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飛竜と義弟の放浪記 -Kicked out of the House-  作者: ひつじ雲/草伽
二章 開業、ドラゴンタクシー
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タクシー、はじめます。冒険者ギルドは(色んな意味で)おっかなかった.2

 

「落ち着いたか?」


 ガックリと項垂れた俺の肩に、手を乗せてくるのはクソジジイ。……そこはせめて、シャラさんに慰めて欲しかった。うう……。


「オカゲサマデ」

「はは! 拗ねるな、拗ねるな。悪かったって」


 ばしばしと背中叩かれて、正直頭が転がり落ちるかと思った。マジで痛い。このクソジジイ、自分が元S級冒険者だってこと、忘れてんじゃねえの?

 力加減をいい加減して欲しい。昔はこれで、何度かぶっ飛ばされている。その度に、すまんすまんと謝られながら、大爆笑されるこっちの身にもなってくれってもんだ。


 しっかしコミュニティーの狭さに愕然としてしまう。どこの田舎だよって、突っ込みたいが、こんなもんなのか?

 俺、転生前も都会育ちだったから、そこんとこよく解かんねえわ。


「んーで? お前、今日は何用で来たんだ?」


 漸くその、バカ笑いを止めてくれた。かと思うと、じろりと、ラズを睨み付けていた。

 ――――瞬間。二、三度。周りの温度が下がった。


「ぃ…………!」


 初めてさらされたクソジジイの威圧に、肝が冷える。これが俺に直接向けられた物なら、間違いなく失禁ものだ。…………笑えねー。


 ああ、そうだよ! 初めてだよ! そうじゃなかったら、元S級冒険者をクソジジイ呼ばわりしねえよ!

 ずっと前から聞いてはいたけどよ、実際本当にそうなのかって、半信半疑だったんだから。

 そもそも殺気に晒される事すらなかったからな! 俺の異世界ぬくぬくライフ舐めんな!


「はーあ……お前はまた、厄介な奴をウチに連れ込んだな」


 なんて、俺の内心なんて知らず。クソジジイに溜め息つかれた。


 ――――え、なんで?

 なんて、アタマで思うよりも先に、本当に無意識に、ラズを背中に庇っていた。

 背中にしがみつく力が、にわかに増す。今のクソジジイは危険だと、本能で感じた。これが、初対面なら俺はとっくに逃げ出していただろう。


「ちょっと、ぴりぴりするの止めろって。こいつは、あんたが噂をバラ撒いてくれた、俺の奴隷だ」

「気がついてないなら呆れるぞ? そいつの魔力値は異常だ」


 まあ、そりゃそうだろうよ。俺にはさっぱり解かんねえけど。

 ある程度実力を伴ってくると、相手の力量を感じ取れるようになると聴く。普通なら自分よりも格上か、そうでないかを感じ取れるくらいらしいが。クソジジイなら、ラズの実力を『異常』と言える程度に把握するくらい出来るだろう。


「そいつは、(なり)は子供だが、お前を殺す脅威になりかねねぇぞ」


 そこまで言われてつい、反論しようとした口を閉ざす。改めて言われなくてもそれは、解っていることだ。

 ラズは、奴隷に落とし入れた親父殿を恨んでいる。そして、この街なんて潰してしまっても、問題ないと考えている。その考えを持っていても実行していないのは、一重に奴隷魔法の制約で出来ないから、だ。それが破棄されれば、街の破壊を実行するつもりなのかもしれない。

 それは、解っている。でも。


「……ラズはそんな事しない」


 それでも俺は、気がつくと否定していた。


「俺の弟を、悪く言うのは、例えあんたでも許さない」


 俺が睨んでも、迫力がないのは解っている。でもキツく、クソジジイにそう告げてやると、驚いたように目を見開くクソジジイがいた。俺が、こんなことを言うなんて、と言わんばかりだ。

 俺だって、別にこんなことは言うつもりはなかった。けど、このジジイに言われっぱなしは、癪に触る。


「第一、親でも何でもねえあんたに、俺の事どうこう言って欲しくない」

「お前の心配をして言ったまでなんだけどなあ、この聞かん坊が」


 あからさまに苦々しく眉を潜める様子を見る限り、心配は、確かにしてくれているのだろう。けど、全部今更だ。


「レバンデュラン」

「……なんだよ」


 久しぶりにその名を呼んでやると、疑うような目を向けられた。

 うん、まあ、最近はずっとクソジジイ呼ばわりしてたからな。しゃーない。大事なのは、そこではないからな。


「こいつは、この年まで、力をもて余しているせいで、ずっと一人で生きてきた」


 そう切り出すと、クソジジイも流石に黙る。似たような境遇だったと聞いた、クソジジイならば、きっと、それなりの理解はしてくれるはずだ。 


「異形の蛮人と後ろ指刺されながらも、己の実力だけでのしあがり、今の地位にありついたあんたなら、少しはラズの気持ちも解ってくれると思ったんだがな?」

「ディオ坊……」


 少しばかり、落胆が滲み出たのはしかたがないと思う。なんだかんだ言って、俺も、ジジイに理解して貰えないのは不満に思うところがあるらしい。

 ジジイがつと、視線をラズにくれると、後ろがびくりと身体を震わせ、裾を引っ張る。その表情は、どこか同情的で、少しは昔の自分を見ている事だろう。



 ――――嗚呼。

 ああ、全部、計画通りだ。事が上手く運びすぎて、にやにや笑ってしまいそうになる。それを必死に堪えた俺!

 ふ、ふ、ふ。そろそろ、商人らしくなってきたんじゃねえの?


 ……え? 悪徳な詐欺師の方じゃないかって?

 解ってねぇな。会話を誘導して商品を買わせる、なんて、実演販売なんかでよくやってるじゃねぇか。それと一緒だ。俺は、至って普通の事しかしてない!


 見てろよ、親父殿! 絶対見返してやるからな!! 最後の俺の評価が『目障り』とか!  絶対撤回させてみせる!



 そして少なからず、ジジイは自身の過剰な力をもて余して、人一倍苦労している。ならば、大なり小なり似たような境遇に同情してしまうのが、人情ってもんだろ。


 え? ジジイは『人』じゃねえだろって?

 まあ、確かに? 獣人みたいなライオンっぽい頭をしているが? だからと言って、獣人じゃねえっていうのがクソジジイだからな。隠しちゃいるが、ヤギの胴にヘビの尾。……もう、お察しの通りだ。

 なーんでこんな身近に本物の『バケモノ』がいるんかね? 異世界って、ホント、不思議だわあ。最も、バケモノだろうがなんだろうが、俺にとっちゃ口煩いジジイであることには変わりない。

 ちなみになんでそんなバケモノがS級冒険者止まりかって、そのランクで冒険者を止め、ギルマスになったから。それだけ。


「…………まあ、そういうことも、あったな」


 ぽつり、呟いたそれには先程の覇気もなく。そんなジジイの姿に、内心ガッツポーズする。

 よし! やっと、納得したか。本題入るまで時間かかりすぎだろ、ったく。

 いや、マジで。


 そもそも、ここに来た理由として、冒険者ギルドなら、依頼をこなしに少なからず冒険者達は外に出る。そこで、その足として、便乗させてもらおうって訳。駅前で客待ちするタクシーと一緒だ。人が一番『乗り降り』してくれそうな所で待つ!



 さあてと。だからこそ、ここでジジイに俺の開業に納得して貰わねえと、客が回ってこないからな。

 頑張り時だ、俺! ファイトー、オー!


 早速商談だ。


「それで、今日来た本題なんだけど――――」

「ヘタレチキンなくせに、いっぱしの口ききやがって……」


 ん?

 なんか、ぶつぶつと、聞こえた。空耳、か? 気のせい、気のせい。


「追い出されたのはあんたも知っての通り、だからこそ、開業しようと思――――――」

「昔っから可愛いげがねえったらありゃしねえ、このクソガキが……」

「は?」


 ジジイが何、言ってるのか漸く解った。

 沸騰前のヤカン。一瞬、そんな事が、脳裏を掠めた。


「最近のクソガキ共と来たら、年配者の話をききやしねぇな」

「ギルドマスター、それは今更だと思います」


 ちょ……シャラさん煽んないで!


 ってか、この様子だと、俺の前にも話を聞かない奴がいたと、そう言うことか。

 うん、マズいな。

 俺では、到底ジジイを取り押さえる事なんざ出来ねぇし、この状態でラズにどうにかしてもらう訳にもいかない。

 そもそも、ラズについてどうこう、で説教くらってんのに、本末転倒だ。


 シャラさんは多分、ジジイをどうにかしようなんて、思わないのだろう。愛想笑いは天下一品だが、今ばかりはそれに見惚れてもいられない。

 さあて、どーするかなあ。


 ――――ああ、そうだ。何度でも言おう。俺は大人だ。

 どうせなら、ビジネスライクな関係を築いていきたいと思うのも、当然だろう?

 

「なあ、ジジイ?」


 沸騰ヤカンに声かけたら、じろりと睨まれた。

 こわっ! どんだけ怒っているんだよ!

 なんか最近、怒られてばっかだなぁ。俺、なんかした?


 いやいや、そんなこと言っている場合じゃねえ!


「俺の心配をしてくれるのは嬉しい。けど、さ。ラズが問題あるって、早々に、決めつけないでやって欲しいんだ」

「………………」


 無言かよ。そして仏頂面。

 いいけど。


「俺は、俺について来たいと言った、ラズを信じてやりたいんだ」


 いつぞや、ジジイも似たような事を言っていた。どんなにしょうもないくそったれでも、その当人が強く望み、行動する事が出来るならば、自分はその手伝いを限りなくしてやろうって。『出来る』と言って援助を望んだそいつを、信じてやりたいって。

 少しばかり、ジジイの視線が揺らいだのを、俺が見逃す筈もなく。もう、あと一押し! ならば!


「ラズ」


 首を回して見下ろすと、ラズは不安そうに見上げていた。


「自己紹介、出来るだろ。ジジイに挨拶しな」

「う、ん……」


 あまり気は進まないと。多分、というか、そういうことなのだろう。だけどもう、つべこべなんて言ってられない。

 俺の前に立たせてやると、励ますようにその肩を軽く叩いてやる。それに後押しされる形で、ラズも決心してくれたようだ。


「ラズ……です。僕は……兄ちゃんと一緒に、いたい。です。えっと、よろしくお願い、します」


 じっと見つめるのは、不機嫌なライオン顔で。それだけなのに、厳つさしかない。

 そろそろ威圧するの、やめてくれねぇかなあ。


「…………いいだろう。レバンデュランだ。ディオ坊に免じて、仲良くやろうじゃないか?」



 そういって差し出された手に、ラズはまた怯えたように後退った。まあ怖いのも解るけど、これから何度となく顔を合わせる事になるんだ。諦めて、歩み寄って欲しい。

 そっとその背中を押して促せば、諦めたように手を伸ばした。うんうん、どうにかなった。


 ――――と、思ったのは俺だけのようで。

 ラズがその手に触れようとした瞬間に、ジジイは何かしらの魔術式を展開していたらしい。


「っ………………!」


 ぱちっ、と。強めの静電気、みたいな音がしたかと思うと、その時にはラズは手を引っ込め、俺の後ろに隠れようとしていた所だった。

 えっとー……、何が起こった?


「ああ、やっぱりな」


 きょとんとしているのは、やはり俺だけで。


 ラズを見下ろすと、ジジイが発した静電気に触れた手は、竜のものに戻りかかっているようだった。白い鱗に覆われたその腕は、微かに震えているのをどうにか隠そうとしている。

 そこで漸く、ジジイがラズに魔術を使ったのだと気がついた。本当の姿をさらすような、そんな魔術。


 ラズはラズで、竜の姿に戻ってしまう事を恐れているのか、その表情は真っ青だった。震えているラズを見ていられなくて、つい、身体を抱き寄せてやる。ジジイを非難するように睨んでしまったのは、仕方ないと思う。


「ディオ坊。よおく、覚えておきな。そいつは竜だ。俺と同じように、モンスターと言われて討伐されても、おかしくはない」


 けど、そこにあったのは、珍しく大真面目なジジイ。そんなの、とっくに知っていると。反論すらも、(はばか)った。


「そのせいでお前が危険にさらされたとしても、お前は隣にいてやれると言うのか?」

「それは…………」


 言われて漸く、ジジイが何を言いたいのか解った気がした。

 多分、だけど。ジジイは、ラズに同情してくれている。高確率で。そして、本気で。


 バケモノだから、それだけでヒトが離れていく、なんて事もあったと聞いた。皆、自分の過剰な力を恐れて離れていくんだ、と。

 もしくは側にいてくれたと思ったら、その力を利用してやろう、なんて輩もいたのだと聞く。

 それでも、それこそ今はジジイにはジジイのギルドがある。人望も地位も名誉も、己の力で勝ち得てきた。だからこそ知っているのだろう。隣にいてくれる奴の、その存在の大きさについて。平坦でない道に、付き合ってやれるのかと、聞きたいのだろう。



 もし、ここで俺が見捨てるような事をすれば、どう、なるか? …………考えるまでもねえが、街が半壊、じゃあ、済まねえ気がする。うん。

 それが信頼から来ているのであれば、尚更お前とはいれない、なんて言えねえけど。


 覚悟をもって隣にいられるかと聞かれると、正直『是』とは答えがたい。不安しかないからな。


 ――――でも。

 この命の軽い世界で、信じられるものっつーのはとにかく少ない。隣人でさえも、信じられないなんて、ざらにある。

 けれども俺は、ラズを信じたいと思った。それは、ここ二、三日でも考えていた事だ。

 ラズと、エンマと。俺と共にいたいと行ってくれたこいつらと、三()で何かを成し遂げる。それならば、少なからずやっていけるんじゃないかって、直感ながら思った。

 まあ、追い出されたのは、ほんっと不本意ながら、だけどな。


 俺の心を見透かしたかのように、にやりと笑うのはクソジジイだった。

 「ま、いいだろう」 と、上から目線なのは非常に腹が立つが。どこか、嬉しそうに見えたのは、俺の勝手な解釈か?



「それで、ディオ坊。お前は何がしたいっつったか?」


 言われて始めて、ジジイが認めてくれたのだと解った。ああ、やっと。そこにたどり着かせて貰えるのか。

 やっとすぎて、疲労困憊なのだが。でも、ラズの事を認めてもらえたようで、少し嬉しい。


「ああ、これさ、見てもらってもいいかな。俺達さ、ヒトを任意の場所まで運ぶ運送業やろうと思って」


 そういって差し出したのは、俺会心の出来映えの広告だ。営業文句と内容、料金やサービスについて、おおよその事は書いてある。


 連絡先は、一応まだ空欄だ。手段について、考えていない訳でもないが、ケータイなんて便利なもん、この世界にないからなあ。どうしようかなって、検討中だ。


「ヒトを? 任意の場所まで? どういう意味だ? 運送屋なら、既にルートがいくつかあるだろ?」


 ああ、全くもって伝わってないらしい。……あれ? これ、実はラズにも伝わってねぇんじゃないか? 今更ながら、疑わしくなってきた。


「運送屋、とは違うんだ。冒険者のヒト達って、いろいろな場所に行くだろう? その、移動手段の一つの候補になれたらなって思ってな」

「移動手段、か。まあ確かに悪かねえだろうが、馬車でも買ったのか? それだけで稼ごうっつーのはなかなか厳しくはねぇか?」


 にやり、と、笑ってしまったのは仕方ないと思う。その言葉を待ってました! まさに、そんな気持ちだ。


「馬車なら確かに、わざわざ乗せてもらおうなんて酔狂な冒険者もいねえだろ? 自分達で御せる奴ばっかだし。けど、ならば、ワイバンならどうだ?」

「は? ワイバン?」


 驚いた表情は、期待通り。にやにや笑いが止まらない。いや、左手団扇で高笑いしたいって、こう言うことかね?


「そ。馬車みたいに椅子乗っけて、ヒトを空輸するって訳。どうだ? 最大でも一度に六人が限界だが、安全性は保証するぜ?」


 冒険者相手に『安全』をうたうのは、現状なかなか難しい事は解ってる。それを説明しないことには、納得して貰えないだろう。

 難しい顔で唸っている姿に、緊張から少々どきどきする。


「…………なるほど。だが、安全性って奴は、実用されてからじゃねえと解らないだろう。運行中に客が転落、なんてでもしたらどうするつもりだ?」


 ……と、想像以上に考えてくれるんだな。きちんと説明して言おうと思ってたこと、聞いてくれた!

 だが、うん。説明しないとって思ってただけあって、それも対策済だ!


「座席にベルトを付けているし、周りに一応、柵も立てている。ラズと俺とで試したけれど、今のところ吹っ飛びはしなかった。空路なら、賊も出ない。だから――――……」

「だから、遠出する冒険者をお前に回せってか? ……ったく、考えたな」

「理解が早くて助かるよ」


 遮られた時はどきっとしたがな!


「それに、あんたの所出入りしている冒険者ならさ、それなりに信用できるから、開業早々の客にするにはいいかな、って思って」

「……ふん、都合のいいカモにされろってか」



 やっぱり皮肉っぽく言ってくれるが、その表情は笑っている。頼りないと思っていたディオ坊がなあ、とか何とか言われているが、それくらいでは俺は動じないぞ!

 何故ならば、俺は! 大人だからな! ぐさっときた、とか、そんなこと、ない!


「解った、いいだろう。明日から少し、様子を見させて貰おうか?」

「やった! いいのか?!」

「ああ。ま、試してみる価値のある話だったからな。期待してるぞ?」

「ああ、任せとけよ!」


 その許可が下りた事が嬉しくて、つい、声を弾ませてしまった。

 うーん、俺の精神年齢下、肉体年齢につられて下がったかな……? 前はここまで声をはずませる、なんて事はなかったのになあ?


 そして一つ、これだけは言っておかなければならなかった。


「ただジジイ、噂ばら蒔いてくれるのはいいが、親父殿の耳には頼むから入れるなよ? 俺が、殺されるから」


 そう、この問題だ。

 親父殿に見つかると、多分取っ捕まって鞭打ちにされるんじゃねえかなって問題。めっちゃ怖い。

 俺自身は今までに鞭打ちされた事はないけども。あの音と、奴隷の悲鳴は、結構耳に残っている。笑えねー。


「解った、解った。そう顔を青くするな」


 くつくつと笑われて、思ってた以上に俺の中で気になっていたらしい事に気がつく。

 うっせ、と、可愛くもない照れ隠しは、ジジイに大爆笑された。くそっ。



「まあいいや、ジジイ。そしたら明日から頼むわ。俺らは今から明日の準備をするから、これで失礼するな?」

「ああ、解った。取り敢えず紹介はしてみるが、仕事はじめだ。期待はするなよ?」

「解ってる。でも、よろしく頼むわ」


 ああ、と一つ頷くと、(主に)シャラさんに向けて一礼する。ラズの背中を押して、出るように促した。


「それじゃあまた明日」

「ああ」


 ジジイに出来なかったのは……まあ、意地が出てしまったか。仕方ないので、出入口のとこで振り替えって手を上げておいた。

 カラン、とギルドの扉の鐘が鳴る。



 いよいよ明日、スタートラインか。緊張しないと言えば嘘になるが、やってやるさ。

 ああ、そうだ。


「ラズ、大丈夫か?」


 隣でずっと大人しくしていた――――いや、怯えていた? ラズを見下ろすと、ゆっくりこちらを見上げた。やっぱり、顔色が悪い。

 こくり、とゆっくり頷く様子は、今までに見た事ないくらいによわよわしい。まるで、店にいた時散々痛めつけられていた時みたいだ。

 ……そんなにジジイが怖かったのか? だとしたら、早めにここを離れてやるべきだろう。ひとまず街の外れに向けて歩き出す。



「あのね、兄ちゃん」


 ギルドから離れたと思える距離まで離れた所で、ラズは漸く喋った。


「あのヒト、ずっと、僕を見張ってた」

「ずっと?」


 なんというか、今更過ぎやしないか?


「……まあ、警戒はしていただろうな」

「僕が建物に入ったときから、ずっと。……多分、兄ちゃんの返答次第では、あのヒト、戦うつもりだったと思うよ」

「は?」


 戦うつもりだった? 一体誰と……なんて、聞くまでもなかったか。

 それが、怖かったというのか? やっぱり、本物の『バケモノ』であれは、誰だって怖いと思ってしまうのは仕方がないのかもしれない。

 ――――俺? 俺にとっては、ジジイはジジイだ。やっぱり、口煩いジジイでしかない。


「まあ、でもほら、大丈夫だっただろ?」


 だから、そんな風に軽く言ってやれば、呆れたように溜め息をつかれてしまった。なんだよ、急に。


「確かに、僕は兄ちゃんを守るって言ったけどさあ……」


 呆れて物も言えない。まるで、そう言わんばかりにがっくりと肩を落とすばかりだった。

 何だろう。なんか、釈然としないのだが。


 ……別に、いいけどよ。


「まあ、僕が頑張ればいい、って、事だ……よ、ぅわっ!!」


 ちょっと、気に入らなかったから、ラズを抱き上げ、肩車してやった。その時ふらっとしかかったのは、ご愛敬だ。


 うん、自分でやっといてあれだけど、重いわ。さすがに。ちびっこだと思って、やっぱ舐めてたわ。

 とはいえ。


「っ、ほらどうだー、ラズ。眺め、いいだろ?」

「えっ? え? 何してんのさ、兄ちゃん!」

「何って? 肩車。あんま暴れんなって、落とすぞ」


 ぴたっと、動くのを止めたラズが可笑しい。


 おいそこ! ひそひそするな! 俺だって、これくらいの事は出来る!

 貧弱扱いしないでもらおうか!

 確かにジジイのシックスパックには負けたけどよ? 一応、この世界で生活するのに不自由でない程度の筋力はあるからな! 誤解すんな! くそったれが。


「なあ、ラズ」

「え? 何? 兄ちゃん」


 あまり身体を動かさないようにしている、こいつが可笑しい。つい、くすくすと笑っていたら、非難するように、ぺしぺしと頭を叩かれた。


「頑張ろうぜ、明日から、さ。俺らだって、出来ることがあるんだって、ジジイにも、みんなにも、見返してやろうぜ」

「……うん!」


 ラズの元気が出たようで、何よりだ。そうこなくっちゃ。

 子供にはやはり、屈託なく笑ってて貰わねぇとな。俺も、頑張って肩車した甲斐がある。



 ――――ただ、さ。

 肩車で歩き出して五分と経ってねえよ? ただ。


 ……やっぱり、子連れよろしくは悪目立ちするって事がよおく解った! 今、めちゃくちゃ早歩きしている自覚ある!

 さっさと走り去りたい気持ちはあるのだけど、無理! こいつの重さ、舐めてたわ! マジで。


 早く進めないのなんのって! あっ、あっ! マジで見ないで! すぐ去るから!


 下ろしたいのに、何が気に入ったのか、ラズは頭にしがみつきやがるし!

 ちょ、これ、マジでどうしたらよかったんだ?!

 道端に溢れる、いかつい冒険者のヒト達に生暖かく見守られるとか、マジで恥ずかしくなってきた! わあああああ!


 こんなとこに、明日も来ねえといけねえのかよ!!

 恨むぞ、ジジイ!!






 ◇ ◇ ◇






 立ち去った二つの姿に、溜め息をこぼす姿があった。


「シャラ」

「はい」

「ディオ坊の案、どうだと思う?」

「あら、マスターが心配しているのは、そちらではないでしょう?」


 くすりと笑う、美しいその顔に一瞥する。その大男の表情は、苦々しい。


「占い、いたしましょうか?」

「……ああ」


 頷かれたのを確認すると、受付嬢はポケットから出したカードを切った。


「スリーカード・オラクル。彼らの関係の行く末を教えてほしい」


 ぽつり、そんな事をつぶやいては、三枚を選び出す。

 それから、一枚目を表に反した。


「過去は正位置の十三。死神。彼等の出会いは転換期だったのかも知れませんね。それが良い方に向かったのは、ディオさんの力量でしょうか」


 受付嬢がその表情を伺うも、ギルドマスターの眉間に刻まれた皺が和らぐ事はなかった。仕方がない、と、こっそりと溜め息をつく。

 二枚目を、表に反す。


「現在は逆位置の十五。悪魔。彼らの強い意志と行動によって、これからが転じていくと思います。そういう意味では、ディオさんは成功への一歩を、自分の手で掴めたと言えるかもしれませんね」

「そうか? そういう風には思えなかったが……」


 納得し難いように唸るマスターの男に、受付嬢はくすりと笑みをこぼした。


「でも、ギルドマスター? あなた結局許可されたじゃないですか」

「あ……まあ、そうだな」

「では、彼らの未来ですが……あら?」


 三枚目を反して、彼女は声を上げた。

 表に出たのは白い、カード。


「ブランクカードが混ざっていたみたいですね」

「おいおい、真面目にやってくれ」


 失敗した。そう言わんばかりにちろりと舌を出した姿に、ギルドマスターは肩を竦めた。


「お前の占いは確かに当たるが、当人がうっかりじゃあなあ……」

「あら、マスター? 私は、これはこれで、彼らの未来だと思いますよ?」


 解りかねると眉をさらに潜めるその姿に、くすくすと笑ってカードを取った。


「白紙。つまり、よくも悪くも、彼らの未来はこれからつくられると、そういうことではありませんか?」


 その手に無理矢理握らされた白紙のカードを、じっと眺める。

 ね、と。小首を傾げているその姿に、一体何人が騙されたものかと、つい、呆れてしまう。


「シャラ……。自分のミスを上手いこと言って誤魔化すのは、どうかと思うぞ」

「もおー! マスターやめてくださいよ! 台無しです!」

 

挿絵(By みてみん)

kinoe様から頂きました、

作中のドラゴンタクシーの広告です!

素敵な広告をありがとうございます!ヾ(≧▽≦)ノ


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― 新着の感想 ―
[良い点] タクシー広告カッコいい!!! でもさ、ディオく~ん? おんなじ地域にいたらどうしたって噂広まって親父殿の耳に入るでしょー?(-_-;)
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