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飛竜と義弟の放浪記 -Kicked out of the House-  作者: ひつじ雲/草伽
五章 いつも通りの災難
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《番外編》 銀幕は落ちて *

 

 青い風が頬を撫でる。微かに混ざる砂のかさつくような臭いは、眼前の街が上げる狼煙のせいだろう。

 飛竜の咆哮と、建物が崩れる音が地を轟かす。終焉のような光景を知らない草原は、柔らかい風に身を踊らせて、さわさわと変わらない穏やかさを演出している。


 その、あまりにも記憶と変わらない光景に、彼女は視界を滲ませた。


「アルベルトお兄様……」


 呟いた事すら、当時のまま。

 どれほどの力を手に入れても、自分はこの城を出た時と何ら変わる事はなかったのだと思い知る。


 そんな彼女の背後から、ゆったりと下草を踏み来る足音が聞こえた。


「殺しやしねえよ」


 ハッとして振り返り身を固くした彼女に、赤髪の長身は喉の奥でくつくつと笑った。


「あんたも、王子もな」

「チル…………いえ。崩都(ほうと)の一派ですね」


 彼女は喉まで出かかったものを飲み込み、一つ声のトーンを落とした。目に見えて警戒した彼女に、その男は嫌味っぽく笑う。


「おっと。戦おうなんて気、起こすなよ? 俺は、駄々こねるバカを連れてきてやったに過ぎないんだからな」


 怪訝に柳眉を釣り上げていたら、途端にふっと影が落ちて来た。吊られて彼女が視線を上げると、大きな翼を広げたグリフィンの優雅な姿があった。


「っ!」


 音もなく着地してきたそれに思わず身を竦ませていると、羽毛に覆われた、彼女の腕では抱えられないような大きな頭をすりつけた。ぽかん、と、目の前で起きた事が把握しきれずに、されるがままになってしまう。


「意地を張るのは終わりだ。いい加減、解ってるんだろ?」


 くつくつと喉の奥で笑われて、少女は怨めしそうに男を見た。


「貴方の顔で言われると、幼き頃を思い出して腹が立ちます」

「そいつは結構。()()()()の言葉だからな」

 

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