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4.現状

 「なんとか撒けたみたいね。良かったわ。」

 「あの…。」

 困った声で何かを言いかける一花。二人は路地裏に逃げこみ、エレベーターを使って地下に来ていた。表通りは一切通らず、沢山の配管の間をすり抜け、なるべく人の目が無いところを歩いていた。アイリが静かにと言うと、一つの扉の前で立ち止まった。古びた鉄の扉で、上には非常口と書かれた緑のライトが光っている。見回す限りあたりは配管だらけで、人はいない。彼女がこんこんと強く扉を叩くと、中から声がした。

 「アイリだね。今開けるよ。」

 扉が小さく音を立てて開くと、人が出て来た。ぶかぶかの白衣を着た小さな男の子だ。片目の瞳には真っ黒な文字でⅥ(ろく)と書かれていた。一花が驚いていると、彼はにっこりと微笑んだ。

 「初めまして、一花ちゃん。僕はⅥ(ろく)。君のことはアイリを通して、見させて貰ったよ。まあ、とりあえず上がって。中でいろいろ説明することがあるから。」

 男の子が中へと戻っていく。彼女が戸惑っていると、アイリが扉を支え、彼女に中に入るように促した。そのまま二人とも中に入ると、鉄の扉は静かに消えた。


 中はそれなりに広さがあった。ソファとテーブルが中央にある。床にはじゅうたんが敷かれ、ゆったりできるようになっていた。すぐ傍の壁の一角には大きな机があり、いくつものパソコンと見たことのない武器が並んでいた。

 一花がソファに座り、しげしげと周囲を眺めていると、アイリが隣から人数分の紅茶を出してきた。机の上に真っ白なティーカップを置く。桃の香りがふわりと香った。どうやら、ピーチティーらしい。

 「ありがとうございます…。」

 彼女がぺこりとお辞儀すると、アイリは良いのよ、遠慮しなくてと微笑んだ。アイリが一花の隣に座ると、向かいのソファにⅥ(ろく)が座った。

 「さてと、まずはお疲れ様。ここまで来るのに、いろいろあったでしょ?大変だったね。」

 戸惑いつつも頷く一花に、彼は真剣な表情になった。

 「君はしばらく元の世界に帰れない。だから、基本的にここに住んでもらっていい。衣食住は僕らが提供する。その代わりと言ってはあれだけど、できればアイリと一緒に戦ってもらいたい。もちろん、これは強制じゃないけど。君次第だ。」

 思わぬ言葉に彼女が戸惑う。その様子を見ていたアイリが言った。

 「流石にいきなり戦えってのも、あれよね。事情はこれから話すわ。それを元に、戦うか否かを判断して欲しいの。」

 Ⅵ(ろく)はアイリの言葉に頷くと、話を始めた。

 「君も少しはアイリから聞いていると思う。手っ取り早く説明すると、僕らは人の魂と寿命の使い方を巡って戦っているんだ。これは二十年も前からの話になる。エネルギー化計画、これは人の寿命と魂を使ってエネルギー、つまり電池みたいなものを作る計画だ。この電池はものすごい長持ちするし、万能だけれど、エネルギー化された人の魂は、寿命と記憶をだんだんと失ってしまう。」

 厳密に言うと、ものすごく酷な状態になっていると彼は呟いた。その目はとても沈んだ目をしていた。

 「例えば、君がエネルギー化されたとしよう。最初は体の動きに違和感を感じるんだ。自分の体と別の体になるわけだから、不快感がずっとまとわりつく。そのうち、だんだんと記憶が消えていく。そうして記憶が消えると、今度は自我が消滅するんだ。そうして、最後は寿命が尽きるまでエネルギーであり続ける。」

 話を聞いた彼女が絶句していると、彼はこれは、そんなにおかしなことでも無いんだよと言った。これがこの計画の、恐ろしいところでねと呟く。

 「このエネルギーに使われる人間は、いずれ死んでしまう人間なんだ。」

 彼はそっと手を伸ばし、自分の紅茶を飲むと、話を続けた。

 「世界は一つだけじゃない。君がこの世界に来たように、世界はいくつも存在する。君はⅨ(きゅう)に出会っただろうけど、僕も含めた体に数字のある人間は、元々この世界の住人じゃないんだよ。もう既に、人類が滅んだ世界から来たんだ。」

 君に良いものを見せてあげようと席を立つと、すぐ傍の机へと向かった。一枚の写真を取り出すと、一花へと手渡した。一人の男の写真だ。金髪の髪で、煙草をくわえている。年齢は二十代後半だろうか。そして、今一花が来ている服と全く同じ服を着ていた。思わず彼女が息を飲んでいると、Ⅵ(ろく)は言った。

 「君の持つ武器、マグナム。そしてその服。それは元々、Ⅱ(に)という男のものだった。彼もまた、僕と同じでこの世界の人間じゃないんだよ。」

 一花はじーっと写真を見た。整った顔で、不敵な笑みを浮かべている。頬にはⅡ(に)という数字が確かにあった。

 「僕らは元々0(ぜろ)からⅨ(きゅう)と、合計で十人いる。全員、人造人間だ。君達の世界より遥かに技術の進んだ世界のね。ただ、その世界では人間は滅んでしまった。最後の希望として僕ら人造人間を、不死身の人間を彼らは残したんだ。」

 「一体どうしてそんなことを…。」

 彼女が言うと、彼は悲しそうに笑った。

 「他の世界を、まだ人間が存続している世界を支えて欲しかったみたいだ。もう二度と自分たちと同じような目に遭わないように、人類が滅んでしまわないように、彼らは僕らに託したんだ。各世界の管理と存続をね。そうして、僕らは自分たちの世界を捨てて、この世界にやって来た。各世界の管理をこの世界を拠点にして行うことにしたんだ。まず滅んだ世界の調査について行った。すると、ある数式に当てはめれば、滅亡するか否かが分かるようになったんだよ。例えば、資源の汚染と未知のウイルスで人類が滅亡するとかね。もしくは、隕石とか。」

 世界は人間と同じなんだと、彼は言った。

 「滅亡する世界もあれば、誕生する世界もある。その運命を書き換えて、全ての世界を生かせば、やがて僕らでも管理しきれなくなる。そこで、一つの計画が出された。それがエネルギー計画。

 全ての世界を数式に当てはめ、滅ぶか否かをはっきりさせる。滅ぶ時期が近い世界から、いずれ消滅する人類を運び出し、エネルギーにする。そうして、滅ばない世界や、滅ぶ時期が遠い世界に、エネルギーを提供するんだ。これは、いずれ消滅する人類の本来ある余命を無駄にすることなく使える。それに人として運ばない分、急な人口増加などで他の世界に影響が及ぶことも無い。」

 でもこれに疑問を呈して、抗う存在となったのが、アイリの恋人のⅡ(に)だったんだと言った。一花がもう一度写真を見る。隣にいるアイリを見ると、少し悲しそうな視線を写真に向けていた。

 「人の余命を、無理やりエネルギーにするのはどうかってね。例え、数週間後に自分が死ぬと分かっていても、そこから数週間で何か出来るかもしれない、新しい出会いがあるかもしれない。残りの人生をどう生きるかは個人の自由で、いくら他の世界を長生きさせると言えど、人を勝手にエネルギーにする、この計画はおかしいと彼は言ったんだ。だが、十人中この計画に反対したのは彼一人だった。元々、僕らは世界の存続を託された身だ。この計画に反対するのは、僕らを作ってくれた人達の意に反するんだ。それに、この計画は不死身の僕らでしか出来ないことだった。だから、僕も敵側にいた。」

 近くの窓がガタガタと揺れた。近くの通りを車が走っていっただけだとアイリが教えた。Ⅵ(ろく)は少し悲しそうな目をした。

 「僕も当時は愚かだった。話が長くなってしまうから詳しくは語らない。とにかくⅡ(に)は仲間を集めたが、二十前の戦いに敗れた。でも、僕とアイリが今、彼の意思を継いで戦っている。人の生き様を守るために。ただ、今現場で戦っているのはアイリしかいない。君もいてくれたら、僕らも心強いんだ。」

 「その…滅ぶ世界というのは…もしかして私の世界も…?」

 おそるおそる聞く彼女に、Ⅵ(ろく)は小さく頷いた。

 「うん。君のいた世界を調べさせてもらったけど、どうやらここ最近で滅ぶ軌道に乗ったみたいだ。だから、君は元の世界に戻っても、遅かれ早かれ、いずれ死ぬ。ただ、戦うのは命の危険も伴う。強制はしないよ。ここで静かに暮らしたいのなら、暮らして良い。もしエネルギーになって他の世界で役に立ちたいと言っても、反対しないよ。」

 一花はしばらく考える素振りを見せたが、ゆっくりと顔を縦に振った。

 「一緒に戦います。」

 その言葉に二人は顔を見合わせると、にっこりと微笑んだ。

 「分かった。一緒に戦おう。」

 「よろしくね。」

 二人に握手を交わす。Ⅵ(ろく)がンン〜と言って伸びをした。

 「さて、そうとなれば”夜明けの烏”の次世代チーム結成を宣言しようか。先代は五人いたけど、まあ僕も含めて三人なら先代の半数以上だ。一花ちゃんのように、他の人の武器が使える人が現れるかもしれないし。とりあえず、訓練の一つでもしようか。」

 そう言い終わった時だった。


 ビーッ。ビーッ。


 突然アラームが鳴り響き、部屋中が赤いライトで照らし出された。慌てた様子でⅥ(ろく)が机へと向かう。パソコンを使うと、モニターに何かが映し出された。一人の女子高生が、真っ白な化け物に連れ去られている。近くの道路には、ピザ屋のバイクにまたがった少年が、化け物に連れ去られた女子高生を追いかけている。顔立ちが似ていることから兄弟で間違いないだろう。

 「アイリ、一花ちゃん、すぐに準備して。座標は後で送る!」

 「分かったわ。」

 アイリが一花を連れて、隣の部屋へと行く。小さな車庫があり、そこには大きな黒色のバイクがあった。

 「はい、ヘルメット。つけたら後ろに乗って。」

 慌てた様子で一花がヘルメットを被る。その間にアイリはバイクにまたがり、エンジンをかけ始めた。ブロロロ…と低い音が響く。振動の走るバイクの後ろに乗ると、アイリが叫んだ。

 「しっかり掴まって。ものすごい衝撃で地上に出るわ!」

 ぎゅっと腹に手を回した途端、床板が吹っ飛んだ。車庫の天井に緑の紋章が広がり、バイクごと二人が吸い込まれていく。気が付くといつの間にか地上に出ていた。ダンっと衝撃が走り、少しバイクがバウンドする。アイリが体制を保ちながら、アクセルをかけた。

 「行くわよ!」

 「はい!」

 ものすごい勢いで道路の上をバイクが走っていった。


 座標を特定し終えたⅥ(ろく)はふーっと息を吐いた。紅茶でも飲もうとソファの方へ近づいた時だった。視界の隅に何かが映る。不思議に思い目を向けた。向かいのソファに、銀色の塊があった。一瞬で顔が青ざめる。思わず叫んでいた。

 「嘘だろ……マグナム?!まさか…忘れて置いてった?!」

こんにちは。星くず餅です。

今回は四話目ですね。

さて、どうやら無事にアイリと一花は敵から逃げ切ったようで。

Ⅵ(ろく)からある程度の事情を説明されます。魂のエネルギー化計画、少しSF味がある感じですかね。

しかしまあ…要は、今めっちゃ健康であと八十年くらいは生きられるのに、明日病気にかかって数日後お亡くなりになるなんてもったいない!でも、そんな人が多すぎる上に、病気治しちゃうとその後また病気が流行るかもしんないし、高度な治療技術を盗まれて勝手に技術発展されると困るし、かといって人の移動場所なんて無いし…よし、エネルギーにしちゃえ!から始まったエネルギー化計画。なかなかな問題ですねえ。これ、望んでエネルギーになる人間が一体どれくらいいるのでしょうか。作者も知りません。

ところで、最後の方では、誰かがまた大変なピンチな様子…。

次回はとある兄弟から始まります。さて、ちょっとここで予告ですかね。

実はこの兄弟、少しワケありで…。一花やアイリよりも人の背景と言うか、設定が見えます。

これ実はちゃんと理由がありまして。一花やアイリの設定や人の背景が見えてくるのは、少し後になります。そのため、最初の四話、今回までの話では見えてこなかった部分が多数あると思いますが、ご安心ください。もう設定や背景はある程度出来ています。伏線みたいなものとして、ぜひお楽しみください。

本日は二話投稿いたしますのでもう一話。ぜひ、次のお話も読んでみてください。

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