瑞樹アウトー
▲▲▲下校中のささやかな復讐の因果▲▲▲
時はすっかり進み、空は茜色
六月の夕方は肌にじわじわとくる暑さがある
まだまだ夜には長いな
ここは通行の少ない裏路地
結構狭く、大人が八人ほど横に並んだら道を塞ぐくらいのキツさ。
狭くないな。
そこから醸し出される人を寄せ付けない独特の雰囲気で狭く感じてるだけだ。
まぁ一方通行だな
良く言えば混むことがないので速く帰宅可能
悪く言えばヤバい奴の出没スポット。
近頃変質者が出るらしいとのことで第一種要注意危険区域となっている(ヒロ調べ)
やだね変質者。駆逐したいわー
だからこの道はなるべく通らないよう先生から念を押されている。
特に女子はかなり危険だ、うちの学校は美人が多いからな。
食べられないよう気をつけよう。
この道を通って帰宅する学生と言ったら俺とヒロぐらい
「そういや、お前が昼休みの時に言ってた死ぬ程胸が痛いのくだりは結局なんだったんだ?」
みなさんはこのくだりをつい先程のことだと思っているようだけど、こっちとしてはあれから結構時間が経っている。
しかも体力も消耗している。
体力消耗の理由は至って簡単単純明快
午後授業と言う睡魔の魔性地帯に居たからだ。
その狂気に耐えながら過ごした二連続授業
気力も体力も空っきしよ。
でも不思議なのが、授業が終わるとあんなにヤバかった睡魔が消えるってこと
どんだけ〜よ。
凄かったよあの場面は
みんなこっくりこっくり首降ってつまんねー授業受けてると思ったら、授業が終わると分かるや次々に首が上がってくる。
上がって来なかった奴も居たけどそれは論外だ
ホントに不思議な力よ、時間制限みたいなのがあるのかな?
一定時間経つと自然に目が覚めるみたいな
そんなことをボーッと考えていた俺の疑問を聞いたヒロは
「それはギルガメッシュとイフリートの激突の因果さ・・・」
目をつぶり余韻に浸るギルガメッシュ
爽やかに言えたと思っているようだが全然だぞ、明らかに引くぞ。
意味深風に終わらせたぜとか思っているようだが皆無だぞ、意味不明だから。
「ふふふ…はははははははははははは!!」
こういった変質者が出没するからこの裏路地を使用する奴がいないんだよギルガメッシュくん。
むしろ、こいつが近頃出没する変質者の正体なんじゃないだろうか
変な高笑いを冷たい流し目で見ていた俺
それに気付いたのか、ギルガメッシュは咳払いをして誤魔化す。
「えーと、瑞樹くんよギルティーな行動はつつしむように」
上から目線なのは癪に障るが、これもヒロの愛嬌と見てとってかかる様なことはしない
物理的にも、身長はヒロの方が15センチぐらい高いし
俺はクラスでも背の低い方じゃない、確か俺は170センチだった気がする
それより15センチもでかいヒロが規格外なんだ
高1で185センチって・・・
絶対ヒロの成長期は終了したな
これ以上伸びたら俺が許さん
とまぁ、切実なる俺の願いを叶えてくれる神様はいるのでしょうかね。
妬みは醜いな・・・
「おい、何妬みは醜いな的な顔してんだよ」
・・・もう疲れた
ヒロの心を読む問題はスルーして
「結局昼休みのは何だったんだ?」
と何気なく路線修正する
「あ〜その話ねごしえーしょん」
「そう、その話ですとらっぷ」
「誰がスクラップ工場勤務のスクラッター田部井だ!!恋愛の神ヒロだぞ!!!」
「それで?」
別にヒロの変態じみた話を聞きたいわけじゃないんだけど、むしろどうでもいいの極みなんだけど
一度聞きたいって思うと何か知りたくなるんだよな不思議だな
「俺さめっちゃ胸が痛かったんだよね、これは何かの因果なのかぁぁァぁぁぁ!!とか思う程に痛かったわけよ」
「それで?」
でもめんどくさいよ、ヒロの言葉にいちいち反応するのは、骨が折れるって言うのかな
「で、戻るのは過去のお話になるわけーなーのーよーっこらどっこいせめんと工場、って誰がセメント工場勤務のセメライター所長だよ!恋愛祈願の申し子ヒロライターだろ!!」
「それで?」
だからあんまり会話らしきものはしないと思うので、そこのところを了承して下さいな
「ギルガメッシュとイフリートは戦って勝ったんだわねこれがまったく」
うんうんと得意げに首を上下させるヒロ
説明下手だなこいつ、どっちが勝ったんだよ
「それで?」
「それで、これはユーちゃんに避けられていることへの裏返しなのか、ユーちゃんを想う気持ちが俺を苦しめているのかって、ちょっと嬉しかったな」
なにが嬉しいのかサッパリだ
もしかしてMなのか?
「それで?」
「勝利したイフリートは永眠した姫様アンジェリカの墓標をたててあげたんだわ・・・」
へーいいやつだなイフリート
「因みにこれはギルガメッシュに勝利した賞金でたててたやつなわけ、ここ重要」
これほどどうでもいい情報はなかなかないと思うぞ
「それで?」
「因みにギルガメッシュとイフリートはアンジェリカを巡る死闘の果てに見た何かがあったんだ」
あれ、アンジェリカ生きてたの?墓標は?
「アンジェリカ俺、勝ったよ・・・ギルガメッシュに勝ったんだ・・・でも自分に負けちゃったな・・・」
感情移入しながら語り出す
「君との思い出が今は胸を苦しめる・・・君との思い出が・・・」
やっぱりアンジェリカ死んでたのか
御愁傷様です
「ギルガメッシュを倒した賞金で墓標をたてるなんて皮肉だよな・・・アン」
まぁ確かに皮肉だよな
アンジェリカを愛していた2人の死闘のはてに賞金がかかっていたんだから
その内の死したギルガメッシュのお陰で墓標がたてられた
どちらが勝っても負けてもアンジェリカの為とは言え、2人がアンジェリカを想っていたは言え
アンジェリカには皮肉に思えるのだろうな
「俺はお前と一緒にいたかった、お前も俺と一緒にいたいと何度も言ってくれた。だからギルガメッシュと戦った。最大の敵であり最高の友であったギルガメッシュと・・・」
敵と書いて友と読む、か
「アンジェは自分の人生が呪われていると言ってたよな…決して弱音を吐かないお前が始めて見せたの心の声….その時に俺言ったよな…..呪いは俺が引き受けるって…その約束は結局守れず仕舞いで…アンジェの言った通りに結末はバッドエンドになっちまった…..いや、俺が不甲斐なくて俺がバッドエンドにしちまったんだ…...こんなのじゃ死んでも浮かばれないよな…」
彼女の死がイフリートを悲観させる
「いつだってジェリカは最善の選択をとってきた、そのお陰で姫様の君といられた
だけどこれが最善の選択だって言うのなら、俺は許せない、こんな終わり方を選んだリカを・・・」
呼び名が一々変わることに関しては
聞かないでおくか
「お前が選んだ選択は俺を悲しませた・・・お前が選んだ選択は・・・お前しか救われないんだよ・・・いつまで経っても俺は前を向けないんだよぉ!!!ぁぁぁぁ…」
泣き崩れるイフリート
虚勢を張って荒上げた声で涙腺が決壊した
止めどなく溢れる涙
心に溜め込まれた思い流れているようだった
「なんでこんなことになったんだぁ・・・
どうして世界は君に重荷を背負わせるんだ・・・何の因果で戦ってたんだよ・・・どうして世界はこんなにも辛いんだよ・・・」
いつまでも涙を流す、その行為が彼を救うのか
または淀ませるのか
前を向くことを拒む彼にとってはこの二つの選択肢を出された場合、後者になるのだろう
「復讐してやる・・・」
ふつふつと浮かび上がる怒り
「復讐してやる・・・」
行き場のない心は誰かにぶつけ鎮めることしかできない
「こんな大政を作った王を・・・こんな世界を形作る人間を・・・」
傲慢たる怒り、轟々《ごうごう》たる眼光
それらが彼に前を向かせる
明日を生きる目的とする
「この世の中に復讐してやらるぅあぁぁあがぁぁぁぁがァぁぁぁ!!!」
この叫びの矛先は世界
自らの空いた心を埋める感情
これが成就された時には彼の心は何で埋まっているのだろうか
喜びか
怒りか
哀しみか
楽しみか
未来は誰にも分からない
なら進むしか道はない
どんな理由であろうと進まなければ心は埋まらない
何で埋めようとも関係ない
今の彼にはアンジェリカの死を振り払う狂気がある
自らを駆り立てる狂気がある
「アンジェリカいや今はギルガメッシュと呼ぼう」
あれ?さらっと重大なこと言わなかった?
今はギルガメッシュと・・・あれ?
「ギルガメッシュ、お前の意志は受け継いだ、戦士としてのお前の意志を
アンジェリカ、お前の死で俺は復讐を決めた、お前の選択が俺を怒りで埋めた
ふっ、お前を殺した俺がお前に後押しされるとは皮肉なものだな、これも何かの因果なのだろうな。俺は姫であり戦士であったお前を否定はしない。だがそんな二面性を持つお前に二つの生き方をさせた世界を否定する、俺はお前を肯定する」
まさかの二重人格⁉
姫様二重人格だったの⁉
「そして俺は力強く一歩を踏み出した
アンジェリカとギルガメッシュ、二人の墓標を背に向けて・・・。その背中に語りかける者は誰もいない。復讐と言う、力を携え新たな旅路を歩む。そして世界に仇をなす戦いが今、始まる!!」
「・・・・・・・・・」
終わった?
イフリートはやり切った感のある顔で正面を見ている
終わったか
何か最後ごちゃごちゃしてよく分からなかったな
姫様二重人格だったし、続編がありそうな終わり方させたし
二期とかあんのか?一期ないのに
ちょっと気になるな
「これがイフリート、ギルガメッシュ、アンジェリカの復讐の因果さ・・・」
ヒロは正面を向いたまま語りかける
おお、何か知らんがちょっと様になってる
ヒロはおもむろにこちらを向き
「で、繋がるのが昼の胸が痛いの奴だよ」
あ、そう言えばその話ししてたのか
すっかり頭から抜け落ちてた
「どんな繋がり方があるんだ?」
「それはだな」
指を立てるヒロ
勿体ぶる気か?と思ったがそのようなことはせずに答えた
「イフリートは戦いの中で自ら愛する人を殺した、そうするしか道はなかったんだけどな」
あぁ、ギルガメッシュ状態のアンジェリカを殺したって訳ね
「イフリートはその損大な悲しみと苦しみで胸が痛くなった、愛する者の金で愛する者の墓を立てる、どうせなら自分が死ねばよかったって、なんで生きてるのが自分なんだって」
皮肉ってこういうことか
「俺はユーちゃんに避けられた悲しみじゃなくて、ユーちゃんに嫌な気持ちをさせたのが自分だってことで胸が痛くなったんよ」
あーなるほどね、確かに関係性はあるな
どちらも愛する人を視野に入れて考えている
自分が嫌だから悲しむのじゃなくて
愛する人に対しての想いから
自分のせいで愛する人を殺してしまったと
自分のせいで嫌な気持ちをさせてしまったと
相手を中心に考えているからこその胸の痛みだったのか
イフリートとヒロって似てるんだな
何か感心してそんなことを思っていると
「ってゆうのは俺の勘違いで、飯食ったら痛くなくなったんだよね、原因は腹が減ってただけでした」
それから俺は家に帰るまでの15分を無言で過ごした
▲▲▲▲▲ご帰宅のひと時▲▲▲▲▲
愛しの我が家へやっと帰ってこれた
無言って結構きついのね、危うくヒロに話しかけそうになったわ
意地でも話さなかった俺の雄姿は褒めたたえるほどだよ
今、俺の目の前にたたずむ二階建て住宅
お分かりのようにここは自宅
俺の記憶では50坪だと言っているので、多分この家は50坪なんでしょうな
どうでもいいか、どうでも情報か
とにかく平屋建てじゃないから、二階建てだからな
そこの違いはかなりあるぞ、金持ちの境界線だ
磯野さん宅はとっても金持ちよってこと
ちなみに俺は今、この二階建て住宅に二人で暮らしている
両親が早いころから離婚して俺は母親に引き取られた
じゃあ今は母親と二人暮らし?
違うぜ違うぜ大違い
母親は出稼ぎに行ったきり帰ってこない
どこでなにしてんのか全く分からない
便りがないのはなんちゃらほい
適当に金が振込まれるから生活はできてる
音信不通でも生きてんなら別にいいしな
妹もいるよ、どっかの中学で寮生活
家に来るのは夏休みぐらい
で、かれこれ3年、俺はこの家を相棒にしてきた
ここまでくると生活のスキルが勝手に身についてくる、今じゃスキルポイントが余って余って逆に困ると言う境地
振り分ける枠がないのに悲しみを覚えるよ
さて、簡単な説明会は終了
まだまだ全然説明したりないんだけど、家に入って一息ついたらまたしようかね
「ただいま〜」
玄関に入った俺はまず一言、これも二人暮らしだからこそ言える言葉よ
寝てんのかな?
返ってくる言葉はない
まぁ、それが普通の毎日だったから別に気にはならない
俺は階段を登る
ずっと一人暮らしだった俺には自分の部屋を使ってなかったんだけど、二人暮らしになったおかげで使う様になってきた
その分、活動は制限されたんだが、何か自室を真面目に使用している事に妙な喜びを憶えている
部屋に入ると目に映るのはベッドとテーブルに山積みにされた教科書類、あとタンスもあるな
それだけある簡素な部屋だ、使用してるって言ったけどぶっちゃけあんま使用してない
ここでやることは手提げカバンをベッドに放り投げて、ジャージに早着替え
それだけして後は寝るしか用のない部屋
改めて思った、この部屋必要ない!
俺は部屋を出て一階に向かう
この家の居間にな
居間にある物、それはズバリ
薄型テレビ、四角のテーブル、横長のソファー、床を覆うカーペット
そしてこの家に住む同居人
最後の奴以外は普通な物で構成されている家の中枢部居間
その居間が一人の少女に独占状態だ
少女はあぐらをかいてテレビを正面に視聴中
背中にはソファーがあり、それを背もたれにしている
それならソファーに座れよ、わざわざ床に座るなよ
使用目的はあってるけど、使用方法が違うわ
片手にはリモコン、もう片方は美味しい美味しいほうじ茶入りのコップだ
少女の容姿でまず始めに思ったこと
髪しろっ!
銀髪ではなくて真っ白な髪
色素どこやった?的な白さだ
少女が動くたびになめらかに揺れるその様は「手入れが行き届いてんな〜」とつい感心してしまう
あ、ちなみにツインテールです。
激かわゆすです
「おかえりー」
テレビに集中している少女はこちらを見ずに言葉だけを返す
かわいいな〜
俺にとってはとても新鮮なことだ、帰ってきて誰かがいる、家の中で挨拶ができるってな
少女の容姿説明
髪はもういいか
顔はかわいい、美人って言うより美少女って言う方が似合っている
目が冴えるような青の瞳、見つめられたらノックアウトだ、見つめられたらな
肌は白く美しいわー。日焼け知らずかね
胸は慎ましい方、それが美しいラインを作っている
服は『ダイナソー』と書かれた迷彩柄のTシャツに、太もも露出度超高ズボン。ショートパンツより短いな、何パンだ?
足きれいなのがよく分かる
「ミズキー腹減ったんですぐさま飯の準備を」
やはりテレビを見ながらの言葉
まぁ、いいけどね
「何か食いたいのあるか?」
少女はその言葉に反応
「寿司!!」
手を垂直に上げ「先生!!」と言わんばかりの威勢のよさ、言ったのは寿司だったけど
「寿司?せめて俺の作れる料理にしてくれ、出前とらなくちゃなるだろ」
「じゃあ、ふりかけで」
振り幅でか!!
寿司からのふりかけて何ぞ⁉
ま、まぁ、いいけど
でもふりかけじゃさすがにちょっとなー
と一人ふける
しょうがない寿司とるか、今日は相園と一ノ宮と友達になれたし、その記念ってことで
あ、一ノ宮って知らないよな、そこは表記してないし
簡単に言うぞ、相園の嫁を言い張る変態女だ以上
テレビに没頭する少女、バラエティ番組を見て爆笑中、そんなに面白いか?
そんな少女に
「今日は寿司だ」
俺はさらっと告げ
「きた〜!!」
少女は盛大なガッツポーズ
現金な奴め
「この御恩は半日憶えておきますですます」
「せめて一日にしてくれよ」
「私は嘘はつかない主義だからな、いいだろ〜 」
なにがいいのかさっぱりだが、本人がいいのならいいのかな
「今日はラッキーデイだーなはははは」
かわいいな〜
見ていてポカポカする笑顔を向けてくれる
こんな笑顔をくれる人は彼女以外にはいない
俺はその笑顔で心を癒し、すぐさま携帯をセット、寿司屋に向けて出前をとる
「私にやらせて」
え?なに急に
「いいけどできるのか?」
「バカにするなー!いいから貸せ!」
少女は立ち上がり俺の携帯を奪い取る
え?なに急に
かわいいけど
鮮やかな早打ちで寿司屋に電話する、知ってたのか電話番号
「あ、これから出前とるけど、いいよね、ダメだったらミズキに文句言って」
ひでーな、新手のクレーマーか
「プロの並と、アクティブの並、なる早で、なるべく速くで」
アクネ菌対策っすか
最近の寿司はネーミングが斬新ですね
少女は携帯をぽいっと放り投げて再び座りテレビ
俺は携帯をナイスキャッチ
俺もやることがないので少女の左側に腰を下ろす
テレビを見るには首を曲げなきゃいけないポジション
まぁ、曲げなくても見えるけど、横目だから疲れるんだよね
気づくと番組が変わっていた
この娘は我が家を謳歌していらっしゃる
「そこだ!いけ!ってそこじゃダメだ!行ったらクロスカウンターが!
おお!セーフ危なかった、さすがベンジャミン・フリークス
相手弱ってるぞー りーりー
あ!今だ!攻めろ攻めろ攻めろ攻めろ攻めろ!
ジャブジャブジャブジャブジャブジャブラニ
ストレート!みぞおちに地獄突き!ジャーマンスープれっっくすぅ!からの〜ベンチプレスぅぅぁあ!!昇天必至ペケ十字ぃぃ!!」
ベンジャミン容赦ねーな
「腕ひじきぃぃ!」
言い間違えるって誰にでもあることだ
拳を震わしながらテレビ実況をしとる少女の名前、まだ言ってなかったよな
この少女の名前はアマテラス⇔ナイトアージェルート
通称白巫女だ
名前についてる『⇔』ふざけてないからな、本名だ
ってかこんな戸籍おかしいわな『⇔』だぞ
どうやって読むんだよ、往復すんのか?
俺は彼女を『ミコト』と呼んでいる
何せ『巫女』だからな
ちなみにプロローグで俺と何か話してたヤツはミコトだから
はい、どーでも情報でしたー
この名前から分かるようにミコトはこの世界の人間じゃない、正確にはこの“次元”の人間じゃない
『ゾ〜ル』って言う異界から来たらしい
話すと長くなるんだけど、寿司が来るまで時間があるから話すか
今は六月だから一ヶ月か、ミコトと出会ってもうそんなに経ったのか
俺は一ヶ月前のこの家この居間でミコトと出会った
そりゃもう突然、家に誰かいるって分かったのは居間に行ってからだ
何かソファーでぐったりしている巫女装束の白い少女、それを見た瞬間に俺は見知らぬ人間が家にいる恐怖より先に『かわいい』と素直な感情を感じた
しばらく観察していたが状況は一向に変わらず
不動な少女
生きてるのか?
ま、まさかの自殺⁉
突拍子もない考えが脳裏をよぎる
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
「あの〜どうしました?」
可憐な少女に超勇気を出して話かける
俺が女子に話しかける時点で奇跡なのに、この不法侵入罪及び変質者として起訴されそうな奇怪な服装をした現時点死亡してるかも判断を下した少女に話しかけるなんてウルトラレアだよ
ノーマル、レア、スーパー、ウルトラ、レジェンドの四段階目だよ
白い巫女装束の少女はうんともすんとも言わない
「腹減ったー」
短文言い放ったよこの子、俺のうんともすんとも言わない表現を見事に消しやがったよ
なかなかやるやないか小娘
「腹減ったのか、じゃあご飯食うか?」
俺優しいな、見知らぬ不法侵入変質者白巫女装束一応生きてた少女を無下にせず
ためらいもなく暖かい言葉を投げかけるなんて、成長したんだな
「いいの⁉」
不法侵入変質者白巫女装束少女はぐで〜んとした態度を一変させ元気良く跳ね上がる
その時の髪の美しさ、外から射す夕やけにきらめいて魅せた
それだけで俺はドギマギ状態に陥った
なのにそこへ比類なき真っ直ぐな瞳が重なる
少女耐性のない俺は昇天必至
だがそこは意地で耐えた
これを逃したら、彼女に会えなくなる気がしたから
心のどこかでこの出会いを無駄にはしたくないと思っていたんだろう
たった数分でな
「じゃあ今作るから」
「よーっし、急いでやれー!できるもんなら私の舌を唸らせてみろー!」
わーわーぎゃーと子供のような無邪気さ
「了解、絶品を承りました」
白巫女にウエイトレスを想像させる礼をした後、キッチンへと一直線に歩み料理を開始する
まだ作り出しませんよ
何を作るか・・・
料理スキルは家庭内スキルの中でも上位に位置している自慢のスキルなんで腕には自信がある
飯に飢えた白巫女を唸らせる料理など、たやすくメイキングディナーできるだろ
・・・それにしても不思議だ、見ず知らずの正体不明な女の子に料理をご馳走することになるなんて、しかも自分から
多分俺は、不法侵入と言う立派な犯罪をしでかした白巫女に何か可能性を感じたんだ
きっといいことがあると
俺の人生が変わる何かがあるんだと
出会い方はちょっと・・・いやかなりヤバかったがそれでもこの子と話したいと思っていたんだ
少しでも俺の日常を綺麗にするために
そしてこの料理が勝負だ、これで彼女を昇天させる
絶対成功させる!
と意気込む俺はシンプルイズベストに従い
親子丼でも作ることにする
卵料理は得意中の得意顔のお得意様だからな、まずは卵割で目を引く絶技をお見せしよう
キッチンは居間から見える位置にあるので料理風景は逐一向こうにお届け
「はあ!!」
気合をいれるための一声
卵を両手に一つずつ持ちクロスさせる
そしてその両手を外に向けて振り出す
その一瞬の間で、俺は卵と卵をすれ違いざまに接触させる、つまりヒビを入れる
その一瞬の間で、俺はヒビの入った卵を流れるように開く
その一瞬の間で、割れた二つの殻から出た黄身と白身が両端に設置しておいた二つのボウルに着地する
その間わずか0.01
料理技術もここまで来るともはやパフォーマンスの域に達してるな
どうだこの絶技は
ドヤ顔で白巫女をチラ見すると
見つめていた
「・・・・・・・・」
俺のドヤ顏が凍てついているのが分かる
やっちまった感が俺を蹂躙している
技術は完璧だった寸分の狂いなく鮮やかに決まった
でも・・・あーやっちまったー
白巫女の顔がまともに見られない、とりあえず真上を見て心を落ち着かせる
あの顔は一体何?
なんでそんな顔を向けてんのさ。
表情が凶器になるなんて聞いてないよ。
「・・・・・・・」
確かにさ、ちょっとカッコつけたよ
だって、ね〜、カッコつけたいじゃん
痛かったんだよな。俺って痛かったんだよな。
「ぉわ!すご〜い、どんな技術革新ー」
が俺の望んだリアクションだったのに・・・
・・・ん?このこの声は?
発生源であろうと思われる左横を見ると何故かそこにはあの少女が。
俺をじっと見ていた少女がいる。
今もこちらを見ているのだが表情が違う。
露骨に明らかに違う表情をしている。
なんて言うのかね。好奇心あるよーみたいな表情
目をパチクリさせて見上げている
さっきの表情は俺の見間違えかな?
それにしてもこの子はかわいいな
日本人じゃないだろ、日本人だとしてもハーフ
髪は純白になびき
瞳は空を想像させる
巫女服は少女に幼さを付け加えるが、それも要点の一つ
それを見ていると自分の生きてきた世界が小さく感じた
井の中の蛙大海を知らず
やった、初めてまともにことわざ使えた
これも成長した証かな
「親子丼つくるんでしょ?」
「あ、あぁ そうだよ」
言葉につまったよ、考え事してるとよくこうなるな
「二人でやった方が早く終わるよね」
にこやかに弾けそうな笑顔で
実際は一人の方が早く終わるんだが、そこは言わずに
「ああ、そうだな」
俺に笑顔を向けてくれるだけで俺は惚れそうだよ
いや、惚れるとは違うな
この子を見てると心が安らぐ、灰色の生活に色がつくような気がする
色と言っても真っ白な純粋な色だけど
それでも白になるんだ。
初まりの色。
これからスタートみたいな感じ
「二人で色をつけて行こうぜ」
的な恥ずかしいことは別に言わない
俺の精神環境からでは考えられないし、言うやつはかなりのアホだと判断できる
とにかく俺は誰かと一緒にいたいと思っているんだろうな。なるべく長い時間
だからこの子には離れてほしくない
変態的な意味じゃないぞ
あわよくば家に泊まってもらって夜討しようなんて願望はないからな。
これっぽっちも。
そんなことをしたら一巻の終わりだ。
この子は何か理由があって俺の家を訪ねて来たんだ
不法侵入だけど…そこはまぁ、大目に見るとして。
目的を果たすまで帰りはしないはず。
その短い時間だけでもいい。
俺は彼女といたい。
そして願わくは繋がりを持ちたい。
とポエムにしたら努力賞ぐらいもらえそうな考え事をしている間に
親子丼・完成
時間の流れは早いねー
「早く食べるぞっ!」
両手にどんぶり持って巫女服の袖をフリフリ
それはまさしく見間違えることなく言い間違えることなく
マジ天使ぃぃいぃぃぃぃぁぁァア!!
瑞樹アウトー
視界が上がって行く
あぁ、俺倒れてるのか
それを感知できるほど今の俺は感覚が研ぎ澄まされている
達人ってこんな世界に生きてんのか?
周りが全部スローリー
そして巫女さんも・・・
はは、驚いてる驚いてる
これが人類の行き着いた神秘なのかな
いつまでもいつまでも巫女さんから目が離れない
天使ぃぃぃを見続ける
あぁ、世界よ、俺の目は節穴だった。
この世は可愛らしいもので溢れかえっている。
今更ながらに気づかされた。
思い残すことはなく俺はいける。
思い残すことがあるとすれば・・・
——もっと巫女さんといたかったな。
ゴンっ
その音を最後に
俺の視界は暗闇に紛れた
3話目です。ご視のほどありがとうございます。
今回の話はイフリートのちょっとシリアスなお話と、瑞樹の家でのお話です。
イフリートについては読んでいただけたなら分かるはずですw
瑞樹の家での話はまだまだ続きます。
瑞樹の家の同居人アマテラス⇔ナイトアージェルート
異界からやって来た謎の女の子です
今回の話では深い所まで行きませんでしたが結構設定は練りこんであります。
まだ出していないキャラクターなどもありまだまだ温存中です。
不思議なモノで物語は進まないのにキャラクターばっかりを作ってしまいますw
もう15人くらいいるかもw
そしてそのキャラクターたちの精密な設定とかも作る始末。
でもそこから新しい設定とかができて楽しいものです。
頭の中じゃ物語はできています。プロットとかもできてます。でもそれを文章にするのはやはり難しいモノですね
今回はちょっと瑞樹とミコトの出会いを描いています。
どうなるんでしょうね、私はもうすでに書いてあるので知っているんですがw
あんま期待はしないで下さい。プレッシャーに潰されてしまいますw
前回のあとがきで言いましたが
これはファンタジーです。
ちょっとまだその片鱗は出ていませんがご心配せずに。
ちゃんと出します
あと前回のあとがきで分割できるとこは分割すると言いましたが…分割しました
分割したんですがこの量です
読みずらかったなと思った方、すいません!
別にーって感じの方、本音を言って下さい
オッケーな方、ありがとうございます!
それではそろそろ
次回も読まれる事を願って
ありやとうございやした!!