第4話:立った!歩いた!そして、戦った!
「カノン様、すごい……!」
メイドのマリアが口を押さえた。母が拍手し、父は思わずワインを吹き出した。
――俺は、立ったのだ。
生後およそ1年と2か月。赤ちゃん用の歩行器を押し倒し、俺は自力で立ち上がった。ラビッチュが目の前でぴょんぴょん跳ねながら応援してくれていたのも心強かった。
「やったな……ラビッチュ……。」
「キュー!」
その日、俺は数歩だけど歩いた。転んで、泣いて、すぐに笑った。ラビッチュが一緒だったから。
それが、事件の始まりだった。
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それから数週間。俺は歩けるようになった。足取りはおぼつかないが、立ち止まり、進み、また転ぶ。だが転ぶたびに、ラビッチュが羽耳で支えてくれる。
庭を歩いていたある日、事件は起きた。
「キャアアアァァァッ!」
メイドの悲鳴。俺は足を止め、振り向いた。
――スライムだ。
赤黒い、どろりとした液体が這い出てくる。家の壁の影から、音もなくにじみ出ていた。
「こんなところにモンスター!? 防壁は!?」
母が叫ぶ。父が剣を構えようと駆けてくる。
だが――
「キュウウウウウウ!!」
ラビッチュが飛び出した。
「ラビッチュ!?待て、お前、今のレベルは……っ!」
だが俺の言葉は誰にも届かない。ラビッチュは、ただ、俺の前に立ちはだかった。
スライムの粘液が伸びる。それを、ラビッチュが翼のような耳で受け止める。ぴちゃ、と音がして、耳が少し濡れた。
一瞬の静寂。
「キュ……ウ……。」
ラビッチュの目が光った。
あれは……ステータスが表示される直前の、あのアニメーション……!
「……まさか、バフスキルか!?」
次の瞬間、ラビッチュの足元が光った。☆1専用スキル――
《ラッキースマッシュ・改》。
ラビッチュが跳ねた。スライムの顔面(らしき部分)に、耳の先端をぶつける。小さな破裂音。
スライムが弾け飛んだ。
「……っ!!やった……!!」
驚愕する両親の前で、ラビッチュは俺の足元に着地する。そして、くるりと振り返り、キュッと鳴いた。
「……俺の相棒は、☆1最強なんだよ。なめんな。」
初めてのバトルだった。
初めての勝利だった。
そして、俺がこの世界で“戦える”存在だと、皆に示した瞬間でもあった。
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その夜、父がぽつりとつぶやいた。
「……あのラビッチュ、ただ者じゃないな……。」
「うん。まるで、何百戦も戦ってきた歴戦のモンスターみたいだったね。」
俺は思わず、笑ってしまった。
何百戦? 違うね、父さん、母さん。
――こいつは千戦無敗の☆1だよ。