第13話:石に刻まれし、もの言わぬ記録
遺跡から持ち帰った石板は、今、俺の部屋の机の上に置かれていた。
黒に近い青灰色の表面には、風化しつつもはっきりと刻まれた文様と、ラビッチュに酷似したモンスターの彫像。
それを、サリウスが魔術式の道具を用いて慎重に解析している。
「この彫刻……似ているどころか、構造的に“同型”と呼べるレベルです。つまり、これは――。」
「……ラビッチュの先祖……?」
「あるいは“前の存在”かもしれません。」
サリウスの声には、いつになく熱がこもっていた。
そして、解読が始まった。
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石板の側面には、古代語でこう記されていた。
『アルネアの星風よ、 かの光のしるしを宿し、罪なきものの涙に寄り添え。 真なる名を呼びし時、汝、星の門を開かん』
「アルネア……それが、このモンスターの“真名”か?」
「可能性は高いですが、まだ確定ではありません。“真なる名”とは、その存在を根源から規定する“魂の音”とも言われており……。」
「じゃあ、名前じゃなくて、“本質”……?」
俺はつぶやく。そして、ラビッチュを見る。
「お前の本質……名前の奥にある、もっと深い“なにか”が、呼ばれるのを待ってる?」
ラビッチュはそっと石板に鼻先を触れる。
次の瞬間、ふわりと星片が一つ、彼の背から浮かび上がった。
《無垢の星片》
まばゆい白。その内側に、過去のような、未来のような映像が流れていた。
小さな子供を守る羽耳の存在――
夜の森で、光に包まれながら傷ついたモンスターを慰める姿――
どれも、“今のラビッチュ”に重なるものばかりだった。
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「これは……記録じゃない。“記憶”だ。」
「……そうか、石板はただの彫刻ではない。星片が“魂の痕跡”なら、それを記録して残す装置もまた、“記録石”と呼ばれた存在の一部だった……。」
サリウスが手帳に走り書きしながら、ぽつりとつぶやいた。
「君とラビッチュの関係は、単なる絆ではありません。過去から未来に繋がる、“連続した存在”なのかもしれない。」
「……だから、星片が反応するんだな。俺たちが“続き”である限り。」
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その夜。
俺は《無垢の星片》を握りしめながら、ラビッチュに言った。
「お前は“アルネア”なのか、それとも“ラビッチュ”なのか……。」
「……でも、俺はどっちでも構わない。お前が、お前である限り。」
ラビッチュはふわりと寄り添い、胸元に顔をうずめた。
星片が、淡く、温かく光っていた。




