見つめられると顔が熱くなる
週が明けて、月曜日の教室。
まだ始業前だというのに、なぜか周囲がざわついていた。
そして、私が教室に入った瞬間――
「おーい! お・め・で・と・うーっ!」
うえちゃんが、教室の端から猛ダッシュで駆け寄ってくる。
「うわっ……ちょ、ちょっと待っ――」
「まひる、カップル誕生おめでとうっ!」
そのまま勢いよく、正面から抱きつかれた。
「うえちゃん!?!?!?」
「いや〜ついにだね!愛ちゃん、念願叶ってよかったな〜〜!」
「なんで知ってるの!?言ってないし、言ってないし!」
「だって顔が全部語ってる。てか、昨日LINEの反応で確信した」
「そんなの読まないでよ!!」
「読んでない、感じた!」
めちゃくちゃだった。
でもそのとき、教室の入口にもうひとりの姿が現れる。
愛ちゃんだ。
彼女はその光景を見て、ぴたりと足を止める。
そして――
ぎろっ。
「……ひかり、何してんの」
低めの声。
いつもの静かな口調なのに、明らかに“怒”が含まれている。
「うわ、怖。愛ちゃん、私にヤキモチ?」
「……別に。引きはがしてくれればいいだけ」
「はいはい、返す返す。
いや〜嫉妬深い彼女、まじ怖いっすね〜〜まひるちゃん、命大事に」
ぱっと腕を離して私の背中に隠れるようにしてから、うえちゃんが言った。
「でもまあ、まひるはもう私のじゃないし。いいよ、譲ってあげる」
「もともとお前のじゃない」
「えっ言い方冷たくない??」
そんなじゃれ合いの中で、私はひとつ、気になっていたことをぽつりと尋ねた。
「……うえちゃんって、恋人いるの?」
「ん? あー、いるよ。別の学校だけどね」
「えっ!? えぇ!?」
「まひるが初耳なのは当然でしょ、言ってなかったもん。
ほら、私ってこう見えてモテるから?」
「いや、見た目はオタク風だし、突然抱きつくし……」
「それでも恋は生まれるのだよ……(ドヤ)」
「なんの説得力……」
「安心して、私、彼女一筋。まひるちゃんに手ぇ出さないよ」
「出されても困る……!」
私とうえちゃんのやりとりを横で聞いていた愛ちゃんは、腕を組んだまま目を細めていた。
「……他校に彼女いるって知ってたら、そんなに睨まなかったかも」
「えっ、じゃあ知らない前提でずっと私に警戒してたの?」
「当たり前。まひるに寄ってくるやつ、全部敵だったから」
その言葉に、私は思わず顔が赤くなる。
「ちょ、そんなこと平然と言わないでよ……!」
「ほんとのこと」
「やめてってば……!」
周囲の子たちも、興味津々といった目でこちらを見ていた。
ひそひそ声が飛び交っている。
「やっぱり付き合ってるらしいよ」
「壁ドンされたとか……」
「見た目真逆なのに、いいよね……尊い……」
「うわっ、聞こえてるし……!」
私は机に顔を伏せた。
でも――そのとき、隣からそっと手が添えられた。
「聞こえてても大丈夫。私は、気にしない」
「……でも、恥ずかしい」
「……なら、家でいっぱい好きって言ってくれれば許す」
「言わないってば……!」
わかってるくせに、からかうように笑う愛ちゃんの横顔を、私はちらりと盗み見た。
そして思った。
(この人のこと、やっぱり好きだ)
こんなに視線を感じる毎日が、
こんなに顔が熱くなる日々が、
こんなに――幸せだなんて、思ってなかった。




