第18話:捕らわれた少年、解き放たれた名、そして新たな旅へ
王都からの圧力は、とうとう剣を伴ってやって来た。
「カノン殿、王都学院への同行をお願いする――拒否は認められない。」
重装の騎士団と、歴戦のモンスター使い達が村を囲む。
俺は一歩も引かず、ラビッチュ――いやアルネアの前に立った。
「嫌だと言ったら?」
「力ずくでも連れて行く。」
「なら――俺たちの強さを見せてやる!」
「キューウウウ!!」
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モンスター使いたちが次々と召喚を展開する。
だがアルネアは、すでに“真名”を取り戻した守護体。
《星翼の奔》《エコー・ストライク》《真名同調・アルネアモード》
繰り出すたびに敵のモンスターたちは地に伏す。
「な、なんだこいつは!?」
「こっちのゴーレムが一撃で!?」
「後衛を下げろ!前衛も距離を取れ!」
――誰も勝てない。
アルネアの羽耳が光を切り裂き、戦場を駆け抜ける。
「やっぱり……お前は最強だな……!」
「キュッ!」
だが。
人間の騎士たちが、静かに俺の背後を囲んだ。
「おっと……」
「少年。モンスターは攻撃できんのだろう?」
「……っ!」
剣が抜かれる音、鎧の重み、動きの速さ。
俺は、剣を握ったことすらない。鍛え方も知らない。
「――っあ……!」
腕をねじられ、視界が傾く。
「キューーーー!!」
アルネアが跳びかかろうとするが、その羽耳は人間には触れられない。
攻撃できないよう、魂の制約がかかっている。
「やめて!カノンに触らないで!」
ディルとニールが飛び出すが、騎士に制される。
「キュー……っ……!!」
アルネアの瞳に、焦りと涙が光る。
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「そこまでだ。」
鋭い声が戦場を裂いた。
黒衣が翻り、サリウスが現れる。
その後ろから、父と母が走ってくる。
「カノンを放せ!この子は我が家の子だ!」
「ですが命令が――。」
「命令より優先されるものもあるだろう?」
サリウスの声が低く冷たく響く。
騎士たちは一瞬たじろぎ、俺を縛っていた手を緩めた。
「……サリウス……。」
「君に選択肢をやる。
王都へ行くかわりに、私の助手として、正式な研究者の立場を取れ。」
「助手……?」
「“モンスターの新名解放”――君とアルネアの現象は、私にとっても未知だ。
ならば、共に旅をし、記録を積み上げるほうが有意義だ。」
父と母が俺の肩に手を置く。
「カノン……行きなさい。あなたが決めた道を。」
「……母さん……父さん……。」
俺は、アルネアを見た。
羽耳が震えて、でも目はまっすぐ俺を見ている。
「一緒に、行こうな。」
「キュッ!!」
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サリウスの傍らで、巨大な影が翼を広げた。
赤銅の鱗、燃えるような瞳。
新たなモンスター――《ヒートドラン》が、低く咆哮する。
「こいつは私のパートナー、ヒートドランだ。
これからはこいつも、君の仲間になる。」
ヒートドランが俺に近づき、鼻先でそっと手を押した。
「……よろしくな、ヒートドラン。」
「グルォォ……。」
アルネアがその横に跳び乗り、羽耳を揺らす。
「キュッ!」
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こうして俺は――
カノン
星片同調者/サリウス助手
仲間:アルネア(ラビッチュ)、ヒートドラン
新たな旅に出ることになった。
王都を敵に回しながらも、仲間たちの想いを背負って。
「さあ行こう、相棒たち。」
サリウスが笑みを浮かべる。
「では始めようか――“星の真名”を解き明かす旅を。」
そして俺たちは、朝日の中へ歩み出した。