リサの憧れ
「羨ましい……」
リサは心の声が漏れていた。
本の中には、愛する夫と子供に囲まれて暮らす一人の美しい女性の姿があった。彼女は、貧乏ではないがお金持ちでもない平民である。だが、家族の愛に包まれていて、とても幸せそうである。
「はぁ…幸せそうだなぁ…」
リサは机に突っ伏した。頭の中で幸せそうな彼女を自分に変換し、幸せを共有する体制にはいった。
すると、誰かが居室に入ってきた。
足音はないが、その人が出す陰気なもので、誰であるかすぐにわかる。リサの母親だ。
長身の糸のような体に真黒の肌を見せない衣装、長く伸びた髪まっすぐに腰を降りている。心に突き刺さるような瞳は人の考えを読み取ってしまう不思議な力の持ち主だ。
「リサ、今日は出掛ける日よ。早く準備しなさ…
あなた…!またこの人間達の生活を見てたの?いい加減、後継ぎになることを決めなさい。そんな本を見たところで何の役にもたたないじゃない。
今日の会談であなたが先方に気に入られれば、我々モンドネリー家の繁栄が10年振りに蘇るわ!!!
そうすればあなたも今よりももっと贅沢な暮らしができるようになる。そんな生活なんて興味もなくなるわ……。とにかく、準備しなさい。」
「母上…本当に私に後継ぎなんて務まるのかな…
やっぱり兄上の帰りを待つのはできないの?それに繁栄、繁栄っていうけど、私わこの人達のような暮らしでいいと思うわ…」
「またそんなことを言うのね。
失望させられるばかりだわ…あなたの兄は我々から繁栄を奪ったもの達に復讐するために家をでたのよ。なのにあなたは、家にいてただその本を眺めているだけじゃない。そんなできそこないのあなたに後継ぎをさせるなんて我がモンドネリー家の名に恥じるわ。だけれど、モンドネリー家の血が流れる者にしか、継ぐことは許されていない。
はぁ…もしプロキンとワイトが生きていたら………」
「わかったわかった…もうわかったから。兄が生きていたら、繁栄なんてとっくに戻っている。でしょ。
………わかったから、準備します……」
母は呆れ返り、部屋を後にした。
リサは重い頭を上げ、支度を始める。
鏡の前に立つと、自分を母上かと勘違いするほど似ていることに、さらに苛立ちを覚えた。
身長は母親ほどではないが、スタイルの良さは抜群である。
だが、そんな自分に酔いしれることなく、頭に思い浮かべるのは、あの幸せそうな彼女の笑顔であった。だが、すぐに後継ぎのことが頭を埋め尽くす。
「兄上がいれば、後継ぎになんてならなくて済むのに…はぁ…。
どこにいるんですか…?」
鏡の自分に問いかける。兄が大好きであったリサは、とても一人ぼっちな気分であった。