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Eisen und Blut ~独戦艦『ビスマルク』~

作者: 石田零

 一九四一年五月一七日、ドイツ領ゴーテンハーフェン。

 第二次世界大戦以前にポーランド領であったこの地は、現在、ドイツ領となっている。同地は戦前から大規模な港湾都市として有名であり、ポーランドの降伏後はドイツ海軍の基地として利用されている。

 そしてこの日、コーデンハーフェンの港には、二隻の大型軍艦が停泊していた。

 二隻の軍艦は、遠目には判別がつきにくい形をしていた。艦の大きさはもちろん違うのだが、上部構造物の配置が似通っており、瞬間的な識別を困難にしているのだ。

 しかし、近づいてみると両艦の違いは明らかだった。二隻の間には圧倒的なスケール差があり、それが両者を王と従者のように、明確に区別していた。

 とはいえ、従者の存在感が必ずしも薄いわけではなかった。相対的に低位に置かれているとはいえ、その艦も基準排水量一万トンを超える重巡洋艦であり、軍艦として十分な威容を誇っていた。だが、もう一隻の軍艦が身に纏う雰囲気は、それとは別次元のものだった。

 その艦は、かつて目にした事のない巨大な艦だった。厚い装甲に鎧われた艦体や、堅牢な印象を与える艦橋、そして水平線を睨む長大な主砲……その一つ一つが、他のどの軍艦よりも一回り大きく、また新式であった。そして、それらの要素がバランス良く組み合わさり、強健な軍艦の姿を作り上げていた。

 これが、ドイツ海軍の誇る新鋭戦艦『ビスマルク』の姿だった。

 『ビスマルク』は、再軍備を宣言したナチス・ドイツが計画した二種類目の戦艦、ビスマルク級の一番艦である。

 基準排水量は四万一七〇〇トン。全長二五〇メートル、全幅三六メートルという大艦でありながら、新型の高出力機関により最高二九ノットの速力を発揮する。全長こそイギリスの巡洋戦艦『フッド』に一歩譲るものの、その他の数値は列強各国の如何なる戦艦をも上回る、世界最大の戦艦であった。

 そして、その身に纏う武装も、世界最大の戦艦の名に恥じぬものになっていた。

 戦艦の命ともいえる主砲は、八門の四七口径三八センチ砲。これを四基の連装砲塔に収め、艦の前後に二基ずつ装備する。四基の砲塔にはそれぞれ名前がついており、艦首から順にA(アントン)B(ブルーノ)C(ツェーザル)D(ドーラ)と呼ばれている。

 『ビスマルク』の三八センチ砲は、米英日の主力艦が持つ四十センチ砲に比べると一回り小さいが、砲の特性により近距離戦ではそれに劣らぬ威力を持つ。同艦の縄張りであるバルト海は接近戦が主体であるため、例え口径が小さくとも近距離戦に強い主砲は最適の選択といえた。

 主砲以外にも、『ビスマルク』には多数の砲が装備されていた。その総数は、十五センチ副砲が十二門と、十センチ高角砲が十六門。さらに、艦のあちこちに合計三十門以上の機関砲が配置されている。大小様々な砲を持つ『ビスマルク』は、難攻不落の要塞を思わせる威圧感を湛え、悠然と港に錨を下ろしていた。

 その『ビスマルク』の艦上に、一人の少女が立っていた。歳は十代の前半。十三、四歳といったところだろうか。艶やかなブロンドの髪と、サファイアのような瞳が目を惹く、可愛らしい少女だった。

 少女が立っているのは、『ビスマルク』の艦首甲板だった。その先端、艦首旗竿のある辺りから、少女は港の風景を眺めていた。少女が着用する濃紺色の軍服は、本来彼女のような若い娘が着るものではないのだが、それを身に纏う少女の姿には不思議と違和感がなかった。

 潮香を含んだ風を頬に受け、少女は気持ち良さそうに目を細める。と、一匹の黒猫が、艦橋の方から少女の足元に駆け寄ってきた。

「あら、オスカー」

 猫に気づいた少女は、膝を屈めて話しかけた。オスカーと呼ばれた黒猫は、少女の足に頬摺りしながら鳴き声を上げた。

「こんにちは。あなたも日向ぼっこ? もうお昼ご飯は食べたのかしら?」

 黒猫の顎を撫でながら、少女が尋ねる。オスカーは上機嫌な鳴き声でそれに答える。

「ふふ、よしよし」

 オスカーの愛らしい仕草に、少女は笑みを漏らす。そうやって少女が猫を可愛がっていると、若い男の声が聞こえてきた。

「オスカー!」

 声を聞いた少女が顔を上げると、一人の青年士官がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。少女は青年の姿を認めると、彼の名前を呼んだ。

「ミハエル」

「よっ、エルフェ」

 声をかけられた青年――ミハエル・デュバル少尉は、片手を上げて少女の名前を呼び返す。彼は少女の近くまで来ると、彼女の足元にいる黒猫を抱き上げた。

「まったく、エサも食べないでどこに行くかと思えば……。甘えに行くのはいいが、せめて飯を食ってからにしろ」

「オスカー、まだお昼ご飯食べてないの?」

「ああ。甲板でエサをあげようとしたら、急にこいつが駆け出したんだ。まったく、世話の焼ける奴だよ」

 少女の問いに、ミハエルは溜息混じりの返事をする。それを聞いた少女は、オスカーの額を指で軽く突いた。

「ダメよ、オスカー。ご飯はちゃんと食べないと」

 彼女の言っている事が分かるかのように、オスカーは目に見えて落ち込んだ様子を見せる。そんなオスカーに、少女は優しく微笑した。

「だから、ここで一緒に食べよう? 私が食べさせてあげるから」

 少女の言葉を聞いたオスカーは、喜色を滲ませた声で鳴く。そして、ミハエルの腕を抜け出すと、甲板に行儀良く座ってエサを待つ姿勢を作った。

「よし。良い子、良い子」

 オスカーの頭を撫でつつ、少女はミハエルからエサを載せた皿を受け取る。少女は添えられていたスプーンを持つと、盛られたエサから一口分を掬い、オスカーに与えた。

「はい。あーん、ってして」

 差し出されたスプーンを、オスカーは素直にくわえてエサを食べる。一口、二口と順調に食べ進めていくオスカーを眺め、ミハエルが呆れた調子で言った。

「オスカーの奴、本当、お前にはよく懐いてるよな。さっきも一目散にお前の所へ走って行ったし」

「そうなの?」

「ああ。迷う事なく、一直線にな。まるで、居場所が分かっているみたいだった」

 答えたミハエルは、「やっぱり、動物の方が超自然的なものを感じる力が強いんだろうな」と言葉を続けた。

 超自然的なもの――文脈上、その言葉が彼の目の前にいる少女に向けられている事は明らかだった。それは、彼女が普通の人間ではないと言っているようなものだったが、少女は彼の発言を咎める事もなく頷いた。

「確かに、それはあると思うわ。私の事が見える人は少ないけれど、港のカモメ達は私を見つけて一緒に遊んでくれるもの」

 少女の台詞は、ミハエルの言葉を全面的に肯定するに等しかった。しかし、この場合はそれが正しい応答だった。

 少女は、普通の人間ではなかった。さらに言えば、人間ですらない、ミハエルが言うような、超自然的な存在であった。

 艦魂――それが少女の存在を表す、唯一無二の言葉だった。

 艦魂とは、古来から船乗りの間で伝説として語り継がれている存在である。

全ての船は一隻ずつに魂を宿し、固有の人格を有する。それが艦魂であり、船の守り神として、長きに渡って人々から信仰に近い感情を集めてきていた。

 艦魂の伝説は古今東西に見られ、語られる内容も地域ごとに若干異なる。しかし、どの話にも共通する内容が二つあった。一つは、艦魂を見る事ができる者は非常に稀な事。そしてもう一つは、艦魂は皆、例外なく若い女性の姿をしているという事である。

 もちろん、全ての船乗りがこの伝説を信じているわけではない。この艦の乗組員にも、鼻で笑い飛ばす者や、そもそも艦魂の存在自体を知らない者もいる。しかし、ミハエルに限って言えば、彼はこの伝説を一片の疑いもなく信じていた。

 その理由は、明らかだ。彼の目の前にいる少女――他ならぬこの少女こそ、件の艦魂であるのだから。

 彼女が、ドイツ海軍の最新鋭戦艦『ビスマルク』の艦魂であった。そしてミハエルは、艦魂を見る事ができるごく稀な才覚を持つ人物なのであった。

 艦魂の名前は宿る船と同じであるため、彼女の名前もビスマルクとなる。しかし、その名前ではどうしても別の人物を連想してしまうため、ミハエルは「妖精」を意味する「エルフェ」という名で彼女を呼んでいる。艦魂はどちらかと言うと精霊に似た存在であるから、このニックネームもあながち間違っていないと言える。

 最新鋭戦艦の艦魂とは言っても、エルフェ本人は街を歩く同年代の少女とそう変わらない。性格は人懐っこく、甘いものと可愛い動物が好き。特に、自分を認識できるミハエルには非常によく懐いていた。

「はい、これで最後よ。ちゃんと残さず食べたわね。偉いわ、オスカー」

 最後の一口を平らげたオスカーに、エルフェが笑顔を向ける。そんな彼女を見て、ミハエルは苦笑を漏らす。

「ったく、オスカー相手にはお姉さんぶりやがって」

「むぅ……いいじゃない。それに、私は本当に二人姉妹のお姉さんなんだから」

 茶化されたエルフェは、頬を膨らませてミハエルを睨む。

「今回の作戦には間に合わなかったけど、もうすぐティルピッツの訓練も終わって、次の作戦では一緒に戦えるようになるのよ? 私だって、もっとお姉さんらしくならなくちゃ」

「なるほど。自分が子供っぽいって自覚はあるんだな」

「ううっ、人が気にしてる事を……。ひどい、ミハエル!」

 恨めしげな声音で、エルフェは非難の声を上げる。エルフェはサファイアの瞳でミハエルを睨みつけるが、背丈の関係で見上げる形になるうえ、元が可愛らしい顔立ちのため、ちっとも怖くなかった。

「あっ、今笑ったでしょ!」

「いいや。笑ってない、笑ってないぞ」

「嘘! 絶対笑ってた!」

 ミハエルは笑っていないと重ねて言うが、彼の口角は微妙に吊り上がっており、笑いをこらえているのが見てとれた。それに気づいたエルフェがミハエルに詰め寄ろうとした時、彼らの近くで突然眩い光が生まれた。

 光の中から現れたのは、一人の少女だった。年齢は十七歳ごろ。エルフェと同じくドイツ海軍の軍服に身を包み、腰にはよく手入れされた様子のサーベルを吊っている。整った目鼻立ちと均整のとれた体躯を持つ美少女だが、その現れ方から、彼女も尋常の存在でない事は明らかだった。

「司令。作戦内容について、最終確認を行いたいのですが……」

 現れた少女は、押し問答をする二人を見て言葉を止める。と、少女に気づいたミハエルが声をかけた。

「よう、オイゲン。何か用か?」

 ミハエルの問いに、少女は「はい」と答えた。

「司令と作戦の打ち合わせをしようと思ったのですが……お邪魔でしたら、出直します」

「ああ、平気、平気。別に、大した内容の話じゃなかったからな。な、エルフェ?」

「それを素直に認めたくはないけど……でも、邪魔にはなってないから大丈夫よ、オイゲン」

「分かりました。では、進行は司令にお任せ致します」

「分かったわ。それじゃ、早速始めましょう」

 エルフェはそう言うと、一つ咳払いをしてから口を開いた。

「ではこれより、今回の作戦――作戦名『ライン演習(ユーブイング)』の最終作戦会議を始めます。オイゲン、地図を出してもらえる?」

「はい」

 エルフェの言葉に答え、少女は右手で虚空を薙ぐ。すると、少女が現れた時と同じ光が生まれ、その中から地図を載せた木製の机が出現した。

「最初に、参加兵力の確認から。今回の作戦に参加するのは、私とオイゲン――戦艦『ビスマルク』と重巡洋艦『プリンツ・オイゲン』の二隻。これは、オイゲンも知ってるわね」

「はい」

 エルフェの言葉に、少女――重巡洋艦『プリンツ・オイゲン』の艦魂、オイゲンは、生真面目な口調で頷く。

「次に、作戦の内容について。これも何度も確認したけれど、今回の作戦目的は通商破壊よ」

 そう言って、エルフェは机の上の地図に指を置く。

「ここがゴーテンハーフェン。私達はここから北海を抜けて大西洋に進出し、イギリスの輸送船団を攻撃する」

「大西洋では、既にUボート部隊が大きな戦果を挙げています。我々がそこに加われば、敵商船隊に更なる圧力を与える事も可能でしょう」

「その通り。そしてそれが、海軍総司令官のレーダー元帥の狙いでもあるわ」

 オイゲンの言葉に、エルフェは首肯する。その表情から年頃の少女の面影は消えており、碧い双眸は軍人のそれになっていた。

「問題は、どうやって大西洋に抜けるかだけど……これには三つの選択肢があるわ。一つ目は、グリーンランドとアイスランドに挟まれたデンマーク海峡。二つ目は、アイスランドとフェロー諸島の間。最後がフェロー諸島とイギリス本土の間よ」

「イギリス本土に近づき過ぎるのは危険です。実質的な選択肢は最初の二つと考えるべきでしょう。司令部は、どちらを選ぶつもりですか?」

 オイゲンの問いに、エルフェは眉を曇らせた。

「それが……まだ答えは出ていないの。北部方面司令部は二つ目の案を推しているけれど、艦隊司令官のリュッチェンス中将はデンマーク海峡の通過を考えてるみたい。中将は、前にもデンマーク海峡経由で大西洋進出に成功した事があるから」

「……だとすれば、現場の判断でデンマーク海峡突破が選ばれる可能性もありますね」

「うん……。一応、どちらのルートが選ばれても良いように準備しておいて。私も、方針が決まったらすぐに伝えるから」

「承知しました」

 頷いたオイゲンは、「では、私はこれで」と一礼する。そして、身体から淡い蛍光色の光を発すると、現れた時と同様に光に包まれ姿を消した。

「はぁ……。緊張した」

 オイゲンが去った後で、エルフェは大きく息を吐く。そんな彼女に、ミハエルは隣に停泊する『プリンツ・オイゲン』を眺めながら問いかけた。

「……なあ、エルフェ」

「なに、ミハエル?」

「お前とオイゲンって、艦としては同い年なんだよな」

「えっ?」

 突然の問いにエルフェは戸惑いを浮かべつつも、「うん」と首肯した。

「進水はオイゲンの方が一年早いけど、竣工は同年だから、確かに艦としては同い年よ。……でも、どうして?」

 小首を傾げて、エルフェは上目遣いにミハエルを見る。ミハエルは、ちらりとエルフェを横目に見ると、海上の『プリンツ・オイゲン』に視線を戻して言った。

「いや……その割には随分と落ち着いてるなぁ、と思ってな。……誰かさんと違って」

「……っ! ミハエルっ!!」

 ミハエルの言葉に、さしものエルフェも柳眉を逆立てる。直後、頬を張る音が『ビスマルク』の甲板に鳴り響いた。


「両舷前進微速。これより、本艦は大西洋上での通商破壊任務に就く」

 艦長のオットー・エルンスト・リンデマン大佐の号令を受け、『ビスマルク』はゆっくりと前進を始めた。

 日時は五月二一日の深夜。新月を過ぎたばかりの夜空は暗く、海の上は何も見えなかった。

 三日前にゴーテンハーフェンを出撃した『ビスマルク』は、僚艦『プリンツ・オイゲン』の燃料補給のため、昨日からノルウェーのベルゲンに入港していた。入り組んだフィヨルドの中に身を隠しながら、二隻は一日をかけて長期間の通商破壊作戦に対する最後の準備を行った。

「事前の打ち合わせ通り、本艦を先頭とした単縦陣で進撃する。『プリンツ・オイゲン』にも発光信号で伝えてくれ」

「はっ!」

 リンデマン艦長の意を受けて、『ビスマルク』のサーチライトが明滅を繰り返す。モールス符号に則った信号が送られ、『プリンツ・オイゲン』からも同様にして返信が返される。

「『プリンツ・オイゲン』、信号了解しました」

「よし」

 報告を聞いたリンデマンは、本作戦の司令官であるギュンター・リュッチェンス中将に視線を向けた。リュッチェンスはリンデマンと目を合わせると小さく頷き、艦内マイクを手に取った。

「これより、ライン演習作戦を開始する! 敵は強大だが、諸君等の力をもってすれば任務を成し遂げられると信じている。イギリス海軍に、『ビスマルク』の力を見せつけるのだ!」

「おおっ!」

 艦橋内に詰める幕僚達が、リュッチェンスの訓辞に応じて声を上げる。高揚した雰囲気の中、リンデマンは暗夜の海を注意深く睨みながらミハエルに言った。

「航海士。ノルウェー沿岸の海図の用意を抜かりなくしてくれ。それから、デンマーク海峡の海図も」

「……はっ!」

 リンデマンの指示に、ミハエルは表情を引き締める。エルフェ達が予想した通り、ゴーテンハーフェン出撃当日、司令官であるリュッチェンスは自身の判断でデンマーク海峡経由での大西洋進出を決定していた。

 『ビスマルク』は複雑なフィヨルドから慎重に抜け出ると、すぐに速力を引き上げた。後続の『プリンツ・オイゲン』もそれに倣って増速し、両艦は二五ノットの速力でデンマーク海峡を目指し北進を開始した。

 暗夜の海上を、二隻の軍艦は一列になって航行する。

 数少ない光源である星月の光は、空を覆う雲によって隠され、海上には届かない。夜の海は底無しのように深く暗く、思わず不安を感じるほど静まり返っていた。

「艦長」

 ベルゲン出港から暫くした頃、無線室からの伝令が艦橋に上がってきた。

「このところ、敵信の傍受数が急激に増加しています。通信長によれば、敵が本艦の出撃を察知した可能性もあるという事です」

「そうか……」

 無線室からの報告に、リンデマンは憂いの色を浮かべた。

「我々の出撃を知れば、敵は当然迎撃にかかるだろう。敵に存在を知られているか否かで、通商破壊は難易度が大きく変わる。……これは、難しい事になりそうだ」

「確かに、君の言う通りだ。しかし、既に賽は投げられたのだ」

 リンデマンの言葉に答えて、リュッチェンスが気難しそうな顔を向けた。

「ドイツ本国に引き返すには、我々は前に進みすぎている。我々には、作戦を続行する以外の選択肢は無いのだよ」

「……それが、たった二隻の通商破壊艦隊であってもですか?」

「その通りだ」

 頷いたリュッチェンスは、小さく溜息をついた後、取り繕うように言葉を加えた。

「……私も、『ビスマルク』と『プリンツ・オイゲン』だけでの通商破壊は心許ないと考えている。本当ならば、修理中の『シャルンホルスト』と『グナイゼナウ』が復帰するか、もしくは『ティルピッツ』が艦隊に編入されるまで作戦は延期した方が良い。レーダー元帥にも、そのように進言した。が……」

 リンデマンは、続きを聞かずともその先が分かった。今こうして、彼が『ビスマルク』を指揮している事が全てを物語っていた。

「しかし、敵が『ビスマルク』の出撃を察知したとしても、彼らはまだその所在を突き止めてはいないはずだ。それまでに大西洋に進出できれば、チャンスはある。艦長、頼んだぞ」

「お任せ下さい」

 リュッチェンスの予想通り、この時点でイギリス海軍は『ビスマルク』の正確な位置を突き止めてはいなかった。そのため、イギリス海軍はデンマーク海峡と、アイスランドとフェロー諸島間の海域に巡洋艦を二隻ずつ派遣し、哨戒網を構築した。そして、両海域の中間に位置するアイスランドに巡洋戦艦『フッド』と新型戦艦の『プリンス・オブ・ウェールズ』を待機させ、どちらの海域で敵が発見されても即座に対応できるようにした。

 しかし、初動の迅速さに反して、イギリス海軍が即座に『ビスマルク』を発見する事はできなかった。丸一日に渡り『ビスマルク』は何の妨害を受ける事もなく航行を続け、二三日の早朝、遂にデンマーク海峡に進入した。

 その日の午後七時。士官食堂での夕食を終えたミハエルは、夜の当直に備えて自室で休息をとっていた。

「デンマーク海峡に入ったのが今朝だから……艦の速力を考えると、今はこの辺りか」

 私物の海図を指でなぞりながら、ミハエルが呟く。彼の指は、デンマーク海峡の中間地点を指していた。

「ここまでは順調だな。これなら、敵に見つからずに大西洋へ出られるかも知れないぞ」

「……でも、イギリス海軍は私達の動きを察知しているんでしょ?」

 ミハエルの横から、エルフェが心配そうな声を発する。

「ああ。けど、相手が知っているのは、俺達が出撃した事だけだ。俺達がどこを目指しているかも、何をしようとしているかも、敵は掴めちゃいない。……まぁ、大西洋での通商破壊を一番警戒するだろうけどな」

「私達の目的は、最初から見抜かれていたわけ?」

「そう言う事もできるが……相手としては、考えるまでもない事と言った方が正しいな。これまで散々、イギリスはドイツの通商破壊作戦に苦しめられてきたんだ。その新鋭戦艦が出撃すると聞いて、通商破壊を第一に警戒するのは当然の流れだ」

「確かに……。でも、敵がそうして待ち構えているのなら、私達は飛んで火に入る夏の虫じゃない!」

「そうでもないさ」

 ミハエルはより広範囲を描いた地図を取り出すと、エルフェにそれを見るように言った。

「通商破壊が最有力だとしても、敵にとって、それは可能性の一つに過ぎない。他にも、アイスランド攻撃やノルウェーへの輸送と、俺達が取りそうな行動は考えられる。さらに、敵は地中海方面にも戦力を割かれている。俺達の動きに対応させられる戦力は、限られている」

「……つまり、敵は私達の捜索すら、満足にできないってこと?」

「その通り。それに、情報によると敵はレーダーを持ってない上に、主力部隊はまだ本国の港にいるらしい。ひょっとすると、本当に敵に知られる事なく大西洋に出られるかもな」

 口の端に笑みを浮かべながら、ミハエルはエルフェに言う。しかし、その直後、彼の希望的観測を打ち砕くように艦内に警報が鳴った。

「敵艦発見! 総員戦闘配置!」

「はぁ……。そう簡単にはいかないか」

 スピーカーから流れる声を聞き、ミハエルは大仰に溜息をつく。次の瞬間、彼は表情を引き締めると、すっくと立ち上がり机上の制帽を手に取った。

「いくぞ、エルフェ!」

 言うが早いか、ミハエルは部屋を飛び出す。彼は疾風の如き勢いで何層分ものラッタルを駆け上がると、艦橋内に飛び込んだ。

「敵艦は――」

「あれだよ、航海士」

 ミハエルの言葉の途中で、リンデマンが右舷前方を指さす。その方向へ双眼鏡を向けると、果たせるかな、濃い霧の中にうっすらと一つの艦影が浮かび上がった。三本の煙突に四基の主砲塔。イギリスの重巡洋艦に共通するスタイルだ。

「あれは、重巡の……ケント級? いや、ノーフォーク級か?」

 記憶の中にある艦影識別表の図を掘り起こし、ミハエルは敵艦の判別を試みる。しかし、海上は濃霧に覆われており、正確な識別は困難だった。

「エルフェ、分かるか?」

 一緒に艦橋へ上がってきたエルフェに、ミハエルは小声で尋ねる。エルフェは艦橋の窓越しに敵艦を見つめると、同じく小声で答えた。

「たぶん、ケント級。ノーフォーク級とは、艦橋の形が微妙に違うから」

「ありがとう。……それにしても、この霧の中でよく見分けられるな。視界は二十キロも無いはずだぞ?」

「艦魂は、人間よりも五感が格段に優れているもの。そもそも、それを当てにして聞いたんでしょ?」

「まあな」

 エルフェの問いに、ミハエルは小さく笑って答える。その前方で、双眼鏡を覗くリンデマンが口を開いた。

「これで、我々の位置は敵に知られてしまったか……」

「まだ分からんよ、艦長。この濃霧の中で、相手を見失わずに追尾するのは至難の業だ。長時間に渡り本艦との接触を保つ事はできないだろう。しつこいようであれば、砲撃で追い払ってしまえ」

 憂いげに言うリンデマンに、リュッチェンスが鷹揚な声を返す。彼は、霧の向こうの敵艦をさしたる脅威と感じていないようだった。

 それもその筈である。ケント級、ロンドン級、ノーフォーク級といったイギリス重巡洋艦の主砲は、二十センチ砲八門。『ビスマルク』の三八センチ砲八門と比べれば、足元にも及ばない。リュッチェンスが歯牙にかけないのも当然であった。

 敵重巡もその事を承知しているのか、不必要に『ビスマルク』に接近する事はせず、付かず離れずの距離を保って追尾してくる。海上は相変わらず深い霧に覆われていたが、敵は『ビスマルク』を見失う様子もなく、正確な追跡を続けていた。

「敵は、まだ付いてくるかね?」

 煩わしげに問うリュッチェンスに、リンデマンが答える。

「はい。敵は、一定の距離を置きながら依然として本艦を追跡中です」

「しぶといな……」

 予想に反して粘り強い敵の追跡に、リュッチェンスは渋面を浮かべる。

「この濃霧の中を、一定の距離を保ったままついてくるとは……。あの敵艦には、優秀な乗組員が揃っているのだな」

「……本当に、それだけでしょうか?」

「どういう意味だね、艦長?」

 意味深な問いを発したリンデマンに、リュッチェンスが鋭い目を向ける。

「いくら優秀な乗組員を揃えていようとも、この悪天候の中で、これだけ正確な追跡を続ける事は困難です。もしかすると、敵も我々と同じく、レーダーを持っているのかも知れません?」

「レーダーだと?」

 リンデマンの推測を、リュッチェンスは「あり得ない」と一蹴する。

「我が国の優秀な情報解析部隊が、敵艦はレーダーを装備していないと太鼓判を押しているのだ。この場でレーダーを持っているのは、『ビスマルク』と『プリンツ・オイゲン』だけだ」

 敵に対する優越感を滲ませながら、リュッチェンスは自らが指揮する艦の名を挙げる。しかし、彼の自信は、直後に艦橋へ入ってきた報告によって打ち砕かれた。

「レーダー室より報告! 本艦の電波探知装置が、敵艦のものと思われるレーダー波を捉えました!」

「何だと?」

 最初に反応したのは、リンデマンだった。

「それは本当か?」

「はい。レーダー室でも確認しましたが、探知したレーダー波は我が国のものとは波長が異なります。敵艦のものと見て間違いありません」

「……分かった。レーダー室は、引き続き敵艦の警戒を行ってくれ」

 レーダー室とのやり取りを終えたリンデマンは、苦い顔をリュッチェンスへ向けた。

「これで、あの敵艦が本艦を見失わない理由が分かりましたな」

「イギリス海軍も、レーダーの実用化に成功していたというのか……」

 ライン演習作戦の開始以来、リュッチェンスは初めて動揺の色を浮かべた。

「敵艦がレーダーを装備しているとなれば、濃霧の中でも本艦を見失う事は無いでしょう。砲撃をして追い払いますか?」

「ふむ……」

 リンデマンの問いかけに、リュッチェンスは思案げに顔を俯かせる。その最中、新たな報告が艦橋へ届けられた。

「レーダーに反応! 左舷前方に敵艦、数は一!」

「左舷前方に艦影! ノーフォーク級と思われます!」

 レーダー室と見張台から、敵艦発見の報告が立て続けに送られる。それを聞いたリュッチェンスは、直ちに命令を下した。

「艦長、砲撃だ。新たに現れた敵艦を狙え」

「はっ!」

 リンデマンは頷くと、艦内マイクに命令を吹き込んだ。

「対艦戦闘! 目標、左舷前方の敵巡洋艦!」

 艦長の命令を受け、『ビスマルク』に装備された四基の主砲塔がゆっくりと旋回を開始する。初めに艦首、次いで艦尾の砲塔が目標の方向へ砲身を向け、照準を完了した。

「アントン、ブルーノ、射撃準備良し!」

「ツェーザルとドーラも準備完了しました!」

「砲撃開始!」

 リンデマンの号令一下、『ビスマルク』の三八センチ主砲が生涯初の実戦射撃を行う。濃霧の中で敵艦との正確な距離を測る事は至難の業だが、『ビスマルク』はレーダーを併用する事でそれを克服し、敵艦の間近に砲弾を落下させる事に成功した。砲撃は五度に渡って行われ、命中弾こそ無かったものの、何発もの至近弾を受けた敵艦は即座に霧の中に身を隠した。それを見たもう一隻も、同じく『ビスマルク』から距離を置いた。

「砲撃停止!」

 敵艦が視界から消えると、リンデマンは砲撃の取り止めを命じた。

「追い払ったかね?」

「だと、いいのですが……」

 リュッチェンスの問いに、リンデマンは歯切れの悪い答えを返す。しかし、彼の希望とは裏腹に、敵は追跡を諦めてはいなかった。

 敵艦が霧の奥に逃げ込んだ後も、『ビスマルク』の電波探知機は敵のレーダー波を捉え続けていた。『ビスマルク』は速度を上げたり、急激な変針を行うなどして敵を振り切ろうとしたが、遂に追手をまく事はできなかった。


 そして、翌二四日の午後五時過ぎ。『ビスマルク』の前を進む『プリンツ・オイゲン』のソナーが、接近する敵艦のスクリュー音を探知した。

 ベルゲン出港時に『ビスマルク』、『プリンツ・オイゲン』の順であった単縦陣は、この時点で前後が逆になっていた。前日、敵艦に発砲した際に『ビスマルク』の前部レーダーが破損してしまったため、レーダーの健在な『プリンツ・オイゲン』が代わりに前方の警戒を担当していたのだ。

「新手か……」

 『プリンツ・オイゲン』からの報告を受け取ったリンデマンは、新たな敵に対する懸念を顔に浮かべた。

「本国艦隊が、我々を迎撃しにきたのだろうか……?」

「どうだろうな。一昨日の時点で、イギリス本国艦隊は依然としてスカパ・フローの泊地に停泊中だ。敵の哨戒艦が我々を発見したのは昨日の夜。通報を受けて出撃したとしても、主力艦が到着するにはまだ早い」

 リンデマンの懸念を、リュッチェンスは冷静に否定する。

「それに、ポケット戦艦やシャルンホルスト級ならともかく、『ビスマルク』ならば仮に敵が戦艦を繰り出してきても互角に渡り合える。恐れる必要はない」

 その後も、『プリンツ・オイゲン』のソナーは敵艦のスクリュー音を捉え続け、しかもそれが刻々と近づいてくるのを伝えた。

 そして、五時四五分、遂に件の敵艦が水平線上に姿を現した。

「あれは……」

 艦首のB砲塔上に立っていたエルフェは、彼方の艦影に目を凝らした。『ビスマルク』の左舷正横から接近する敵艦は、二隻。大型の軍艦のようだが、こちらに舳先を向けているため正面からの姿しか見えない。とりあえず、巡洋艦以上である事は確かなのだが、それ以上の事は分からなかった。

「巡洋艦……? それとも、戦艦……?」

 より細かく敵艦を観察しようと、エルフェはさらに目を細める。と、その時、ふっと彼女の視界が真っ白に塗り潰され、辺り一面が乳白色の世界に変質した。

「え――?」

 そう呟くと同時に、エルフェは右に飛んだ。理由は無い。ただ、彼女の本能がそうさせたとしか言いようが無かった。

 次の瞬間、彼女の左頬を鋭い風が掠めた。上段から打ち下ろされた白刃。一瞬遅ければ、背中から斬り捨てられている位置だった。

「――っ!?」

 白刃を目にしたエルフェは、さらに一段、横へ飛んだ。着地後、顔を上げたエルフェは、襲撃者の姿を目にした。

「――やっぱり、不意打ちでバサリ……とはいかないわよね」

 そう言って降り下ろした剣を構え直したのは、妙齢の女性だった。しかし、その身はイギリス海軍の制服に包まれており、彼女がエルフェと同じ存在――それも、敵方の――である事を示していた。

「本当は名乗る事なく倒せたら良かったけれど……仕方無いわね。お互い、戦力は二人ずつ。正面からぶつかり合うのも良いわ」

「二人……?」

 フッドの言葉にエルフェが周囲を見回すと、いつの間にか、エルフェの隣にはオイゲンの姿があった。同様に、相手の横には十代中頃と見られる少女が立っていた。

「フッドお姉様。この場所は一体……」

「ああ、そういえば、貴女はこれが初陣だったわね。ウェールズ」

 イギリス海軍の軍服を着込んだ少女が、妙齢の女性――フッドに問いかける。フッドは思い出した様子で頷くと、ウェールズと呼んだ少女に答えた。

「ここは、艦魂同士の決闘場。実戦の時のみ現れる、艦魂達の殺し合いの場よ。ここで行われる戦いの結果は、現実の海戦そのもの。ここから生きて帰った者だけが、戦いの後も海に浮いていられるのよ」

 答えた後で、フッドは「……まぁ、かく言う私も、先輩達から話を聞いただけなんだけどね」と付け足す。その会話と聞いたオイゲンは、エルフェに小声で言った。

「……どうやら、敵は本国艦隊主力の一部のようですね」

「フッドとウェールズ――巡洋戦艦『フッド』に、戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』。でも、本国艦隊は一昨日までスカパ・フローにいて、出撃したばかりのはずじゃ……?」

「恐らく、情報が間違っていたのでしょう。味方が誤認したか、敵に欺かれたか……理由は分かりませんが、一昨日の時点で、既に敵主力は泊地から出ていたのだと思われます」

「そんな……」

 レーダーの一件に続いて新たな情報の誤りが発覚した事に、エルフェはショックを隠せない。そんな彼女の急かすように、オイゲンは話を続ける。

「今はそれを気にする余裕はありません。この場において、彼我の数は同じですが、戦力では敵が圧倒的に有利です。早期に決着をつけなければ、まずい事になります」

 オイゲンの言う通り、この場の戦力比は明らかにイギリス優位の状況にあった。ドイツ側の砲力が『ビスマルク』の三八センチ砲八門と『プリンツ・オイゲン』の二〇センチ砲八門に対し、イギリス側は『フッド』の三八センチ砲八門と『プリンス・オブ・ウェールズ』の三六センチ砲十門を有している。『ビスマルク』と『フッド』の砲撃力は互角だが、『オイゲン』と『ウェールズ』の間には著しい差があった。

「司令。まずはフッドを倒しましょう。一人ずつ、確実に仕留めるのです」

「……そうね。そうしましょう」

 オイゲンの言葉に頷き、エルフェは剣を抜く。続いてオイゲンが抜刀し、それを見たフッドとウェールズも剣を構えた。

「ウェールズ! 重巡は後回しよ。まずはビスマルクを黙らせる!」

 ウェールズに指示を出し、フッドは刺突の体勢を作る。そして、雷光の如き速さでオイゲン(・・・・)に向かって突進した。

 鋭い金属音が鳴り響き、フッドとオイゲンの剣がぶつかり合う。それを合図として、乳白色の空間は白刃が触れ合う音に覆われた。

 エルフェとオイゲンはフッドに、フッドとウェールズはオイゲンに、互いの狙いを絞る。オイゲンとフッドが一騎打ちを演じる傍で、エルフェとウェールズは相手を仕留める隙を窺う。自然と、オイゲン対フッド、エルフェ対ウェールズという組み合わせになり、二組の一騎打ちの構図ができあがった。

「重巡風情が! 邪魔するんじゃないわよ!」

 苛立たしげに叫びながら、ウェールズが双剣をエルフェ(・・・・)に振り下ろす。一撃の重さは無いものの、ウェールズの攻撃は手数が多く、エルフェは防戦を強いられていた。

 手数の有利を最大限に活かし、ウェールズは絶え間無い斬撃を繰り出す。それを防ぎながらオイゲンに助太刀する機会を窺うエルフェだったが、そのような事を許すウェールズではなかった。

「ほらほら! 余所見してると危ないわよ!」

 エルフェの注意が疎かになった瞬間をつき、ウェールズが猛然と追撃をかける。上段からの一撃をエルフェは辛うじて受け止めたが、隙をつかれたため無理な姿勢での防御となり、胴ががら空きになってしまった。

「そこっ!」

 その機を逃さず、ウェールズはさらなる攻撃を放つ。ウェールズはエルフェの腹部に膝蹴りを加えると、姿勢を崩した彼女に向かって双剣を一閃させた。

「っ、くぁ……!!」

 銀色の刃がエルフェの左肩を斬り裂き、鮮血を撒き散らせる。ウェールズはさらにもう一太刀を浴びせかけるが、エルフェは両手で持った剣を使い、それを防いだ。

「……っぅ!」

 攻撃を防いだ瞬間、斬撃を受け止めた衝撃が傷口に伝わり、エルフェは声を上げた。しかし、彼女は焼け付くような痛みに顔を歪めつつもウェールズの剣を押し返し、反撃した。

「おっと……!」

 エルフェの振るった剣は、ウェールズの身体を捉える事なく空を斬る。しかし、その一撃はウェールズの追撃を中止させ、敵を飛び退かせる事に成功した。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 肩で息をしながら、エルフェは刀を構え直す。傷口が痛むせいか、彼女の構えは先程と比べて幾分いびつだった。

重巡(・・)の癖に、案外しぶといのね」

 感心半分、煩わしさ半分の表情で、ウェールズが言う。と、その時、もう一組が戦っている場から甲高い金属音が聞こえてきた。

 音を耳にしたエルフェとウェールズは、反射的にその方向へ顔を向ける。二人の視線の先には、オイゲンの剣を弾き飛ばし、その首筋に剣を突きつけるフッドの姿があった。

「オイゲンっ!!」

 仲間の窮地を目の当たりにしたエルフェは、驚声とも悲鳴ともつかない叫びを上げる。それは至極当然ともいえる反応であったが、彼女の言葉は予想外の影響を生んだ。

「オイゲンですって!?」

 エルフェの言葉を聞いたウェールズは、驚愕に目を見開いて振り返る。そして、再びフッドの方を見ると、切羽詰まった調子で叫んだ。

「お姉様! そいつはビスマルクではありません! ただの重巡です!」

「何ですって!?」

 ウェールズの声に、フッドも驚きの表情を浮かべる。二人の反応は、彼女らが敵の正体を完全に読み違えていた事を物語っていた。

 言うまでも無い事だが、艦魂の容姿と艦の性能は一切関係無い。その事はフッドもウェールズも承知していたが、エルフェ達が名乗らなかった事もあり、体格の優れたオイゲンの方を『ビスマルク』の艦魂だと勘違いしてしまったのだ。

 しかし、客観的に見た場合、誤認が発覚したところでイギリス側の優位は依然として揺るぎ無い状況であった。だが、強い思い込みを抱いていた二人には、それを意識するだけの余裕が無かった。

 エルフェに矛先を向けるか、このままオイゲンを倒すか――当然後者を選ぶべきなのだが、冷静さを失ったフッドはとっさにその判断ができなかった。その逡巡が、隙を生んだ。

 フッドに隙ができた瞬間を見逃さず、エルフェはオイゲンを助けるために駆け出す。フッドと同様に平静を欠いていたウェールズは、その動きに反応しきれなかった。

「しまった!」

 反応の遅れたウェールズを難なくかわし、エルフェはフッドに迫る。虚をつかれたフッドは急いで剣を構え直すが、その動きは一瞬だけ遅かった。

 フッドが横合いから突進してくるエルフェに身体を向けた瞬間、エルフェは相手の懐に潜り込んだ。エルフェは、木偶のように突っ立った相手の身体を、下方から突き上げた。

 ぱっと真っ赤な飛沫が上がり、少女の頬に赤い斑点を散らす。フッドの腹部を突いた攻撃は、そのまま彼女の心臓を貫き、背中へと突き抜けた。

 一度、大きく仰け反ったフッドの身体は、それを最後に動かなくなった。一瞬前まで鋭い剣技を披露していた相手は、口から血を吐き出すと、糸の切れた人形のようにエルフェにもたれかかった。

「あ……」

 背中から突き出た剣の先端を見つめ、エルフェは声を漏らす。血塗られた剣先を呆然と見つめる彼女の顔は、自分自身もこの結末を予測できていなかった様子だった。

 暫しそのままの体勢で佇んだ後、エルフェは突き刺した剣を静かに抜いた。支えを失ったフッドの身体は前のめりに倒れ、自らの血で作られた血溜まりにその身を沈めた。

「お姉様っ!!」

 フッドの身体が血溜まりに沈むのを見て、ウェールズは悲鳴を上げた。

「よくも……よくも、お姉様を……っ!」

 両の瞳から涙を零しながら、ウェールズは鬼のような形相でエルフェを睨む。憎しみに満ちた目を向けられて、しかし、エルフェは何の感情も浮かべる事は無かった。

「まだ……やるの……?」

 呟くように言ったエルフェの声は、ぞっとするほど平坦だった。それは、冷徹というよりは放心に近いものであった。そして、それだけに焦点の定まらない瞳で剣を構えるエルフェの姿には得も言われぬ不気味さがあった。

「くっ……」

 エルフェの纏う雰囲気に怯んだウェールズは、苦虫を噛み潰したような顔をして撤退する。それと同時に不可思議な乳白色の空間は霧散し、元の北大西洋の景色が視界に現れた。

「終わった、の……?」

 元に戻った景色を眺めながら、エルフェは呟く。直後、彼女は緊張の糸が切れたように膝を落とし、砲塔の上にへたり込んだ。


「『フッド』轟沈!! 『プリンス・オブ・ウェールズ』も逃走していきます!」

「おおっ、やったぞ!」

 見張員の報告を受け、『ビスマルク』の艦橋は歓声に包まれた。

 艦橋からは、変針して『ビスマルク』から遠ざかる『プリンス・オブ・ウェールズ』の姿が見える。同艦の前方を進んでいた『フッド』は既に無く、海上にその名残を見つける事すら困難だった。

「どんなもんだ、イギリス海軍!」

大海艦隊(ホーホーゼ・フロッテ)の仇を討ってやったぞ!」

 数人の士官が、興奮した様子で声を上げる。彼らの網膜には、先程目した光景が未だ鮮烈に焼き付いていた。

 イギリス艦隊の砲撃により海戦の火蓋が切られてから八分後。両軍共に互角だった戦況は、一発の砲弾により急変した。

 『ビスマルク』が発射した五回目の斉射。その中の一発が、『フッド』の舷側装甲に命中した。当時の砲戦距離は二万メートル強。近距離での貫通力に優れた『ビスマルク』の砲弾は『フッド』の装甲を易々と貫通し、艦の内部で炸裂した。 

 炸裂した砲弾は高角砲の弾薬庫を爆発させ、その爆発はさらに主砲弾薬庫の誘爆を引き起こした。何十発にも及ぶ主砲弾の爆発に襲われた『フッド』はマストの四倍にも達する巨大な火柱を上げ、一瞬のうちに爆発四散した。

 『ビスマルク』の艦橋からは誘爆の経緯は分からなかったが、『フッド』轟沈の様子はよく見えた。前日の濃霧が嘘のような晴天の下、「世界一美しい軍艦」と評された事もある巡洋戦艦は、朝日も霞む炎を噴き上げて沈没した。

 『フッド』を撃沈した『ビスマルク』はその後、目標を『ウェールズ』に変更。たちまち数発の命中弾を受けた『ウェールズ』は『フッド』の二の舞は御免とばかりに遁走を開始した。

「長官、追撃しましょう。『プリンス・オブ・ウェールズ』に、『フッド』の後を追わせてやるのです」

 逃走する『ウェールズ』の背中を見ながら、リンデマンが進言する。直接的な表現は無いものの、追撃に強い意欲を示す様子からは、彼も他の士官と同じく、高揚した精神状態にある事が見て取れた。

「……いいや。駄目だ、艦長」

 リンデマンの意見に、しかし、リュッチェンスは首を横に振った。

「何故です、長官? 『ウェールズ』は手負いの状態です。追撃をかければ、確実に撃沈できます!」

「艦長。我々の目的を忘れてはいかんよ。ライン演習作戦の目的は、通商破壊にこそある。行く手を阻む者は容赦無く攻撃するが、無駄な戦闘は行わない。それが基本方針だ」

「だからこそです。このまま『ウェールズ』を逃がせば、いずれ再び我々の前に立ちはだかる事でしょう。脅威の芽は、ここで摘み取っておくべきです」

「確かに、追撃すれば『ウェールズ』も撃沈できるだろう。しかし、こちらも無傷では済まないはずだ。本艦も先程の戦闘で数発の命中弾を受けている。これ以上の被害を受けて、作戦続行に支障をきたす事態は避けなければならない」

「しかし……!」

「話は終わりだ、艦長。敵艦の動向に注意しつつ、本来の針路に復帰したまえ」

 リンデマンの反論を遮る形で、リュッチェンスは話を打ち切る。リンデマンは不服の表情を浮かべたが、不承不承頷いた。


 『フッド』を撃沈し、『プリンス・オブ・ウェールズ』を撃破した事で、当面の間『ビスマルク』の行く手を遮る者はいなくなった。デンマーク海峡で遭遇した二隻の敵重巡は依然として追跡を続けているが、当初より彼らが『ビスマルク』に挑戦する素振りを見せる事は無く、『フッド』の轟沈を目撃した後は俄然その傾向を強めていた。

 まだ油断はできないものの、若干の余裕が生まれた『ビスマルク』では、この間に乗員に休息をとらせる事にした。ミハエルも一時的に艦橋の配置を解かれると、短い自由時間を与えられた。

 艦橋を下りたミハエルは、エルフェの姿を探した。艦と艦魂は一心同体であり、艦の損傷は艦魂にも反映される――その事を知っていた彼は、先刻の戦闘でエルフェが深手を負っていないかを案じたのだ。

 前部艦橋から錨甲板まで歩いてきたミハエルは、B砲塔の上に少女の姿を見出した。彼は艦尾方向に甲板を駆けると、側面の梯子からB砲塔上部に登った。

「エルフェ!」

 砲塔の上に立ったミハエルは、初め、エルフェの軍服がぐっしょりと血に濡れているのを見て背筋を凍らせた。しかし、すぐにその大部分は彼女のものではない事に気づき、幾分か落ち着きを取り戻した。

「エルフェ、大丈夫か?」

 砲塔天蓋に座り込むエルフェに近づき、ミハエルが尋ねる。エルフェは、声をかけられて初めて彼の存在に気づいたように振り向き、彼の顔を見上げた。

「ミハエル……」

 ミハエルを見るエルフェの目は、どこか虚ろで、ぼうっとしているように見えた。そんな彼女に、ミハエルは重ねて問いかける。

「大丈夫か? 左肩、怪我してるみたいだが……」

「うん……平気」

 膝をついて尋ねたミハエルに、エルフェは力の無い声で答える。その様子に、ミハエルは心配そうな表情を浮かべる。

「本当か?」

「うん。まだ痛むけど、血は止まってるし、傷も深くないから……」

 左肩に軽く手をあて、エルフェが言う。彼女の言う通り、傷口に巻かれた包帯には既に乾き切った血しか付いていなかった。

「そうか……。他に怪我はないか?」

 ミハエルの問いに、エルフェは首を横に振る。それを見たミハエルは、「なら良かった」と僅かに表情を和らげた。

「直撃弾を受けた時は不安になったけど、流石は最新鋭の戦艦だぜ。びくともしないどころか、逆に敵を返り討ちにしちゃうとはな」

 感心した様子のミハエルは、「あの時の『フッド』の爆発は凄かったな」と感慨深げに言った。

「天まで届かんばかりの炎と黒煙、散らばる破片……まるで、神々の戦いを見てるみたいだった」

 やや興奮気味に、ミハエルは『フッド』の爆沈を振り返る。……と、不意にエルフェが彼の胸に額をつけた。

「……エルフェ?」

「殺した……」

「え?」

 ぽつりと呟かれた言葉に、ミハエルは首を傾げる。彼の胸に顔を押しつけたまま、エルフェは繰り返した。

「私が殺したの……。フッドを。この手で」

 そう言ってエルフェは顔を上げ、ミハエルの目を見つめて言葉を続けた。

「ぱっと血が散って。剣が身体を突き抜けて。血がたくさん溢れて。あんな風になるなんて、私……」

 掠れた声で、エルフェは譫言のように言う。ミハエルは彼女が何を見たのか分からなかったが、全身に返り血を浴びた彼女の姿から、おおよその察しはついた。

「私、オイゲンを助けようとして……でも、あんな事する気は、全然……っ」

 誰かに弁明するように、エルフェは言葉を重ねる。静かにそれを聞いていたミハエルは、彼女の左肩にそっと触れた。

「……っ!」

 傷口に刺激を受け、エルフェは思わず顔をしかめる。困惑した表情を向ける彼女に、ミハエルは問いかけた。

「この傷は、フッドにやられたのか?」

 エルフェは初め、何を聞かれているか分からない顔をしたが、すぐに首を横に振った。

「ううん……、ウェールズ」

「痛いか?」

「……うん」

 二つ目の問いに、エルフェは頷いて答える。そんな彼女に、ミハエルはゆっくりと語りかけた。

「エルフェがあの時、剣を振らなかったら、オイゲンがこれを同じ傷を受けていたかも知れない。あるいは俺や、他の乗組員が……。もしかしたら、全員がこれよりもっと酷い怪我をしていたかも知れない」

 エルフェの瞳を真っ直ぐに見据え、ミハエルは話を続ける。

「だからといって、それしか道は無かったとか、後悔する必要は無いとかは言わない。俺がエルフェの立場だったとしたら、きっと同じようになるだろうから……。ただ、これだけは言っておきたい。エルフェは俺達を守ってくれた。エルフェが一身に痛みを引き受けてくれたから、俺とオイゲンは無傷でいられた。だから、感謝してる」

「……そんな事ない。私がしたのは、ただの……」

 ゆるゆると首を振り、エルフェは下を向く。それに対し、ミハエルはさらに首を横に振った。

「だとしても、だ。だから――」

 そこで、ミハエルは少女の肩を強く抱いた。

「俺がお前の隣にいる。俺がいつも一緒にいて、お前を支える。どんなにお前の手が穢れようと、その手をずっと握り続けてやる」

 「戦争だから」、「やらなければ、こちらがやられる」――そう言うのは簡単だ。そして、その言葉で強引にエルフェを納得させる事もできただろう。しかし、ミハエルはそうしたくなかった。例えその方法を使って彼女を納得させられても、心の傷は癒せない。もっと別の方法で、彼は彼女を救いたかった。

 その試みが成功したかは分からない。しかし、再び顔を上げたエルフェは、赤くなった目を細めて微笑んだ。

「……ありがとう、ミハエル」

 エルフェは一度ミハエルの身体を強く抱き、それからしっかりとした足取りで立ち上がった。後を追って腰を上げたミハエルに、エルフェは言う。

「まだ完全じゃないけど、少しは心の整理がついたわ。決めた。ミハエルが私を支えてくれるのなら、私は、あなたを守る。ミハエルだけじゃない。他の仲間――オイゲンや、他の艦魂達を守るためにも戦うわ」

 エルフェは宣言すると、前を進む『プリンツ・オイゲン』に視線を向けた。

「そのために、まずはあの子と話をしないと……」

 僚艦を見つめるエルフェは、決意を秘めた声でそう言った。


「何故です、司令!」

 険しい表情を浮かべたオイゲンが『ビスマルク』の甲板を踏み鳴らし、一歩エルフェに詰め寄った。

「どうして別行動を取るなどと……それがどういう意味か、分かっているのですか!?」

「ええ。分かっているわ」

 オイゲンの問いに、エルフェははっきりと頷いた。

「あなたには、私と別れて単独で作戦を継続してもらう。厳しい任務になるだろうけど……お願い」

「私が言っているのはその事ではありません! 元より、私はどのような状況になろうとも死力を尽くして作戦を遂行する所存です。問題は、私と別れた後の司令です!」

 普段の冷静さを失い、オイゲンは声を荒げる。

「『フッド』を失った事により、イギリス海軍は是が非でも司令を沈めようとしています。そのような状況で一人になれば、袋叩きに遭います!」

「大丈夫。『フッド』との戦いを覚えてるでしょ? 私なら、一人でも敵戦艦と戦えるわ」

「だとしても、戦力は多いに越した事はありません。それに、今の司令は怪我をなさっているではないですか。万が一の事があれば……」

「平気よ。一応、フランスの基地に修理しに行くことになったけど、戦闘には支障の無い被害だから。被弾のせいで燃料が漏れさえしなかったら、作戦を中断する必要は無いくらいよ?」

 おどけた調子で、エルフェはオイゲンの言葉に答える。「しかし……」となおも食い下がるオイゲンに、エルフェはぴしゃりと言った。

「これは命令よ、オイゲン」

 エルフェの言葉に、オイゲンは小さく呻く。階級章を光らせながら、エルフェは再度命令を口にした。

「オイゲン。あなたには、私と別れて単独で大西洋での通商破壊を行ってもらう。良いわね?」

 問いかけるエルフェと睨み合うようにして、オイゲンは彼女と向き合う。暫しそのままでいたオイゲンだったが、やがて、彼女は苦い表情で頷いた。

「……承知しました」

 押し殺した声で言ったオイゲンは、淡い光を発して姿を消す。離れた場所でやり取りを見守っていたミハエルは、エルフェに近づいて声をかけた。

「……いいのか? あんな言い方で。オイゲンの奴、かなり不満そうだったじゃないか」

「いいの」

 ミハエルの問いに、エルフェは短く答えた。

「私と一緒にいると、オイゲンまで危険な目に遭っちゃうから。最悪、二人とも沈められる事だって……。敵の狙いは私一人。それなら、私が全ての敵を引き受ける」

「……オイゲンだって、最初から覚悟はできるはずだぜ」

「知ってるわ」

 頷いたエルフェは、『プリンツ・オイゲン』の艦影を見つめた。

「彼女は生粋の騎士だから、戦に対する心構えは、私なんかよりもずっとできてる。例え二人して討ち死にする事になっても、文句は言わないと思う。けど、彼女はここで死ぬべきじゃない。助かる道があるのなら、助けてあげたいの」

 そう言うエルフェの横顔には、仲間の身を案じる色が浮かんでいる。その表情は、今の言葉こそが彼女の本心である事を伝えていた。

「それがお前の本音か……」

 ミハエルは呟くと、溜息をついてエルフェに言った。

「どうして、それを本人に伝えてやらなかったんだ?」

「ああ見えて、あの子はとても優しいから……。自分を逃がすために私が一人になると知ったら、絶対に離れないわ。だから、ああやって命令するしか無かったの。それに、そうすれば彼女が自分を責めなくて済むから」

「後から本人がそれを知ったら、余計に傷つくかも知れないぞ?」

「例えそうでも、自責の念に苛まれる時間は少しでも短い方がいいわ」

 静かに、しかしはっきりとエルフェは答える。それを聞いたミハエルは、彼女に対してそれ以上の追及をしなかった。

 その後、『ビスマルク』は艦がスコールに入った瞬間を見計らい、急激な転舵を行った。そして、スコールを抜けた途端、追跡を続けている敵巡洋艦に向かって砲撃を実施した。

「敵艦発砲! 反撃してきます!」

「こちらも撃ち返せ! 重巡相手に後れをとれば、新鋭戦艦の名が泣くぞ!」

 乗組員に発破をかけながら、リンデマンは戦闘を指揮する。三八センチ砲の砲撃にも怯まず、敵重巡は果敢な反撃を行ってくる。しかし、『ビスマルク』との砲撃戦に注意を向けるあまり、敵は『プリンツ・オイゲン』が戦場から離脱しようとしているのを見落としてしまった。

「『オイゲン』の姿が見えなくなりました。無事に戦域から離脱した模様です!」

「よし。砲撃停止!」

 見張員から報告を受けたリンデマンは、砲術長に射撃を中止させた。

「長官。狙い通り、敵艦は本艦との戦闘に気を取られて『オイゲン』を見逃したようです」

「ご苦労だった、艦長。あとは、この艦をサン・ナゼールまで連れて帰るだけだな」

「はい」

「サン・ナゼールには、フランスで唯一この艦を収容できる規模のドックがある。そこで艦の修理を行い、再び出撃する。その頃にはブレストの『シャルンホルスト』と『グナイゼナウ』も戦列に復帰できているだろう。この三隻と『オイゲン』が揃えば、イギリスの通商網を大混乱に陥れる事ができる」

「そのためには、しつこい追手をどうにかしないといけませんね」

「策はある。しかし、今はまだ条件が整っていない。機会を見て実施するが、成功させるにはタイミングが重要だ。艦長、しっかり頼むぞ」

「お任せ下さい」

 リュッチェンスの言葉に、リンデマンは力強く頷く。その策を使う時は、二五日の深夜に訪れた。

 午前三時。海上が霧に覆われているのを見たリュッチェンスは、追手をまくための秘策を使用する決断をした。彼は、リンデマンに対して合図をしたら針路を北に向けるように指示した。

「敵の追手は、Uボートの雷撃を恐れてジグザグ航行をしている。それを利用し、彼らが我々から離れた時を狙って急回頭を行う。良いな?」

「はっ」

 レーダー室からの報告に耳を傾けていたリュッチェンスは、敵艦がジグザグ航行のため変針した事を知ると、間髪入れずに叫んだ。

「今だ、艦長!」

「取舵一杯!」

 リンデマンの命令を受けて、『ビスマルク』は大きく左に旋回する。その艦首が北を向く直前、リュッチェンスは再び命じた。

「艦長、南へ転舵しろ!」

「面舵一杯!」

 左への急旋回を行っていた『ビスマルク』は、今度は右へと針路を変える。『ビスマルク』は大きなS字を描いて旋回し、再びフランス方面へと舳先を向けた。

 『ビスマルク』を追跡していた敵巡洋艦のレーダーは、この機動を追いきれなかった。霧の中で目標を失探した敵は、肉眼で捜索する事も叶わず、『ビスマルク』を完全に見失ってしまった。本国艦隊司令部は、見失う直前の『ビスマルク』の動きから、同艦はノルウェーを目指していると判断。実際とは真逆の方角へ艦隊を向かわせてしまった。

 リュッチェンスの策は見事に図に当たったわけだが、イギリス海軍も騙されたままではいなかった。誤りに気づいた彼らは『ビスマルク』の捜索に全力を挙げ、同艦がドイツ本国に送った通信から現在地を割り出した。そして、哨戒機からの報告によって正確な位置を確認すると、付近に展開する空母から攻撃隊を繰り出した。

 二六日の夜。午後九時になる少し前に、空母『アーク・ロイヤル』を出撃した攻撃隊が『ビスマルク』の上空に到達した。十五機のソードフィッシュ雷撃機からなる攻撃隊は『ビスマルク』を視認すると、次々に高度を下げて雷撃体勢に入った。

「対空戦闘! 撃ち方始め!」

 リンデマンの号令を受けて、『ビスマルク』の対空兵装が射撃を開始する。一〇.五センチ高角砲、三.七センチ機関砲、二センチ機関砲の各砲が一斉に弾幕を張り、無数の発砲炎が『ビスマルク』のシルエットを夜闇の中に浮かび上がらせた。

 第一次世界大戦の頃を彷彿とさせる複葉機の群れが、魚雷を抱いて『ビスマルク』に迫る。海上は天気が悪く、航空機の行動には適していなかったが、複葉機特有の高い安定性を持つソードフィッシュにとっては問題にならないようだった。

 猛烈な対空砲火に怯んだ二機が遠距離から魚雷を投下し、早々に戦場を離脱する。しかし、残った十三機はなおも距離を詰め、命中を望める距離で魚雷を投下した。

「左舷後部から魚雷接近!」

「面舵一杯!」

 後方から接近する魚雷に対し、リンデマンは艦を魚雷と併走させる事によって応える。見張員が刻々と魚雷との距離を伝える中、艦橋の乗組員は固唾を飲んで行方を見守った。

「……左舷後方からの魚雷、回避しました!」

「舵戻せ!」

 回避成功の報告を受け取ると同時に、リンデマンは艦を直進状態に戻す。その最中に、次の敵機が魚雷を切り離した。

「魚雷二本、右舷より接近!」

「取舵一杯!」

 右方向からの魚雷に、リンデマンは今度は艦を左へ向ける。直進に戻りかけていた『ビスマルク』は、右舷に艦を傾けて再び急旋回した。

「右舷の魚雷、依然として接近中! ですが、このままいけば回避できます!」

 雷跡を注視する見張員が喜色を滲ませた声で報告する。それを聞いた艦橋の面々も安堵の表情を浮かべたが、直後に反対舷の見張員から背筋を凍らす報告が届いた。

「左舷からも二本、魚雷接近! 命中進路です!」

「何っ!?」

 新たに入った報告に、リンデマンは色を失った。回避が確定的になったとはいえ、右舷の魚雷をかわせるのはこのまま旋回を続けた場合だ。左舷の魚雷を避けるために舵を切れば、命中する。しかし、右舷の魚雷を回避した後に舵を切ったのでは、間に合うか分からない。

 リンデマンは一瞬、どちらの回避を優先するべきか考え、確実な回避が望める方を優先する事にした。

「右舷の魚雷回避を優先する。回避でき次第、面舵一杯だ!」

 まだか、まだか、とリンデマンは回避成功の報告を待つ。このままでは左舷の魚雷が先に命中するのではと思った時、右舷の見張員が回避の成功を伝えた。

「よし! 面舵――」

 一杯、と言おうとした瞬間、『ビスマルク』の艦橋が激しく振動した。リンデマンはとっさに羅針儀に掴まったものの、大地震さながらの揺れを受けて鋼鉄の床に叩きつけられた。

「ぐっ……。遅かったか」

 膝をついて立ち上がりながら、リンデマンは呻くように言う。四万トンを超す巨艦をここまで揺らす原因を、彼は一つしか知らなかった。

「左舷中央部に魚雷命中! 後部にも命中した模様です!」

「やはりか……。被害確認と応急作業を急げ!」

 苦々しげに呟きつつも、リンデマンは冷静に処置を命じる。しかし、その後に入ってきた報告は彼の冷静さをも吹き飛ばすものだった。

「左舷後部への被雷により、舵機損傷! 取舵を解除できなくなりました!」

「何だと……!?」

 応急作業班からの報告を聞いたリンデマンは、目を見開いて硬直した。

「修理する事はできないのか?」

「可能な限りの手を尽くしましたが、できません! 本艦は操舵不能です!」

 その言葉に、リンデマンは茫然自失となった。彼と『ビスマルク』の乗組員にとって、その報告は死の宣告に等しかった。

「……何とかならないのかね、艦長?」

「両舷スクリューの回転数を調整して、操舵を試みます。それが無理なら、ダイバーを下ろしてでも……」

 リンデマンは種々の方法で艦の操縦を試みたが、いずれも上手くはいかなかった。結局『ビスマルク』の舵を直す事はできず、艦は広大な海の上で延々と左旋回を続ける事になった。

「たった一本の魚雷で、こんな事が……」

 悪夢でも見るような表情で、リュッチェンスが呻く。

「フランス沿岸まで、あと少しなのだぞ? それが、まさか……」

 馬鹿な、とリュッチェンスは呟いた。

「夜が明ければ、イギリス本国艦隊がやってきます。動けない本艦には、万に一つも勝ち目はありません。『フッド』の仇……本国艦隊は、相当意気込んでいるでしょうね」

「そうだな。しかし、我々に選択肢は無い。最後まで戦う以外に、我々が選べる道は無いのだよ」

 観念したような、しかしどこか覚悟を決めたような声で、リュッチェンスは言った。やがて、東の空が白み始め、五月二七日の朝が訪れた。

 もはや、今日が『ビスマルク』最後の日となる事は、誰の目にも明らかだった。それを裏付けるように、午前八時四七分、イギリス本国艦隊の主力が現れ、砲撃を開始した。

 『ビスマルク』にとどめを刺さんと現れたのは、イギリス本国艦隊旗艦『キング・ジョージⅤ世』とビッグセブンの一角『ロドネー』だった。無傷の敵戦艦二隻に対し、不具の身となった『ビスマルク』――勝負は、戦う前からついていた。

 速度も出ず、舵も効かない『ビスマルク』は、ただの的だった。成す術も無くその場を回り続ける彼女を、砲弾の雨が襲った。

 しかし、このような絶望的な状況にあっても、まだ彼女とその乗組員は勝負を諦めてはいなかった。敵の砲撃開始から三分後、『ビスマルク』は反撃の砲火を開き、『ロドネー』に対して夾叉弾を得た。

 先に命中弾を得られれば、流れが変わるかも知れない――乗組員の間に一筋の光明が差したが、現実は非情だった。

 『ビスマルク』の初弾発砲から十分後、『ロドネー』の四十センチ砲弾が『ビスマルク』の艦首に命中した。艦齢を重ねているとはいえ、ビッグセブンの一隻である『ロドネー』の砲撃の威力は凄まじく、『ビスマルク』のA砲塔とB砲塔を一撃で使用不能に追い込んだ。

 主砲の半数を一瞬のうちに奪われた『ビスマルク』だが、まだまだ立ち向かう意志は挫けていなかった。せめて一矢報いようと、『ビスマルク』は後部砲塔から懸命の射撃を続けた。

 だが、勝負の女神はそれさえも許そうとはなしなかった。デンマーク海峡以来『ビスマルク』を追尾してきた重巡『ノーフォーク』の主砲が、『ビスマルク』の射撃指揮方位盤を撃ち抜き、唯一残されていた反撃の望みを完全に奪い去った。それに続くようにして、戦艦、重巡、軽巡の砲弾が次々と命中していった。

 『ビスマルク』への砲撃は、一時間あまりに渡って続いた。二隻の英戦艦は『ビスマルク』との距離を極端に詰め、『キング・ジョージⅤ世』は一万メートル、『ロドネー』に至っては八千メートルの距離で砲撃を行っていた。通常、二万から三万メートルが標準的とされる戦艦同士の砲撃戦において、二隻の射距離は目と鼻の先といって良いものだった。

 弾道が水平になるほどの近距離で、英戦艦は『ビスマルク』を滅多打ちにする。A、B両砲塔に続いて、副砲、高角砲、カタパルト、煙突などが破壊されていき、艦上構造物のほとんどが瓦礫と化した。しかし、驚いた事に、それだけの被害を受けてもなお、『ビスマルク』は左舷に傾斜しながら海面に浮かび続けていた。

 十時十五分、イギリス本国艦隊司令長官ジョン・トーヴィー大将は砲撃停止を命令。攻撃方法を巡洋艦の雷撃に切り換えた。

 それと同じ頃、『ビスマルク』の艦内でもリンデマン艦長から自沈の命令が出されていた。乗組員は配置を解かれ、総員に退艦命令が発令された。

「ご苦労だったな、航海士。もういいぞ」

 荒れ果てた艦橋の内部で、リンデマンはミハエルに言った。

 ゴーテンハーフェン出撃時は新造艦らしく整理されていた艦橋内も、今は窓ガラスや弾片が散乱し、見るも無惨な状態になっていた。別れ際、艦長から煙草を一箱貰ったミハエルは、半ば崩落しかけた艦橋を下りて甲板に立った。

 甲板上は、まさに地獄絵図という表現が相応しい状況だった。

 艦上のあちこちに命中弾による破孔が開き、鋼鉄の破片が散らばっている。火の手もそこかしこから上がっており、立ち込める煙が各所で渦を巻いている。その中に、戦死した者、重傷を負った者が折り重なるように倒れ、動ける乗組員が彼らを必死に介抱していた。

 総員退艦の命令を受けて、一部の乗組員は既に海に飛び込む準備を始めている。救命ボートは全て敵の砲撃によって粉砕されており、艦から脱出するには自分で泳ぐしか手は無かった。

 自沈処分が下されている以上、早く退艦した方が良いのは明白だが、ミハエルはすぐに艦を離れようとはしなかった。甲板を歩き回りながら、彼は探し求める相手の名前を呼んだ。

「エルフェ!」

 火災の煙に咳き込みながら、ミハエルはエルフェを探す。しかし、混乱の極みにある艦上で一人の少女を見つけ出す事は至難の業だった。

「エルフェ……一体、どこにいるんだ?」

 甲板の一隅に立ち止まり、ミハエルは乱れた息を整える。と、見覚えのある黒い影が彼の視界を横切った。

「オスカー!?」

 彼が目にしたのは、黒猫のオスカーだった。歩く事すらままならない甲板を器用に駆けるオスカーは、何かに向かって駆けているように見えた。

「待ってくれ、オスカー!」

 オスカーの後を追い、ミハエルも走り出す。それは直感的な行動だったが、間もなくしてその選択は正しかった事が証明された。

 オスカーを追って辿り着いたのは、D砲塔の基部だった。道中のC砲塔付近では大規模な火災が発生していたが、オスカーは構わずそこを突っ切り、ミハエルもそれに続いた。

 姿勢を低くし、ミハエルはもうもうと立ち込める黒煙を掻いくぐる。煙の中を抜けたミハエルは、視界に映った光景を見て声を上げた。

「エルフェ!?」

 ミハエルが目にしたのは、傷だらけとなったエルフェの姿だった。D砲塔の左舷側で、彼女は砲塔に背を預ける形でぐったりと座り込んでいた。

「エルフェ、しっかりしろ!」

「ミハ……エル……?」

 膝をついて呼びかけるミハエルの声を聞き、エルフェは顔を上げる。彼女の意識がある事に一安心したミハエルだったが、直後、エルフェは苦しげに顔を歪めた。

「ひぐっ……!」

「エルフェ!?」

 苦悶するエルフェの様子に、ミハエルは狼狽した声を上げる。彼は改めてエルフェの身体に刻まれた傷を見て、その重さに絶句した。

 彼女の身体は、まさに満身創痍であった。

 左足の腱は切られて立ち上がる事ができず、右腕にも深い刀傷が刻まれている。打撲傷を負ったのか、頭部からも出血しており、彼女の顔の半分は朱に染まっている。他にも、少女の小さな身体には大小問わず無数の傷があり、それらの傷口は今も大量の血を吐き出し続けていた。

 あまりにも酷い怪我に、ミハエルは何をして良いか分からず呆然とする。何もできずにいる彼の前で、エルフェは苦痛に喘ぎ、荒い呼吸を繰り返していた。

「エルフェ……、エルフェ……!」

 施す手立ての無いミハエルは、ただ彼女の名前を呼ぶ事しかできない。そんな彼に、エルフェは蚊の鳴くような声で言った。

「ミハエル……逃げ、て……」

「え?」

「私は……もう、保たないから……。艦が沈む、前に……早く……」

 途切れ途切れになりながら、エルフェはミハエルに訴える。それに対し、ミハエルは首を横に振った。

「何言ってんだよ。こんな状態のお前を見捨てて行けるわけないだろ」

「気持ちは嬉しいけど……だめ。ミハエルは、逃げないと……」

「嫌だ。俺は、何があろうとお前を支えると決めたんだ。どんなにお前の手が血にけがれようと、その手を握り続けると……。一度握ったその手を、途中で離してたまるか」

 朱に染まったエルフェの手をきつく握り、ミハエルは言う。それを聞いたエルフェはくすりと笑うと、優しく微笑んだ。

「ありがとう、ミハエル」

 エルフェはそう言うと、心配そうに彼女を見上げていたオスカーを抱き、ミハエルに託した。そして、こう続けた。

「でもね、私も決めたの」

 その瞬間、雷撃命令を受けた重巡から放たれた魚雷が『ビスマルク』の左舷に命中した。爆発の衝撃により、四万トンを超える艦体が大きく震え――それに合わせて、エルフェは最後の力を振り絞ってミハエルの身体を押した。

「な――」

 魚雷命中の衝撃で姿勢を崩していたミハエルは、それを受け止める事ができなかった。被雷によって左舷への傾斜がさらに強まり、ミハエルは引力に引かれて甲板を滑り落ちた。

「あなたを守る――そのために、私は戦うと決めた。だから、あなたを巻き添えにするわけにはいかない」

 ミハエルの頭の中に、エルフェの声が直接響く。艦魂の力が成し得る技を使い、彼女はミハエルに語りかける。

「……本当はね、ずっと一緒にいたかった。最後の最後まで、ずっと……。でも、それはできない。私は、あなたを助けたいから」

「エルフェ……!!」

 絞り出すような声で、ミハエルは少女の名を呼ぶ。海に落ちる刹那、エルフェの最後の言葉が響いた。

「さようなら、ミハエル。オスカーのこと、よろしくね」

 十時四十分、イギリス艦隊が見守る中、戦艦『ビスマルク』は艦尾からゆっくりと海底に沈んでいった。出撃から沈没までに受けた被害は砲弾約四百発、魚雷六本。直接、間接に戦った相手は戦艦三隻、巡洋戦艦三隻、空母二隻、重巡三隻、軽巡五隻。イギリス本国艦隊のほぼ全力に匹敵する戦力を相手に戦い、『ビスマルク』は力尽きたのである。

 『キング・ジョージⅤ世』に座上して『ビスマルク』を追ったイギリス本国艦隊司令長官ジョン・トーヴィー元帥(最終階級)は、公式報告書でこう述べている。


「『ビスマルク』は勝ち目のない戦いに挑み、ドイツ海軍の往時の伝統そのままに極めて勇敢に戦い、戦闘旗を掲げたまま沈んでいった」


~das Ende~

 読者の皆さん、お久しぶりです。約二か月ぶりの作品投稿です。


 前回の『涼月』では個人的な弁解をぐだぐだと述べてしまいましたが、予告通り、『ビスマルク』を主役とした艦魂作品を投稿する事ができました。私の艦魂作品の中では、『瑞鶴』に続いてメジャーな艦を題材とした作品となります。

 『ビスマルク』といえば、欧州最強と呼ばれた事もある有名艦ですので、今さら説明する必要も無いでしょう。初陣であり、最期の戦いともなった「ライン演習作戦」において英艦『フッド』を撃沈、『プリンス・オブ・ウェールズ』を撃破し、英海軍を震え上がらせた活躍は本艦の存在を伝説的なものとしています。

 本作では、戦闘シーンでいつもとは少し違う味付けをしてみました。普段の書き方だと戦闘の主体はあくまで軍艦であり、艦魂の動きはどうしても少なくなってしまうので、ネット上で読んだ他の艦魂作品を参考に、艦魂達が直接に刃を交える描写を入れてみました。

 ちなみに、本作に登場する『プリンツ・オイゲン』の艦魂は、拙作「悪魔に仕えた騎士~独重巡洋艦『プリンツ・オイゲン』~」の主人公でもあります。同作品は時系列的に本作の後日の話となります。よろしければ、そちらもご覧下さい。


 最後になりましたが、この作品を読んで下さった読者の皆様に心からの感謝を申し上げます。ご意見・ご感想あれば、遠慮なくお寄せ下さい。

 今後も艦魂作品の投稿は続けていくつもりです。投稿の際は活動報告で告知しますので、目を通していただければ幸いです。

 それでは、次回作でまたお会いしましょう。

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