表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

恋人のフリ、できますか?

プロローグ



昼休みが終わる少し前。

教室はまだ半分くらいしか戻っていなくて、静かな空気が漂っている。

俺──相馬湊そうまみなとは、誰もいない自分の席で、ギター雑誌を開いていた。

放課後の軽音部の練習まで、あと少しだけ時間があった。


「相馬くん、ちょっといい?」


声がして振り向くと、そこにはクラスでも人気の美少女、椎名こよりが立っていた。

成績は学年トップ、容姿も抜群。そんな彼女が、なぜ俺の隣に?


「え、あ……どうしたの?」


「お願いがあるの」


こよりはいつもの自信満々な笑顔ではなく、少しだけ緊張した様子だった。

「誰にも言わないでほしいんだけど──私と、“恋人のフリ”をしてくれない?」


意味がわからなかった。

けれど、こよりの真剣な瞳が嘘じゃないと伝えていた。


「一週間だけでいいの。放課後、一緒に帰るところを見せたいの」


理由はまだ聞いていない。

ただ、その時、俺は確かに決めていた。

この“嘘”が、放課後の俺たちの物語の始まりだと。




俺が頷くと、こよりはほっとしたように微笑んだ。

「ありがとう、湊くん。」


教室の窓から差し込む午後の日差しが、彼女の髪をキラリと照らす。

いつもはクールで完璧な彼女が、こんなにも不安そうな表情を見せるなんて、不思議だった。


「でも、なんで僕?」

正直なところ、こよりの周りにはもっとふさわしい男子がいるはずだ。

スポーツ万能な男子もいれば、クラスの人気者もいる。

そんな中で、なぜ俺を選んだのか、訊きたかった。


「それは……理由があるの」

こよりは視線を伏せ、小さな声で続けた。

「また今度、ちゃんと話すね。」


そう言って立ち上がると、こよりは教室のドアの方へ歩き出した。

その背中を見送りながら、俺は何か大きなことが動き始めた予感を感じていた。


放課後。約束の場所に行くと、こよりはすでに待っていた。

「じゃあ、始めようか」

彼女は少し照れくさそうにそう言った。


最初はぎこちなくて、まるで初心者のカップルのようだった。

手も繋げず、会話もぎこちない。

けれど、帰り道の空気は少しだけ特別だった。


周りの視線も、今までとは違う。

友達のささやき、後ろをついてくる誰かの気配。

そんな中で、俺はこよりの手をぎゅっと握った。


「これ、本当に恋人ごっこだよな」

そう呟くと、こよりは少し笑って、

「そう。でも……私、少しだけ本当の気持ちになってもいい?」


その言葉に、胸の奥がきゅっと締め付けられた。

これは嘘の関係のはずなのに、どこか本物になりそうで、怖くて嬉しい。


こうして、俺たちの“恋人ごっこ”は始まった。

だけど、これから何が起こるのか、まだ誰も知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ