赤
薄曇りの夜空。郊外の路地の細道に黒服をまとうモンドネリー家の3人が歩いていた。頭から顔を隠すように布をまとい、雲の隙間から差し込む微かな光が真っ白な頬を照らしている。
3人は家をでてから約30分もの間なにも会話することはなかった。
若いリサは沈黙に耐えきれずにいた。
「……母上、そういえば今日お話しする方はどんな方なのですか?」
母親より先に父親が口を開いた。
「リサ、今言えることは、我がモンドネリー家の繁栄のためにある部族と仲間になるということだ。そのためには、後継者となるお前が必要である。これから先のことは言えない。
……ただ、お前には早すぎると思うが、この手しか方法はないのだ。」
「早すぎる?方法?なにをするの…?」
「…いいから、黙ってついてきなさい。」
これ以上はなにも言わなかったが、とても恐怖心が募ってきた。
いつもは冷静沈着な父だか、リサを見る目が游いでいて何かと落ち着かない様子であったからである。父を不安にさせる方法とは何だろうか、考えただけで、リサは震えが止まらなくなった。
それから15分ほどまっすぐに道を歩き続けると、目の前に壁が表れた。すると、リサの父が何か呪文のようなものを唱え始めた。
理解不能な呪文を1分近く唱えると、壁から木でできたドアノブが突き出てきた。そのドアノブには、翼の大きな鷲が彫られている。すると父が胸元から、ドアノブに彫られてある鷲と同じように掘られている判子を取りだし同じ場所に押し付けた。
すると壁全体のレンガが上方へ吸い込まれるように消えていった。
リサは驚いた。
「…!!魔法!?父上、魔法なの?」
「…ああ。そうだ、これから、想像もしないことが起こる。心しておけ。」
リサは魔法がこの世にあるのなんて思ってもいなかったし、自分の父が魔法を使えるだなんてことに驚きを隠せなかった。
3人は開かれた壁の先へと進む。
そこは、長い廊下といった所だろうか、外よりは明るいがとても薄暗い。赤い絨毯で埋め尽くされた長い廊下には、等間隔にドアとロウソクがある。
リサはとことん怖くなってきた。
風は通っていないが、寒気しかしない。
ふと気づくと、父と母があるドアの前で立ち止まった。何個も通りすぎたドアよりも一段と大きく木でできていて、無くなってしまった壁のドアノブと同じ鷲が彫られている。
すると、鷲の目が動き、前に立つ3人の姿を見つけた。頭の先から爪先までじっくりと鷲は見つめる。リサは怖くてたまらなかった。魔法という現実を受け入れられず、これから自分に待ち受けるものは一体何なのか、恐ろしかった。
ガチャッーーーキーッッ
という音と共に重いドアは開かれる。
リサは恐る恐る中を見る。
その部屋はとても広く廊下と同じ赤い絨毯が広がる。天井にはこれ以上ないほどの大きなシャンデリアがかけられているも、薄暗いのに変わりはない。窓ひとつなく、ホコリで室内が少し曇っているのがわかった。
そんな中、中心に大きな赤い椅子が5つ、並べられている。特に、真ん中の椅子は大きく、金箔で張り巡らされている淵の着いた豪華な椅子であった。
その右側にある椅子は、少し小さくなったがそれでも大きく、銀箔の淵である。その他の3つは同じ大きさであったが、うち2つには蔓が生えていて、誰も座ることはできない椅子であった。
リサは一番左側の蔓の生えていない、新しい椅子に引かれていた。その椅子がリサを呼んでいるのだ。今までの恐怖感はいつのまにか消えていて、気づくとその椅子へと近づいていた。
あと少し………椅子に手を伸ばす。