表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショコラの盗人

作者: 豆助

本日俺は盗み出す。

かの最高級品、「カカオ」で製造された「チョコレート」を。

表社会の市場でも、裏社会の市場でも姿を見せたことのない「チョコレート」という名前の存在。

作り手以外知ることのない製造方法とその姿形。

謎に包まれたそれに、多くの者が期待と想像を膨らませる。



、俺たち盗人にとっては又と無い活躍機会。

だが、注目しているのは俺たちだけではない。

本日開催される「チョコレート」のお披露目会には、世界各地から多くの人が集まる。



現時点で分かっている「チョコレート」の詳細は、食べ物の甘味であるということ。

だが、この情報を知っている奴はほとんど居ない。

何故なら、情報通なこの俺もつい昨日知ったばかりだからだ。



背景情報しか説明していなかったが、今俺はお披露目が行われる会場にいる。

どうやって侵入したかって?

それは普通に入口からだ。決まっている。

今回の警備体制は、何時もと比べ物にならないくらい厳戒態勢になっているからだ。

だから、裏から侵入して捕まる危険を犯すまでもない。

それに俺自身、もともとお披露目会参加への招待状を正規ルートで入手していたから、会場に入ることはそれほど苦労していない。

俺が何者かってか?


それは…ノーコメントにしてくれ。

盗人がやすやすと人に己の情報を漏らすかって、なあ?

付け加えて言えば、他にも多くの同業者がここに侵入しようとして裏ルートが混雑してそうな予感がしていたからでもある。



・・・うむ、ようやくお披露目が始まったようだ。

布がかかっているガラスケースの中に「チョコレート」があるようだ。




ああっ?あれがそうなのか。

銀色の包み紙、おそらくアルミだろう…に包まれた板状の茶色い固形物が「チョコレート」なるものなのか。

本当にあんな物が甘味であるのか。

まあ、いい。

とにかく私はあれを盗もうではないか。



っ、おっと。しまった。

気後れしたせいで他の奴らに後れをとったようだ。

俺は天井の照明が消えたことで真っ暗になり、人々がパニックに陥っている声をBGMにしながら会場を後にした。



これは予想内のうちだ。

さあ、ここからがショータイムだ。




・・・とは言ったが、それほど華麗なことを起こすつもりはない。

俺はただ、会場の外まで誰かが「チョコレート」を持ち出すまで何もしないつもりだ。

誰かが持ち出したところを奪うつもりだ。

卑怯だってか?

盗人は皆そんなもんだ。

俺のほかにもそれを狙っている奴らが居ることはすでに分かっているが、俺が一番危惧しているのは会場や敷地内の警備だけだな。

外で狙う他の奴らには一応警戒しておくが、俺にはそれほど脅威に感じない。

なぜならば、俺は「チョコレート」を誰かに売ろうなどとは最早考えていないからだ。


まあ、なんというか…あの「チョコレート」の正体を見てそれほど魅力に感じなくなってしまってなぁ。

どうせなら自分で食べてしまおうと考えた。


甘味に目がないわけではないが…もちろん嫌いではないし、好きな方d…ゴホン、この話は置いておいてくれ。




・・・ようやく出てきたな。

俺は、奴の前に現れた。

会場を出たことで少し緩んだ奴の顔が驚愕で歪む。

それに対し、俺は菩薩みたいに慈愛を含んだような笑みを浮かべた。

もちろん、本当に慈愛などという感情はもっていないが。

ほらほら、奴の顔が百面相のようにコロコロ変わって面白い。

俺は優雅にお辞儀をし、他にも居るであろう盗人たちの視線を無視した。

それでは、俺による戯曲を始めようではないか。




「Hola,ここでお前はジ・エンドだ。」







あれから数時間後、俺は無事「チョコレート」の略奪に成功し、自分の家兼アジトでくつろいでいる。

濃いエスプレッソの香りと味を楽しみつつ、盗んできた「チョコレート」を手に取った。

鼻を近づけるとほんのり香る甘い香り。

魅惑的で、言葉にしがたい香りを放つ「チョコレート」に俺は目を見張らせた。


そこで、少しだけそれを割ると口に入れた。

入れた瞬間、口の中に溶け広がる「チョコレート」の独特な甘味と、ほろ苦さ。

始めて味わう「チョコレート」に俺は舌鼓を打った。

残りが半分になるくらいまで無我夢中で食べた。



貴重な「チョコレート」の味をもう少し堪能していたかったが、俺は残りのエスプレッソでそれを流し込んだ。

少し、味がしつこかったからな。

部屋に残ったのは、残りわずかとなっていた「チョコレート」と、ほんのりとした甘い香り。




俺は唇についた「チョコレート」の残りを舌でぺロリとなめると立ち上がり、満足げな表情で薄暗い部屋の奥へ歩いていき、姿を消した。








部屋に置き去りにされた「チョコレート」の銀の包みに、ちょうど部屋の照明が当たっている。

そこには『ショコラ』という文字が書かれているのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ