第49話:翼の相棒と、禁忌の帝国へ
「……よろしくな、アリア。」
焚き火の前で、吟遊詩人がそっと手を差し出す。
彼はまだ少し緊張した面持ちで、恐る恐るその翼あるモンスターを見つめていた。
「きゅるっ♪(いいわよ。でも――)」
アリアは軽やかにその手に鼻先を寄せてから、ぱっとしっぽを振った。
「きゅるっ!(覚えておきなさい、あなたは二番目! 一番はカノンよ!)」
「……え、ええ……。」
詩人は苦笑いを浮かべ、頭をかいた。
「まるで……人と話しているみたいだな……。」
俺はそのやり取りを見て、思わず笑ってしまう。
「そりゃあ、アリアは強いけど、ちょっと強情だからな。」
「きゅるっ!(ちょっとじゃないわよ!)」
アリアは胸を張るように翼を広げ、俺に向かって誇らしげに鳴いた。
アルネアがそれを見て、ぷいと横を向く。
「キューッ!(べつに……カノンが誰を相棒にしても……!)」
「おいおい……。」
ディルが笑いをこらえ、ニールは肩をすくめた。
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その時だった。
夜空の向こうから、柔らかくも力強い虹色の光がふわりと揺らめく。
「……また……!」
ニールが指さした先、遠くの地平線に向かって光が伸びている。
サリウスが眉を寄せて呟く。
「……あの方向は……帝国領ですね。」
「帝国……?」
俺は虹の光を見つめた。
「……あそこは、モンスターを相棒にすることが禁じられている都市だ。」
ディルが低い声で告げる。
「キュー……(そんな場所で、どうやって……?)」
「でも、これまでの経験上……。」
俺は拳を握り、虹の星片を見つめた。
「神は……人とモンスターを仲良くさせたいはずだ。」
「……じゃあ、帝国は……。」
ニールが呟く。
「……どうなってしまうのかしらね。」
フェリアが羽を震わせた。
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「潜入するしかないな。」
俺は立ち上がり、地図を広げる。
サリウスが頷く。
「正面から入れば即座に捕まります。こっそりと……。」
「きゅるっ!(カノン、私が先導するわ!)」
アリアが翼を広げる。
「キューッ!(なら私も! 絶対負けない!)」
アルネアが慌てて並び、互いに睨み合う。
吟遊詩人はその様子を見て、肩をすくめた。
「……ほんとに、まるで人間同士のやり取りだな……。」
俺は笑い、ふたりの頭を同時に撫でる。
「お前たち、ケンカするなよ。これからが大事なんだからな。」
「きゅるっ!(でもカノンは一番私の指示を優先してね!)」
「キューッ!(そんなの許さない!)」
そんな賑やかなやり取りを背に、俺たちは夜の闇へと歩き出した。
――虹色の光が導く先は、モンスターを拒む帝国。
神が何を見せようとしているのか、一行はまだ知らない。
ただ、胸に灯る絆を頼りに、ひっそりとその国へと潜り込むのだった。