒幕締め上げていて。んで、こいつはその黒幕に暗殺依頼を受けていた。


 だと、言うのに? なんで俺、未だにこいつに人質よろしく連れ回されているんだ?



「あまり、きょろきょろして動かないでくれる? バランス崩して痛い目みるのはお嬢さんだよ?」


 俺の疑問、絶対気が付いている筈なんだ。なのに、あっさり脅してくれる。


「一体どこに連れていくつもりな訳? 暗殺が失敗したからって、私は巫女様の代わりにはならないぞ」


 つい、語尾を荒げてしまえば、すぐに解るよ、だなんてはぐらかしてくれる。ふざけやがって。


 緩やかな階段を下った先。突き当たったそこを、こいつは背中で体重をかけると押し開けた。途端、薄暗闇に慣れた目が、また怯む。

 目が慣れてきた頃、俺はようやくそいつの腕から下ろされた。意外にも、丁寧に下ろされた事に驚きを隠せない。



 あの隠し通路を出た先は、小さな祈祷場のようだった。祭壇にあげられた、蝋燭の火がゆらゆらと揺れている。人がいた形跡はあるのに、誰も居ないことに、不自然さを感じてならない。


「こっちだよ」


 手招かれるままついていく。なんで俺、素直に追っているかな。……と、いう事に関してあまり考えないようにする。

 いやもう、どうにでもなれだなんて、自棄っぱちをおこしている訳ではないぞ?


 出た先は恐らく地上一階。さっきエルフ野郎がシャラさん達と大乱闘していた渡り廊下が向こうに見えるから、間違いないだろう。

 中庭をぐるりと取り囲む回廊かと、そう納得する。さんさんと光の降り注ぐ中庭が、明るい。


 外に出て気がついた異変。中庭にいた信者や教会関係者が、はたまた教会の外からも、そのざわめきが届いてきた。


 「なんだ、あいつ」 「教会を襲っているのか?!」


 なんて、ざわめきが。



 それらの声に釣られるようにして、見上げた視線達の先を辿り、思わず絶句してしまっていた。その(・・)姿があったのは、この教会で一番高い登楼だった。


 ああ、やばい。これ俺のクライマックスだわ。

 …………なんて、間抜けにも瞬時に悟ってしまった。



 諦めて、状況を説明させてもらおう。

 登楼に降り立っていたのは、エンマの姿。降り立つというより、登楼を鷲掴んでいるというか? 恐竜映画のワンシーンみたいだな、こりゃ。おーおー、確かに、教会を襲っているようにしか見えない。

 ……笑えねー。



 さて、皆さん。突然だけど『キン○コング』の映画はご存じだろうか?

 そーそ。世界貿易センタービルにでっかいゴリラが登っているシーンで有名なやつな。

 一瞬、本気でそれかと思った。あれって、ラブロマンスなんだってな。


 いやいや、そんな事はどうでもよくって、だ。


 あ、でも今登楼に登っているのは一応竜だから、ネズミの国の映画でお馴染みの『魔法にかけ○れて』のクライマックスの方が近いかもしれない。


 主人公のお姫様と悪い竜が戦う、まさに、あのシーン。さしずめ俺が、ヒロインの『王子』なのか?


 ……うーわ。


 自分で言っておいてなんだけど、もー、やだわあ。どうやったらヒロインポジション捨てられるんだ?


 なーんて逃避をしていたら。空に向かって、エンマがブレスを吐いた。あまりの風圧にごうっ、と空が唸り、雲が逃げ出す。

 ちょっと、エンマさん。俺、お前の本気のドラゴンブレス、初めて見たんですけど。俺らの姉御の戦闘力、マジで計り知れないっす。


 …………あれ、俺らの中の力関係酷くないか? あれえ? 涙がちょちょ切れる。

 解りやすく言うならば、『ラズ(ラズ)大なり()越えられない壁(越えられない壁)大なり()エンマ(エンマ)大なり()越えられない壁(越えられない壁)大なり()越えられない壁(越えられない壁)大なり(>>>>>)()』。みたいな。


 うん、考えないようにしよう。平常心、平常心を保つんだ、俺。この視界をぼやかす液体は……そうだ、(よだれ)だ! 目から涎! コーフンしてんだ!

 ……こほん。さておき。



 そしてエンマの首もとにて眼下を見下ろすのは、コーラルリーフのワンピースの裾を風になびかせている麗しの少女――――我が義弟。

 いや、もう今にも無差別殺人犯しそうなくらいに殺気をバラ蒔いてくれちゃってます。肌が、訳もなく粟立った。


 やばい! やばいって!

 あれ? これってどっちかって言うと、巨神へ――――げふんけふん! いや、うん。この期に及んでまだ俺、煩悩にまみれているらしい。


 焼き払え! 薙ぎ払え! どうしたバケモノ。って、言ってほしい。

 ……なんて事はないぞ! うん。でもこの現状、どうしたらいいのかさっぱり解らんぞ。



 内心、どうでもいいことに荒れ放題になりながら見上げていたら。


「ねーね、お嬢さんさ」


 ひょっこり、こちらを覗き込んできた姿にイラッとしながらも、無視することも出来なくて、「……何」 と訊ねてやった。


「お嬢さんはあの子達、止めること出来るの?」


 突然ぶつけられた無理難題。ひくりと、頬がつった笑いをしてしまったのは仕方がない。


「止めろ、と?」

「うん」


 いや、うん。確かにあいつらを穏便に止めるのは、現状俺にしか出来ない事だと思う。力でねじ伏せればそりゃ大人しくもなるだろうが、損害はバカにならないことは明白だ。



「……まあ、ちゃんと何事もなかったと、身の安全が証明された上で面と向かって話せれば、……恐らく止められると思うけど。多分、きっと」

「ま、それくらいならいっかな。これ以上、下手に街壊されても困るしー?」


 へらりと笑うその表情を、まじまじと見返した俺は悪くない。

 こいつ、何を言っちゃってんの? そもそもお前が俺をエサに使わなければ、こんなことにはならなかったんですけど。


「お嬢さんにはさ、ぱぱっとあの子達を止めて欲しいんだよねぇ」

「……あんたがそれ、言っちゃう訳?」

「ぷっ……は! あははははは!」


 俺は、あくまで真剣に聞いたと言うのに、何故か大爆笑された。悪びれもなく、目元の涙まで拭いやがる。


「……うん。だってそもそも僕は、光と豊穣の巫女がどうにかなれば、それでいいもの」


 うーわー。何それ。とんでもないやつに目をつけられた。なんて咄嗟にそんなことが脳裏を過る。



「取り敢えず、どーせ始末書ものだし、あの子達のところに君を届ければいいよね?」


 とんとんと、踵を鳴らして伸びをしている姿に、嫌な予感しかしないのだが。『届ければ』 が、『生け贄に差し出せば』 にしか、聞こえなかった。


「どうやって差し出すのがいいかなあ」


 ふぅむと顎に手を当て、考える風を装うエルフ。それだけならば凄く絵になっただろうが、こいつのやろうとしている事が最低すぎて、言葉にできない。

 らーらーらー。ららーらら。


 あえて言葉にするなら、非道。無情。情け無用。初めて冒険に出た直後にラスボスとエンカウントしたような、絶望。



 ……うん。さて、腹(くく)ろうか。


「はーあ……おい、くそ野郎」

「僕はセレネだってば」


 隣に立つ姿をキッと睨み上げ詰め寄れば、呑気な返答に呆れるしかない。


「何でもいい。あの登楼の次に高い場所! そこに行く道を教えろ」

「え? ああ、うんまあ、やる気になって貰えたみたいで何よりだよ」

「てめえ、ツケにしとくからな!」


 きっぱりとそう宣言してやれば、きょとんとして見返された。それもまた一時で、吹き出して笑われる。すっごい腹立つ。


「うん、解った。ラハトにツケといて。お城当てにしとけば多分、解るからさ」

「ああ、必ずこの責任、取らせるからな」


 絶対搾り取ってやる、絶対ぼったくってやる。

 この責任をどうとらせよう? そもそも何で俺がこんな目に合って、何が楽しくてバーサク状態のこの世の脅威に立ち向かわないといけないわけ?

 ああ、もう! やってらんね!


「それで、何処だって?」


 イライラを誤魔化すように訪ねてやれば、真っ直ぐに廊下の先を指差した。


「うん。この廊下の突き当たりの扉を入ると、ここの建物から出られるよ。そこの先にあるのが、この教会にたった一つある尖塔。施錠はされてないから、後は螺旋階段登っていけば大丈夫。そこなら、聖堂の屋根に登るよりも登楼に近くて、それなりの高さがあるから、あの子達にも声、届くと思うんだ」

「あ、そ。礼は言わないからな」

「うん、構わないよ」


 突き放すようにそう告げてやれば、あっさりと頷く姿があった。俺がどんなに罵ったとしても、こいつ多分、笑っているんじゃないだろうか?

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 本来ならば手を貸せボケナスって、言ってやったところなのだが、今回ばかりはそうもいかない。こいつが隣にいたら、余計に逆上させてしまうだろうな。


 急がないと、エンマが威嚇射撃を街に向けてしまうかもしれない。もう、身体が痛いだの何だの言ってる場合じゃなくて、俺は走り出した。



「じゃあ、またね。お兄さん?」



 追ってかかった背後の声に耳を傾ける余裕もなくて、振り返るような事はしなかった。

 

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