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しゃーないな  作者: そら
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第5話  素直さって大事だと知りました。

「おかまいなく。」


それって普通、「かまうんじゃねーよ。」の別語として、この世の中、通ってるんだと思っていた。


そりゃあ、私はまだ14だ。


知らない事の方がまだまだたくさんあることくらいわかっている。


けれど、こちらが何もいらないし、それどころか近づくな!と、言っているにもかかわらず、毎日のように、私の後を追いかけまわすのだ、この3人が。


嫌がおうでも、3人の名前は覚えたし、そりゃあ、最初の数日は私も大人しく「嫌だ。」と答えていた。


自分でも、良く律儀に頑張ったと自分で自分を褒めてやりたい。


彼らが現れてからすでに1週間。


これほど毎日学校に真面目に通った事はない。


家にいればあの3人が待ち構えていて、何とか私を説得しようとするから避難している。


ふらふら散歩に出る時でさえ、どんなにまこうしても、私の後をついてくる。


いいかげん、当初と違って私の口も態度も悪くなる。


そして現在、きままにふらふらしたい私は、学校にいったふりをして、そのまま学校の塀をこえ、学校を抜け出した。


塀ってのぼるのは簡単だけど、制服で降りるのって超めんどくさいのね。


そうして久々の一人を満喫しようと、あのお気に入りの壊れたコンクリートの待合所の所まで足を延ばした。


ゴロンとちょっと冷たいコンクリートの椅子の上に横になり、いつものように、切り取られた絵画のように見える青空を見上げる。


ふっーっと大きく息を吐きながら、至福の時間を味わっていると、突然その明るい空がさえぎられた。


その切り取られた青空の代わりに、私に覆いかぶさるように、あのトップの息子、兵頭誠吾があらわれた。


「タイムアウトだ。」


そう言って、強く私を上からにらみつけたかと思うと、一転そのまま跪くと、寝ころんだままの私の手を取って、自分の額の上におしつけた。


「これから先、斉藤の代わりに守らせてくれ。」そう、声が聞こえた。


床にかがみこんだせいで、もう一度天井のぽっかりと覗く部分から漏れてくる空の明るさの中でさえ、私の手で隠れて、その表情は口元だけしか見えなかった。


暗いコンクリートの建物の中、誠吾の言葉が続いていく。


けれど私が思ったのは、さすが斉藤、死んでも半端ねぇ、私の堪能したケーキの見返りはとても高いものになりそうだという事。


斉藤の思いに、この男達は引きずられている。


こんな呪詛を彼らに残して、斉藤め、私にどうしろっていうんだ。


私は心から「いりません。」と言っているのに、だ~れも本人の心からの声を聞きやしない。


人の言葉は素直に聞きましょう、と小学校の時、全校集会で校長先生が話した事があったっけ。


あの時は「けっ。」と思っていたけど、校長先生ごめんなさい。


本当に「素直」って大事だと思います。


自分の身にふりかかって、こんなに大事な言葉だと理解できました。


ねぇ、斉藤、あんたってバカだねぇ、あんたってば絶対、自分以外が私のそばにいるの嫌だったでしょう?


あの電話の最後は、既に妄執としか言えない言葉の数々だったのだから。


私がもう聞くのがめんどくさくなったくらいの。


これが呪詛返しって事だね。




はぁ~、私は一度だけ溜め息をついて、いまだ私の手を握り自分の額にあてたまま、熱に浮かされたかのように、全てを誓い続ける男に目を向けた。


この男もまた大きな虚空を抱えて生きてきたんだろう。


これだけの存在の男でも、斉藤にいつしか寄りかかり、あの「狂い」の中に依存していたのか。


たちの悪い事に、その認識のないまま、こうして、今度は、その存在から託されたと信じる、初めて「守るもの」として私という存在ができた。



親子連れのクマは最悪、最凶だと誰でも知っている事の一つだ。


また1人、父親の声が上の方から聞こえる。


「全てまかせてくれ。この命あんたにお返ししよう。」



斉藤の下につく人間の、まとめ役だったという若い男、近江忠弘が私の足元に同じように跪いて、私の靴先をその体に抱え込むように囁いた。


「あんたに、斉藤さんの代わりに、御恩返しさせてくれ。この命好きに使ってくれていい。」




斉藤という傷を負った手負いの獣が3匹。


厄介なことに、守るべき「幼獣」ができた。


周囲にとって、こんな脅威はないだろう。


私のせいじゃない!これだけはしっかりと主張させてもらおう。


この日、私はそのまま彼らに連れられて、生まれ育った町を出た。







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