第12話:監視付き自由行動、という名の学び旅
ある日の午後、俺はサリウスに直接声をかけた。
「ねぇ、サリウスさん。ひとつお願いがあるんだ。」
「……なんでしょう?」
彼はいつもの黒衣姿で立ち止まる。目は冷たいが、耳だけは俺の言葉を正確に拾おうとしている。
「星片のこと、自分でももっと知りたいんだ。だから、近くの遺跡に案内してくれない?」
「……それはつまり、“同行を許す”という意味ですか?」
「うん。監視するんでしょ? だったら、俺がどこへ行ってもちゃんと見ててくれるなら安心だよ。」
一瞬だけ、彼の口元がわずかに動いた。
「……面白い提案ですね。では、私の権限で“地域外観測調査”という扱いにしましょう。」
こうして、俺の“学びの旅”が始まった。
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目的地は、村から北へ半日。丘の裏手に眠る“風語りの遺跡”。
古代モンスター文明が残した研究跡らしく、星片の初期記録が刻まれた石碑があるという。
ラビッチュと並んで歩く道すがら、サリウスはいつになく饒舌だった。
「……この地帯では、かつて“星を使う者”と呼ばれる術士たちがいたそうです。星片を力に変える技術、それは“記憶を再構築する魔法”だったといわれています。」
「記憶を……再構築……?」
「はい。つまり、星片は“過去の一部を、未来に渡す”媒体です。だからこそ、あなたのような強い想いの結晶は、特異とされる。」
――俺の“想い”が、未来の何かを変える可能性があるってことか。
やがて、遺跡に到着する。
石造りの広場の中心に、風化した碑文があった。
『星の片は、魂のきざみ。 それを重ねる者、やがて“星の道”を知るべし。 星の道を辿る者、“真名”に至る』
“真名”――?
サリウスがぽつりとつぶやく。
「……伝説の記録では、“真名”を得たモンスターは、世界の理を一部改変できたと言われています。」
ラビッチュが耳を立てて、そっと石碑に触れた。
次の瞬間、碑文がわずかに光り、俺の手の中の《やさしさの星片》が、共鳴するように輝いた。
石の裏から、何かが転がり落ちる。
小さな石板。古代文字と……ラビッチュの姿に似た彫刻。
「……まさか、これは……前例が……?」
サリウスが目を見開いた。
俺とラビッチュは、確かに見た。
その石板のモンスターは、確かに羽耳をもち、やさしい光をまとっていた。
“お前は、ここにいたんだな……過去にも”
「キュー……。」
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帰り道、サリウスがぽつりとつぶやいた。
「……これが、君の“始まり”かもしれませんね。」
「ううん、“続き”だよ。俺たちはこれから、もっと先に進むんだから。」
ラビッチュの羽耳が夕陽に染まって、ふわりと揺れた。