第40話:血の神と、滅びの王国の再生
神の試練を追い求めて、俺たちは砂に埋もれた王国の跡地へと辿り着いた。
風が吹くたび、砕けた石柱と朽ちた城壁が顔をのぞかせる。
「……ここが……」
ディルがつぶやく。
「かつて、神の試練を受けて――乗り越えられなかった場所。」
サリウスが目を閉じて語る。
「……重いな。」
ニールが拳を握る。
瓦礫の間を歩くと、足元に小さな光が揺れた。
俺は思わずかがみこんで、それを拾い上げる。
「……赤い欠片……?」
それは星片に似ていたが、赤く脈打つような輝きを放っている。
手のひらに乗せた瞬間、視界がぐにゃりと揺らめいた。
「カノンっ!?」
アルネアの声が遠のく。
気づけば、俺は血のように赤い光の道を進んでいた。
そこに――いた。
鋭い角を持ち、全身に赤い鎧を纏った戦士。
目が合った瞬間、口元が笑みに歪む。
「……貴様か。血の匂いを辿って来たのは。」
「……あなたが……神様……?」
「我は血の神。戦いこそ真理。来い――!」
言葉が終わるよりも早く、地が裂け、赤い剣が振り下ろされた。
「キューッ!(カノン!)」
「ヴォォォォッ!」
「ピィィィ!」
「グゥゥゥ!」
アルネア、ヴァル、フェリア、リューネリアが一斉に身構え、俺の周囲に集う。
赤い大地で、血の神との死闘が始まった。
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剣と爪がぶつかり、炎と光が交差する。
血の神は好戦的で、笑いながら何度も何度も斬りかかってくる。
「キューッ!(まだいける!)」
アルネアの光が神の鎧を穿ち、ヴァルの咆哮が赤い大地を揺らす。
「こっちも忘れんなよ!」
ディルがリューネリアを指揮し、ニールとフェリアが風と花の結界を張る。
「おお……久々だ……これが……戦いだ……!」
神の剣が俺の肩をかすめた瞬間、アルネアが跳躍し、羽耳からまばゆい光を放つ。
「キュウウウウウッ!!!」
眩い閃光が血の神を包み、赤い鎧が砕け散った。
「……ふははははっ!……よかろう!」
血の神は剣を地に突き立て、空を見上げて笑った。
「貴様ら……主神を探しているのだろう?」
「……そうだ。」
俺は息を整えながら答えた。
「ならば知っておけ。私を越えた者は久しい……だが主神は、私よりもはるかに強大だ。
……貴様らに、その覚悟はあるか?」
胸の奥が冷たくなる。
だが俺はうなずいた。
「……ある。」
「ならば行け。貴様らなら、あるいは……。」
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血の神が天に手をかざすと、地が揺れ、瓦礫が砕けていく。
大地の下から緑が芽吹き、枯れ果てていた王国に花が咲き、風が優しく吹き抜けた。
「……え……?」
少女のような村人たちが呆然と立ち尽くす。
「町が……生まれ変わっていく……!」
「すげえ……!」
ディルが目を丸くする。
ニールが声を震わせた。
「……これが、神様の力……。」
新しい命が芽吹き、小さなモンスターたちが顔を出す。
その中の一匹が少女の足元で輝き、柔らかな声を響かせた。
「……また、あなたと……。」
「……え……?」
《リリア》
「……リリア……!」
少女はその小さな命を抱きしめ、涙を流す。
「……帰ってきてくれたんだね……!」
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神を越えたその地に、確かに希望が芽吹いていた。
だがその光の中で、俺たちは同時に胸を締めつけられる思いを抱いた。
「……これほどの神でも……主神には及ばない……」
サリウスが呟く。
「……じゃあ……主神が降臨したとき、何が起きるんだ……?」
ニールが唇を噛む。
アルネアが俺の胸にすり寄り、小さな声でささやいた。
「キュー……(カノン……怖い……)」
俺はその頭をそっと撫で、空を見上げる。
「……大丈夫だ。どんな神が来たって……俺たちがいる。」
ヴァルが低く鳴き、フェリアとリューネリアもその隣に並んだ。
血に染まったはずの大地に、新たな風が吹く。
――神を越えたその先に、俺たちは希望を見た。
だが主神の影は、着実に近づいている。