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飛竜と義弟の放浪記 -Kicked out of the House-  作者: ひつじ雲/草伽
二章 開業、ドラゴンタクシー
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タクシー、はじめます。冒険者ギルドは(色んな意味で)おっかなかった.1

 

「よっし、これなら及第点かな」


 ウチを飛び出して、早くも数日が経とうとしていた。

 エンマの背中にヒトを乗せて飛ぶ訓練は、思ってた以上に好調だった。流石、荷物の運搬に躾られていただけはある。

 上昇下降、離着陸。その揺れの少なさと言ったら、完璧だった。


 調度品を扱う竜人のおっちゃんに交渉したら、思いの外いい椅子を手に入れられた。クッションが柔らかいのに、長時間座ってても疲れにくい固さを兼ねそろえたその椅子は、正にうってつけだと言える。おかげでエンマの背中に設けた旅客席は、小綺麗な仕上がりでなかなか様になっている。

 旅客席……まあ、飛行機じゃねえけど、他に言い方思い付かなかったからいいだろう。



 ワイバンの運送屋の、ワイルド系獣人おじさんには、御者のやり方を(有料で)教えてもらった。お陰で俺も、どうにか形にはなるようになったと思う。

 ま、ぶっちゃけエンマには俺の言葉が通じているらしいから、言葉で指示すりゃ御する必要もないけどなあ……なんて。最悪、ラズに事細かに通訳してもらえばいいし。

 ただ、体裁だけでも作っとかねぇと、じゃあお前何やってんの?  って、客に言われちまうからな。



 そうそ、ラズの実力は、想像以上だった。

 この前調度品の買い出しに行ったとき、俺の持ち金の多さが()()()を呼び寄せてしまった。

 人通りの少ないところでぞろっと囲われたときは流石に、驚いた。


 持ち金多いっつっても、あと持って二、三日の泡銭だけどな!

 ラズもエンマもメチャクチャ食べるんだよ!

 エンゲル係数どんだけだよ! って、帳簿つけてた時叫んださ。


 シャレになんねぇんだなあ、これが。俺の持ち金、普通に暮らせば三ヶ月は何にもしなくても大丈夫なくらいあったのに!

 開業にだって金はいるしさ。


 ここ二、三日、俺は金のやりくり頑張ったと思うぜ?

 だというのに、俺の苦労を知らないタカりな奴らは、一攫千金を夢見てるのかね。

 『にーちゃん懐の金出しな』 って、言われた時には、ホントにこんなのあるのかよって突っ込みどころ満載だった。大爆笑しなかっただけ、俺、偉いと思う。


 俺としては、金取られるのは困るけど、その場で垂直跳びしてやってもよかった。

 面白そうだったから。やってみたかったし。


 けど、まあ、隣にいたラズは冗談に取れなかったらしい。……いや、はじめっから俺以外みんな冗談で言ってなかったが……。

 それはさておき、俺の隣からラズが消えたかと思ったら、一番俺との距離を詰めていた奴の元にいた。

 当然、俺にラズを止める事なんて出来る筈もない。制止をかけるよりも先に、その男はぶっ飛んで弧を描いていた。マジかよって、思っても仕方ないよな?

 しかもその時、ラズはすっごくきらきらした笑みを浮かべながら、タカり共の意識を刈っていた。殺さなかったのは、奴隷魔法の契約上出来なかったんだろう。

 楽しそうで何よりなのだが、ちょっと怖い。


 このままいくとホントに、親父殿共々ジ・エンドまっしぐらだ。

 やだやだ。断固、阻止してみせる!

 ……ふ、いい兄ちゃん、演じきってみせようじゃないか! はは!



 あと、伸された後にも関わらず、もんどりを打って身体を丸めている様子を見ると、少しだけ気の毒に思えてきた。自業自得だけど。

 その様子が、塩かけられたナメクジみたいって思ったのは、誰にも言っていない。流石に、可哀想だろう?



 そうそう。実はまだ、俺らは親父殿の店のあるこの街から離れていない。セリーア平原に限りなく近い冒険者向けの安宿に、身を隠すようにして泊まってる。宿のあるなしは心の平穏に大きな差があるって初めて知った。

 ホームレス。うん。少なからず冒険者になっていたら当然そうなる訳だけど、帰るべき場所がないっていうのはほんと、何度経験しても心細くなる。それまで身近にあったはずの街が、急に知らない場所に変わってしまったような孤独感があった。

 でも、宿をとっただけで『自分は旅行者としてこの宿に身を寄せているんだ』という気持ちになり、急に襲って来た不安もそれだけで和らいだから不思議だった。


 ちなみにちなみに、エンマには悪いが、完全放し飼い状態だ。一応所有者は奴隷魔法で俺に書き換えてある。ただ、何がマズイかって、エンマが捕獲されて所有者がお役人様にバレたら、竜の放し飼いは止めろって、俺が厳罰される。

 罰金もの。冗談じゃねえ。

 別に、俺が望んで飼いはじめた訳じゃねえのに。やだわあ。



「兄ちゃん、終わり?」


 エンマの着陸を待って、ずっと岩場で俺らの訓練を眺めていたラズは、嬉しそうにやってきた。多分、早く出かけに行きたくて仕方ないのだろう。


「ああ、行くか。エンマは、自由にしてていいぞ。……と、椅子、外さねぇとな」


 ラズ曰く、エンマは乗せっぱなしでもいいって言ってくれているんだがな……。

 そんなもん着けてたら、一発で所有者のいるワイバンだってバレるわ。脱走したとか、管理不十分とかって思われるのは、すっげー不本意。


 一応、今まで親父殿の店で奴隷達の管理してた身だからな! それだけは、言われたくないっ!

 俺のささやかなプライドだ! これだけは、守りきってみせる……!

 ま、初っぱなにラズに色々負けている時点で、プライドもなにも無い気もするがなあ。


 ……ふっ。悲しくなんか、ない。ただ少し、俺の言い分が虚しいだけだ。



 エンマの胴に回すようにして止めてある留め具を外していき、椅子を下ろす。岩場の中に見つけた穴蔵に、それらをしっかりと隠せば完了だ。空を飛ぶ手段を持っていなければ来られないこの穴蔵は、なかなか勝手がいい。暫くは隠れ蓑にも使えそうだから、いい場所を見つけたと思う。


「よし、じゃあ行くか」

「うん」


 ラズと連れだって向かうのは、街中にあるギルド区画。商業区画同様に、そう呼ばれているところがある。冒険者の為のギルドから、武器屋、防具屋、宿屋に薬屋。そういったものがいっぺんに手に入れられる、冒険者御用達の区画だ。

 外から来る人が多い区画だからこそ、俺らも今、その隅っこにある宿屋に身を隠しているって訳。

 俺ら、じゃねえな。俺が! ラズやエンマが気にする訳がないわ。


 はてさて。

 セリーア草原は人影なんぞ見られなかったというのに、一度街に入ればこんなにも賑わうのか。冒険者達ってだけあって、賑やかさの中に喧嘩の声が混ざる、なんて日常茶飯事だ。

 現に、通りがかった酒場からは、暴れたらしい酔いどれが、放り出されていた。そういうこともあるって解ってても、目の前を飛翔されると流石にビビる。どごっと鈍く嫌な音したけど、あのオッサン大丈夫かな。……いや、知ったことじゃねえけど。



 同じ街の中だっていうのに、まるで知らない世界だ。わー怖いわ。

 『家追い出された! くっそー! 冒険者になってやる!』

 ……なんて、間違えてそんな決意しなくて良かったって、心底思う。

 俺、偉い! ナイス判断! 拍手ものだ!


 ……はあ、アホか。早くも疲れた。


 最近始めた筋トレのせいか、身体がダルい。昨日の今日で体力がつく訳じゃないって、解ってはいる。解ってはいても、期待だって、したくなるだろ?

 ……間違ってるのかな、運動方法。


 移動中、ラズは常に俺に手を引かれている状態だ。街中のヒトが多くいる所は特にはぐれでもしたら、たまったもんじゃない。しかもふと目を離すとやっかみに巻き込まれて、襲ってきた相手を過剰に返り討ちにしかねないのだから、質が悪い。

 そんな爆弾小僧をどうして俺が面倒見ないとなんだよって、思いもするが。……まあ、懐かれてる内は、腐れ縁とでも思って、隣にいてやるか。

 突き放せなかった、俺の責任。しゃーない。


 え? 何だかんだ言って(ほだ)されている?

 ……はっ、甘いな。俺だって、親父殿の息子だからな!


 ラズを隣に置いてメリットって言ったら、この世の最高ランクとも言える力を持った護衛である、と言うことが一番だな。

 ホントにいざって時に使えるかどうかは、わかんねえけどさ。『保険』があると、安心できるって意味が、今世になってから、よおーく解った。

 ラズ保険。良くわからないカタカナ語の保険会社の代表みてえ。ウケる。


 うん、我ながら面白くねえわ。


 その次は、いきなり世間に一人で放り出されるのが嫌だから、せめてもの気持ちの緩和材。

 自分がしっかりしないと、って、思える相手が隣にいるだけで、頑張れる気、しないか? 俺だけ? そんな事ねえよな?


 だが、うん。この世界で一先ず生きていくためにも、ラズやエンマは利用するつもりだ。

 悪どくって結構! 俺は、出来れば楽に生きたい!


 なんて話もどうでもよくて、だ。



 ギルド区画の通りを抜けて、やって来たのは一際大きな建物。木造のその建物は、どっしりとして趣深い。

 S級冒険者が暴れても壊れないって聞いたことあるけど、本当だろうか? 知らねーけど。


 ここまで来ると流石に、通りはむっさいオッサンで溢れてくる。

 如何にも一狩り行ってきました、みたいな、服の端に返り血がこびりついている、百戦錬磨なオッサン達。店の表で人を待っている間、通りかかる人を威嚇している風なオッサン。テラス席で優雅にお茶するオッサン。時々、若いがやっぱりムキムキのイケメン兄さん。

 女性もいなくはないが、魔術使いにしても何にしても、やっぱり『戦士』だな、って思う。


 オッサンオッサン、兄さんオッサン。ボンキュッボンのグラマーなお姉様は、一体、職種はなんだ?

 前衛? 後衛? 対人戦専用、とかか?


 ……え? なんで対人戦専用かって? んなもん、一枚ずつ布取るだけで、野郎相手ならイチロコだろ? 貧乳がお好き、で、なければ。

 ……うん、理解不能。


 ――――やっべ! 目が合った!

 つい、目を反らしたのは仕方ないだろ! どんなに美人でグラマーだったとしても、冒険者に絡まれたくはないからな!


 ……うん、()そう。これ以上の観察は。ただでさえ、()()()の俺らは浮いている。

 これで下手な奴に目があってみろ。さっきのお姉様は、不躾に見るなっていう牽制だと思う。

 けど、これが、百戦錬磨の肉達磨だったら……? 絡まれでもしたら、たまったもんじゃない。



 そそくさと、足を進める。そうしてたどり着いたのは、一軒の大きな建物。そここそが、本日の目的地である、この街の冒険者ギルドだ。


「こんにちはー」


 軽く声をかけながら、ギルドの大扉を押し開ける。


「いらっしゃいませ!」


 それと同時に本日も、癒し効果が付与されたような、素敵スマイルが出迎えてくれた。

 厳つい冒険者達を案内するのは、ギルドの案内嬢であるシャラさんだ。店一番の場所に常駐し、建物の総合案内をやっている。綺麗な銀髪に澄んだ碧眼がホントにきれいだ。エルフの血を引いてる、らしい。


 眼福、眼福。

 美人、サイコー。


 って、オッサンかよ! ……いや、オッサン入ってるけどさ、多少は!

 前世から数えれば、三十路なんて軽く越えるからな!


「こんにちは、シャラさん」

「あらら、ラングスタのディオさんでしたか。こんにちは! 珍しいですね」


 まあ、そう言われてしまうのも無理はない。


 普段、俺がギルド区画に来ることはない。それでも、シャラさんと顔見知りなのは、何度か奴隷の引き渡しでギルドに来たことがあるからだ。

 その引き渡し相手は、冒険者だったり、ギルドの関係者だったり。

 比較的、奴隷商の中でも『高品質』な商品を提供してるってんで、ニーズが高いのがウチだ。……あ、もう今は『親父殿の店が』だ。……ふ。


 ま、どんなにお膳立てしても、やってることは外道、だが。

 ――――え? 俺は俺の事を正当化してる訳じゃない。ホントの事を言ったまでだ。



 ちらり、と、見たのは、俺の後ろに隠れてしまったラズ。お前、そんな人見知りするキャラだったか?

 なんて、俺の疑問も露知らず。何かしら、シャラさんは察したらしい。


「今日は奴隷の引き渡しですか?」


 うん、そう聞かれると思っていたけど、残念ながらハズレだ。


「いいや、私用だよ。それに、親父殿には家追い出されたから、店の用事で来ることもなくなったからね」

「ええ?!」


 ええ?! って。……なんでそこまで驚かれるのか。


 俺がギルドに冒険者として登録に来た、と? それで、お前そんな貧弱のクセに冒険者になろうなんて、ナマ言ってんだ。ナメてるの? バカなの?

 ……て、事か? 流石に傷つくわー。


 驚いた後のシャラさんは、微かにうつむいてしまった。おそるおそる、正にそんな感じでこちらを伺ってくる。


「じゃあ、やっぱり。……あのお話は本当だったんですね」


 出来れば嘘であって欲しい。そんなニュアンスに聞こえた。

 ……え、何だ? なんか、嫌な予感がするが、聞かないわけにもいかないだろう。


「あの話って、どんな?」

「ええ~と……。ディオさんが、幼い子供の奴隷に手を出して、ラングスタを追い出されたって話です」

「……はい?」


 とんでもない噂に、頬が引きつる。


「えーと…………マジ?」


 おい、どっから、どうして、そんな噂が出た?! ざっけんな!!

 挙動不審に、辺りを伺ってしまったのは仕方ないだろ! 今の話、俺ら以外に誰も聞いてねぇよな?!


 まあ、入り口も入り口。普通の冒険者なら奥のカウンターにまっしぐらだから、ここらに人が留まる事すら珍しいけど!

 いや、シャラさんはホントに美人だぜ? ただ、長くここに居座る事を、このヒトは良しとしない。

 にっこりと笑う姿は、綺麗なのに迫力があって。なんというか、逆らうと恐ろしい事が起こる、と、暗に言われている気がしてならなくなる。だから、大抵は流れるように奥へと通されるのだ。


 じゃ、なくて!!


 風評被害は、前世のネット並みに質が悪いんだぞ?! 口伝てに広がるから、尚更な!

 ……は! 落ち着くんだ、俺。これはきっと、何かの試練に違いない。


 そうだ、そうに違いない!


 こほんと、一つ。咳払いする。

 俺は成人とっくにしている社会人だ。こんなことに、動じたり、しない!


 ――――既に動揺しまくりだって? そこ、少し黙れ。

 俺は、物事に動じない、大人。物事に動じない、大人!



「えーと、誰がそんな事言ったのか、聞いてもいいかな?」

「ああ、それは――――」


 困ったように視線を流す先は、奥へと続く左手の扉。……言いたいことは、何となく解った。

 この先にいるのは、クソジジイ、ただ一人だ。

 クソジジイはクソジジイ、ギルド長やってるクソジジイだ!


 くそっ! 一回呪われろ!


 なんて、出来もしない殺気を飛ばしてみたら、噂よろしく、その扉が勢い良く開けられた。


「よお、ディオ坊! 来てたのか! お前()()()ガキに手を出したって聞いたが、本当だったらしいな!」

「やっぱりあんたの仕業かよ!」


 開口一番、そんな事を宣ってくれるから、つい、勢いで受付のカウンターを叩いていた。だんっ、と音を立てても、シャラさんすら、怯んでくれない。むしろ、涼しい顔で笑ってらっしゃる!

 神・々・し・い・ぜ!


 唯一、後ろでラズが俺の後ろで身を縮めていた。…………くっ!


「ってか、ついにってなんだ、ついにって! まるで、そもそも可能性があった、みたいな言い方はやめろ!」


 そんな事を訴えれば、ひょいとその眉が跳ねた。


「ん? 違うのか? よく、ギルドに届けてくる奴隷のガキ共は、引き渡された後の主人に、お前に特別優しくしてもらったって、嬉しそうに話してるぞ?」

「誤解にも程があるだろ! てか、誤解を生む言い方を今すぐやめろ! 俺はノーマルだ! 第一、商品の面倒を見るのは当然だろうがボケジジイ!」


 ぼすっと。その憎たらしい程筋肉のついた腹にかますのは、貧弱パンチ。


「っ~~~~~~!!」


 その痛みに悶えるのは、当然俺の方で。

 なんだよ、なんでだよ! 俺がどんなに鍛えてもつかなかった、シックスパック! カウンター機能でも付いてんのか? 殴った俺の手の方がいてぇよ!


「ははっ、効かねえぞー。相変わらずだなあ。いやな、お前さん仕事の時は愛想のいいすかし笑いしてるから、てっきりそうだとばかり思ってな」


 ついでに心も痛い!

 すかし笑いって酷い! …………酷い! せめて営業スマイルって言えよ!


 あれ、おかしいなあ。()()視力が落ちたのかな、視界がぼやける。

 ……泣いてない! 断じて!


 だん! と。悔しくて、言葉なく、カウンターに頭打ち付ける。

 くそっ! なんで俺はこんなに貧弱なんだ? くそっ、くそっ!!


 ……なんて、打ち(ひし)がれていたら、グローブみたいなでっかい手が、頭の上に落ちてきた。降りてきた、じゃなくて、落ちてきた。平手もいいとこ。

 いてえ。


「ははっ、泣くなよディオ坊。男は筋肉と頼もしさだけじゃねえぞ?」


 つまり俺は、貧弱で頼りにならねえってか? あ? 余計なお世話だっつの!


 このクソジジイが。力加減間違えてやがる。慰めたかったのだろうが、俺の頭を余計にカウンターに押し付けてるだけだ。いてえっつの!


「……いっぺん死ね、このクソジジイ」

「お前はどうしてそう、日に日にスれていくかなあ」


 哀れみの目を向けられて、余計に癪に触る。

 なんだ、これ! なんだこれ!


 理不尽……そう、正に理不尽だ!!


 あーもう、何なんだよ! 世間は俺に、冷たすぎる!!

 生暖かい目を向けるんじゃねええ!!

 

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