第42話:虹の雨と、黒い影
研究所の窓際。
俺たちは積み重ねた新聞を前に、ひとつの記事を読み上げていた。
「……これが真相らしい。」
ディルが紙を叩く。
『砂漠に虹が架かり、長く干上がっていた地に雨が降った。
それは雨の神の降臨の兆しである――』
「……じゃあ、あの虹色の光は……」
ニールが肩を落とす。
「主神じゃなかった……ってことか。」
俺は拳を握った。
アルネアが小さく羽耳をしゅんとさせる。
「キュー……(また違ったんだね……)」
「ヴォォ……(でも、奇跡は奇跡だ……)」
ヴァルが低く呟く。
だが、期待していた分、胸にぽっかりと穴があいたようだった。
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その日の午後。
村の入り口から駆けてくる少年がいた。
「たいへんだっ! 村に……村に変な男がいるんだ!」
「……変な男?」
サリウスが眉をひそめる。
「黒い服で……なんか、都会の人みたいで……。」
俺の背筋が冷たくなった。
「……スーツ……?」
「そう言ってた!銀のめがねもかけてて……!」
俺は立ち上がって外に飛び出した。
丘の道の向こうに、確かにその姿はあった。
黒いスーツ、銀縁のメガネ。
前世の記憶が脳裏をよぎる。
「……お前は……。」
男はゆっくりと俺を見た。
「残念だよ。」
淡々とした声が風を裂いた。
「もっと世界を掻き回してくれると思っていたんだけどな。」
「……お前……主神……なのか……?」
男は薄く笑っただけだった。
その瞬間――
地が震えた。
「――っ!?揺れてる!」
ディルが叫ぶ。
「カノン!村が!」
ニールが駆け出す。
家が崩れ、土が裂け、畑が波打つ。
人々の悲鳴が夜空に響いた。
「キューッ!(だめっ!みんなっ!)」
アルネアが光を放ち、瓦礫を支える。
ヴァルが翼を広げ、倒れかけた家を押しとどめる。
「くっ……サリウス!こっちを……!」
「わかっています!」
彼の魔法が土を固め、崩壊を必死に食い止める。
だが、その中心で――男は平然と歩き続けていた。
崩れ落ちる家の横を、悲鳴の渦中を、まるで何事もないかのように。
「……なにを、している……!」
俺が叫ぶと、男は振り返りもせず、ただ言った。
「……もっと、世界を動かしてくれよ。」
その言葉を残し、彼は村の奥へと歩み去り、やがて姿を消した。
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地震が収まり、村は瓦礫と煙に包まれていた。
「……はぁ……はぁっ……。」
俺は膝をつき、胸を押さえた。
「カノン……あれは……?」
ディルが汗まみれで駆け寄る。
「……主神……だと思う。」
声が震えた。
アルネアが俺の肩にしがみつく。
「キュー……(怖かった……でも……カノンが……)」
俺は彼女を抱きしめ、震える指で拳を握った。
「……こんなことを平然と……。」
「……許さない……。」
ニールが唇を噛む。
サリウスが静かに空を見上げる。
「――これが主神の試練だというなら、あまりに苛烈すぎる。」
崩れた村の中、俺たちは誓いを新たにした。
――必ず見つける。必ず、立ち向かう。
主神を、この手で――。




