夢か現実か
リサが惹かれるその椅子に触れるその瞬間、リサの目の前の、その赤い椅子に座る自分の姿が写った。
写るリサは次第に成長し魔法を操り国を支配していた。そして逆らうものは捕らえて強制労働をさせていた。さらに写り変わるリサの表情には暗闇が灯っていて、夢見ている幸せな家族の欠片も写らない。
その情景はさらに日が進んで行きあるものによってモンドネリー家の館が炎で包まれておりそれを見つめる、落ちぶれた女二人の姿があった。とても絶望に駆られた気持ちのまま、目の前に写る情景は遠く消え去り、リサは自分が涙を流していることに気がついた。
自分の手元を見ると椅子にはまだ触れていない。いま見た情景は自分の未来だとリサは確信した。
するとあと少しで触れそうな椅子からリサの手に電流みたいなものがチクっと流れた。
未来の自分への恐怖と痛みに怯えたリサはその椅子から遠ざかりその椅子に座るのを拒んだ。
「リサ、どうしたのだ。早く椅子に…」
「嫌です…!私見たの…この椅子に座った私がどうなるか…凄く怖い。怖かった。」
そういってこの部屋から出ようと扉に向かって走り出すと、誰もいないはずの扉が勢いよく閉まった。
リサは驚いてその場に倒れこんだ。
「リサ、戻ってここに座るんだ!」
反抗しても無駄だというような表情でリサを見つめる両親。
「その魔法はなんで使えるの…?私もそこに座れば使えるようになってしまうの…?そんなものいらない!!!」
そういって立ち上がったリサは閉まっている扉を開けようとする。
だか全く開く様子のない扉と、背後から近寄る両親の影に恐怖心だけが積もっていった。
「逃げようとしても無理だぞ。お前は、ここに座る運命なのだ。言っても無駄なら力でお前を座らせるぞ!」
そう言い放つとリサは父の力により、身体を固められ、地面から浮かされ椅子の近くへと引き寄せられた。
いくら動いて力を解こうとしても身体は全く動かなかった。そして椅子に触れる直前、再び目の前にモンドネリー家が焼かれ絶望している落ちぶれた自分が見えた途端、リサは全身の力を込めて叫んだ。
するとリサから爆風が放たれ、近くの椅子や両親、部屋のシャンデリアなど全てが吹き飛んだ。リサはその場に倒れこんで、何が起きたか解らない状態のままだ。
嵐の後の静けさのような沈黙はすぐに解けた。飛ばされた両親が立ち上がってリサに向かってこう言った。
「お前、まだ椅子に座っていないのに…凄い力だ…やはりお前は運命の子だったんだ…!ほら、リサ、自分の力を信じて座るのだ!」
今の爆発のような物は、本当に自分が出したのかもわからないリサはただ怯えることしかできなかった。もしさっきの力が私の出したものなら私の未来は、あの目に写った情景のようになってしまうのか…と。
「運命の子なんて知らない。私は普通がよかった!こんなの望んでない!!!」
そう言って壊れかけている扉の方に走っていくと、前に大きな壁が作られた。
だかリサは走るのをやめずに、手を前に伸ばしリサ自身で力をだしてその壁を破壊した。
まるでリサの中にもう一人の自分が力を操っているかのようだった。
だがそれよりも早くここから抜け出したい一心に走り続けた。
後ろからは両親が追いかけてきて、何度も前に壁が作られたが、全て打ち壊しやっとの思いで館の外にでた。
するとふと館を振り返り意思に反して動く両手は館に向けられ、力を大きく放たれ館の外壁が崩れた。
リサは莫大な力に驚き、コントロールできない自分にさえ恐怖を抱きながらも、方向を変えて両親がおってこれないところまで走り続けようと決めた。
「この街の外れに森がある。そこに行って身を隠そう。」
リサはずっと泣いていたが、どこか解放されたような気持ちがあり足取りも重くはなかった。
そしていつのまにか森に入り、誰も来れないくらい奥まできたリサは疲れ切っており、森の中の動物にも攻撃されないようにするために木に登り一休みすることにした。
リサは、今でも目に焼き付いている自分の未来について何度も何度も思い返しては恐怖感に襲われながらも木の上で一夜を明かした。