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7.どんなに遠くにいても

 「残り五秒……。」

 Ⅳ(よん)が満足げに頷き、油断した瞬間だった。


 パァン!


 Ⅳ(よん)の体に二つ穴が開いた。

「……っ!」

 傷口を押さえつつ、即座に周囲に目を走らせる。彼の耳はしっかり捉えていた。音が鳴ったのは一回だが、銃弾が飛んだのは三発で間違いない。しかも全てバラバラの銃……つまり3丁の銃からそれぞれ一発ずつ、同時に放たれた。そのうち二発は自分の体に被弾した。

 (もう一発はどこ?)

 サッと目を走らせた時、近くで横たわっている陽菜が目に入った。真っ白になりかけていた体が、だんだんと戻ってきている。

「お兄ちゃん……?」

 呟いた声は、先程より明らかにはっきりしていた。

 (やってくれたわね。でも銃なんて一体どこに…。)

 考える暇もなく、すぐに次弾が飛んでくる。どうにか避けたが、首筋に小さな裂け目ができた。少し血が滴る。舌打ちしながら、銃弾の飛んできた方向へ目を走らせた。一人はすぐに発見できた。思わず息を呑んだ。

「……貴方もなのね。」

 呟いた声は乾いていた。

 

 気がつくと、両手の先にライフルが二丁あった。見たことのない模様の銃だった。黒と青色で構成されており、銃を撃った時の反動も少ない。

 (これは……俺が撃ってるのか…?)

 困惑していると、引き金にかけた指が勝手に動いた。銃弾がⅣ(よん)に向かって飛んでいく。不快な感じはしなかった。誰かがそっと指を押しているような感覚だ。そういえばいつの間にか、真っ黒なスーツを着ている。ぼーっとしながら、Ⅳ(よん)の隣に横たわる陽菜に視線が映る。

 (陽菜…。)

 一瞬、何かが重なって見えた。

 (っ…?)

 同じような姿勢で、誰かが横たわっていた。桃色の服…。性別や顔までは分からなかった。見覚えは無い。途端に腹の奥底から力が湧き上がってくるのを感じた。ぐらぐらとマグマのように湧き上がってきて、感情が持ってかれる。手に持っているライフルがものすごく熱く感じた。

 (…これなら、この銃なら、届く。守ってみせる。誰にも奪われてたまるか。)

 湧き上がる感情を制御できなかった。五感が鋭くなり、遠くにいてもはっきりと見える。

 (…もう二度と失わない。どんなに遠くにいても。)

 静かに脈打つ鼓動にあわせ、ライフルをしっかりと握った。

 (襲い来る脅威は、発現した途端に消してやる。)

 引き金を引いた。


 Ⅳ(よん)が器用に銃弾を避けながら、ぱっと両手を広げた。空中に幾千もの鏡の破片が現れる。反撃の隙を伺いつつ、静かに微笑んだ。

 「良い目してるじゃない。銃弾の威力も、Ⅱ(に)の後継者より強いわね。狙いもかなり正確。……でも、残念。私達は不死身なの。この程度の実力じゃ、足止めにもなりはしない。」

 ぱちんと指を鳴らすと、飛んでくる銃弾を空中で弾いた。即座に片手を突き出し、不敵に微笑む。

 「さよなら。」

 殺意のこもった目で、いざ鏡の破片を飛ばそうとした時だった。Ⅳ(よん)の後ろからバイクが飛び出て来た。それに間一髪で気づいたⅣ(よん)が即座に身をひるがえす。銃弾が頬をかすめて飛んでいく。ちらりと視線を向けると、バイクを運転しているアイリの後ろから、一花がマグナムを撃っていた。バイクは近くの屋上から飛んで来たらしい。そのまま音を立てて、Ⅳ(よん)の近くに着地した。先ほどより近距離で一花がマグナムを突きつける。Ⅳ(よん)はさほど動じていない様子で、アイリの方を見ていた。首の横から銃弾が飛んだ。横目で遠距離から狙ってくる銃を見ながら、静かに言う。

 「……呼んでないんだけど。帰ってくれる?」

 「あら。呼ばれて出てくるほど、律儀じゃ無いのよ。ごめんなさいね。」

 憎らし気に言うⅣ(よん)の言葉に、アイリがにっこりと微笑む。真っ黒なバイクをブオンブオン鳴らし、静かに言う。

 「……ひき殺すわよ。」

 最後の言葉では、目が笑っていなかった。いつの間にか、片手に武器を構えている。

 「受けて立つわ。」

 ばっと鏡の破片が二人のいる方向へ向いた。アイリが構える。だが、すぐにぺろっと舌を出した。いたずらな目で微笑む。

 「なんてね☆」

 ふっと体が歪む。Ⅳ(よん)が何かを察して、慌てて近寄る。アイリに掴みかかろうとした手が空を切った。姿がゆらゆらと消えていく。置き土産に爆弾が四個置かれていた。既に赤く光っている。悔しさで顔に皺が寄る。

 「…一体、どこでこんな技覚えたのよ。」

 屋上に爆発音が響いた。


 その時、既にアイリと一花、陽菜、陽菜の兄の四人は地下へと続く通路を歩いていた。薄暗くて狭い通路には、ところどころ灯が付いている。

 「ピザ屋のバイクと、私のバイクは後で回収するようね。人命優先でおいてきてしまったから。」

 「あの…助けて頂いてありがとうございます。」

 「良いのよ。私達は元々そういう存在だもの。」

 陽菜のお礼にアイリがそう言う。アイリと一花が自己紹介をすると、陽菜が自己紹介をした。

 「神崎陽菜かみさき ひなです。こっちは、兄のりょうです。」

 「どうも。」

 軽くぺこっとお辞儀をする。水色の髪がさらりと揺れた。それに気付いた陽菜が、慌てた様子で言う。

 「その…助けてもらってあれなのですが、お兄ちゃんの髪の色が変わってて…ライフルも…服も黒のスーツになってて。兄に何かあったのですか?」

 不安げな陽菜を落ち着かせるように、アイリは大丈夫よと優しく言った。

 「それは、防護機能なの。ライフルから手を離せば、元の恰好に戻るわ。髪の色もね。髪色の部分はヘルメットを被っていると思ってくれればいいわ。」

 「良かった…。ありがとうございます。」

 「ということは、寝間着でもバレないということか?就活に使えるな。このライフル持ち帰っても良いか?」

 嬉しそうに話す凌に、慌てて陽菜が言う。

 「ちょっと…!就活に武器はダメでしょっ。」

 「就活はあれだけど、寝間着でもバレないわよ。」

 「本当か?!」

 思わぬ言葉にアイリ以外の三人が驚きの声をあげる。彼女は嬉しそうに笑った。

 「その武器の前の所有者…いわば貴方の先代である、スナイパーの彼は、昔パンツ一丁で戦ってたことがあるわ。」

 ええ?!と声をあげる一花。その声に反応して、アイリが一花の方へ視線を向ける。

 「一花の先代…私のダーリンとスナイパーの彼、二人とも一時期パンツ一丁で戦ってたわ。というのも、あの二人調子に乗ってギャンブルで稼ぎまくってたのよ。そしたら、一気にボロ負けしてパンツ一丁に。本当、馬鹿だったわ。」

 笑いながら話すアイリの横で、凌がなるほど…と頷いた。

 「ところで、銃を撃っている時いきなり足元が沈んで、気が付いたらここに来ていたんだが…一体どういうことなんだ?」

 「ああ。私達の仲間のⅥ(ろく)のアシストよ。ワープで戦線を安全に離脱できるの。この間までは故障してたから、使えなかったけど。私のホログラムで気を引くことが出来たみたいで良かったわ。」

 四人が一つの扉の前に辿りつく。アイリが二回ノックすると、Ⅵ(ろく)が出て来た。ぶかぶかの白衣をずりながら、手をふる。

 「裏口から来るとはね。お帰り、二人とも。それと、凌くんと陽菜ちゃん。初めまして。僕はⅥ(ろく)。君達二人のことは、アイリに付けた通信機から聞いてるよ。中においで。取り合えず衣食住は提供する。事情は…今日は遅いから、最低限のことだけ話して、続きは明日かな。」

 二人は驚いた様子だったが、恐る恐る会釈した。

 「ありがとうございます…。」

 四人がぞろぞろと扉をくぐる。最後にアイリが扉を閉めると、扉は瞬く間に消えてしまった。光学迷彩仕様らしい。


 その頃、敵側ではⅤ(ご)の怒号が飛んでいた。

 「またなのか、Ⅸ(きゅう)!お前は武器の紛失にも気づかないだと?!何をしていたっ。」

 「落ち着きなよ。大体、二人目が現れるなんて誰も予想してなかっただろう?それに、奴らに比べたら威力は弱いんだ。弾数も少ない。そんなの脅威にならないじゃないか。」

 「そんなことを言ってるんじゃねえ!」

 会議室で言い争うⅤ(ご)とⅨ(きゅう)をよそに、会議室の入り口ではⅠ(いち)がⅣ(よん)と話し込んでいた。

 「ホログラム…光学迷彩…からのワープ。Ⅵ(ろく)のアシストでしょう。」

 「はあ…厄介だわ。これから人数がどんどん増えていってしまうかもしれないと思うと、面倒なことになりそう。」

 困ったものだわ…と首を振るⅣ(よん)に、Ⅰ(いち)がしばらく黙っていたが、不敵に微笑んだ。

 「そうでもなさそうね。次は私にエネルギー化を担当させてくれるかしら。」

 「あら、別に良いけど。…何か、思うことでもあるの?」

 不思議そうに首を傾げる彼に、彼女は頷いた。

 「……もしかすると…彼女は本物ではないかもしれない。ちょっと試してみたいの。報告ありがとう。」

 くるりと背を向け、その場を離れるⅠ(いち)。誰もいないところまで来ると静かに呟いた。

 「…確か一人いたわ。可能性があるとすれば、あの子かもしれない。」

こんにちは。星くず餅です。

なんか最後の方不穏でしたね。アイリが本物ではないみたいな…。流石アイリと昔戦ったことのある、Ⅰ(いち)の言うことですから、信憑性があります。

私事ではありますが、今回の話、実は途中で書いた文章が消えまして。多分保存を押し忘れたんだと思いますが…しばらくショックで立ち直れず…。お陰様で予定していた展開と少し変わりました。まあ…そんなこともあります。

アイリの言葉から、ちらっと垣間見えた先代。ギャンブルで一攫千金狙ってボロ負けして、パンイチで戦闘入る男たち。何してんですか。…いや、そんな変な設定にしたの私でした。…後々出てきますが、私の物語の男らは変な奴ばかりですので…。本当はもっとギャグ要素入れたいのですが、意図せずして序盤は割とシリアス多めになってます。なんでだ…。まあ、これから人数増えてくれば、きっとみんなはっちゃけてくれるでしょう。もう既に陽菜のお兄ちゃんの、凌が就活にライフル持ってこうとしてますし。

次回は来週土曜日の一時頃を予定しています。

良かったら読んでいただけると幸いです。

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