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飛竜と義弟の放浪記 -Kicked out of the House-  作者: ひつじ雲/草伽
二章 開業、ドラゴンタクシー
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《閑話》 俺だって、飲みたい ―ポホルジュースな夜―

 

 その酒場は、大通りから一本入った場所にある。

 人目を避けて、喧騒を避けて。冒険者達が祝い酒を酌み交わす、賑やかな酒場とは打って変わって、ムーディーな雰囲気漂うそこに、人の姿はない。


「俺、時々思うんだ」


 カウンターで一人。甘いポホルの香り立つグラスを回しながら、つい、うわ言のようにそんな事を呟いていた。


「どうしたんだ、ディオ」


 このバーのマスター、イクスカーロン。単にお仕事として聞いてくれているのだとしても、今の俺には十分過ぎるくらいに嬉しい。


「俺って、さ。実は脇役なんじゃないかなって……」

「またえらく唐突じゃねえか」


 何言ってんだよと、一辺倒にする訳でもなく。話してみなと諭されて、つい勢いのままに話してしまう。


「いや、さ。最近、義弟が出来たんだけどさ」

「なんだ、お前ついに子供に手を出したか」


 飲みかけたところで危うく吹き出しそうになった俺は、悪くないと思う。


「だから、違うっつの! なんでどいつもこいつもそうなるんだよ」


 だん、と。グラスを叩きつけるように置くと、まあまあと宥められた。


「ははは、悪かった悪かった。この前レバンデュランがそんな事を言っていたからな」

「くそっ、あのジジイまた余計な事ばっか吹聴しやがって……」

「でも、その責任取るために仕事ひねり出して頑張ってるって、誉めていたぞ?」

「誉めてねーよ、それ! 面白がって(おとしい)れてるだけだろ!」


 語尾を荒げると、まあまあと(なだ)められる。

 もう一杯、侘びで(おご)ると言われて、つい頷いてしまった自分が情けない。勿論、上手いこと丸め込まれたのは、気のせいではない。


「それで? 弟が出来たことと、お前が脇役どうこうって、一体どう絡んでくるんだ?」


 改めて聞かれて、苦虫を噛み潰した思いだった。

 それをわざわざ、俺の口から言わないとなのか、と。


「俺は……知っての通り、自分の身一つ守れない………………だろ?」

「ん? 何だって?」


 聞き返されて、血の涙を流す。こんなこと、本当にそうだと認めるみたいで凄く、嫌だ。


「っ……だからあー、俺は軟弱だって、言ってんだろ!」

「ああ! まあ、そうだな」

「げふっ……」


 最初っから普通に言えよ、と。飽きれた様に言われたその言葉が、ストレートジャブとなって、俺の心を打ち砕きにかかってくる。

 なんだ、こりゃ。カウンターの威力は効果が二倍、ってか? 物理じゃないからミラーコート?


 既にメンタルポイント瀕死だっていうのに、自分で自分の残り少ない気力を削らないといけないと思うと、心が苦しい。心が痛い。



「何を今さら言っているんだ。それは、周知の事だろう?」

「イクスカーロン。頼むからせめて、フォローをしてくれ」


 なんてフォローを求めてしてくれる程、()()()が優しくないことを、失念していた。


「今さらお前を甘やかせって? おいおい、()()ディオ坊か? お前はもう、砂糖に蜂蜜は卒業したと思っていたけどな?」

「うっせーな。弟がヒーロー張りに強くて頼りになっちゃう系じゃなかったら、こんな事わざわざ言わないっつーの!」

「ああ、そういえば腕が立つそうじゃないか。良かったじゃねぇかヒロイン。素敵な年下王子様に守ってもらいな」

「ざっけんじゃねー! 俺は、守られて喜ぶタイプじゃねえっつの!」

「またやけに荒れてるなあ。今日そのヒーローと、何かあったのか?」


 図星をつかれて、つい、黙る。


「…………何も」


 そっぽを向いてそう言えば、にやにやとイクスカーロンが笑っているのが解った。


「へーえ? 本当かよ」

「何も、なかった」



 ああ、何もなかったさ。


 例え、エンマの背中から縄梯子を使わずに降りようとした拍子に、足を滑らせて落っこちていたとしても。

 それを、下に居たラズに『横抱き』で助けられたとしても!


 ディオ兄ちゃんって、結構軽いんだね、なんて、悪気もなく言われたとしても!!


 何も、無かった!!


 それが悔しくて筋トレをいつもより増やしたっていうのに、今までずっと続けている成果を何も感じられなかったのだとしても!


 イクスカーロンに話すような情けない話は、何も、持ち合わせていない!


 けど。何も言わずして、気の毒なものでも見るような目を向けられた。


「ディオ。世の中にはな、向き不向きってものがあってだな……」

「また今更過ぎるご高説なんていらねーし」

「じゃあ、世の中諦めが肝心だ。諦めて、ヒーローに守られていな」

「いきなり手のひら返さないでくれよ! 傷つくだろ!」

「フォローしても怒り、(さと)しても怒られる。なら、一体どうしろと?」

「あーああー! どうせならこんなとこ、来るんじゃ無かったわ! シケた客入りの店内のせいで陰気が移っちまう」

「…………ディオ坊、お前、ポホルジュースに酔ったな……?」

「はあ? 酔うわけねーだろ、こんなジュースごとき!」

「普段思ってても言わないこと、全部出てるぞ」

「きのせいですー。んなわけなない#*¥★――――……」

「はあ……どうやったら酔えるのかね? 酒は一切入ってないのだが……。ほーら、ディオ坊。宿に連絡入れてやるからな」

「いらにぇ、つう~のー!」

「解った解った。――――ああ、宿屋《黄色の(まむし)》か? イクスカーロンだけど。――ああ、ディオ坊が泊まっているだろう? その連れに伝えてくれ。おまえの兄貴が酔い潰れたから、カッコよく迎えに来てやれって。――――ああ、場所はだな…………」

 

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