第51話:皇帝の語る神と、次なる地へ
玉座の間は、落ち着いた静寂に包まれていた。
アンデッドとなった皇帝は、灰色の瞳で俺たちを見据えている。
その瞳に恐れも悲しみもなく、ただ長い年月を知る者の深い色が宿っていた。
「……君たちが、帝国を救ったのだな。」
その声は、どこか遠くを見ているようだった。
「いえ……俺たちは……ほんの一部です。」
俺が答えると、皇帝はわずかに笑った。
「……礼を言おう。しかし――私がこうなったのには、あの“男”が関わっている。」
「……男?」
ディルが眉を寄せる。
「黒い服を着ていた……銀縁の眼鏡をかけた、奇妙な男だ。」
皇帝は目を閉じ、遠い記憶をたぐるように言葉を紡いだ。
「奴は私に尋ねてきた。“なぜモンスターを受け入れないのか”と。」
俺たちは息をのむ。
「私は答えた……“人とは違うものだからだ”と。すると奴は言ったのだ……」
皇帝の瞳が細くなる。
「ふむ……では人と似たものを用意しよう。」
「……あいつは、神様だったんだ……。」
ニールが震える声を漏らす。
サリウスがゆっくりとうなずいた。
「……神は、与える厄災と祝福を人ごとに変えている……ということですか。」
「そうだ。私はこの国を守るために拒んだ。だが……その結果がこれだ。」
皇帝は玉座の肘掛けに手を置き、アンデッドとなった指先をじっと見つめた。
「だが今は……この国には人とモンスター、アンデッドが共に暮らす。皮肉なものだが……これもまた、神の与えた道なのだろう。」
外では、子どもたちの笑い声が聞こえる。
市場ではモンスターが荷を運び、アンデッドが家を直している。
人々は怯えず、自然にそれを受け入れていた。
「……強いな、この国は。」
俺は思わずつぶやいた。
「……我らは歩むしかない。」
皇帝はゆっくりと頷く。
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その夜、俺たちは皇帝に別れを告げ、港町へと向かう準備をしていた。
次の目的地は――地図の先にある、海の向こう。
「……次の試練の地は?」
ディルが尋ねると、サリウスが指さした。
「ここだ。モンスターと人が交わり、混血が暮らす地。古くから神話の残る群島だ。」
「キュー……(どんな場所なんだろう……)」
アルネアが羽耳を揺らす。
「きゅるっ!(楽しみね……でも、カノンは私が一番よ!)」
アリアが誇らしげに翼を広げる。
吟遊詩人はそのやり取りを聞きながら、リュートを鳴らした。
「……ほんと、どこに行っても賑やかだな。」
「だろ?」
俺は笑って空を見上げた。
港からは潮の匂いが漂い、月明かりが波間を照らす。
虹の星片は、まだポケットの中で静かに光を宿している。
――神が次に試すのは、混血の地。
人とモンスターが交わるその場所で、何が待つのか。
俺たちは夜風を受けながら、ゆっくりと船へと向かった。




