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2.再びこの世界に

 アイリの首元ギリギリまでナイフが迫る。身動きの取れない彼女に、一花は言う。

 「二十年前の戦いで、君達5人は全員死んだと思っていた。……だが、どうやったのか知らないが、少なくとも君は生きている。正直驚いたよ。」

 アイリが横目で一花を盗み見ると、彼女は泣いていた。酷く怯えた目で、必死に何かを訴えようとしている。口を開くと、再び男性の低い声が響いた。

 「おっと、気にしなくて良い。僕が直接会うと、二十年前みたいに、戦いになるのは分かってる。だから、こうして他人を借りて会いに来ただけさ。」

 「……役目を終えたら、彼女をエネルギーにするつもりなの。」

 静かに言うと、一花は泣きながら軽く笑った。

 「君達、"夜明けの烏"ならムキになると思ったよ。人の生き様を守るために、僕らに抗った5人だ。まぁ……君だけ生き残ってくれたみたいで、助かったよ。調べはついてる。他の奴らは生きていない。」

 目の前の化け物達が、一斉に口から銃口を出した。理解できない言葉は吐き続けたままなので、銃口にガチガチと歯が当たっていた。

 「最後の選択だ、アイリーン・ベネット。僕らの手を取りエネルギー化を支援するか、ここで争うか。ただし、争う場合はこの子の命は保証できない。」

 黙ったままのアイリに、一花が強い口調で言う。

 「君だって分かってるはずだ。君の恋人は、僕らの裏切者で、確かにヒーローだったろう。"夜明けの烏"の創始者で、リーダーで、世間を味方にして、僕らの計画に敵対した。だか、敗れたんだ。もう死人は帰ってこない。いつまで不死身を信じてるつもりだ!」

 荒げた声が出た直後、少し間をおいて恐ろしく優しい声へと変化する。

 「……僕らは君を助けたいんだよ。今の状態じゃ、明らかな戦力不足だ。きっと裏切り者のⅥ(ろく)も一緒にいるんだろうが、二人になったところであの五人の頃には及ばない。一生帰らない人を待ち続ける人生なんて、何の役にも立たない。そんな余命を過ごすより、誰かの役になれる、エネルギーになれば良い。今ならこの計画の素敵な部分が分かるだろう?目の前の彼らが証明している。無駄な人生よりも、口から銃口を出して戦える。……自我もそのうち消えるから、帰ってこない人のことを考える必要もなくなるんだ。」

 彼女はしばらく黙っていた。薄紫色のふわふわとした髪が、どこかから吹いてきた風に揺れる。一花が不安がな目で彼女をみていると、横顔の口元が一瞬だけ小さく微笑んだように見えた。小さく息を呑むと同時に、優しいとした声が飛んだ。

 「一人だからとか、味方が少ないからとか、どうでも良いの。昔、助けられたから、他の誰かを助ける。それだけで理由は十分でしょう?」

 彼女はばっと後ろを振り向いた。自分の真正面から突きつけられたナイフをみて、くすりと笑う。

 「レディにナイフを持たせるなんて、マナーがなってないわね。そんな男の言うことなんて、聞いてられないわ。」

 ふっと真顔に戻ると、彼女は静かに言い放った。

 「……来なさいよ。返り討ちにしてあげるわ。」

 ナイフを突きつけたまま、一花は渇いた笑い声をあげた。目からはずっと涙があふれている。

 「期待通りだよ、アイリーン・ベネット!余命をこんな無駄な戦いに、費やすなんて。本当に君たちは理解不能だよ。Ⅱ(に)に見せてやりたいね。君の恋人は君と同じように馬鹿で、愚かな道を進むみたいだ。いずれ人は死ぬことが分かっていながら、その余命を人の役に立たない使い方をするとは。はは…。」

 ゆっくりと笑い声を落ち着けると、一花は不敵に微笑んだ。

 「上等だよ。排除する!」

 一花がナイフを、銃声音が響くのは同時だった。


 彼女は姿勢をかがめてナイフを避けつつ、即座に黒鞄を掴み、その場で一回転した。鞄の蓋の隙間から、小さな球体が一斉に飛び散る。そのまま一回転の勢いで、一花の腹に蹴りを入れた。黑い皮のブーツで、底が少しヒールになっているくらいだ。一花が思わぬ痛みに、しばらく悶絶して、体をくの字に曲げる。そのおかげで二人とも体制が低くなり、放たれた銃弾が頭上をかすめていった。アイリが大勢を低くしたまま、一花の腹に手を回し、そのまま化け物達から少し離れる。化け物達が追いかけるように銃弾を放っていると、足元にころころと小さな球体が転がっていた。色とりどりの綺麗な蛍光色のビー玉のようなもの。先ほどアイリの鞄から飛び散ったものである。そのすべてが一瞬真っ赤に染まった瞬間だった。

 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

 一気にものすごい爆発が起きた。周囲が爆風と熱風にさらされる。一花を庇いつつ、アイリがその場から出来るだけ遠くに離れる。だが即座に煙に紛れて銃弾が飛んで来た。アイリの頬を銃弾が霞め、少し血が出る。顔をしかめながら、彼女が横目で後ろを見る。

 (いいか、アイリ。人の目は、一方向しか向くことが出来ない。だから、目で認識する前に死角への配慮もしておけ。慣れればそのうち、見ずとも相手の思考パターンまで読むことが出来るようになる。さぁ、思考を読んでみろ。)

 二十年前の、恋人の声が聞こえた気がした。

 (間違いなく、この隙に攻撃に転じるわね。)

 黒鞄の蓋を開け、中に入っていた粒上の爆弾を握る。抱えている一花へ爆弾を握った拳を突きつけつつ、後方から飛んでくる銃弾を避ける。一瞬だけ目を一花の方へ向けた時、彼女は静かに息を飲んだ。

 「……!……その銃はっ…!」

 一花がアイリの首元に銃を突き付けていた。それぞれ片手に一本ずつ。二丁のマグナム。銀色のボディに黒い字でⅡと書かれている。二十年前に行動を共にした、恋人、Ⅱが所持していた銃だった。

 「どうしてあなたがその銃を!」

 二十年前の戦い以来、敵の手に渡って保管場所も分からなったような代物だ。アイリは銃弾を交わしながら、静かに呟く。

 「本当、趣味悪いわね。その銃は特別なものよ。彼以外の人間では扱うことすらできないわ。」

 「まさか。この銃は冥途の土産に見せてやろうと思っただけさ。その一瞬の動揺で十分だよ。」

 「なんですって…?!」

 彼女が青ざめた途端、背後の気配が一瞬で濃くなったのを感じた。ちらりと視線を向けると、何体もの真っ白な怪物が今まさにアイリに飛びかかろうとしていた。真っ黒な空を背景に、何体もの姿が瞳に大きく映し出される。爆弾を投げつけようとしたが、一花が片手に持っていたマグナムを離し、爆弾を持つ手を掴んで抑えていた。ものすごい力だ。これでは手を動かせない。手を振り払って爆弾を投げようにも、化け物の銃弾の方が速いのは明らかだった。爆弾を持たない方の片手は、既に一花を抱えているため使えない。まさに絶体絶命。アイリは、一花を抱えていた片手を離し、どんと一花の体を遠くへ突き飛ばした。銃弾が彼女に向かないように、被害に遭わないように。体が言うことを聞かず、怯えていた一花の目に映ったのは、最後の最後に寂しそうに、どこか諦めたように微笑むアイリの表情だった。


 時がゆっくりになった気がした。迫って来る化け物を眺めながら、アイリは恋人の言葉を思い出していた。

 「いつか、必ず元の世界に戻す。今は通路が塞がれてるが、この戦いが終われば通路も開くはずだ。」

 申し訳なさそうに言う彼。アイリは悲しそうに微笑んだ。

 (元の世界に帰る必要は無いわ。私は、貴方達と一緒にいられるだけで良かったの。一人でも多くの人を救いながら。)

 二十年もの間、彼女はほぼ毎日墓参りに来ていた。墓前に飾られる花は最初は沢山あったのに、日に日に少なっていった。今では、本当に三個ほどしか残っていない。最後の戦いに負けたヒーロー故に、彼らを指示していた人々はだんだんと離れていったのだ。それが目に見える形で表れて、彼女は墓前で一人静かに泣いていた。毎回潤んだ瞳で、墓に向かって言い放つ。

 「私だけは、最後まで花を供えに来てやるわ!たった一人になっても。……ずっと待ってるわ。死んだなんて、信じない!はやく帰ってきて。帰ってくるまで…私は生きるから!」

 今日に限って、墓参りは出来なかった。少しだけ寂しい気もしたが、もうすぐそちら側へ行く。そう思うと、妙に心が落ち着いた。……本当はそちら側へ、行きたかったのかもしれない。

 ゆっくりと目を閉じると、己の死の瞬間を静かに待った。


 この状況は、一花にもゆっくりに見えていた。

 黒いトレンチコートに、黒いリボンの髪飾り。薄紫色のふわふわとした長髪が静かに揺れている。その瞳はどこか遠くを見つめていた。

 (私を助けるために…。)

 突き飛ばされた体が、どんどん彼女から離れていく。手を伸ばそうとするが、体が全く動かなかった。低い男性の声がどこからか聞こえた気がした。

 (全く、死んだ恋人の意思を継ぐなんて、厄介な女だったよ…。)

 間違いなく自分を操っていた者の声だった。呟き声だろう。ただ呆れたような声色だった。だが、一花に疑問を持たせるには十分だった。目の前の彼女をじっと見つめる。

 (大切な人が死んでいても、私を助けようとしてくれた…?)

 (ああ、そうだろうな。だが、それがどうした?)

 再び男の声が飛ぶ。だが、彼女はその声をガン無視した。アイリの瞳は遠くを見つめていたが、よく見ると全く揺れていなかった。どこか覚悟の決まった目をしている。その瞬間に、かがみ合わせに自分を見た気がした。不安に怯え、両目から涙をこぼした自分がアイリの隣に立っている。

 (彼女は恋人がいなくても、抗ってる…。それなのに、助けられた私は泣いてばかり…。自分でどうにかしようともしないで…。目の前で今、人が死にそうなのに。何もできないの?本当にこれで良いの?)

 (何を言ってるんだ。彼女は悪い人間だ。君を助けようとしているのは偽善に過ぎない。彼女の声につられてはいけない。それに、君が彼女を殺したのではなく、殺したのは僕だ。罪悪感など感じなくて良い。)

 男が何かを必死に訴えているが、一花は一切聞く耳を持たなかった。答えは簡単だった。

 (良いわけない。)

 心の奥底から、何かがせりあがってくるのを感じた。

 (待て!おい、何を…!)

 男性の声がぷつりと途切れた。


 パアン!


 突然の銃声音に、閉じていたアイリの目が開いた。飛びかかっていた怪物たちが、全て銃弾に撃ち抜かれる。即座にその場で崩れ落ちると、撃たれた箇所を庇うような体制になった。動きも先ほどよりも鈍くなっている。その怪物らをバックに、アイリは信じられない顔で立っていた。

 「どうして…?」

 震える声で、そっと言う。

 一花はマグナムをいつの間にか二丁持っていた。怪物に真っすぐ向けるようにして、その場に立っている。こげ茶色のポニーテールは、桃色に変化していた。真っ黒な裾の長い上着に、黒いズボン。白いシャツに黒のネクタイ。まっすぐな目と銃の構え方……。特徴的なその服装と姿勢に、一人の男性が重なった。金髪で、煙草を吸った、頬にⅡと書かれた男。

 死んだはずの彼女の恋人と同じ格好、同じ姿勢だった。

こんにちは。星くず餅です。

二話目ですが、はやくもバトル描写が入ってまいりました。熱いバトル、良いですね。

実はここだけの話、この話は漫画にしようかと考えていました。バトル描写が大変で、後継者たちは中には先代にそっくりさんもいます。そのため絵でかいた方が分かりやすいかなと思ったのですが、残念ながら私に漫画を描く時間はありませんでした。一度漫画書いてみたら…一話作成にめっちゃ時間かかって、悲しくなりました…。そのため、執筆に方向転換しました。やはり文章を打ち込む方が速くていいですね。

さて、なんと最後…一花が、アイリーン・ベネットの恋人、Ⅱ(に)と同じ服をきて、同じ銃で攻撃しています。皆さんはどうですか。死んだはずの人間と同じ服と武器を持つ別人がいたら。私だったら、多分その場で硬直します。一体どういうことなんでしょう…??次回は次の土曜日に投稿します。お楽しみに。

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