第1話:赤ちゃんになってもラビッチュは裏切らない
気がついたら、空が近かった。
いや、正確には、天井がやけにでかく見えた。見慣れたはずの視界は、まるでローアングルから世界を見上げているかのように低い。
「ん……?」
声が出ない。いや、出たはずなのに、音になっていない。
試しに腕を動かそうとすると、ぷにぷにとした感触が返ってきた。腕というより……手首から先のサイズ感がおかしい。いや、体全体がおかしい。
――赤ちゃんだ、これ。
ようやく理解が追いつく頃、何かが視界を横切った。ふわふわで白くて、うさぎの耳のような、でも羽のようにも見える。
「キュー!」
……聞き覚えのある声だった。
その姿を、ゲーム内で何百時間も眺めてきた。成長のたびに強化して、ついには最強にしてしまった、俺の相棒。
ラビッチュだ。
この耳、この羽、この丸い体……見た目だけなら完全に癒し系。だが俺だけは知っている。こいつが、全☆1モンスター中、最強の存在だということを。
「……まさか、俺……。」
転生?
そう思ったとき、やたらテンションの高い女の声が聞こえてきた。
「まぁまぁ!見て見てあなた!この子、目を開けたわ!」
「おお……!すごい、もう反応してる……!」
人の顔が近づいてくる。赤毛に金の目。耳がちょっと長い……人間じゃない? いや、エルフ的ななにか? ファンタジー種族?
そんな疑問もあるが、目の前でラビッチュがくるくると回って見せたことで、確信した。
ここは「モンスターポケッツ」の世界だ。
そして、俺は――
「キュー!」
ラビッチュがこちらに飛びついてきた。ああ、もう、こいつだけは変わらないな。
「……っきゅー……。」
力を振り絞って出した声は、まるで彼の真似みたいな弱々しい鳴き声だったが、妙に嬉しくなった。
たとえ赤ちゃんでも、ラビッチュと一緒なら……この世界で、また、やっていける気がする。