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9.透明男と嘘つきないとこ

 「行くわよ!後ろに一花、隣の座席に凌、座って!」

 三人がバイクに乗り込む。

 「武器は持った?万が一忘れても、武器は自動追尾が付いてるから、そのうち手元に戻って来るわ。」

 「おっけー!準備できた。」

 ヘルメットを被った一花が言う。隣でヘルメットを被った凌が頷く。

 「俺も大丈夫だ。万が一に備え、ピザもこの中に入っている。」

 「そのピザ、もう冷えてるでしょう。でも、まあ良いわ。行くわよ!」

 壁にあるレバーを押す。三人が地上に向かった一方、Ⅵ(ろく)と陽菜はモニターを見ていた。

 「今回はアイリの共鳴度が50%になってる。凌が20%、一花が10%だけど、戦闘中に変化するかもしれないから、見ててほしいんだ。特にアイリの共鳴度に関してはよく見ててほしい。」

 「分かったわ。」

 モニターに映る数値が時折、小数点以下だけ変動する。その横には既に地上に出て、バイクで走っているアイリが映っていた。

 「やっぱり超小型ドローンを付けておくと便利だね。周囲に敵反応を見ることが出来る。今のところは来てないみたい。」

 モニターを注視しながら、Ⅵ(ろく)はほっと息をついた。


 「初めまして。私はⅠ(いち)。」

 彼女は一人の男性の前で手を指しのべていた。男性の身長は一花と同じくらいで、くるくるとはねた金髪をしている。首からヘッドホンを下げ、片手にはパソコンを持っていた。

 「えと…ここは…?俺、大学の授業を受けてたはずなんすけど…。」

 半ば困惑した様子で、手を取り立ち上がる。

 「貴方にとって異世界よ。……手短に言うと、もうすぐ貴方は死ぬの。隕石とかそういう理由でね。だからこっちの世界に呼んだのよ。……だってもったいないじゃない。貴方、見るからに健康で、長生きしそうなのに。」

 「あー…。いやまあ、二十歳になったばかりだし…。確かに長生きは出来るだろうなあ。まだ若いし、否定できないわ。そっか、俺もうすぐ死ぬ予定だったのか。……え、と。助けてくれて?ありがとうございます…?」

 未だに信じられないが、なんとか飲み込んだ様子だった。苦笑しながらぺこりとお辞儀をする。彼女はにっこりと微笑んだ。

 「理解がはやくて助かるわ。でも、貴方みたいな人は沢山いるのよ。だから他の場所に移しても、結構大変なの。」

 「…急な人口増加とか?まあ…確かに。」

 「そこで、エネルギーになってもらうことにしたのよ。その方が効率的でしょう?」

 その言葉を聞くと、彼はなるほどなあと呟いた。数回頷く。

 「俺、理系だから少しは分かるぜ。エネルギーになれるってんなら、その方がいろんなところで役に立てるだろうな。動力の根幹だしな。分かった、エネルギーになるぜ。」

 その時だった。


 「あ…。」

 近くの曲がり角から、日に焼けた黒髪の男性が出て来た。耳にピアスをして、白い上着にジーンズ生地のズボンを履いている。金髪の男性が驚いた声を出す。

 「勇樹!」

 名前を呼ばれた男性は、少し困惑した様子で隣に立つⅠ(いち)を見た。この人誰?とでも言いたげな顔である。

 「初めまして。私はⅠ(いち)。貴方もここに迷い込んでしまったのね。」

 彼女が先ほどと同じ説明をする。それを聞いた勇樹は、いぶかし気な顔を浮かべた。

 「は?…もうすぐ死ぬ?困るんだけど。俺まだやりたいことあるし。友達と飲み会とか、デートとか、予定いろいろあるんだけど。」

 ポケットに手を突っ込みながら面倒くさそうに言う。彼女は静かに微笑んだ。

 「無理な相談ね。エネルギーになることは出来るわよ。」

 「そんなの知るかよ。人の役に立つとか、別にどうでも良いし。それじゃ。」

 そう言ってその場を離れていく。慌てた様子で金髪の男性が声をあげる。

 「勇樹!どこに行くんだよ。」

 返事は返ってこなかった。後ろ姿を追おうとした時、Ⅰ(いち)が手を掴んだ。

 「大丈夫よ。そのうち戻って来るわ。私の仲間に任せて頂戴。それより、エネルギー化施設に案内するわ。」

 彼はしばらく迷っていたが、彼女の言葉に従った。


 路地の中を歩きながら、彼女は不思議そうに聞いた。

 「さっきの子は、貴方の友達?」

 「いとこなんだ。」

 少し俯きながら彼は言った。

 「……俺とは別の大学に行ってるんだ。気を悪くしないでくれ。…あいつは、悪い奴じゃないんだ。」

 「その割には、なかなかの態度だったけれど。まあ、良いわ。」

 Ⅰ(いち)の言葉に、金髪の男性は、しばらく黙った。どこからか吹いた風が二人の間をすり抜けていく。

 「悪い奴は…俺の方なんだ。」

 絞り出した声に、彼女が驚く。金髪の男性は悲しそうな目をしていた。

 「俺が…あいつの夢を奪ってしまったから…。」

 「あらそう。でも別に良いんじゃない?…どうせエネルギーになるのだから。貴方の夢は叶ったの?」

 「いいや、まだだけど…。」

 「なら、別に気にする必要ないんじゃない?どうせもうすぐ死ぬ運命だった。どっちにしろ、夢なんて叶えられなかったわよ。」

 彼女は興味なんて無い様子で、スタスタと前を歩く。その後ろを歩きながら、金髪の男性は言葉をかみしめていた。

 (どうせ…死ぬ運命…。叶わない…。)

 それでも、心の中はどろどろと渦巻いていた。今までのことを思い出して、彼はぎゅっと拳を握りしめた。


 「勇樹君、頭もよくて足も速くてかっこいい!」

 「将来の夢はプログラマーだってよ?すごいよね。その道の有名人になりそうだ。」

 小さい頃から、周囲にちやほやされていた。そんないとこを持つ彼は、少しだけ羨ましかった。あんなに周囲にちやほやされる彼と自分。どんなに違くても周囲には比べられてそうな気がして、自分の気持ちをあまり表現できなかった。

 「…俺も、プログラマーになりたいんだ。ゆー君と一緒が良いわけじゃなくて、プログラムに興味があって。」

 周囲に大っぴらに宣言する勇樹とは対照的に、彼は少し自信が無さそうに両親に言っていた。彼の両親は静かに頷くと、頭を撫でた。

 「良いのよ、拓斗。貴方は貴方の夢だもの。頑張りなさい。」

 その言葉に彼は嬉しそうに頷いた。自信は無いし、周囲にちやほやされることはないけど、応援してくれる人が少しでもいることが心強かった。

 「たっくん、遊ぼう!」

 そんな心をいざ知らず、手を差し出してくる勇樹に、拓斗は嬉しそうに手を掴んでいた。

 「うん!」

 妬みや嫉みを持たない訳じゃない。でも、それ以上に勇樹と遊ぶのが本当に楽しかった。二人でいろんなゲームをして、他の友達らも巻き込んで遊んで…。いつも二人は一緒に笑っていた。

 中学では、勇樹は別の中学校にいった。進学校に通わされて、本当にプログラマーを目指すために勉強するそうだ。それから、少しずつ小さなすれ違いが起きていった。

 「勇樹君、遊んでばっかりで…。だんだん成績が落ちてるみたい。」

 両親から聞いた言葉に、彼は驚いた。成績を聞く限り、いつの間にか彼の方が成績は上だった。

 (一緒にプログラマーになれると思ってたけど…。)

 自分が上の立場になった途端、彼はどう接したらいいか分からなくなってしまった。これまで通りに接しようと試みるが、かつての自分を見ているような気がした。

 (俺のこと…妬み嫉み抱えた目で見てるよな…。俺だって、抱えてた。嫌でも分かる。昔の勇樹みたいに、何も知らず手を差し伸べることは出来ない。…なんて声を掛けたら良いんだろう。)

 かける言葉が見つからないまま、受験期に突入した。彼はある日、勇樹が叫んでいたことを聞いた。

 「俺のことなんてどうでも良いんだろっ。夢なんか、奪われたさ!」

 その言葉を聞いた時、心にずっしりとおもりがついた。

 (奪ったのは…俺だ。でも昔からなりたいのは本当だった。勇樹が周囲に言う前から思ってた。でも…あいつはそれを知らない。最近になって俺が言い始めた。そりゃ奪われたなんて思うのも当然だ。)

 どんなに声をかけたくても、受験期だった。それにいとこの家に行く機会もあまりなかった。かける言葉も見つからない。追い越された相手に怒られたら、それこそ辛いかもしれない。考えれば考えるほど、時間は経って行って…。いつの間にか、違う大学に通っていた。近くの駅でたまたま会った時、勇樹はお洒落な服を着て何人かの友達と話していた。

 「勇樹…。」

 声をかけようと手を伸ばしたが、その距離が遠く感じられた。勇樹は一瞬だけ彼の方を見たが、すぐに視線を他へ移すと、そのまま他の友達と去って行ってしまった。伸ばした手をゆっくりとおろすと、彼はその場で俯いた。


 思い出に浸っていると、いつの間にか、目の前に大きな施設があった。はっとした様子の彼に、Ⅰ(いち)が微笑む。

 「着いたわ。さ、中へ。」

 彼は呆然としながら、小さくつぶやいた。

 「ここに入ったら…俺はもうエネルギーになっちまうんだよな。自我とかは消えるのか?」

 「ええ、そうよ。」

 彼は軽く笑うと、Ⅰ(いち)に持っていたパソコンを差し出した。

 「これ、勇樹に渡してくれないか。……俺、デスクトップに勇樹との写真があるんだ。思い出として飾ってる。あいつに最後に見てもらいたいんだ。俺、妬みとか嫉みとか…多分受けとめられても、かける言葉が見つからないような奴だから。言葉の代わりに。どんなに無視されても、俺、勇樹のこと嫌いになれなかった。昔の俺も同じだったから。」

 差し出されたパソコンを受け取ると、Ⅰ(いち)が面倒くさそうにため息を吐いた。

 「仕方ないわね。受け取ってあげるわ。さ、はやくエネルギーになって。」

 彼が言葉に従い、いざ施設の方へ一歩踏み出した時だった。

 

 「おい!」

 勇樹の叫び声が後ろから聞こえた。彼が振り返ると、勇樹が物凄い勢いで走って来た。すぐそばまで来ると、Ⅰ(いち)と彼の間に立つ。驚いている拓斗の方も見ず、息を切らしながらⅠ(いち)の方をきっと睨みつける。

 「……勇樹…お前…?!」

 「なんだよあの化け物は!お前の仲間か?訳分かんねーこと言いやがって。」

 俺は元の世界に帰るんだよっと言い張る勇樹に、彼女は冷たい視線を向けた。冷笑しながら拓斗の方を見る。

 「貴方と違って飲み込み悪いわね。でも安心して。こういう人たちには今まで何人も出会ってきた。対応は慣れてるわ。」

 すっと片手を上げると、勇樹の体が持ち上がった。

 「な…?!」

 手首や背中に不気味な記号が浮かび上がる。真っ黒な文字のようなものだが…。勇樹が必死にもがくが、空中にはりつけにされた体は少し動くだけでびくともしない。呆然とする拓斗の前はⅠ(いち)は笑っていた。

 「貴方のような人は、聞く耳を持たないでしょう?説明する方が手間よ。今すぐエネルギーにしてあげる。」

 「てめっ…!」

 顔をしかめ、どうにかしようと試みる。顔からは少し汗が出ていた。Ⅰ(いち)が両手をばっと広げる。

 「永遠にさよならね。」

 両手を閉じようとした。

こんにちは。星くず餅です。

さて、第九話目。新たな仲間となった凌と陽菜がそれぞれの役割を担い始めましたね。

一方現場では新たな人達が出てきました。拓斗と勇樹。二人とも夢があったみたいですが…。と思ったら…最後、ああ!やばい!

次は明日の一時頃を予定しています。

読んでいただけると幸いです。

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