第16話:代償と告知、そして決意
アルネア――
その名を呼んで以来、ラビッチュの瞳には、かすかに“記憶の奥”の光が灯るようになっていた。
言葉にはならない。でも、伝わってくる。
彼女が、誰かを護っていたという誇り。
そして、何かを失ってここにいるという痛み。
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帰還から数日後――
その“代償”が現れた。
「キュ……。」
アルネアが突然、立てなくなった。
光る羽耳は鈍く、星片は発熱し、彼女の身体から霧のような輝きが漏れていた。
「これは……魂の調律不全。真名の開放に身体が耐えきれていない。」
サリウスが苦悶の声を漏らす。
「そんな……!」
「通常、真名は“器”を壊すほどの負荷をかけます。だが彼女は……おそらく“二重存在”――つまり、“今のラビッチュ”と“かつてのアルネア”が、融合しきっていない状態にある。」
魂が揺れている。
過去と今の狭間で。
俺は問いかけた。
「どうすれば、アルネアを“今のまま”でいられるようにできるんだ?」
「……星片の同調強化。つまり“想い”を重ね直すしかありません。もう一度、関係を“育て直す”ことで、魂の軸を整えるのです。」
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それは、“再訓練”という形で始まった。
ディル、ニールも参加する。
「カノンの“過去”がどうであれ、俺たちの“今”はここにあるだろ?」
「ラビッチュ……じゃなかった、アルネアだっけ? あの子は、カノンが育ててきた“今の仲間”だよ!」
仲間との連携訓練。
村の外れの丘で、反射力を鍛えるランクアップ訓練。
星片を意識した共鳴術の訓練。
アルネアは少しずつ、言葉に近い音を発し、羽耳で“想い”を返してくるようになった。
「……カノ……の……とも……」
ほんのわずかに、それは言葉になった。
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だが、星の道を歩んだ代償はそれだけではなかった。
王都の特別観測課から、新たな使者が村を訪れる。
「“真なる名”の発現が確認されました。王都は、アルネア個体の正式な引き渡しと、カノン殿の王都入学を正式要求します。」
それはもはや“監視”ではない。
“囲い込み”だった。
けれど、俺はすでに決めている。
「王都には行かない。俺はここで、アルネアと仲間と、歩いていく。」
「ですが、世界が……。」
「だからこそだ。世界が動いても、俺たちは“足を止めない”。」
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アルネアの羽耳が風を切り、夜空に小さな星のような光が舞う。
その背には、確かに“過去と未来を繋ぐ名”が刻まれていた。
アルネア=ラビッチュ 真名保持者 世界に愛されなかったものたちの護り手
そして、彼女の隣には――
カノン 星片同調者 名前を与えし者
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物語は、次なるステージへ。
世界が動き出す。記録の鏡が崩れ、失われた真名たちが目を覚ます。
少年とモンスターは、その道を歩む。
“星の記憶”を灯しながら。