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3.二十年ぶりの厄災

 真っ黒な、裾の長い上着が風にたなびく。一花はまっすぐとマグナムを構えると、再び銃弾を放った。呆然としているアイリの横をすり抜け、後ろの白い化け物達に被弾する。

 「……。」

 もし、本当に死んでいたら。生まれ変わりなんてものがあるのだろうか。アイリは何も言えず、瞳を揺らしていた。不敵な笑顔も無いし、煙草も吸っていない。が、雰囲気は彼そのものだった。絶対に負けないような、堂々とした立ち振る舞い。まっすぐな目。もし一花が二十歳以下の年齢であれば、本当に生まれ変わりなんてものがあるのかもしれない。さっと頭を横に振ると、彼女は黒鞄に手を当てた。感傷に浸っている暇は無い。

 突然銃声が止む。

 「ん?弾切れ…?」

 マグナムを持って、きょとんとしている一花。すぐにアイリが一花へ近づいた。腕を掴むと、少し早口で言った。

 「今のうちに急いで逃げるわよ。貴方を支配してた追手が来るわ。」

 返事も聞かずに、そのまま走り出す。一花がちらりと後ろを振り返ると、真っ白な化け物達は液状化していた。ところどころについていた口や目はぴくりとも動かず、銃弾はもう飛んでこない。ほっと息をついた途端、液だまりの周囲に人が数人見えた。老若男女、いろんな人がこちらに向かって手を振っている。表情は非常に穏やかで、優しく微笑んでいた。小さな男の子がこちらに向かって大きく口を開けた。

 「ありがとう!」

 声は聞こえなかったが、確かにそう言った気がした。彼女が呆然としていると、急に立ち止まったアイリにどんとぶつかった。

 「わ。」

 「あら、ごめんなさいね。」

 慌てて体制を立て直すと、アイリが近くの壁に手を当てていた。しばらくして嬉しそうに声をあげた。

 「あ、ここね。」

 壁に向かって手を押すと、小さな空洞が出来た。そこに真っ黒な鞄が一つ置かれていた。高級そうな皮の鞄で、金色の装飾が付いている。彼女は嬉しそうに言った。

 「私の武器、修理中だったのよ。間に合って良かったわ。」

 手に取ると、持っていた黒鞄と交換した。アイリが手を引き、再び二人で走り出す。一花は先程見たものについて聞いた。

 「さっき…化け物の周りに何人か見えて……。」

 「ああ、それはきっとエネルギー化された人たちね。あの怪物の中に囚われていたけど、貴方の銃弾のおかげで解放されたのよ。動力を失った怪物はもう動かないわ。」

 「エネルギー化って…?」

 「今は詳しく説明できないけど、手っ取り早く言うと電池みたいなものね。人の魂と余命を使って電池にするの。その代わり、電池が使われるほど、魂の記憶も寿命も減っていくわ。肉体はもう無いから、解放された魂はそのうち寿命が尽きて消滅する。見えたのが一瞬だったのは、きっともう残り少ない命だったのね。」

 アイリが言い終わった途端、前方の曲がり角から一人の男が現れた。真っ白なローブに身を包み、銀色のさらさらとした髪をしていた。身長は二メートルほどあり、首元には、Ⅸ(きゅう)と書かれている。真っ白で美しい肌をしているが、どこか奇妙な違和感を覚えた。

 「まさか、銃を使える挙句、僕の支配から抜け出すとはね。…逃がさないよ。」

 男性が片手を上げると、空気が震えた。何かが起きそうな気配に一花が咄嗟に銃を構えると、アイリが手を横に出し制した。

 「ここは私に任せて。さっきのようなピンチは、もう二度と起こさせないわ。覚悟しなさい。Ⅸ(きゅう)、貴方に本当の実力を見せてあげる。」

 先程入手した鞄に手を突っ込むと、糸に繋がれた紫色の球体を二つ取り出した。球体には黒い螺旋の模様が描かれている。彼女が紐の端を持ち、手首を動かす。球体が縦に弧を描いた。両手で振り回しながら、腰を低くし戦闘態勢に入る。Ⅸ(きゅう)と呼ばれた男性は静かに微笑むと、指をぱちんと鳴らした。

 突如二人の目の前に、幾千ものナイフが空中に現れた。綺麗に陳列し、どれも切っ先がこちらの方を向いている。中には先端が真っ赤に染まっているものもあった。全体を見ると、ところどころ血に塗れた針山のようにも見える。一花が青ざめると共に、ナイフが動き出すのとアイリが動き出すのは同時だった。

 こちらに向かってくるナイフに向かって、アイリが振り回した糸の先の球体から何かが飛び出した。小さな紫色のビー玉のようなものだ。最初は数十個でどれも同じ方向だったが、空中で即座に分裂し、やがてナイフと同じ数になった。そのままナイフの先端に辿りつく前に、全て真っ赤になる。一瞬で起爆した。

 もの凄い音と光が周囲を巻き込む。爆風で幾千ものナイフがⅨ(きゅう)へ向かって吹き飛んでいく。一花があまりの爆風と熱に咄嗟に身を庇っていると、爆風の中に突っ込んでいくアイリの姿が見えた。

 「……!」

 熱や風をものともせず、突き進んでいく。Ⅸ(きゅう)がナイフを全てかわした直後、目の前にアイリが現れた。片手で振り回した球体で、今にもぶん殴ろうとしている。だが、相手はふっと微笑むと、どこからかナイフを取り出し、振りかぶったアイリの手に突き刺そうとした。即座に気付いた彼女は、片足で相手のナイフを握る手を蹴る代わりに、後方へ飛ぶ。地面に着地し、再び身構える。少し距離が出来、互いに相手をまっすぐと見据えた。一花が一連の流れを見て驚いている前で、彼女は静かに微笑んだ。

 「貴方、まずいんじゃないの?まさか、彼女がダーリンの銃を使えるなんて思ってもいなくて。挙句の果てに、私も仕留められていないもの。」

 Ⅸ(きゅう)も微笑み返すが、その目は明らかに焦っていた。

 「痛いところをつくね。だが、君一人でどうにかなるもんでもないだろう?その子が銃が使えるから、どうしたって言うんだ。ここで二人とも仕留めておけば問題ないだろう。それに、その子のことは想定外だったんだ。仕方ないさ。」

 「言葉に焦りが滲み出てるわよ。そういうの、女には隠そうにもバレてるんだから。…援軍なんて呼ばせないわ。」

 ばっとアイリが飛び上がる。再び球体を投げつけるが、Ⅸ(きゅう)もナイフを使い、器用にかわしながら隙を見てアイリに突き刺そうとする。近距離の攻防をくり返しながら、彼は不思議そうに言った。

 「僕はまだ疑っているんだよ。君だけ生き残ったみたいというのがね。確かに君は、二十年前に仲間と共に死んだはずだ。それなのに、君だけここにいる。他の仲間も生きてるんじゃないと即座に調べたが、どうにも生きて無さそうだ。…そうなると、一つの可能性として思うだろう?………君は、本物なのかなってね。」

 ナイフを器用にかわしつつ、ばっと距離を取ると、アイリが不敵に微笑んだ。ため息を吐きながら言う。

 「おしゃべり好きな男はモテないわよ。あまりこの手は使いたくなかったのだけれど、やるしかないわね。…私が偽物とでも言いたいの?」

 少し怒った様子のアイリが一花に下がっていて、と指示を出す。一花が慌てて距離を取ると、アイリはその場で高く飛んだ。くるくると振り回していた球体から、空中に小さな爆弾が飛散する。紫色の飴玉みたいな爆弾が、空中でものすごい勢いで分裂し、増えていく。その様子を見て、Ⅸ(きゅう)が軽く青ざめた。

 「この技は……!」

 アイリがにこっと微笑んだ。

 「雨に打たれて、頭でも冷やしなさい。」

 その瞬間、ものすごい勢いで爆弾が地面に向かって落下した。そしてすぐさまいくつもの爆発が起こった。あまりの威力に、Ⅸ(きゅう)が自分の身を庇う。やっと爆発が収まった時には、目の前の二人は消えていた。足跡も見当たらない。彼は小さく舌打ちをすると、その場から一瞬で消えた。


 とある場所では、八人が話し合いをしていた。中央には真っ白な円卓がある。机の上にはワインなど、それぞれ違った飲み物が置かれていた。Ⅸ(きゅう)が立ちあがり、先程のことを全員に説明していた。

 「馬鹿野郎!何をしてくれたんだクズっ。あの子は、恐ろしい種になるかもしれないんだぞ?!事の重大さが分かってるのか?!」

 真っ白な部屋で、事後報告をしたⅨ(きゅう)に罵声が飛んだ。ものすごい勢いで机をたたく。額にはⅤ(ご)という数字が書かれている、オールバックの男だった。彼は少し怯んだ様子を見せながら、しかし、と罵声の飛んできた方向へ叫ぶ。

 「あの子の銃撃はそんなに強くない。現に、僕が使用していた見回り隊にも、何発か撃ち込まなければ液状化していないのをモニターで確認したんだ。それほどの脅威とは言い切れないじゃないか。」

 「浅はかな考えだな!その銀髪を全てちぎってやろうか。そうすればその頭の回転も、少しは良くなるだろ!」

 鼻息荒く言うⅤ(ご)に、左隣の女性が不機嫌そうに言った。

 「ねえ、うるさ~い。あたしもよく分かってないしぃ。Ⅸ(きゅう)がそれほど責められる理由ってなんなの?」

 「Ⅶ(なな)が困ってるというのに…。先に言っておくが、僕も事情を知らないんだ。怒り狂うだけで、人に説明も出来ないのか?Ⅴ(ご)。君は飛んだ無能だね。」

 Ⅶ(なな)と呼ばれた女性が、嬉しそうににやにやとする。もうはっくん最高~と言いながら、隣の男性に抱き着いた。その二人の様を眺めながら、Ⅴ(ご)がさらに怒りを露にする。机をバンと叩きそうな時、その手を男性が制した。手にはⅣ(よん)という数字が描かれている。凛とした声が響く。

 「あんなバカップルに怒ってる暇は無いの。それより、誰か説明してくれる?実を言うと私も分かっていないのよ。Ⅲ(さん)、貴方なら、何か知ってるんじゃないの?」

 全員の視線が一人の男の方へと向く。耳にⅢ(さん)という数字が書かれた、真面目そうな男だった。短髪の黒髪で落ち着いた雰囲気だ。彼は静かに話し始めた。

 「この事態が起こったのは、僕の責任でもある。説明しよう。」

 Ⅸ(きゅう)に座るように促し、代わりに自分が立つ。

 「まずあの女の子についてだ。あの子は、一昨日この世界に来た。気を失って道端に倒れているところを、僕とⅤ(ご)が発見したんだ。いずれエネルギー化をするつもりで保護したんだが、いろいろ不可解な点があったんだ。」

 「不可解な点?」

 Ⅶ(なな)が可愛らしく首をかしげる。Ⅲ(さん)は静かに頷いた。

 「魂のスキャンを行っていた時だ。丁度Ⅴ(ご)が、Ⅱ(に)の使っていたマグナムを持って来た。彼はマグナムを調べてくれていて、調査結果と実物を僕のところに持ってきてくれたんだ。それでⅤ(ご)と話していた時だった。あの子にマグナムが引き寄せられたんだ。」

 「まるで磁石に引き寄せられるみたいに、気を失っているあの子の手に吸い寄せられたんだよ。」

 まだ少し不機嫌だが、そっと捕捉を加えるⅤ(ご)。その言葉に全員が驚いていると、Ⅲ(さん)は全員知っているだろう?と言った。

 「僕らに敵対して敗れた、”夜明けの烏”の持っていた武器は全て、人の魂が入っている。エネルギー化から解放された魂の中で、彼らに協力したいと名乗り出た者達の魂だ。中には自我がはっきりと残っているものもいる。それゆえに、彼ら以外の人間、僕らでさえも、あの武器を使おうとすると魂たちから拒絶され、使うことなど出来ない。それが、あの子に飛びついた。問題はそれだけじゃなかった。」

 一息つくと、彼は自分でも信じられないが…と言った。

 「その時、彼女の服が変わったんだよ。Ⅱ(に)の着ていた服にそっくりになって、真っ黒な光が周囲を包み込んだんだ。一瞬で闇に包まれて、何も見えなくて、僕とⅤ(ご)はすぐに灯を探した。けど見つからなくて困っていたら、真っ黒な光がふっと消えたんだ。彼女は目を開け、驚いた顔で僕達を見ていた。マグナムは彼女の手にはなく、すぐ傍に転がっていた。服も私服に戻っていた。」

 Ⅴ(ご)が数回頷く。

 「マグナムの中に眠る魂たちを調べてみたが、どいつもこいつもそれ以降は無反応だった。あの子に対しても何の反応も示さない。俺とⅢ(さん)はあの子自体の魂についても調べた。だが、特に変わった点は見当たらなかった。……あの出来事は絶対に夢じゃない。エネルギー化をするには何が起きるか分からず、危険すぎる。そう思って施設の奥の方に収容しておいたんだ。それをどこかの馬鹿が一般人と勘違いして、生存確認できたアイリーン・ベネットにウッキウキで、マグナムまで持って戦いに行きやがった。手柄を取れば、有能性を示せるとでも思ったか?とんだ楽天家め!」

 苛ついた声を上げるⅤ(ご)に、今まで黙っていたⅠ(いち)が言う。透き通るような、綺麗な女性の声だった。

 「どうして今まで黙っていたの。そんな重要なことを。」

 「たった一瞬の出来事だったしな。マグナムはあの後持たせてみたが、一度も撃つことが出来なかった。もしあの時、あの子を逃がすことが目的なら、マグナムは俺たちへ銃撃させても良かったわけだ。だが、マグナムはあの子を起こすだけしかしなかった。よって、俺達は脅威は無いと判断したんだ。記憶の移植も疑ったが、そんな痕跡も無かった。撃つことも出来ず、ただ目を覚ましただけ。服も私服に戻っている。そう考えると、下手に報告するのも危ないかもしれないと踏んだんだ。」

 「その時点では実害が無かった。それに、魂の情報を見る限り、Ⅱ(に)との関連も何もない。ただ、マグナムが自由になった時間だったと考えると、マグナムに眠る魂たちが、一人でも助けようとしたのかもしれない。Ⅱ(に)の意思を継いでね。そうなると、マグナムを遠ざけておけば良いだけだ。それに彼女は最初にマグナムに助けられた人間として、マグナムに対して人質として利用することが出来る。そうなると生かしておくのが一番だろう。君たちの中には、僕ら二人の言うことを聞かずにエネルギー化をすぐにしようとする人間や、Ⅱ(に)に強い思いを持つ者もいるからね。彼女に何かあったら、人質としては扱いにくくなる。だから報告しなかったんだよ。」

 マグナムに入っている魂たちのことだから、あの子から離れた場所に保管されてるとはいえ、もしものことがあれば何をするか分からないとⅢ(さん)が付け足す。全員が何も言わずに黙った。だが、しばらくしてⅧ(はち)が手をあげた。

 「あの子のことは分かった。だが、アイリーン・ベネットのことはどう説明する?」

 「そのことについては、今調査中だ。あの技を使えることから、多分本人で間違いないと思う。ただ、二十年前の戦いで確かに僕らは、彼女を崖から突き落としたはずだ。特に最後に戦ったⅠ(いち)が突き落とした張本人だ。あのケガであの崖から落下は、間違いなく殺したはず。一つの可能性としては、Ⅱ(に)の血を分けてもらい、不死身になったのか…ぐらい。けど、僕らは不死身のⅡ(に)も倒したことを考えると、流石におかしい。」

 「そもそも、彼女が生きてるという情報が流れ始めたのもつい最近だしね~。巷で噂が増え始めたところからだもん。っていうか、はっくん、今日もかっこいい~!横顔眺めてるだけで、幸せ~。」

 「僕のことをそんなに褒めてくれるなんて…Ⅶ(なな)、君は世界一の可愛さだよ。」

 明らかにデレデレしているⅧ(はち)達に、一人の男がコホンと咳をした。真っ白な髪で、目の下に0(ぜろ)と数字が書かれている。部屋の中がしんと静まり返った。

 「二十年前のことを繰り返すのは面倒だ。今のうちに厄災の種は摘んでおけ。良いな。」

 全員がはいと返事をした。

こんにちは。星くず餅です。

本日は三時くらいに投稿しようと思っていたのですが、急用が出来てしまい、こんな夜遅くになってしまいました。すみません。

さて、3話にて覚醒した一花。先代リーダー(アイリの恋人)の恰好をしています。それに敵の洗脳も自力で解いちゃうし…先代リーダーの武器も使えるなんて…。彼女は一体何者なのでしょうか?解放された魂達もよく分かりませんね。とりあえず感謝はされたみたいですが、囚われていた原因とは。

一方で、アイリにもいくつも謎が。なんだか先代らの生き残りみたいですが、そもそも彼女だけ何故生き残ったのでしょう?

最後の方では、敵側の様子が見えましたね。各数字がありますが、彼らの目的とは…。エネルギー化計画って一体…?個人的にはⅤ(ご)さんが、良いキャラしてると思いますよ。味出してくれてますねぇ。

次の投稿は明日です。明日はお昼の十二時らへんに投稿しようと思っています。よろしければぜひ。

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