第7話:ラビッチュのための、はじめてのごはん
冒険から帰ってきたその日、ラビッチュは少しだけ元気がなかった。
「キュー……。」
布団に潜りこみ、丸まって羽耳をふにゃりとたらす。普段なら跳ね回って俺の顔に乗ってくるのに。
「ラビッチュ、疲れたんだな……。」
そう思ったら、いてもたってもいられなかった。
「……よし、今日はごはんを作る。俺の手で。」
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厨房の隅、使用人に見つからないようにそっと潜り込む。
身長の関係で調理台には届かない。椅子を引っ張ってきて、よじ登る。失敗すれば怒られるのは確定。でも、やる。
「えっと……材料は……。」
ラビッチュが好きなものは、“甘み”と“やわらかさ”。
だから、干しリンゴを水でふやかして、小さく刻む。村で採れたハニーベリー(蜂蜜に似た果実)をすり潰し、少し混ぜる。
最後に、保存していたミルク粥の素を加え、鍋でコトコト温める。
火は……子ども用の安全魔道コンロ。温度は自動で調整してくれる、文明の利器。ありがとう過去発明家たち。
「これで、いいはず……!」
お椀によそうと、湯気と甘い香りがふわりと立つ。
名付けて――
《ラビッチュのためのやさしいごはん》
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部屋に戻ると、ラビッチュが目をしぱしぱさせて起き上がった。
「……キュー?」
「……作ったんだ、お前のために。」
器を差し出すと、ラビッチュは驚いたように目を見開き、ふわっと笑ったような顔をした。
一口、ぺろり。
二口、もぐもぐ。
三口目には、もうぴょこぴょこと体が跳ねていた。
「キュウウウウウ!!」
満面の笑顔(?)で俺に飛びつくラビッチュ。スプーンを持ったままだったので、頭にミルク粥が飛び散る。
「ははっ、やめろ、こら!」
「キューッ!」
その日、俺は初めて“ごはんを作る”というアイテムクラフトを経験した。
レシピも技術も、ぜんぜん未熟。
でも、ラビッチュは言葉では言い表せないほど、喜んでくれた。
これは、きっと――
戦うよりも、強くなるよりも、大切な「育てる」ってことなんだ。
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夜、日記帳(絵本の裏にこっそり書いている)に記す。
『ラビッチュごはん成功。次はもっとふわふわのパンケーキを目指したい。火加減と甘さの調整、課題。ミルク粥は正義。』
翌朝、俺の枕元には、ラビッチュからの贈り物が置いてあった。
――《やさしさの星片》。
何の効果かは、まだわからない。でも、温かい光を放っていた。