第6話:はじめての探検とラビッチュの本気
「ねぇカノン!今日は南の草原まで行ってみようよ!」
そう言って笑ったのは、やんちゃで力自慢のニール。
「でも、あんまり遠くまで行ったら怒られるんじゃ……。」
慎重派のディルが眉をひそめる。けれど俺は、ラビッチュの耳を軽く撫でて答えた。
「……平気。今日は、おれたちだけの遠征訓練だ。」
「キュー!」
ラビッチュもやる気満々だ。マントとリボンは外して、バトル仕様に着替え済み。背中の袋には、村のキッチンから失敬した干し果実と水袋、それに……例の《覚醒の星片》が大切に包んで入っている。
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目的地は、村の南――雑草が茂る小さな丘。
ゲームでいえば“チュートリアル後半に差し掛かるあたり”。スライム系、甲虫型、時々マンドラ草。たぶん、危険度はC-ランクってところだ。
初めての探検に、3人はドキドキだった。
「お、おぉ……!なんか、冒険者っぽいね!」
「ニール、声が大きい……モンスター来たらどうするのさ!」
「むしろ来てほしいんだよね、ちょっとくらいは戦いたいし。」
俺がそう言った瞬間、ラビッチュが耳をぴくりと立てた。
「キュー……!」
低い鳴き声とともに、茂みがガサガサと揺れる。
出た!
――【グラスホーンLv3】×2
中型の虫型モンスター。突進してくるタイプで、低レベル帯では地味に強敵。
「ニール、後ろ下がって!ディル、横に!」
俺は即座に布陣を整える。ラビッチュは既に構えていた。彼の身体が小さく光を放つ。発動したのは……
――《羽連撃》!
ラビッチュが地面を蹴る。羽耳が連打のように光をまとい、1体目のグラスホーンの胴体を弾く。
「キュゥゥ!!」
パキィィン!
一閃。1体目は一撃でノックアウト。
だが2体目が残っている。ニールが悲鳴を上げる。
「カノン、あれ、ヤバそうだよ!突っ込んできてる!」
「大丈夫。今、使う。」
俺は袋から《覚醒の星片》を取り出し、ラビッチュに向けて静かに呟いた。
「いこうぜ、相棒。“ちょっと本気”出そうか。」
欠片が光る。
ラビッチュの身体が、淡い金色に包まれる。
――《覚醒Lv1》:パラメータ全体に小幅なブースト、特殊スキル“エコー・ストライク”を一時開放。
「……キュー!」
グラスホーンが跳びかかる。
その瞬間、ラビッチュが消えた。
否、速すぎて見えなかっただけ。
「エコー・ストライク!」
一度だけ、グラスホーンに“衝撃”が走る。
さらに1秒遅れて、同じ軌跡が“もう一度”なぞられる。
空を裂くような断裂音。草が渦を巻く。
グラスホーンは……もはや形を留めていなかった。
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帰り道。
「カノン、すごすぎるよ……ラビッチュ、あんなに……。」
「俺、ちょっとびびった……でもかっこよかったなぁ!」
ニールもディルも、目を輝かせていた。
だが、俺は思っていた。
――《覚醒の星片》は、使用回数に制限がある。
それに、力を引き出しすぎれば……代償が、あるかもしれない。
けれど、守るために使った今日の1回。悔いはない。
「キュー♪」
ラビッチュが俺の指をちょいっと引っ張る。
「……ああ。また一緒に強くなろうな。」
俺たちの小さな探検隊は、こうして一歩ずつ、世界に足跡を残し始めていた。