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惑い星

作者: 梨音

 先輩が自.殺したらしい。ある冬の日唐突にそれだけを伝えられた。私にそれを伝えたのは特に仲良くもない同輩だったのだが、しかし彼女も多くは知らなくて、私が色々尋ねると「うるさい知らない! あんたあの先輩のこと好きだったの?」と逆に訊かれてしまった。それはまさしく事実だったのだがわたしは認める気にもならず、仕方なくすごすごと引き下がった。その日の帰り空を見上げると、先輩の教えてくれたオリオン座の三ツ星がいつもよりほんの少しだけ鮮明に見えた、気がした。涙を流さない自分は冷たい人間なのだろうか。故意に欠伸をしてみると、涙で滲んだ視界の中で三ツ星が小さく揺れた。

 それから一週間ほど経ったころ、家に封筒が届いた。大きな、しかし何の変哲もないもの。けれど宛名の文字に見覚えがあった。先輩のさらっとした癖のある字。思わずその場で破り開けて中を覗いた。使い古された星座早見表と、折り畳まれた紙が一枚、入っていた。


     惑星はようやく恒星になれました。

     今まで本当にありがとう。

     僕の空を君にあげる。


 僕は惑星なんだ、といったときの先輩の横顔が不意に鮮やかに蘇った。恒星になれずに惑っているんだよ、と。遠くを見ているようで何も見ていない瞳。そんなことないですと言った私に向けた、寂しそうな、それでいて何かを哀れむような微笑み。そう、そしてそのとき彼は言った。

 僕が死んでも驚かないでねと。

 僕はずっとそれを望んでいるのだからと。

 


 私は思わずそこにぺたんと座り込む。ようやく実感した先輩の死に対して言いたいことはただひとつ、なんて身勝手な。口からこぼれ出たそれは小さく震えていた。自分が望むからと死んでしまったんですか。そんな身勝手な理由で自分を殺したんですか。らしくない。それとも先輩本当はあなたはそんな人だったんですか。そんなの私は認めない。認めない!

 泣き叫ぶ私を、近所の人が窺うように窓から見ているのが分かった。いつの間にか目から涙がどんどん溢れ出している。止まらない。涙も、叫び声も。今更私が何をしたところで彼が生き返るわけでもないのに。

 オリオン座のそばで光る小さな名も無い星が、寂しげに笑みながら私を見つめている。それが分かっているから、わたしは泣くのを止められなかった。

うーんと結果的に自殺反対みたいな内容のものが出来ましたね←

特にそんな意思は込めてなかったんですが笑

もともと長編にしようとしたものを続かなそうだったので短編に改めました、

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― 新着の感想 ―
[良い点]  心の中がきゅっと痛くなります。 星を見たくなりました。 [一言]  傷つくことになれた人なら無味無臭にしてしまいそうな一コマを、爽やかに、痛みを持って描いている梨音さんって、すごいなと思…
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