第5話:おしゃれして、世界へ一歩
「今日は“星降りの宴”。カノン、準備はできてる?」
母がにっこりと笑う。
星降りの宴――この国で貴族の子供が初めて社交の場に顔を出す儀式だ。大人たちはこれを“初陣”と呼ぶらしい。
俺は三歳、足元こそまだ危ういが、言葉も整い始めているし、ラビッチュとの初戦闘を制した今、村の誰もが俺を「只者じゃない」と見始めている。
それに加えて――今日は、“正装”だ。
「キュ?」
鏡の前、ラビッチュが首を傾げる。
ふふん、驚け。
「お前の衣装、これだ。」
じゃーん、と箱を開けると、中には羽を模したマント、足元にキラキラした飾り紐、小さなリボン。
ぬいぐるみのようなボディを生かした、超絶キュートなモンスター用ドレスセットである。
「キュー!!」
即座にテンションマックスになるラビッチュ。
装備させると、くるくる回って見せびらかし、俺の足元でポーズを決めた。
俺も今日はいつもの寝巻きではなく、王家謹製の礼装を着せられていた。
肩に金の縫い糸が光り、胸元には家紋入りのエンブレム。
「お前も俺も、今日は“お披露目”の日だ。気合入れていくぞ。」
「キュー!」
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宴会場は、まばゆかった。
クリスタルのシャンデリア、星を象った照明、貴族たちが並ぶ豪華な会場。俺とラビッチュが現れたとたん、ざわめきが走った。
「えっ、あれが……辺境の“星の子”?」
「ラビッチュを正装させてる……なんて発想だ……!」
「かわいすぎる……!」
周囲の反応は上々どころか、半ば伝説扱い。
ラビッチュの“超強化された”気配を何となく感じ取っている者もいるようで、若き魔法士たちはやや警戒して距離を置いているのが見える。
そこへ、見知った顔が現れる。
「カノン!キミも来てたんだね!」
ディルとニールだ。彼らも正装だが、何となくこっちは“主役”扱いをされている。
「よぉ。今日は、遊びじゃないけどな。」
そう言いながら、ラビッチュがチラリと小さな袋を俺に押し当ててくる。ん?何かと思えば、艶やかな光を放つ、小さな結晶のかけら。
――《覚醒の星片》。
ゲームでもおなじみだった“特定のモンスターを限界突破させるアイテム”だ。
「……どうして、これが?」
ラビッチュは羽耳で、胸をぽん、と叩く。
――これは、ラビッチュが自分で“出した”ものだ。
つまり、戦ったことで成長し、内側から生まれた進化の兆し……。
「……なるほど。“ドロップ”じゃなくて、“結実”するのか。お前の強化、やっぱり普通じゃないな……!」
俺は小さくその欠片を握りしめた。今は使わない。まだ、時期じゃない。けれどこれが、俺たちの“武器”だと確信する。
この日、俺とラビッチュは社交界で一躍注目の的となり、噂は王都の冒険者ギルドや魔法学院にまで届くこととなる。
だがそれは、また別の話。