表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喰らい合い  作者: 鳴海歩
1/5

プロローグ

なんていうか、ジャンルとしてはアクションなんですが、冒険にしました。

では、よろしくお願いします。


「おもしれぇ。おい小僧。うちで働かねえか?」


金髪の、無精髭をはやした中年の外国人は、僕にそう言った。返り血でいっぱいの僕は、ただ呆然と立っていた。恐らく死んだ魚のような目をしていたろう。何も言わず、ナイフを強く握ったまま…













発端は些細な事だった。いや、父(あれを父とよべるのか疑わしいが)にとっては些細ではなかったのかもしれない。競馬の予想は大ハズレ、それに加えて僕がビールを買い忘れていたのが原因だろう。帰ってきて冷蔵庫の中を確認したとたん、いきなり僕を殴ってきた。

僕はたまらず家を飛び出した。父はナイフ(これで母さんを刺した)を持って追いかけてきた。

外は雨が降っていた。すぐにワイシャツはびしょびしょになった。靴もはかなかった。雨の音が、僕の叫びをかき消していた。もしも冬だったら、凍えてしまっていただろう。

十分ほどわけもわからず走りつづけた。路地裏に逃げ込み、座り込み、もう大丈夫だと思った。だが違った。僕は追い込まれていたのだ。路地裏まで父が追ってきた。僕をみつけた途端、にんまりと不気味な笑いを浮かべた。ナイフをくるくると回している。僕はもう体力はなかった。殺すなら殺せと思った。

しかし、あの野郎は信じられない言葉を吐いた。


「父さんはお前を愛しているんだ。母さんのように。家に帰るんだ。話はそれからだ。」


…なんだと?自分の酒癖が母さんを苦労させ、殺したというのに、“母さんのように、愛している”だと?

ふざけるな。

母さんを侮辱された、そう思った。その瞬間、激しい怒りと憎しみが湧き上がった。

僕は叫びながら突進し、ナイフを力ずくで奪い、腹を刺した。油断していたのか、父は一瞬何が起こったのかわかっていないようだった。腹の傷口を確認すると、僕を怒り狂った目で見た。


「この…クソガキがあっ!」


父が僕の服を掴んだ。僕はナイフに力を入れた。

ぬるりとした感触。体の隙間から、血が滴り落ち始めた。必死の思いで、ナイフをねじ込む。気がつくと、刃渡り十センチほどのナイフは根元まで入っていた。さらに服を掴む力が強くなった。僕はナイフを引き抜いた。血がほとばしり、僕の白いワイシャツを赤く染めた。すると、すぐに父は倒れ、死んだ。それで終わりだった。

雨は止む気配がない。世界は自分を捨てた。昼間はうるさかった蝉の声も、何も聞こえない。

…なんだ?この無力感は。これで終わりなのか?こんな簡単に、全部を失えるものなのか?


「ハ、ハハ、ハ…」


渇いた笑いが出てきた。いや、それしか出てこない。これで、誰も僕を知らない。僕は孤独になった。その時、実は僕は泣いていたのだが、雨のせいで、また、あまりの脱力感に、目が熱くなっているのもわからなかった。

その時だった。路地裏にはいって来た人がいた。傘を差している。


「ほー、今日びの日本でこんなものがみられるとは。やっぱどの世界にも同じようなやつがいたんだなぁ。」


外国人だった。多少の違和感はあるが、流暢に日本語を話していた。4、50代の男だった。僕はただぼうっと見つめていた。男は、僕をみて言った。


「なに人生に絶望しているみたいな目をしているんだよ。…まあ、昔の俺もそうだったのかも知れないな。…おもしれぇ。おい小僧、うちで働かねえか?どうせ身寄りもないんだろ?そうすれば、最高にハイでクールな事を味わえるぞ。」


これが、ジャック・ストラントとの出会いだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ