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10.本当は見えていたから

 「やめろ!」

 突然の叫び声にⅠ(いち)が驚く。その途端、拍手しかけていた手に拓斗が掴みかかった。

 「何をしているの?貴方は馬鹿?」

 「勇樹をおろせよっ。」

 必死に両手を拍手しないように抑える拓斗。


 パアン!


 突然銃声音が鳴り響くと共に、Ⅰ(いち)の両手に穴が開いた。赤い血が滴る。目の前で起きた光景に、拓斗が一瞬ひるんだ。

 「うわ……。俺の手も危ね…。」

 思わずつぶやいた途端、すぐ後ろでどさっと音がした。慌てて振り返ると、はりつけになっていた勇樹が地面に膝をついていた。拓斗が駆け寄ると同時に、Ⅰ(いち)が憎らし気に明後日の方角を見る。

 「今のは…。スナイパー。相変わらず遠距離武器は厄介だわ。」

 片手で片目を隠すと、もう一つの目の瞳がスコープのようになった。かなり遠くへ照準を合わせ、遂にバイクでこちらに向かってくる三人を見つけた。りょうがバイクの座席に足をかけ、ライフルを構えている。水色のさらさらとした髪が風に揺れていた。その瞬間今度は首元に銃弾が飛んで来た。彼女がすぐ傍へと視線を向けると、拓斗と勇樹がいなかった。

 「いつの間に…。徒歩じゃそう遠くへいけない。近くにいるはず。」

 ふっとその場から消えると、彼女は二人を探し始めた。


 勇樹は拓斗の手を引いて路地の中を走っていた。

 「……なんだアイツ。あんな奴とよく一緒にいたな、拓斗。」

 ぜえぜえと息を切らしながら、叫ぶ勇樹。後ろを振り向く余裕などなかった。手をひかれながら、どうにか後ろからついていく拓斗。

 「俺もあれは初めて見たんだっ。でも…もう元の世界に帰れないらしくてっ。」

 「そんなん知るかよっ。俺は帰る!」

 勢いよく叫んだ時、地面の凹凸に拓斗がひっかかった。足をもつれさせ、その場に倒れ込む。急に掴んでいた手がすり抜け、走っていた勇樹が立ち止まって振り返る。地面に倒れ込んだ彼が目に入った。

 「拓斗!」

 名前を呼んだ瞬間だった。転んだ拓斗の後ろの空間が歪み、即座にⅠ(いち)が現れた。不敵な笑みを浮かべて、二人を見下す。

 「悪いけど、鬼ごっこはもう終わりよ。」

 金髪を揺らしながら、拓斗が叫ぶ。

 「逃げろ勇樹!俺のことなんて…!」

 その間に体に不気味な記号が浮かび上がる。動きがどんどんと鈍くなっていくのを感じた。勇樹の方へ視線を向けると、彼はしばらく呆然としていたが、すぐにⅠ(いち)に掴みかかった。その光景を見て、拓斗が驚く。

 「何してんだ勇樹!」

 「お前を失うわけにはいかないんだよ!俺のことなんてどうなっても良いっ。でもお前だけは、駄目だ!」

 Ⅰ(いち)はしばらく冷ややかな視線を彼に向けていたが、すぐに振りほどいた。拓斗の横に倒れ込ませ、体中に不気味な記号を浮かび上がらせる。二人がもがき、うめき声をあげる。だがどうにも体が動きそうになかった。すぐ傍に立つ彼女が静かに微笑む。

 「良いところに来てくれたものね。この路地なら、狭くて見つかりにくい。その体に張り巡らされた黒い文字が白くなるころにはエネルギーになってるわ。二人一緒に……仲良く最後の時を過ごしなさい。」

 ぱちんと指を鳴らすと、彼女はその場から消えてしまった。残された二人は互いに見つめ合った。拓斗が震える声で小さくつぶやいた。

 「本当だ。勇樹の顔の文字が…だんだん白くなってきてる。」

 青ざめる拓斗の前で、彼は申し訳なさそうな顔を浮かべた。

 「…ありがとな。拓斗。助けてくれてさ。」

 「何言ってんだよ。勇樹だって、さっき俺のこと助けてくれようとしてくれただろ…。」

 二人で路上に寝転がったまま、どうにか出来ないかともがく。だがどうにも出来ないことに気付いた勇樹が、小さく笑った。

 「……俺さ、お前に嫌われてるって、ずっと思ってた。」

 「……え?」

 もがくのを一旦やめ、彼は勇樹の方へ視線を向けた。

 「俺、お前と比べてばっかりでさ。むしゃくしゃして、お前のせいにして勝手なこと散々言ったと思う。……本当はずっと謝りたかったけど、言えなくて。俺の方が出来ないなんて認めたくなくて。でも…そんな俺でも、お前は嫌ってなかったんだって……この間分かってさ。」

 よく見ると、勇樹の瞳は揺れていた。それを誤魔化そうとしてるのか、口角を必死に上げている。

 「つい最近、駅で勉強してるお前を見たんだ。デスクトップに昔の写真貼ってるの、遠くからでも見えてさ。…俺、無視したりとか、お前のせいにしたりとか…本当ごめん。許さなくても良いから。」

 駅で勉強していたのを思い出す。あの時の俺を見てたのか。呆然としつつも、気がつくと口から言葉が飛び出していた。

 「……俺の方こそ…ごめん。なんて声を掛けたら良いか分からなくて。昔の勇樹みたいに手を差し伸べられたら良かったんだけど。どう接したらいいのか、差し伸べ方が分からなくて。……お前に嫌われてるって、俺の方こそ思ってた。でも、そうだとしても俺、お前のこと嫌いになんかなれなくて。」

 拓斗がそう言い終わった時、勇樹から返事が返ってこないのに気がついた。

 「勇樹…?」

 文字がいつの間にか真っ白な文字になっている。一瞬で顔が青ざめた。

 「勇樹…?!勇樹…?!」

 手を伸ばそうとしたが、自分の体も動かなかった。チラリと視線を自分の腕に向けると、文字がほぼ白くなっている。

 (そんな……。)

 もう一度勇樹の方へ視線を移す。虚な目をしていた。

 (俺の言葉…どこまで届いてた…?)

 何気ない疑問が、心をかき乱し始めた。一体いつから虚な目になっていたのか、わからない。

 (半分しか伝わってないか?謝っただけで終わってるか…?いやそもそも俺の話なんて最初から聞こえてなかった……?)

 冷汗がどっと吹き出す気がした。周囲へと目を走らせるが、誰かが来る気配もない。静かに絶望が歩み始めてくるのを感じた。声を上げようとしたが、既に口も開かなくなっていた。本当に焦り始めたその瞬間だった。

 「あら、もう少しみたい。ちょっと早かったわ。」

 目を必死に動かす。視界の隅に女性の足があるのが、わずかに見えた。

 「エネルギーになるのに、体は不要よ。壊してしまいましょう。」

 片足が持ち上がり、勇樹の体に向かって振り下ろされた。

 

 「また泣いてんのかよ、拓斗。」

 「だって勝てないし…。みんなに比べられてばっかりで…。」

 夕日が差し込む校舎裏の隅で、しょぼくれている彼にサッカーボールが飛んで来た。

 「うわっ。」

 慌ててキャッチすると、勇樹がにこっと笑っていた。

 「ならよ、勝ちに行こうぜ!俺も人気者の奏と比べられて、嫌だったんだ。俺達二人で見返してやろうぜ。」

 「でも、勇樹。そしたら俺と勇樹が比べられて…。」

 おどおどしながら言うと、彼は何言ってんだよと笑った。

 「比べて来る奴らを倒しに行くんだよ。人のこと比べておいて、俺達より出来ないじゃねーかってな。俺達が勝てば、比べるのはやめさせる。そしたら、もう誰にも言われること無いだろ?大体、俺は足が速いけど、お前はドリブルが上手いだろ?これのどこを比べるんだよ。どっちが上手いなんて分からねーじゃんか。」

 今に見てろよと言って、拓斗の元へ走ろうとした時、見事にこけた。倒れ込む勇樹を見て、拓斗が笑う。勇樹も笑った。

 「一緒に強くなろうぜ。約束だかんな!」

 「ああ!もちろん。」

 倒れ込んだ勇樹に、拓斗が手を差し伸べた。勇樹が手を取り、立ち上がる。二人で向かい合うと、強く握手をした。


 忘れていた小学生の頃の思い出。ふと蘇ったが、もう遅いとは思わなかった。

 (…一緒に強くなるって…決めたんだ。約束したんだ…。)

 いとこの最後をその目でしっかりと見ていた。決して目を逸らす気は無かった。


 武器の保管庫で、物音がし始めた。じゃらじゃらと鎖の音が鳴り響く。

 「はは…。今回ばかりは失敗しないさ。しかしまさか、予想通りの順番だとはね。」

 Ⅸ(きゅう)が小さくほくそ笑む。彼の前にある二本の刀は暴れていた。鎖をどうにかほどこうともがいている。

 「無駄だよ。その鎖は君達の透過能力を封印するんだ。出られない。」

 だが次の瞬間、鎖に亀裂が入った。

 「……嘘だろ?」

 Ⅸ(きゅう)が震える声を出す。鎖が粉々になると同時に、二本の刀がすぐ真横の壁を通り抜けていった。

 「また失敗か…。」

 がっくりと膝を落とすⅨ(きゅう)。一方壁を抜けた先では、二本の刀を掴んだ男がいた。そう、Ⅴ(ご)である。

 「ハッ。あいつが失態を起こす気がしたんだ。隣の部屋で張っていたら、まんまと引っかかってくれたな。悪いがここのセキュリティは俺もいるぞ。さあ、武器庫に戻れ!」

 力技で無理やり刀を武器庫の方へ持っていこうとする。が、いきなり後方へ、物凄い力で引っ張られた。

 「なにっ?!」

 どうにか刀を手放さずに済んだものの、そのまま引きずられる。そして、目の前に壁の一部が迫っているのに気がついた。慌てた声で叫ぶ。

 「待て待て待て!止まれ!この野郎っ。」

 言い終えた途端、壁にぶつかった。その衝撃で一瞬手放した刀は、するりと壁の中へ消えて行った。

こんにちは。星くず餅です。

ちょっと最近忙しいので、こちらは次の投稿は検討中です。

おそらく次の土日か、次の次の土日になると思います。

申し訳ございません。

読んでいただけると幸いです。

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