表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

気づいた日から始まっていた

相沢 愛side

三月。

春の空は晴れているのに、風だけがやけに冷たかった。


体育館の壇上から眺める景色は、どこか夢みたいで、

でも、その真ん中には間違いなく、彼女――白石まひるがいた。


私は卒業証書を受け取りながら、

「この人に、やっと届いたんだ」と思っていた。


遅かった。

でも、間に合った。



式が終わって、教室に戻ると、

みんな写真を撮ったり泣いたり笑ったり、賑やかだった。


その中で、まひるは私のほうを見つけて、言った。


「……校舎、一緒にまわらない?」


その声が、あまりに自然だったから、

私は少しだけ立ち止まって、それから頷いた。


「うん、行こっか」



昇降口を抜け、無人の廊下をふたりで歩く。


夕方の光が差し込む中、

彼女が歩きながら言う。


「ここ、覚えてる? たしか……壁ドンされた場所」


「……よく覚えてるね」


私は笑いながら、でも心の中でそっと息を飲んだ。


(ほんとは、もっと前からなんだよ)



あの日。

上条ひかりを廊下から引っ張り出して言った。


『あの子に、霊を近づけないで』


『……わかってる。でも、白石さんには見えてないんだよ?』


『関係ない。見えなくたって、影響はある。あの子、体調崩してるでしょ』


『……あんた、本気だね』


『昔からずっと、見てきたんだよ』


あのときの自分は、きっと怖い顔をしていた。

だけど、止められなかった。



保健室のあの日。

久遠がまひるに触れようとしたとき。


私は誰にも聞こえない声で言った。


『もう、そばにいるのはやめて』


『……でも、私はただ――』


『この子は、ちゃんと“生きてる”人に触れていくべきなの。

叶わない恋じゃ、幸せになれない』


久遠は静かに笑った。

その笑顔を、私は忘れない。


『好きなんだね、あの子のこと』


『……そうかもね』


あの瞬間、私はようやく自分の気持ちを認めたのだと思う。



「卒業、したんだね」


まひるの声が、現実に引き戻す。


「うん」


「ここから、どうなるのかな」


「わかんない。でも……」


私は立ち止まり、まひるの手を取る。


「私は、もう見てるだけの人じゃない。

ちゃんと、隣にいたいって思った」


彼女が、目を丸くする。


(ほんとに、変わったな)


「だから……愛ちゃん、これからも一緒にいて」


その言葉に、私はもう、何も言えなくて。

ただ、額をそっと寄せた。


「……まひる。好きだよ」


「私も。ずっと」


触れた唇は、やさしくて、あたたかかった。



昇降口まで戻ると、ひかりが腕を組んで立っていた。


「見届け人、再登場〜。はい、卒業カップル、よくできました!」


「うえちゃん……」


「まひる、あんたほんとに遅かったけどさ、

最後ちゃんと“自分で掴んだ”って顔してるよ」


私はまひるの手をぎゅっと握った。


たぶん、これからの毎日も不安はある。


だけど、この人と一緒なら。


何度でも、恋をして、触れて、名前を呼んで。

そのたびに、ちゃんと愛していける。



校門の外は、少し風が吹いていた。


桜はまだ咲いていない。

でも、確かに春は始まっている。



これからは――

ふたりで並んで歩く物語が、始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ