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木の実に転生  作者: B.Branch
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序章

今日、私は肉を買った。

高級肉だ。

和牛・・・極厚ステーキ肉だ!!牛!!

何か月ぶりだろうか。

いや、こんな高級牛肉を買ったことなどない。

しかも、牛肉もいつぶりか覚えていない。


親元から離れた一人暮らし。

学費を出してもらい生活費は自分でと切り詰めた家計。

牛肉など夢のまた夢。

しかもなんと今日は黒毛和牛極厚サーロインステーキ肉なのだ!!


我慢したのだ。

しかしダメだと思うと更に食べたくなるのが人の常。我慢に我慢を重ねたリバウンドは激しく、本日のA3ランク黒毛和牛となった。A5は高過ぎた。


心躍る体も踊る。

かなりの痛さを発揮し、くるりと回転する。

歌も口ずさんでいたかもしれない。

そんな頭にお花畑を咲かせた私に、悲劇が襲いかかる。


「え?ぐわっっ」

すっ転んだ。

ゴツッッ!!


周りが騒がしい。誰かが叫んでいる。サイレンの音が・・・











「はい、並んでくださ~い」

「え、はい」

白い空間。たくさんの人が並んでいる。


「はい、引いてください」

青い四角い箱を差し出される。

くじ引き?

よく分からないまま箱の中から青い紙を一枚取り出す。


「はい、次はこちらです」

赤い箱から赤い紙を取り出す。

「はい、では隣の受付へどうぞ」

隣を見るときれいなお姉さんが手を差し出してくる。


「紙をお預かりします」

「あ、はい」

お姉さんに紙を渡す。

赤い紙を開き、名簿のような冊子に何かを記入する。

紙を開いた時、お姉さんが微かに目を見張ったように見えたが、気のせいだろう。

次に青い紙を開く。


「ん?」

お姉さんが固まる。10秒。

「し、少々お待ちください」

お姉さんが走り去っていく。


取り残された私は辺りを見回す。

白い空間。たくさんの列に並んだ人々。

みんなクジを引き受付に行く。


『お!俺次は女子だ!』

『ふむ、儂は・・・セントクリストファー・ネイビス?なんじゃそりゃ?』

『白紙・・・くっ』

『私は・・・』

『僕は・・・』

クジを引いた人々の悲喜交々なざわめきが聞こえる。


「お待たせしました、こちらへどうぞ」

お姉さんに促される。

「あの・・・」

ここどこっていうか、何っていうか、どういう状況?


私の戸惑いを見てお姉さんが口を開く。

「神界です。あなたはお亡くなりになりました」

淡々と告げられる。

「え?」

「今、来世のクジ引き中です」


え?私死んだの?来世?クジ引き?

短い言葉に受け入れがたい情報が詰まりすぎている。

あと何だろう?記憶の片隅に何かがこびりついている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「肉!!」


「こちらへどうぞ」

お姉さんが突然叫んだ私を放置して案内を再開する。

「肉・・・」


呆けた私を無理やり歩かせ、分厚い扉の前に連れてくる。

お姉さんがノックすると、中から入室を促す声が聞こえる。

「どうぞお入りください」

扉を開けて私を中に掘り込み、お姉さんが去っていく。


パンッッ

突然鳴り響いた音に、驚いて前を見る。

「おめでとう!選ばれしものよ!」


目の前にはクラッカーを持った髭の老人。

「きみは選ばれたのだ!来世は異世界に転生じゃ!」

「異世界?」

「そうだ!空間座標No.4989-5963の黄金の実に転生じゃ!!」

「黄金の実?」

「うむ、希少な世界に1本しかない木になる実じゃ」

「木になる実・・・?」

「そうだ!とてもとても希少な実じゃ!!」


つまり、木の実に転生?

木の実って生きてなくない?

虫とかもちょっとって感じだけど、木の実って転生するようなもの?

ハイテンションな老人の方をうかがうと目が合う。


じーーーーーーーーーー

老人が僅かに目をそらす。

怪しい。

わざとらしい木の実賛美とハイテンション。

つまりは・・・


「何かやましいことがありますよね」

私は直球を投げた。

きょどる老人。

「い、いや?うむ、なんじゃな・・・」


じーーーーーーーーーー

「すまん!手違いじゃ!冗談じゃったんじゃ!!」

老人が開きなる。

おい!!理由が冗談だったって何!?

老人が尚も言い募る。

「クジを作る時にちょっと紙が余ったから冗談での、混じらないよう避けておいたんじゃ!誰じゃ混ぜたのは!きちんと叱っておくので安心せい」

ふむ、と威厳を漂わせて老人が頷く。


「自分は悪くない風にしようとしてます?」

誤魔化せると思ってるのかこいつは・・・こいつは、そう多分神というやつだろう。流れ的に。

「クジ、引き直したいんですけど」

私は当然の要求を口にした。


「無理じゃ、クジは一度しか引けん」

神が厳かに言い放つ。

「は?あなた神でしょ?違うの?」

「そう、儂は万物の創造者全知全能の神じゃ!!」

胸を張る神。

「じゃあ、出来ますよね!?」

「これは世の理。曲げることは叶わぬ」

「神っぽいこと言っても誤魔化されませんよ!!」


にらみ合う二人。

「分かった。空間座標No.4989-5963は魔法が使える。特別に魔力を多めにしてやろう。特例じゃぞ」

「木の実に魔力が多くても仕方ないでしょ!?木の実よ、木の実!!」


馬鹿じゃないのこの神!!

動けないどころか喋れないし生きてさえないし!!

木の実に魔法が使えるわけないでしょ!?


「よし、ではそういうことで、さらばじゃ!!」


神は勝手に話を終わらせると、杖を一振りした。

全身が光を帯び、光に溶けるように体が消えていく。


「ちょっと待ちなさいよ!!」

ひらひらと手を振る神が視界から消え、意識も光に溶けていく。


「ありゃ、記憶消すの忘れた」

神が呟いた。

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