第54話:結ばれゆく絆と、森の奥の都市へ
丘の上の町は、まだ濡れた土の匂いに包まれながらも活気に満ちていた。
魔人たちが材木を運び、モンスターたちが翼や力を使って梁を支える。
人とモンスターが肩を並べて家を建てている光景は、まるで昔からそうだったかのように自然だった。
「……あの男? ああ、あいつはな……。」
作業をしていた魔人の一人が汗をぬぐいながら話す。
「神の話をしていった後、こっちを振り返りもせず、呆れたようにため息を吐いてさ……そのまま森の方に歩いていったよ。」
「……随分と人間臭い神様だな……。」
俺は苦笑しながら、虹の星片をそっと握りしめる。
---
そして、場所を変えた新しい教会。
そこでは思いもよらない光景が広がっていた。
「……まさか、本当に……結婚式?」
ニールが呟く。
祭壇の前で、屈強な体格の魔人が、巨大なドラゴンの翼にそっと触れていた。
その腕には光る運命の糸が巻きつき、ドラゴンの瞳も優しく細められている。
「……愛を誓いますか?」
司祭の問いに、魔人は力強く頷く。
「誓う。」
低く響く声。
ドラゴンもまた、咆哮をあげるように――しかし柔らかな声で返した。
「誓う。」
拍手と歓声が教会を満たした。
---
「……すごいな……」
俺はヴァルを見た。
サリウスも同じように見ていたので、ヴァルは慌てて翼を広げて言った。
「ヴォォ……(いや、俺はオスだから……そういうのはないぞ……!)」
サリウスはふっと笑いをこぼした。
その横で――
「キュー……(カノン……私も……)」
アルネアがそっと俺の腕にすり寄る。
「きゅるっ!?(ちょっと!勝手にくっつかないでよ!)」
アリアが怒りで翼をばさばささせる。
「ちょ、ちょっと待って落ち着けお前たち!」
俺は両手でふたりを制しようとするが、アルネアはしっぽを揺らし、アリアは頬をぷくっと膨らませる。
「……修羅場だねぇ。」
吟遊詩人がリュートを鳴らしながらにやにや笑った。
---
「なあ、リューネリア。」
ディルがふと思いついたように聞く。
「お前……結婚したいと思ったりするのか?」
リューネリアはしばらく首をかしげて、優しく笑った。
「ピィィ……(私はね……あなたのお母さんだから。)」
「……母ちゃんじゃねぇよ!相棒だろ!?俺の!」
ディルは頭を抱えてのけぞる。
「ピィィ♪(ふふ……そうね、相棒よ。)」
皆が笑い声を上げ、教会の空気は祝福と温かさで満ちていた。
---
だが、その笑顔の裏側で俺は決意を固める。
「あの男が……神様が歩いていったという森の奥……そこに、きっと何かがある。」
「キュー……!(カノン、行くのね?)」
「きゅるっ!(なら私も行く!)」
ふたりが同時に鳴き、ヴァルも翼を広げる。
サリウスが静かに頷き、ディルとニールも剣を握った。
「……次は、森の奥の都市だ。」
俺は虹の星片を強く握りしめる。
「神様がどんな試練を用意していようと――俺たちは行く。」
港を離れた船が波を越え、緑深き森の影が遠くに見え始めた。
――神が歩いた道の先に、何が待つのか。
モンスターと人と、そして魔人を結ぶ新たな物語が、また始まろうとしていた。




