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飛竜と義弟の放浪記 -Kicked out of the House-  作者: ひつじ雲/草伽
六章 帰省の決意は唐突に
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ありふれた日常の為に、恐怖の大魔王と対峙する .1

 

 俺の街のある、ここレーセテイブの風を感じるのは一体いつぶりの事だろうか。青さを含んだ柔らかい風は、全く変わっていなくて心地よい。

 それほどここを出ていた訳でもないのに、また随分と懐かしいと感じてしまうから不思議だ。


 もしかして、それほどまでにここの所の毎日が濃かった、という事だろうか。……まあ、濃い事は確かだ。思えば随分と遠くまで行ったものだから。


 エンマの翼で約一日。それが帝都から、ここレーセテイブ島の外れにある、俺の地元とも言える街までかかった時間だ。やはり、過去最高の遠さだと思う。



 竜騎士団の所で厄介になって三日、たっぷりと休ませて貰ったお陰で気力は(みなぎ)っている。帝都(向こう)を出る時に、レイトとサミュエルさんにだけ街を出る旨を伝えたら、またいつでも会いに来てくれって言われたのは、何だか嬉しかった。

 王子様達から逃げただろうって?

 逃げたけど、何か? もう正式に解放されたんだから、あれ以上付き合ってやるつもりも、義理もないさ。



 今朝がたジジイのギルドに顔を出したら、シャラさんの素敵スマイルに「お元気そうで安心しましたよ」 って出迎えられて、涙が出そうになった。迎えてくれるヒトがいるって、こんなに嬉しいものなんだな。

 余談ついでに、「ミヅキさんに会いませんでしたか?」 って聞かれたのは、よく解らなかったけどな。首を振ったら、シャラさんにすごく不思議そうにされたのは意外だった。

 え、もしかして深月君、あっちの大陸にいたのか?

 ……ま、いっか。冒険者って西に東に大変なんだなぁ。



 それはさておき。本日の最大のイベントについて、そろそろ状況を把握しよう。


 遥か下方にある地上から、ざわめきが聞こえてくる。何事かって、誰もが思ったような動揺の声だ。

 恐らくこれで、()()()の人物がすぐに表れてくれるんじゃないだろうかって目論見だ。


「兄ちゃん、ホントに行くんだよね」


 エンマの背中から眼下を見れば、随分前には毎日見ていた顔のいくつかが、驚きの表情でこちらを見上げていた。……知らない顔がまた随分と増えているけれども、みんな元気そうで何だかホッとする。

 ここは全然変わっていない。懐かしささえ感じるから、隣で嫌そうにしているラズには申し訳ないけど、やっぱり何だかんだ言って実家なんだなあって思える。


「ああ。やっぱ、ケリはつけないと、だろ?」

「そう、だけど……」


 歯切れが悪いのは、ウチにいい思い出がないせいだろう。思わず苦笑してしまいながらその頭をぐしゃぐしゃと撫でてやったら、唇を尖らせた姿が抱きついてきた。


「大丈夫、だよね」


 不安に思うのも、仕方がない。


「ああ。俺にはラズもエンマもついてくれているからな。頼りにしてる」

「……うん」


 励ます様に背中を軽く叩いてやると、ラズも腹を括ってくれたみたいだった。真っ直ぐにこちらを見てくれる姿は、精神的にも本当に頼りになる。



 ざっと改めて見回すと、知った顔がこちらの動きを待っていた。ならば話は早い。

 散るようにと手で示してやれば、従う必要も本来ないのに意を汲んでくれて、物珍しさに集まろうとした姿を散らしにかかってくれていた。

 ……まあ、ここから先は触らぬ神に祟りなし。知らぬ存ぜぬを貫いてくれた方が俺としても、そして皆にしても、都合がいいのは言うまでもない。



 降り立ったのは石畳の引かれた、中庭だ。誰かさんに追い詰められた記憶に身震いしてしまうけど、それも仕方がない事だ。

 流石に自分の都合で、奴隷たちが毎日せっせと耕している畑に降り立つ無神経は、持ち合わせていないからな。ここが妥当だった。


 警戒したように首を伸ばすエンマを宥めるように撫でてやりながら、その手を借りて背中から降りる。

 近づいて来ようとする奴は、片っ端から手で制して引っ込めさせた。関わらせたら、ろくな事にならないのは解りきった事だからな。

 遠巻きにこちらを伺う外野は仕方がない。精々あいつが見咎めない事を祈っておこう。


「それにしても、よっと……。変わらないな、ここは」


 一歩二歩と中庭の石畳を踏みしめてぐるりと見回せば、記憶と寸分違わない景色が広がっていた。


 真っ先に目に留まるのは、いつもレースのカーテンがかけられたままの本館の窓の数々だ。今日ももしかしたら、早速親父殿がこちらに気が付いているんじゃないか、なんて期待してしまっている。

 ……残念ながら、流石にまだこちらを伺っている、鷹の目はない。まあまあ。いいさ。すぐに会える。



 広場を抜けた先では今も薪が割られているようで、こんもりと薪が山を作っていた。ラズがあれだけ割りまくってくれた薪だけど、もうとっくの昔に使いきっているんだろうなあ……。

 一体何人が悲鳴を噛み殺しながら、一か月は使えるんじゃないだろうかって量の薪を割らされたのか、考えるのも恐ろしい。使い潰すような事はしないだろうけど、確実に何人かは数日動けなかったんじゃないだろうか。


 別館は相変わらず賑やかなものだ。

 ……この時間なら、畑に出てない奴は針子仕事か訓練でもしている頃か。手を動かしながらお喋りしているようなざわめきと、打ち合う音が何処からともなく聞こえてくる。


 今厨房に立っているのは誰なんだろう。俺がいた時みたいに焼きたてのパンの匂いが香って来るから、一瞬懐古に錯覚しそうだった。


 最も、ガキの頃からこの年になるまでずっと暮らしていた、今となっては俺のたった一つの『実家』だ。どんな形であれ、懐かしく思ってしまうのは仕方あるまい?

 ここでエンマの鎖を引いて歩いていたあの日も、もう随分と昔の事の様だ。



 ――――そして。


 騒ぎを真っ先に聞きつけてやって来るだろうと、当たりを付けていた姿を建物に見つけて、思わずほくそ笑む。こちらを見つけたオールバック姿の糸目が、驚いてうっすらと糸目を開けて見返してくれたから、俺としてはそれだけで大層満足だ。



「……まさか、君がそんな風に現れる日が来るとはね。思ってもみなかったよ? ディオ」

「よお、カミュ。久しぶり」


 第一声がそれ。ついつい、くすっと笑ってしまった。まあ、皆にも驚いてもらわなければ意味はないから、この状況は正直楽しい。


「俺さ、親父殿に会いたいんだよね。アポなしで悪いけど、今日は暇な筈だよな? 面通ししてくれよ」


 遠巻きに伺う周りが、驚きにざわめいたのは言うまでもない。俺自身、なかなか強気に出た申し出だと言う自覚はあるくらいだ。

 当然、言われた方の機嫌が降下したのも理解している。


「……ねえ? まさか君、それ、本気で言っていないよね?」

「本気に決まっているさ。冗談に聞こえたって言うなら、お前、ちょっと会わない内に判断力鈍ったんじゃねえの?」


 奴隷商会ラングスタ。俺がまさか、この店の庭の土を再び踏む日がくるなんて、つい先日までは夢にも思っていなかった。


 ……だって、ここに来るには何よりも気力が要る。

 気力だけじゃない。根性とか、折れない心とか、鋼の精神とか。この世を滅ぼそうとしている魔王に立ち向かう勇者が、沢山の仲間たちに支えられながらも、最後の最後までラスボスに立ち向かっていくようなシーンにこそふさわしい言葉が、『俺のウチ』に対して必要って、一体どういうことなのか。


 でも本当に、俺にはそれくらいの心持ちが必要だったのは、確かだ。金が揃ったくらいでは来ようと思わなかった。そうでなければ、厚顔にこんなこと言えない。

 理由は主に、目の前のこいつ。


「へえ……言うね?」


 そして、その一言がカミュ(こいつ)に完全に火をつけた自覚ある。その証拠に、こいつの周りだけ空気が凍りついたように、ピシッと小さな音がした気がした。

 ……いや、気のせいではない。一番近くの窓ガラスには、まるでそこだけ霜が降りたみたいに、白く雪の結晶が張り付いていた。うわあ、怖い、怖い! 怖くないって言えば嘘になる。


 相手は何よりカミュだ。どう頑張っても、俺の能力だけでは勝てない相手だ。そいつを煽りつけた上でどうこうしようっていうんだ。恐ろしいに決まっている。

 でも、こんなところで引け腰になってもいられない。



 その冷ややかな気配に物怖じしたのは、言うまでもなく奴隷の皆だ。おろおろと後退り、気がつけば、元々遠巻きにされていたところから、更に広場から俺ら以外が捌けてしまっていた。

 当のカミュは、目の前の獲物を狩る為に、じっくり様子を見ている。そんな感じ。


 様子見からいつ、本狩猟に移るか。既に秒読みは開始されているだろう。


「じゃあ、お言葉を返させていただくけど、君の事はぜーんぶ俺に一任されているんだよ? この前は不意を突かれて逃がしちゃったけど~、追っかけたくても俺にはここの()()があるし? ()()が目の前に戻って来た今、逃がすはずないよね?」


 ……うん、人の事完全に『獲物』って言いやがった。否定はしないけど、肯定もしたくない。ならば、すっとぼけるしかないだろう?


「獲物? 何のことかよく解らないな。確か()については、お前から逃げ切った時点で、口約束は破棄されているんじゃなかったか? 違うか?」

「チッ…………それもそうだったねえ」


 あからさまな不快そうな顔をしてくれる。いつもしてやられていた身としては、ささやかながらもやり返せた事を嬉しく思う。



 ――――でも、おふざけもここまでだ。


「で、その子たちは? その()()を連れて来たって事は、ここに戻って来るつもりなんだ?」

「まさか。戻るつもりなんてある訳がないだろ」


 きっぱりと告げてやれば、今度こそ琥珀の瞳にじとりと睨まれた。絶対負けない。それに、こいつに反論なんてさせやしない。


「俺は、お前から逃げた時点でチャラになってんだろ。だから、ラズとエンマの市場価格を計算した上で、清算しに来た。親父殿に面通ししてくれ。ちゃんと商談として、金を持って来たんだ」


 これは、店を追い出されたあの日から、ずっと考えていたことだ。


 ずっと、心の片隅に引っ掛かって、気になっていたこと。

 それは、子供染みた反抗心みたいなものかもしれない。それはただ、負かされたプライドが、虚勢を張りたがっているだけなのかもしれない。


 それでも。目障りだって、無能だってそれまで言われてきて、何も言い返せなかったあの頃とはもう違う。

 今度こそ見返してやりたいんだ。親父殿を、そして目の前のこいつを。俺にだって出来ることがあるんだって、どうしても証明してやりたかった。



 戦慄した空気は、俺には重すぎる。だからと言って、ここで引くほど俺の決意も弱いものでなくて、ぐっと堪えて見返した。

 前哨戦であるこの気持ちくらいは、ここでちゃんと勝っておきたい。そんな心持ちだった。


 …………でも。


「――――――あ、は!」


 先に()()()()()のは、目の前の糸目の方だった。


「ふ……はは! あははははっは!!」


 驚いたのは無理もなかった。ころころと笑い転げては、腹を抱えて止まない。

 何がそんなに可笑しいんだよって、問い(ただ)すよりも先に、カミュはばしばしと自分の膝を叩いていた。


「ねえ! ねえねえねえ! ディオ、君さあ?! それでぜーんぶチャラに出来るからって、俺がそれで、ルディスに会う事を許すとでも本当に思っている訳?!」

「許すもなにも、商品としての対価を払うって言ってるのに何を――――」

「何を? ねえ、こっちが聞きたいよディオ。勝手だよね? ホント、だから君の事は、昔っから大っ嫌いなんだよねぇ!」

「そんなの今更――――」


 今更のことだろうって。言ってやりたかった。

 こいつが俺のこと嫌っているだなんて、今更聞くまでもない。


 不意に笑みも感情も消えたその表情に睨まれて、ざわりと背中から首筋にかけて産毛が逆立った気がした。


「……ねえ? そんなにルディスに会いたいって言うなら、俺を押しのけて力ずくで会いに行きなよ」


 今まで聞いたことがないくらいに静かに告げられた声は、それだけで既に遠巻きにしていた奴隷の何人かが、さらに怯えてこの場を逃げ出すほどだった。


「俺を振り切って会えたらさぁ、そしたら認めてあげるよ? それくらいの覚悟があって、ここに来たんでしょう?」

「そんなの――――――あ、がっ!?」

「ただし」


 当たり前だろ! って、それすらも言わせてもらえなかった。


 俺に聞こえたのは、石畳を軽く蹴った音だけ。直後には、喉笛を潰されるような感覚に声も途切れてしまい、こちらを覗き込む姿に、ただ驚かされるだけだった。


「安心していいよ、ディオ。()()殺さないであげるから」

「っ……離――――!」

「兄ちゃん!」


 エンマの上で待機していた、ラズが悲鳴のような声で俺の事を呼んだ気がする。間髪入れずに、俺とカミュの間に割って飛び降りてくれたお陰で、俺の喉を捉えていた手は離された。


 バックステップでそいつそのものも離れてくれたけれど、事態はより悪化したような気がした。

 ……いや、『気がした』なんてものじゃない。言うまでもなくこれは、かなりマズい状況だ。


「ねえ、ねえディオ? 君はただ、ルディスの部屋を目指せばいいよ? 代わりに俺は、君を()()にかかるけど、いいよね? もう二度と逆らえないように、徹底してあげるよ。そうじゃなければ、俺の気が収まらないもの」

「っ……! 冗談じゃねえ!」


 琥珀の瞳に射られ、なおかつ淡々と告げられて、慌てて少しでもカミュから離れておこうと飛び退いた。でも、ちっとも距離を稼げている気がしない。

 カミュの中で完全にメーターが振り切っているらしく、それを理解した途端に、嫌な汗が背中から噴き出した。


「冗談? まさか」


 鼻で笑われたのに、イラつくどころか身体がびくりと強張った。


「……そうだねえ、まずは何故か無駄に持っているらしい、君のその余裕から削ろうかな? 余裕があるから、そんな馬鹿な事が言えてしまうんだもんね?」

「やめ――――!」


 ちらり、そいつが一瞥したのは俺じゃない。背後にある、エンマの姿だった。何をするつもりかなんて解ったもんじゃないが、身の危険は、エンマ自身も感じたようだった。


 逃げるように伝えようと慌てて振り返ったら、背後――――つまりカミュの方から、何かが空を切って風を起こした。

 俺の脇を抜けて飛んでいったのが、こいつ()()()の薪割り斧だと気がついた時には、エンマも力強く地を蹴った。


 早急に力を込めて飛び立ったせいで、石畳がまるで、水たまりにうっすらと張った氷のように、ばきりと音を立ててあっけなく割れる。背後にあった大きな影が、あっという間に小さくなった。

 お陰で斧は、空を切ってターン! と、小気味良い音を立てて植木に刺さる。……投擲用に作られた訳じゃないのに、どうしてそれほどよく飛ぶのか、全く意味が解らない。


 カミュの舌打ちだけが、妙にこの耳に届くのだった。同時にそれ以上、その場に留まっている暇すらなかった。

 ラズにぐいと強く腕を引かれて、一直線に建物に向かって走り出した。エンマに気を取られている今だけが、こいつから距離を得るわずかな時間だと、ラズも察してくれたらしい。


 でも、脇目に見えた横顔にぞくり、また悪寒が増す。


「っ……! エンマ、止せ!」


 上空に逃れたエンマが反撃しようと口を開くのが見えて、咄嗟に差し止めていた。建物や周りに少なからず影響が出てしまう。そんな後の事に不安を感じたのは仕方がない。

 ……やっぱり、どんな場所であっても俺にとっては大切な場所、らしい。俺の声に怯んだエンマは、目に見えて身体を強張らせていた。


 だが。エンマが怯んだ原因が、俺ではない事をすぐに知る。嫌な予感だって、エンマのせいじゃない。

 一瞬背後に気を取られていたら、目を離してはいけない奴を見失っていた事を、否応なしに知らしめられた。



 初めに聞こえたのは、悲鳴に似たギャッというエンマの咆哮だった。

 直後、その巨大な影が、危なっかしくぐらついて、バランスを取り戻そうとしながらも、滑空して俺らの頭上を横切った。畑の一角へと落ちて行く姿に、何が起きたか解らない。


「エンマ?!」


 何度となく、危なっかしく翼を振るエンマを見ると同時に、ぎくりとする。

 いつの間に――――しかもどうやって、飛翔していたエンマの背中に乗ったというのだろうか。カミュの姿がそこにはあった。


 エンマが地に落とされると同時に、ずんと微かに足元が揺れて、飛行していた勢いのままに地面がえぐられた。

 土煙が上がる。立ち込める土煙の向こうに、綺麗な深緑色が見えなくなって、不安にならない訳がなかった。


 けど、やはり。俺には心配している猶予さえ与えられないらしい。


「ねえ、ディオ。知ってた?」


 エンマの事を乗り捨てて、土煙の向こうから、そいつはつまらなそうにやって来た。

 冷めきった琥珀の瞳が、こちらに目をくれた。目が合った途端ににやりと笑われて、嫌な予感しかない。


「飛竜ってさあ? 翼の根っこを抑えちゃえばね、カンタンに落せちゃうんだよねえ?」


 慌ててエンマの所に向かいそうになって、カミュの表情にハッとさせられる。

 苦し気ながらも、俺らの背中を押すように、エンマは咆哮した。落ち着いてきたはずの土煙が、また上がる。


「兄ちゃん、走って!」


 当然ラズには意図が確実に伝わって、強く腕をまた引いてきた。

 それに引きずられないように駆けだせば、面白がっているとしか思えない声が俺らの背中を追って来た。


「大丈夫。君にも出来る事だから、今度教えてあげるね?」


 あくまで俺が、ここに()()()()前提での話なのか。冗談じゃない。


 ジャラジャラという音がやけに耳につくから、何事なのかと伺えば、漸く晴れた土煙の中で、エンマの翼の根っこを鎖で縛りあげている姿があった。


 さらにはカミュが一つ指を鳴らすだけで、植物たちはツルを伸ばしてエンマの四肢に絡みついていた。そちらは拘束が目的というよりも、簡単に飛ばさせない為のものだろう。

 流石、俺の元護衛。汎用性高過ぎて困る。


「くそっ!」


 そこまで徹底的にするつもりなのか。どこまでも俺の事を目の敵にしているあいつに、何を考えているんだよって問い質したい。


 ――――いや、違う。

 あいつにとって、これはゲームなのだろう。俺を確実に諦めさせるための、そしてあいつの理想の為の、絶対に勝つゲーム。

 そうじゃなければ、こんな回り諄いことをするとは思えない。


「ねえディオ。今日は逃がさないから、諦めてよね?」

「っ……! 冗談じゃねぇ!」

 

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