第2話:ハイハイで始まる調査録
自分の意志で動けるというのは、尊いことだ。
首が据わって、寝返りができるようになり、そして今、俺は……ハイハイができるようになった。
「キュー!」
ラビッチュが先導するようにぴょこぴょこと跳ねながら進んでいく。
……待って、なぜか当然のように屋内にいるのだが? そもそもこのラビッチュ、NPCじゃなかったのか?プレイヤーの拠点にまでついてくる仕様あったか? ゲーム設定の枠を超えてきてないか?いや、そもそも……。
「うちって、どんな家なの……?」
我ながら滑らかすぎる思考を尻目に、俺は決意した。動ける今こそ、調べねばならない。
まず、俺の住む部屋。
――広い。天井が高い。木造。家具はすべて手彫り。ぬくもりがある。……そして明らかに高級感がある。
次、扉の外。
こそこそと忍び足、というよりハイハイで移動。
廊下も木造、しっかりとした造り。壁には風景画、金縁の額縁。ここもやっぱり豪華。……これ、貴族の家じゃないか? 庶民の造りじゃないぞ??
ラビッチュが部屋の奥で宝箱に鼻を突っ込んでいた。宝箱!?あれ!?それってインベントリ連携のやつじゃないの!?
……冷静になれ俺。ここは「モンスターポケッツ」の世界だ。だがゲームではない。ルールも、常識も、違うかもしれない。
再び廊下を進むと、階段があった。ハイハイ勢には過酷すぎる構造。さすがに諦めよう。
そのとき、メイド服を着た女性が通りかかった。
「まぁ、坊ちゃま……!またお出かけですの?あまり遠くへは……。」
おっと、回収が入った。完全に見つかった。だが俺は粘る。
「……んー、ぅあ!」
この”探検したい感”を全力で体で表現すると、彼女はくすりと笑ってから抱き上げてくれた。
「ふふ、元気いっぱいですね。では、せっかくだから書斎にでも連れていきましょうか。お父様はお仕事中ですし……。」
書斎!
それは俺にとって、最高の探索エリアである。
連れてこられたその部屋には、本棚がずらり。巻物もあれば本もある。椅子に座る大人の男性が俺を見て微笑んだ。多分、父だ。
「お、今日も元気か? カノン。」
名前、今さら知った。いや、違う、昨日あたり母からも呼ばれてたか……? 何にせよ「カノン」って名前らしい。
父は俺をちらりと見た後、分厚い本に目を落とした。
俺はすかさず、書棚の最下段の本に手を伸ばす。ハイハイ族の特権。届く本を読めるのだ。
……これは、「この地方の動植物図鑑」?
神は言っている。お前には世界を知る義務があると。
絵本仕立てのそれを開いた瞬間、目に飛び込んできたのは「カトブレパス」の項目だった。
「草食。毒なし。体液はやや刺激性あり。乳は栄養価が高く、加工してチーズにできる」――
……やっぱモンスターが家畜扱いされてる世界なんだな。
その瞬間、足元にラビッチュがちょこんと座る。
「キュー♪」
「……この世界、ちょっとおもしろくなってきたかもしれないな。」