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飛竜と義弟の放浪記 -Kicked out of the House-  作者: ひつじ雲/草伽
二章 開業、ドラゴンタクシー
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タクシー、はじめます。冒険者ギルドは(色んな意味で)おっかなかった.3

 

 空は快晴。絶好のフライト日和だ。太陽は高く、セリーア草原を吹き抜ける風が心地よい。

 エンマの背中には、しっかりと椅子を固定済。ベルトの強度のチェックも余念はない。とはいえ、即日乗せてくれってやつはいないと思うから、今日は用意するだけになっちまうかな?

 せめて、どんな具合か位、誰かに見て欲しいと思うところだ。


「じゃあ、エンマ。悪いんだけど、ここでじっとしててくれ。で、呼んだら、その時は頼むわ」


 ぐるる、と明るく唸っているところをみると、エンマも張り切っているのだろう。そりゃ、一発目の仕事だもの、気合も入るか。

 ただ。


「ラズ? お前も待ってて良いんだぞ? 誰も乗らないようでも、ジジイにはエンマを紹介するつもりだから、その時にでも……」

「や、やだ! 僕も行く!」

「じゃあ、ほら、行こうぜ?」

「でも、今はやだ! あそこに行きたくない!」


 困った事に、ラズが駄々っ子に成り下がった。迷惑な事に。

 俺と、エンマの腕をしっかりとつかんで、さっきから離してくれない。言ってることと、やってることの、矛盾。二百才のおにーさん(()()()()())が、聞いて呆れる。


 ――――え? 振り払えばいいだろって? あのな、ラズの怪力、舐めんなよ?

 振り払おうとすれば多分、こいつは全力でしがみついてくるだろう。そんなことされてみろ、俺の骨、折れる自信がある! ああ、胸張って言える!

 ……切ない。


 多分、ラズも、頭では行く気があるのだろう。けど、昨日の今日で、まだジジイに歩み寄るのは怖いと、そういう事か?

 ただなあ、ジジイに仕事の斡旋頼んだ以上、その結果くらいは聞きに行かなくては、だろうが。行くっつって行かないのが、一番失礼だろうよ。


「ラズ……あんま、困らせないでくれるか?」

「だって……」


 ちらりと、こちらの顔色を伺って、街の方を見やる。行くことと行かないこと、天秤にでもかけているのだろう。

 さあ、決めてくれと。困ったようにエンマと見合せ、また一つ溜め息をつく。

 ……エンマは面白がってるようにしか見えねぇけどな。その証拠に、行けとも待ってろとも、意思表示なんてない。やろうと思えば出来るはずなのに、だ。ああ、それが出来るって事は、既に確認済だ。こいつは焚き付けようと思えば、ラズをおちょくってからかう事くらい出来るのだから。


 自分に意思なんてありませんから、を、装っていて、質が悪い。こりゃ、調教師がよっぽど性格ひねてたな。

 はあ、やれやれ。今ラズを連れていっても、ろくなことにならない気がする。


「エンマ」


 呼び掛けてやっと、エンマも動いてくれる気になったらしい。


「ラズを押さえてくれ」

「やー!!」


 俺がそんな事を頼めば、必死に腕にしがみついてぐりぐりと頭を押し付けてくる。

 あのー……腕が曲がらない方向に曲がりそうなのだが。やめてくれ。そして、これ以上力強く握られると、本当に腕が丸々()()()()()()()


 なんて、俺の苦労も小バカにするように。エンマはその首根っこをくわえると、ひょいと――――いやほんとに『ひょい』って持ち上げて、俺からラズを引き離した。

 わーお。マジか。俺の苦労って、一体…………。

 ぐるる、と唸っては、街の方を見やる。今のうちに行け、と。そういうことですね、飛竜の姉御。


「助かった、エンマ。じゃあラズ、行ってくるから! 後からエンマと来てくれ」

「兄ちゃん待ってってば! もう、××××××! 離して! 兄ちゃん一人じゃ危ないってば! ねえ、ちょっと!!」


 エンマにくわえられて、じたばたしているラズ。親猫に捕まったイタズラ子猫でも、あそこまで暴れないだろうに。

 軽く手を振って、「後でな」 と告げてやって、一人で街に向かって歩き出す。後ろでまだ何か騒いでいるが……無視だ、無視。たまには良いだろう。



 そういや、一人で歩く、なんて、久方ぶりのような気がする。店にいた頃は、親父殿の使いとか、買い出しとかでよく、商業区画を歩いていた。けど、ここ数日は、ずっと()()()にかかりっきりだったように思う。

 そう思うと、なんか、清々しい気がしてきた。


 ああやっぱり、定期的に一人の時間は取った方が良さそうだな。別に兄と慕ってくれるのは嬉しいが、始終べったりは流石に疲れる。と、痛感した。

 それにいつまでもべったりは、ラズにとっても良くない事だ。そこら辺の教育は、きちんとしておかないとだなあ。


 思わぬ単独行動の時間にご機嫌の俺は、今にもスキップの一つでも踏んでもおかしくない。何だか今日は、調子よく事が進みそうな気がする。

 やるぞー!

 例え今日はジジイに紹介するだけで終わろうとも! きっと、軌道に乗せてみせる!!

 ひゃっほーい♪



 …………なんて、ラズを置いてきたこと、後悔する、十分前の話。




 * * *




 ギルド区画に足を踏み入れて約十分。そろそろジジイのギルドが見えてきた。

 ……その頃になって、()()を見かけた。



「じゃーじゃじゃーぁしたあー」



 なんだ、ありゃ。呂律回ってねーじゃん。


 そのヒューマンの露店商は、ジジイのギルド前に陣取って、商いの真っ最中のようだった。

 結構顔整ってるのに、酔っぱらいとか残念でしかない。しかもぼさぼさの赤い髪は小汚ないとしか言いようがなくって、とても商人とは思えない。そりゃ、客も逃げるわな。

 まあ、イケメンは敵だから、奴の醜態は同情するつもりは微塵もないがな!


 ああ、当然、いつもはそんな所に、露店なんてない。というか、ジジイのギルド前に露店を建てる『勇者』なんて、始めて見た。


 ついじっと、見ていたのがいけなかったのだろう。ばちっと、音がしたんじゃないかってくらいに、目があった。


「っ……!」


 やべって思って、身を翻した時には既に遅し。がしっと、()()()肩を捕まれた。同時に、ふわりと酒の香りが鼻孔に届く。

 ――――うわあ、マジかあ。そこは普通、美人の髪の匂いだろ……。泣きたい。


 つ、と、冷や汗が背中を伝ったのが解った。暴力ではない、身の危険に胆が冷えるって、初めての経験だ。

 振り返っちゃいけない。次目が合えば、身ぐるみ剥がされる気がしてならない。


 つか、ほんとに酒臭いのだが、こいつ。


「おにぃさあああん、なんか買ってってくんねぇかあ? ……ヒックッ」

「ぅ……?!」


 くっさ! こいつ吐く息マジで酒臭い!!

 臭いだけで酔いそう! 吐きそう!


 とんだへべれけに絡まれた! ヤバいヤバいヤバい!


「いや、俺、ギルドに用事があるので……」

「いーじゃん、ちょっと、なあ、ちょっとだけなら見てってくれてもいーぃだろおー」

「あの、ほんと、俺急いでるので」


 呑んだくれのあしらいなんて、昔っからあんま得意じゃねぇんだよ!

 周りの厳つい冒険者様達に助けを求めて視線を回せば、さっと目を反らされた! 酷い!!



「あの……マジで勘弁してください」

「だあーいじょうぶだーって! おれっちのお店さーあ? そこのこねーこちゃんに頼まれ……ヒック、訳よお」


 こねーこちゃんって誰だよ、こねーこって! 子ね……まさか、ジジイか?

 子猫なんてガラじゃねえだろ! つか、嘘くせぇ……。


 ……なんか、何言っても無駄な気がしてきた。


「ねーえ、おにぃさん、そっちじゃなくてこっちだっ……ック、あれえ? 地面動いてる?」


 ――――こうなったら、仕方がねえ。こいつを引きずるように、ギルドの扉へと向かっていった。

 一歩、一歩。踏み締めるように歩いてしまうのは、仕方ないと思う! 反対に引っ張ろうとするこの酔っぱらいを引きずるのには、本当に骨が折れる!


 せめてもの救いは、俺の気迫(笑)(かっこ、笑い)に、押される形で道が割れてくれた事だ。

 ふんっ! 俺に滲み出る気迫なんてないさ! 頑張っている、それを体現しているだけ!

 どうせなら! 誰かこの子泣き爺(ダメ男)を引き離してくれ!

 

 なんだよ、これ! ここ数日の俺の運の無さ!

 爽やかな時間、どこに行った?! 出来ればカムバックして欲しいのだが!


 ――――でも。カラン、と。勝利の鐘は軽薄に鳴った。


「いらっしゃいませ!」


 そして本日もシャラさんの、癒し効果が付与されたような、素敵スマイルで迎えられる。俺のメンタルポイントが、瀕死から少し回復した気がした。


 銀髪碧眼。美麗スマイル。女神降臨。

 癒されるわー。涙出てきた。



「ディオさん、こんにちは。マスターが昨日の事では少しご相談が――……って、あら? そちらの方……えっと、それよりも、大丈夫ですか?」


 そしてここに来てやっと、俺の心配してくれるヒトがいた……! 俺……頑張って、良かった……!!


「シャラさん……ジジイを……!」

「あ、は、はい! 直ぐに!」


 麗しのシャラさんに、こいつは近づけちゃいけない。そう思いながらも、一歩、ギルド内に踏み出した。

 ――――そしたら。

 ずる、べしゃっ、と。俺の体力的にも限界で。扉という支えを失った俺は、子泣き爺背中にくっつけたまま、膝から躓き、崩れ落ちた。


 ってか! 背中のこいつ、完全に俺に体重預けやがった! おえー、気持ち悪いとか、耳元でぼそぼそおっしゃってる。

 けど! そこで吐くのだけは止めて!!


 お願い、後生だから止めてくれ!


「きゃあっ! ディオさん、しっかりしてください!」



 ジジイの部屋の方を行きかかっていたのに、受付のカウンター飛び越えて来てくれたシャラさん、マジ天使。

 片脇に膝をついて、心配そうに俺を見下ろしている。さらりと、耳にかけていた髪がこぼれ落ちた。綺麗だなー。

 ……ヤバい、不謹慎にも萌える。

 いやいやいや! んなこと考えている場合か!


 兎に角! ジジイなら建物内の異変に、すぐにでも気がつく筈だろうが! さっさと出てきてくれよ!

 なーんて、思っていたら。


「……あ、ら? この方は…………」


 シャラさんが、自らの危険も省みず、子泣き爺の顔を覗き込んでいた。


「シャラさん、離れて。こいつ、今にも吐きそうだから……」


 俺としては、こんな酒臭い野郎をシャラさんに近づけさえしたくなかったのだが。俺の心配を余所に、シャラさんは、驚いているようだった。


「ディオさん……エクラクティスさんと、お知り合い、だったのですか?」

「……はい?」


 きょとんとして見返すと、呆れた顔も眼福の横顔が、背中の子泣き爺を見下ろしていた。



「エクラクティスさん、そろそろどいてあげたらどうですか? ディオさんが困ってます」

「………………ぷっ、くくくくく……あっははははははははははは!」


 不意に俺の上で肩を震わせたかと思うと、大爆笑しやがった。何なんだよ、こいつ。


「いやあ、ごめんごめん! 君の反応がつい、面白くってさあ! よっと」


 まるでさっきまでの千鳥足が嘘のように、しゃんとそいつは立ち上がった。ぼさぼさだった髪はかき上げて、撫で付けただけなのに、印象が一瞬で変わった。

 なんだ、これ。すっげー敗北感。


 立てるかい、なんて。紳士的に差し出された手を、ただ掴むしかなかった俺が悔しい。

 散々こいつに足引っ張られて、もう、ふらふらなんだよ! くそっ!

 あれだけ酒臭かったのにも関わらず、いつの間にかこっちまで酔いそうになる酒臭さはなくなっていた。なんだ、これ。なんだこれ! イケメンは、そんなとこまでスペック高いのかよ! 不公平!


「く、く、く……いや、ごめんね? レバンデュランが面白い事しようとしている子がいるって言うもんだから、つい、興味があって駆けつけてしまったんだ。君だろう? 噂の、ディオ君」


 昨日の今日で、噂? どういう事だ?

 なんて事を、考える時間を、こいつがくれる訳がなかった。


「ああ、名乗り遅れてしまったね。僕はエクラクティス。リュタン……って言っても、解んないよね? ま、いいや。全然重要じゃないし。趣味はおしゃれとイタズラ。楽しいことは大好きだよ? よろしく!」


 一気に捲し立てられて、引いたのは仕方ないと思わないか?

 なんだ、こいつ。女よろしくよく喋る。そしてものすっごくキラキラしたイケメンスマイルで名乗ってくれたが、いい年してイタズラが趣味ってどーよ。

 おしゃれは……まだ、いいとして。イタズラって……さっきのもそうなのか? だとしたら、悪質にも程があるだろ。


 ただ、やはり、俺が白い目を向けようが知った事ではないらしい。がちゃりと開けられた、ジジイの部屋に続く扉に、そいつは一早く反応していた。

 そこから出てきたのは、やはりジジイで。ディオ坊来たかー、なんて呑気に言っているのが聞こえた。


「やあ、レバンデュラン! 会いたかったよ~」


 そいつは、喜び一杯に腕を広げ、つかつか、っと、駆け寄った。ってか、やっぱジジイに頼まれて商売って、嘘じゃねぇか。


「ぃ?! エクラクティス?! なんでお前ここにいる?」


 そのまま親愛のハグ! ――――の、予定だったのだろうが、ジジイは驚きながらもひらりとかわす。

 うーん、流石。その身のこなしはお見事だ。俺だったら多分、さっきの二の舞だろう。


 つかシャラさんにはそれやらねぇのかよ。まさかそっち系?


「てめえ、相変わらずだな。シャラに同じことしたら、殺すぞ」

「やだなあ、それくらいは弁えてるよ」


 ……ああ、そういう。

 のほんと笑うその表情は、緊迫感の欠片もない。でもジジイに牽制されて平気って、こいつ、マジで何者?


「大丈夫です、ギルドマスター。させませんから」

「連れないなぁ、シャラ君は」


 ってか、シャラさんに拒否られる奴って初めて見た! いつもはどんな嫌な相手でも愛想笑いであしらっているのに!

 ぴしっと。空気が冷え込んだのは気のせいじゃない。笑顔のシャラさんが、マジで怖い! なんか、このヒトの周り、冷気でも出てないか?!


「はあ……シャラ、その辺にしておけ。それで、エクラクティス。お前何しに来たんだ?」

「何って? 君が面白い話をしていたから、わざわざ来たんじゃないか。言うならば、僕は彼のお客さん、第一号だよ?」


 わざとらしく首を傾げる様子に、ジジイまで苛ついてきたらしい。


「まだ、一般の奴らには認可してない、筈だが?」


 牙をむいて絞り出すように告げる様! めっちゃ怖いんですけど!

 部屋の壁際まで後退ったのは、仕方ないと思わないか!


「またまた! 僕は一般の冒険者じゃないもの。それに、ちゃあんと空だって飛べる。実用化させる実験台に、ピッタリだと思わないかい?」

「生憎だったな。その実験台には、俺がなるつもりだった」

「何をバカなこと言っているんだい。君は『飛べる』じゃなくて、『跳べる』だろ? ギルドマスターでそろそろ年なんだから、無理しちゃいけないよ」

「てめえとて大して変わらねぇだろうが。大体、呼んだ覚えもお前に話した覚えもない筈だが?」

「ふふーん、僕の情報網を、甘く見ちゃあいけないよ? 楽しき情報は全て! 何もせずとも僕の元へと届くのさ」


 …………どうしよう。

 まだ、なんかジジイ達、言い合っているけど、とんでもない単語が聞こえた気がする。

 え、ジジイが乗るつもりだった? マジで? ラズですら怯えたジジイを、エンマは逃げずに乗せられるのか? かなり心配になってきた。


 おまけに、この子泣き爺イケメンは、噂を聞き付けて乗りにきた? そんなに、面白いか? 意味がわかんねぇ。


「あの、シャラさん」


 少々、途方に暮れてきたから、助けを求めるのように、隣の眼福横顔を伺った。いつの間にか、避難したのか。


「なんでしょう?」

「えーと、さ。()()、第一号をどっち乗せるのでも俺は構わないんだけどさ、いつ、終わると思う?」

「そうですねぇ……」


 白魚の指をその顎に添え、首を傾げるその姿! 不意な眼福! 御馳走様です!

 あーなんかもう、ジジイ達の事なんざ、ホントにどうでも良くなってきた。


「マスター達が()()なのは、実は、今に始まった事じゃないんです」

「あー、やっぱりそうなんだ……」

「今日中に終われば良い方かなあ、と、思うのですが……。このままディオさんが、それに付き合わされるのは、ギルドとしては約束違反になってしまいますねえ。ギルドマスターにはペナルティ、ですね」

「だよなぁ……。でも、もう今日は、諦めるしかないかなあ……」


 っつー事は、だ。


 ジジイから『大丈夫!』って、お墨付き貰うのに一日。で、乗せる客を捕まえて、ルートを決めるのに一日。それが明日以降になるって事は……あれ、生活費本気でピンチじゃないか?

 うわ、どーしよ。エンマに本格的に何か獲物を獲ってきてもらうしかねぇかなあ……。


 幸い、この辺りに生息するモンスターは、比較的食べるのに抵抗の少ない姿をしている。前世で言う、鹿とか、猪みたいな。

 今世で料理していたお陰で、俺は捌くことも出来るから、獲物さえ手には入れば、どうにか飢えない程度のものは食える、かなあ?


「――――――ィオさん!」


 なんて事を、結構真剣に考えていたら、シャラさんに呼ばれていた事に、一瞬気がつかなかった。


「ディオさん、聞いていますか?」

「あ、はい! すみません、ちょっと、今日明日の生活、どうしようかと悩んでしまって」

「はい、ですから、私がマスターの変わりに査定、行いましょうか?」

「え?! シャラさんがやってくれるの?」


 何それ、願ったり叶ったりなんですけど!


「はい。まあそもそも、査定と言っても、乗ってみて、冒険者の方々を任せても大丈夫かどうかっていう、確認に過ぎませんが」

「なんだ、そう言うことか。なら、お願いしてもいいかな? 呼べば、あいつらすぐ来るし」

「はい。では、裏の演習場にでも場所を変えましょうか。表は人通りが多いですし、ワイバンが降りるには、それくらい広さも必要でしょう?」

「うん、お願いします!」


 わーい、やった! 予期せぬ幸運!

 棚からぼたもち! 棚ぼた! 棚ぼた!


 不覚にも、内心はしゃぎまわってしまったのは致し方ない。

 ――――だって、さ。百戦錬磨の化け物ジジイと、得たいの知れない子泣き爺イケメン。そして、麗しき受付嬢のシャラさん。その三択から好きなの選べって言われたら、誰だって可愛い女の子、選ぶだろ?!


 では、こちらに、と。通されたのは、普段冒険者達が流れていく本部の方だった。

 ちらりと後ろを伺うと、ジジイ達はまだやってる。はっ! そのまま白熱してろ。



 本部側の扉が開けられると、そのざわめきがどっと押し寄せる。そのざわめきとヒトの多さに、少なからず驚いた。正面をわざわざ通る冒険者が少ないから知らなかったが、ここってこんなにも賑やかな場所だったんだなって、つくづく思う。

 ……まあ、どうせシャラさんにあしらわれて終わりなら、わざわざ口説こうなんて考えるやつも少なくなるのも当然か。


 ずらりと並ぶカウンターには、シャラさんにひけを取らない美人達が、たくましい冒険者達を捌いている。

 比較的平和って言われているこの辺りでも、冒険者の仕事ってあるもんなんだなぁ。なんて、しみじみと思う。


 途中、やっぱりシャラさんは声をかけられたり、後ろにくっついているヘボはなんだって言われたりした。

 ……ははっ、気にしてねぇよ? 事実だもんな! もう、これしきでは泣かない! ふん!


 やがて、中庭へと通された。普段は、新人の武器指導とか、競技大会を行ったりしている場所だ。俺が来たのは、当然初めてだ。

 そこそこ広いけれど、エンマを飛び回らせるには、少々狭そうだ。まあ、離着陸出来れば問題ないか。


「こちらからでも、乗り降りは可能ですか?」

「乗り降りだけなら全然問題ないよ」


 通されて踏み入れると、数人ばかりが訓練しているようだった。けどまあ、いっか。

 この二、三日練習した指笛を、高く吹き鳴らす。その何人かが何事かとこちらを見ているが、知った事じゃない。


 状況の変化は、一分と経たずに起きた。太陽が一瞬ちらついたかと思うと、風が起こった。

 次の瞬間には、深緑が颯爽と降りてきた。ヘリコプターの側に立った時のような、ホバリングによる上昇気流が吹き抜けていく。


「エンマわりぃ。ありがとうな」


 労ってやれば、ぐるる、と嬉しそうに喉を鳴らしている。


「綺麗なワイバンですね」

「うん、まあ、ウチに入るはずだったやつだからね」


 親父殿の目利きは、やっぱ流石だと思う。俺が誉められた訳でもないのに、ちょっと、照れ臭い。

 それにしても、エンマのこの捕捉性能には恐れ入る。何で的確に呼んだ位置に降りてきてくれるのか、不思議だ。マジで。


 ……ただ、何かが足りない、なんて、言うまでもなかった。


「あれ、ラズはどうした?」


 俺の問いに、つと首を背中の方に向けた。……うん、まあ、そうじゃないかなって思った。


「シャラさん、少し待ってて。今梯子下ろすから」

「はい」


 エンマの手を借りて、背中へとよじ登る。ぐるりと見回すと、手摺と手摺の間に挟まり、こちらに背を向けているラズの姿を見つけた。

 ……うん、間違いなく、拗ねていらっしゃる。


「ラズ?」

「………………」


 俺が覗きこんだ方とは、反対側にそっぽを向く。

 ま、読めた反応だが。仕方ない。構ってやらない訳にもいかないだろう。


「置いてって悪かった。機嫌、直してくれよ、な?」

「兄ちゃんのバカ」

「……まあ、否定はしないけど」


 うーん、暫くそっとしておく他に無さそうだな。ただそうしたいのは山々なのだが、今ばかりはしゃーない。


「一回目の初飛行だけど、ラズはそこにいるか?」


 なんて、少しばかり意地悪く訪ねてみたら、ぶんぶんと、首を振られる。けど、動く気配はない。

 はあー、めんどくさい。


「御者台、一緒に座るか?」


 口調がキツくならないように、俺、辛抱強く頑張ったと思う。

 こくりと、やっと頷いたから、手摺の間から引っ張り出した。まだそっぽは向いているが、大人しくはしている。

 まあ、隣に座らせておけば、その内機嫌も直すだろう。……ふ、チョロい。


「シャラさん、お待たせしました」


 今、この瞬間から、俺らの『タクシー』が始まる。

 緊張と、少しの期待。ここで容認してもらえれば、いよいよだ。



 一度、手順を振り返ろう。


 お客様を席に通して、簡単に説明。ベルトを締めてもらうように促したら、俺は御者台へと座る。

 俺の合図と共にエンマは上昇して――――今回はお試しだから、辺りをぐるっと回って戻ってくればいいかな?

 後は、成り行きに任せるしかないだろう。


 さあてと。



 改めて、席に通したシャラさんに一礼した。


「それでは、開業に向けて初フライトを始めます。特に上昇中は危ないですから、シートベルトをして、席はお立ちにならないようお願い致します。なお、ご要望がありましたら、いつでも私達に仰ってください」

 

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